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1-4 撃破

もう息切れしてきた。

 ■





 正面から撃ち合っても勝てると判断したのか、「狩りに」きた連中は機体を前進させて距離を詰め出した。足の速い軽量級(ライトギア)が前、続いて遅れ気味に重量級(ヘビィギア)が直線通路に踏み入り、建物の陰に隠れるこちらに銃口を向けてゆっくりと進んでいる。

 遮蔽のない進路をまだスラスターを強化していない為に建物を乗り越えられない「標的」が進み、退がれない位置まで引き付けたのを確認してから、建物の陰から低倍率スコープをマウントしたハンドガンだけを突き出しトリガーを引いた。


『うわっ!?』


 重量級GHの露出したフレームに弾丸が直撃。火花を散らして抉り取る。ジャンク品だから出せるダメージはたかが知れているが、そこはGHの共通する急所、未装甲のフレームを狙うことで補う。……ジャンクだから精度も低く、何発か逸れて装甲に弾かれたが。うーんこのジャンククオリティ。


『痛え! ハンドガンのくせにダメージおかしいだろ!?』


『というか、なんでアレで正確に狙えるんだ。見えてねえはずだろ……?』


 想定以上にDPSの高い反撃を受けた相手の困惑が、敵機の足並みを乱した挙動からありありと見て取れる。それもそうだろう。彼方が反撃しようにも、こちらが露出させた部位はハンドガンとそれを握る右の拳だけだ。他は全て遮蔽の裏に隠れ、回り込んで射線を通す前に相手の耐久を削り切れる。ジャンク品しか持ってない彼らでは「壁抜き」も不可能と、詰みだ。


 何故頭部カメラを壁の裏に隠したまま、敵機のフレームを狙い撃てる、……狙い撃てるのか。

 本来なら壁しか映さない筈の正面モニターだが、現に〈JUNK-ハンドガン〉を正中に構え、しっかりと直線通路にいる敵GH2機を捕捉している。


 その理由は単純、壁の端から突き出したハンドガンのアタッチメント、つまり低倍率スコープ兼カメラのリアルタイム映像をGHの視覚情報とリンクして壁越しの情報を得ているのである。これのお陰で機体を危険に晒すことなく偵察・迎撃を可能にしている。装備が整わず、ゲームスピードが遅い序盤にハンドガンが強いと言われる所以がこれだ。

 幾ら被弾しても自機は痛くも痒くもない地形という遮蔽を装甲に、数ある武器種の中でも指折りの射撃精度で敵と撃ち合える。プレイヤーが〈ルインズプラネットオンライン〉の花型ともいえる終盤戦の高機動・高火力の戦闘に目が行きがちで、こういったテクニックを知らずに序盤で脱落するリターナーは意外といる。


『このゴミ、全然真っ直ぐ飛ばねえ!』


『おいっ、さっさと前に行って回り込んで撃て!』


 ガリガリと削れているであろう耐久値に焦りを見せ、無用心にも接近する軽量級のGH。一応相手がここから逆転する手が二つか三つ、無いわけじゃない。


 一つ目は武器破壊。このゲーム、武器やバイザーといった細かい装備パーツにも判定と耐久値が設定されている。しかしその数値はフレームと同程度、一部を除いて装甲で覆うこともできないため、正面から撃ち合っていると壊れることもままある。もしハンドガンが破壊されたら、そもそも主力火器がこれしかない自分は一気に不利になる。

 しかし今回は相手の武装もジャンク品だ。サブマシンガンは連射力こそ優れているが威力は低く射程も短い。そして極め付けのクソみたいな集弾率。ライトマシンガンも似たようなもので、射程はそれなりだが反動が馬鹿みたいに大きく、とてもじゃないがハンドガンの様な小さな標的(ターゲット)に何発も命中させるのは至難の業だ。


 二つ目はエネルギー兵器や炸裂系の火砲で遮蔽そのものを無視する方法。その場合は大人しく逃げるしかないが、光学兵器やロケランはそうそう拾えるものではないし、そもそも持ってたら既に使っているだろう。グレネードを投げ込まれることだけ警戒しておけば良い。


 そして三つ目、彼等が選択した接近して遮蔽を越える方法。単純だが、建物は移動しないから射線も簡単に通る。もしもハンドガンでの迎撃を耐え切り、そこから小銃の火力を発揮できたなら蜂の巣にされる可能性はある。実質正面突破なので相応の被害を伴うわけだが。


『だ、ダメだ! もう保たな──』


 まず軽量級GHがフレームに致命的な損傷を負ってその機能を停止する。胸部装甲の中心、動力炉(リアクター)を撃ち抜けば爆散させることもできるが、それをすると四散した装甲の耐久値も無視できない幅で減ってしまう。わざわざ苦労して集めた装備を自分に献上してくれるのだ。無碍にする必要もないだろう。


 残るGHは重量級。さてどうするかと一度引っ込めたハンドガンのリロードを行いつつ、耐久を残した相手の処理方法に思いを馳せる。

 別にこのままハンドガンで削り切ってしまえば良いのだが、この後の無人機相手にも同じ手段を使う予定なので、可能なら弾薬を温存しておきたい。そうなると使える武器はグレネードかアーミーナイフだが、当然相手の出方次第か。


 装填を終えたハンドガンを再び壁から突き出し敵機の様子を確認すれば、残された重量級GHは明らかに鈍い動きで後退を始めていた。生憎だが、逃げられないタイミングまで引き付けて撃ち始めたのだから撤退が間に合う筈もない。ついでに弾薬を温存するプランも無残に消失した。


『くそぉっ! 何でこんな──』


 既に戦意を喪失した敵機のフレームに照準《レティクル》を合わせ弾丸を叩き込む。それから程なくして、耐久値を全損したヘビィギアは各所から煙を上げて崩れ落ち、戦闘は終わった。

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