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 中型無人機『ムカデ』との戦闘に割り込もうとするGH(ギアーズヘッド)は単機。機体は重量級(ヘビィギア)の実弾ロングライフル二挺持ち。重火力至上主義に取り憑かれやすいヘビィでは珍しい構成だが、いないわけじゃない。ソロのリターナーとして立ち回る場合、ある程度火器を犠牲にして機動力を伸ばし、生残性を重視することはままある。


 控えめな火器の代わりに目立つのは、背部パーツの大型ブースター。

 重量級の半分近いサイズのタンク型ブースターを搭載することで、重量級の劣悪な加速性能を桁違いの大出力で以って解決し、高機動戦を可能とした力技な推進ユニット。確かGIW社製だ。その推力性能を活かした機体が、平坦な荒野をホバー走行で踏破し距離を詰めにきている。


(無人機の横殴りか、それとも俺狙いか。どちらにせよ間がが悪い。追っ払うのもアリだが……)


 無人機との戦闘に参加するつもりなら単純に邪魔だし、戦闘で消耗したタイミングで横殴りするには、出てくるのが早すぎる。まだまだ序盤の戦況で参戦する理由を図りかねた。

 闖入者の意図を掴みかねている間にも、彼我の距離は狭まっている。舌打ち一つ。しかたなく大きく後退してムカデから距離を取り、無人機とGHそれぞれに左右に構えた火器を突き付ける姿勢で同業者の出方を窺う。


 幸か不幸か、同業者の銃口が向けられることはなかった。

 二門の砲が放った徹甲弾がムカデの側面装甲に直撃し、立て続けに爆ぜる。これまで執拗に追い回していた獲物と無関係な位置から痛打を受けたムカデはヘイト(敵視)を重量級GHへと向け、こちらに側面を晒す。

 が、それは攻撃のチャンスとはならず、再び面倒な15門砲塔の砲火の回避を強いられるキルゾーンへの移動と同義だった。


「あークソ。余計なことを……」


 思わず愚痴が口をついて出る。加勢に否定的だった理由がこれだ。

 2人以上でムカデを攻略する場合、どうしてもタゲが安定せず安置の正面に居座り続けることが難しくなる。当たらない必殺技と雑にばら撒かれる砲弾では後者の方が遥かに厄介なので、今回の中途半端な助太刀は邪魔にしかならない。こっちに正面、つまり楽な方を任せてくれるなら共闘もやぶさかではなかったが、野良で、意思疎通も望めない状況では連携もへったくれもないだろう。


 セオリー通りの攻略法は諦め、無人機との距離を離しEN(エネルギー)ライフルを主体として無人機の装甲を削る。狙い目はヘビィの攻撃で耐久値が減った胴部の中央付近。有効射程ギリギリ、威力が減衰しない遠巻きから第二の弱点──胴体コアの貫通を試みる。


 割り込んだヘビィは勇ましく突貫し、ムカデのクローに捕まってあえなく挽き潰された──なんて事にはならず、回避行動の際に若干蛇行して正面から外れたタイミングで砲撃されてはいるものの、危なげなく回避してムカデの猛攻をいなしている。ただ、回避に気を取られ過ぎて、明らかに攻めの手数が減っていた。

 操縦のキレは悪くない。重量級特有の慣性の強さを逆利用した急旋回を連続でこなし、回避中の機体制御も安定している。ただ、分かりやすく無人機の挙動に慣れていなかった。別ゲーからの移住者か? それでムカデと初遭遇なら無遠慮な割り込みと悪くない立ち回りにも合点がいく。


(……まあ、こんなこともあるか。野良だし、倒せるなら何でも良いな)


 放物線を描き立て続けに飛来する砲弾を単純な加速のみで後方へと置き去りにして、激しく蠢くムカデの胴体コアをEN弾で灼き続ける。標的は高機動戦のGHに比べれば大きく鈍重で、狙撃も容易だ。たとえ最善の選択肢が取れなくても勝ちが見える程度には。

 野良での共闘が上手くいかないのはある意味当たり前だ。それに、割り込みでむしろ手間取ったのだから思うところはありまくりだが、こんな事はこれから幾らでも起こり得る。中途半端に溜まった苛立ちを呑み、今は目の前の「敵」を下すことに集中する。




──────




 当初の目標である頭部破壊より大分手間取ったものの、胴体コアの装甲値も残り僅かまで削った。データ上では莫大な耐久値を有し、重火器の砲弾を数百発と耐えるタフネスも、弱点──露出したコアを撃ち抜いてしまえば関係ない。


 軽く息を吐き、操縦桿を握り直す。そのタイミングでムカデは唐突に大きくのけ反ってバランスを崩し、頭部から地面に激突、巨体が土煙の中に隠れ、レーダーから反応が消えた。

 斃した、わけではないだろう。コアが露出していない状態で致命打を与えられる状況にはなかった。撃破していないにも関わらず無人機の反応が消失した原因は、──潜航。


(突き上げか……どうするか。確率でいえば半々だが、今回はあいつがタゲられてる気が……)


 案の定、土煙の晴れたフィールドからムカデの姿は消え、跡地に残ったのは掘削され巨大な蟻地獄の様に窪む砂地のみ。そして拙いことに、標的を見失ったヘビィが足を止めてしまっていた。前兆はあるが、地中からの突き上げを初見で察知して躱すのは困難だ。それに初速の遅いヘビィでは回避にシビアなタイミングを要求され、直撃すればいかにヘビィの装甲といえど大破は免れない。


 放置すれば後の報酬を総取りできる──という邪念を一拍置いて破棄。ENライフルの照準をヘビィの正中線に合わせ、トリガーに指を掛ける。併せて肩部小型迫撃砲の予測着弾点がヘビィと重なるよう射角を調整しておく。


 システムによるロックオン状態は各種兵装の精度に補正が掛かる──ようはエイムアシストだが、デメリットとしてロックオンされたことは相手にも警告が飛び、奇襲・不意打ちの優位性を失う一長一短のアシスト機能だ。初心者向け、上級者だから使わない、といった単純な機能ではなく、正面戦闘でオンオフを頻繁に切り替えての運用も想定された中々面倒な仕様だ。

 今回はその「通知が飛ぶ仕様」を用いた小技で、ヘビィに回避を促す。


(…‥…‥来た)


 出現時と同様の地揺れからタイミングを測り、迫撃砲に割り当てられたトリガーを引く。手持ちの火器とは比較にならない反動によって機体が僅かに後退し、一度上空に向けて放たれた砲弾が放物線を描いて予測着弾点へと加速する。


 一応の共闘関係だった筈の相手から銃口を向けられ、更に砲火を認めたヘビィの反応は早かった。

 背中の大型ブースターが轟音と猛煙を発して重量級の機体が動く。鈍重な始動とは打って変わり、錯覚かと見紛う加速で着弾点から離脱してのければ、直後の周辺の大地ごと捲り上げるムカデの突き上げは空振りに終わった。


 結果として獲物を捉えられず、無防備に空中へと晒されたムカデの頭部。直前までヘビィがいた位置を狙ってしまったことで、その頂点へと時間差で飛来した砲弾が直撃する。


(これで仕留める)


 奇襲をしくじり、カウンターを浴びたムカデの動きが止まった。さらに残留する爆煙にガラス片が飛び散ったようなエフェクトが混じる。

 それは装備破壊のエフェクト。つまり残っていた捕食腔が完全に破壊され。黒煙のその先で頭部コアが剥き出しになっているということだ。──トドメを、刺せる。


 ペダルを全力で踏み込み機体が加速、背部バックパックのウィングスラスターを展開してのブーストダッシュ。最高速で昊を翔けた自機が一呼吸の間にムカデの目前へと到る。

 空中で手持ちのENライフルをENブレードと持ち替える。その切っ先を機体の正中線に据え、黒煙の向こう側に浮かぶ微かな明滅を頼りに、機体ごとぶつける勢いで叩き込んだ。


 高熱源体のENブレードと硬質な金属体が干渉し合い、その衝撃波が視界を遮る黒煙を散らす。モニター越しの激しい火花に目を灼かれるも、突き出したブレードが正確にムカデの弱点を貫通していることを目に収めた。

 柄の手前まで埋まったブレードを頭上へと振り抜き頭部コアを半ばまで切断、前部スラスターの補助も入れて機体を後方へと跳躍させる。ほぼ同時に動きを完全に停止させたムカデはその突き上げた姿勢を崩し、今度こそ大地に斃れた。

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