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セブンス・ミストリオ  作者: カモミール
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8話 VS 盗賊団『マスカの影』①


「な、ななっ・・!」


 言葉を失うロックと二コラの視線の先。そこには先のカイトの雷撃によって巻き上げられた土煙が一帯を覆っていた。盗賊たちの気勢はピタリと止まり、時折漂う砂ぼこりの中で残留した魔力がバチチッと放電している。


「ま、これで倒れてくれれば楽なんだがな~」

「・・・え?」


 雷撃によりここまで飛ばされた砂雨がパラパラと降り注ぐ中、構えを解きじっと前を見据えていたカイトがポツリと愚痴る。


 その言葉に驚くのは二コラだった。


 ――倒れてくれば楽だ。


 それは何気ない願望の言葉だ。つまり夢か幻かと疑ってしまうほどの、そんなとんでもない魔法を放っていながら、カイトは盗賊団『マスカの影』を倒せていない可能性があると考えているのだ。

 今の一撃、もし自分だったらと考えるだけで恐ろしい。自分だったら何もできず、理解も出来ずに死んでしまうと断言できる。


(そ、そんなはずは・・っ)


 だからあんな魔法を受けて生きている人間などいるはずが無いと耳を疑った。カイトが魔法を撃ってから三秒も経たないうちに轟音と共に爆風が広がったのだ。如何に悪名高いボーギンズと言えど丸焦げになっているに違いない。


 しかし、そんな二コラの希望的予想はあっさりと覆されてしまった。


 粉塵を切り裂き巨大なハルバートが荒々しく振るわれる。それによって発生した風圧が舞い踊る砂ぼこりを彼方へと散らした。


ズシ、ズシ、ズシ・・・


 電熱により赤黒く焦げた地面を踏みしめその巨体を揺らしながら『暴虐牛』ボーギンズは血走った眼球でカイトを捉えていた。確かにカイトの魔法を受けたはずだが、彼の体は無傷とはいかないが擦り傷程度。


「ふぅーーっ、ふぅーーっ!!」


 ボーギンズは殺意を滾らせ真っすぐにカイトを見据える。浮かべる表情は憤怒。正に暴虐牛と呼ばれるにふさわしい様相だった。


「今当たる瞬間曲がったね」

「ああ。ぐんにゃりとな。あれがあいつの持つロロの遺産の効果だろうよ」

「削れたのは4割ってところかな。咄嗟だったからかな?後ろの方が被害がでかいよ」

「真っすぐ突き進むんじゃなくて地面に着弾するように撃ったからな。余波までは防ぎきれなかったってところか」


 冷静に分析を始めるカイトとルベル。二人の言う通りタヒトの森から向かってきていた盗賊団は、後方のボーギンズから離れた場所にいた者ほど倒れている。ただ前にいたからと言って被害が無いわけではなかった。雷撃の余波は勿論、及び腰になる者、乗っていた馬が暴れ落馬した者と完全にその勢いはなくなっていた。


「さて。俺の担当はあの暴れ牛か。1対1ならルベルの方が領分だろうに...」

「今回はカイトが持ってきた厄介ごとでしょ~。それにボーギンズだけのワンマンチームじゃないみたいだし」

「確かにちらほら強そうなのもいるけど小粒だろ。 しっかり後輩の面倒を見てやれよ?」

「任されたー」


 そう言ってカイトは不敵な笑みを浮かべてボーギンズへと歩いていく。ボーギンズは歩いてくるカイトの表情、態度から真っ向勝負を挑む気だと理解し、獰猛な笑みを浮かべた。


「まさか一人で戦うんですか!?」

「僕たちも加勢に行った方が...」

「待って待って。 カイトはほっといても大丈夫だよ」

「でも相手はあのボーギンズですよ!?」

「まあまあ、それに俺たちの相手はあっちだよ。あっち」


 二人を引き留めたルベルの指の先には体制を立て直し始めた盗賊たち。カイトの魔法を受け怯んでいた盗賊も徐々に戦意が戻ってきており、各々武器を持ち直しこちらを睨みつけていた。そして副隊長なのだろう坊主頭の男の号令と共にセルトラ村へと再度走り始めた。


 再び向かってくる盗賊たちに息を呑むが、カイトの方も気になる二人。


 しかしそうこうしているうちにカイトとボーギンズの戦闘が始まってしまった。互いに近づく二人の距離が50メートルを切った瞬間、彼らは同時に走りだした。


「死ねぇ小僧ぉォォ!!」

「上等だ!おっさん!!」


 叩き下ろされる斧槍が大地を砕く。しかしその先にカイトはいない。不敵な笑みを崩さず、人など軽く肉塊へと変える一撃を恐れずにボーギンズの懐に潜りこむ。そしてそのままの勢いで帯電する右の拳をボーギンズのどてっぱらに突きこんだ。


「ぐふぁ!?・・・ぐっ、おオオォォ!!!」

「おっと!」


 めり込むカイトの拳。更にそこから伝わる電撃に一瞬動きが止まるボーギンズだがぎょろりとカイトを睨み下ろし空いている手で掴みかかる。


 確かな手応えを感じた一撃であったが為にボーギンズの反撃に驚くカイトだが、素早く後ろに飛びずさり距離を取る。その際ボーギンズの指先が胸元を守る防具を引っ掻くも無理やり体を捻り振りほどいた。


(あっぶねぇ、その図体のでかさは見掛け倒しじゃねえってことかい・・)


 ちらりと視線を下に向けカイトは背筋が寒くなるのを感じた。見れば強度と軽さを両立させたはずの自慢の防具に深い溝が走っていた。丁度そこはボーギンズの指がかかった場所でもある。

 4メートルはある巨躯を支える筋力にそこから繰り出される巨大なハルバードの一撃。纏う覇気は強者のそれで並みの者では対峙しただけで戦意を根こそぎ奪い去る。1億の賞金は伊達ではないと言うことだった。


「ちぃっ、・・・ふんっ!」


―――ボコッ!


 忌々し気に自らの腹部を撫でたボーギンズは気合一声。腹に力を籠め拳台に凹んでいた跡を無理やり元に戻した。


「ははっ、マジかよ」


 呆れるカイト。効いていないことは無いだろうが、致命打には程遠い様子。牛ぐらいなら即死させるほどの電撃だったにも拘らずだ。


「ふん、魔法を使う割りに動けるようだな小僧...」

「おっさんも年の割には元気いっぱいだな。そろそろ腰痛に気をつけろよ?」


 カイトの軽口にピキリとボーギンズの額に青筋が走る。


「小僧、覚えておけ」

「あん?」


 ゆらりと再び持ち上がるハルバード。高まる殺気が確かな圧力となりカイトへと降り注ぐ。


「俺はまだ36だ!!」

「十分おっさんだよ!!」


 振るわれたハルバードによる袈裟切り。大振りで読みやすく回避は容易。しかしその威力は馬鹿には出来なかった。生まれた衝撃波が刃となり射線上の大地を深くえぐり切る。そして何より――、



――早いっっ!!?



 ボーギンズの振り切った隙を突こうとカイトは魔力を集め前傾姿勢になるが、ゾクリと感じた悪寒を頼りに後ろへと全力で飛び退いた。瞬間カイトがいた場所にハルバードが叩き下ろされた。


「ぬあぁぁああ!!」

「障壁っ!」


 (ほとばし)る衝撃波に対して腕を突き出したカイトは魔力で作り上げた半透明の壁を張る。即興で作り上げたにも関わらずしっかりと使い手を守り抜いた障壁だったが、ただの衝撃でひび割れボロボロになってしまった。直撃していたら防げなかっただろう。

 しかしボーギンズの攻撃は終わらない。血走った眼はカイトを捉え続け、邪魔な障壁を剛腕にて殴り壊すと力の限りを込めてカイトへと襲い掛かった。防御など不要。眼前の敵を叩き殺すことだけが全て。攻撃の型など存在しない。子どもがブンブンと木の枝を振るように、片腕で巨大なハルバードを振り回す。そこに込められる一撃はどれもが必殺。圧倒的膂力により後隙は減り、回転力は怒りと共に増していく。


「こっの!」


 途切れることのない猛攻にカイトは回避と同時に針状の雷を四発撃つ。目まぐるしく動き回る中放たれた針は恐ろしいほど正確にボーギンズの急所へ、すなわち目、喉、心臓、鳩尾へと飛来する。しかしボーギンズは避けるそぶりも見せずにカイトへ迫る。強靭な肉体で針を受け止め、唯一鍛えることのできない眼球への攻撃は前へ進む勢いで狙いが()れこめかみを掠っていく。


 しかしボーギンズは怯まない。あわや片目を失うかもしれない攻撃も彼にとっては些細なことだった。


(殺すっ!!!)


 頭の中にあるのはただそれだけ。痛みを怒りに、怒りを殺意に変えボーギンズは攻撃の手を緩めない。


「どうした小僧ぉ!逃げるだけか!!?」

「ったく元気なおっさんだなっ!」

「ぬ!?」


 吠えるボーギンズに対してカイトは地面を操りボーギンズの右足元を陥没させ態勢を崩す。ぐらつく巨体。


(チャンスッ!)


 素早く駆け寄るカイト。その両手にはいつの間にか短剣が握られていた。狙うは巨体を支える足。大きい得物は足元から切り崩すのが定石だ。動きを鈍らせてからあとは煮るなり焼くなり好きにすればいい。研ぎ澄まされた斬撃がボーギンズの足を切り刻む。しかし――


(かってぇ!?切れないわけじゃないが深く入らねえっ―――とぉあ!?)


「効かねえなぁ!!」


 正に肉を切らせて骨を断つ。ボーギンズは攻撃範囲に入り込んだカイト目掛けてガリガリと地面を滑らせながらハルバードを振り上げる。本来長物の武器であるハルバードの使い方は振り下ろすか薙ぎ払うの二種類が基本だ。その形状、重量から振り上げると言う使い方は前二つに比べて威力も速度も何もかもが下がる―――はずだった。


「うぐっ!?」


 唸りを上げて迫るハルバード。嫌な予感がしたカイトは咄嗟に障壁を二つ生み出し短剣で守りを固めた。しかしハルバードと衝突した途端ガラスを割ったかのように障壁は砕け散ってしまい、勢いそのままにハルバードは短剣とぶつかり合った。今までかつてない衝撃がカイトの両腕を襲う。

 本来なら余裕で避けられるはずの攻撃。しかし振るわれたそれの速度は先ほどまでの比では無かった。そのタネは単純明快。ボーギンズがハルバードを両手で振るったのだ。単純計算二倍の力でもってカイトを大きく吹き飛ばした。


 吹き飛ばされたカイトは地面を数回バウンドしたものの素早く起き上がった。防御に使った短剣には罅が入りもう使い物にならないだろうとその場に捨て、両腕の感覚を確かめる。ジンジンとした痛みが広がる。後ろに飛ぶタイミングが少しでも遅れていたら短剣ごと胴体を切り離されていただろう一撃は、両腕に確かな爪痕を残していた。


 そして逃がさないとばかりにボーギンズはカイトへと迫る。浅いとは言え足には無数の切り傷があり、確かな出血も見られた。


 しかしボーギンズは止まらない。


 衰えぬ斬撃の嵐が、天井知らずの殺気がカイトへと襲い掛かる。


(これが暴虐牛と呼ばれる所以(ゆえん)ってことか!?)


 カイトは振るわれる殺意に揉まれながらも内心愚痴る。ただ普通に後ろに避けるだけでは生み出される衝撃波を喰らってしまうため射線上に身を残さないようにしなければならず、先のように多少の攻撃では無視して反撃してくるので命取りとなる。一撃の重みを出そうにも魔力を溜める隙が無い。




――だったらすることはさっきと一緒だな。




 隙がないなら作ればいい。やることを決めたカイトは丁度いいと腰を真っ二つにする薙ぎ払いを敢えて飛んで避ける。身動きが極端に制限されてしまう空中に身を晒してしまうなどボーギンズからすれば格好の的だった。


 にたぁ・・と嗜虐的な笑みを浮かべるボーギンズ。彼の脳裏には既に血だまりに沈むカイトの無様な死に姿があった。


 信じられないと唖然とした表情の者。

 恐怖に顔が歪んだ者。

 怒りや恨みの籠った表情をする者。


 これまでも幾度となく自身に挑んできた愚か者たちの末路だ。その全て返り討ちにしてきた。


 そして戦い全てが終わると訪れる得も言われぬ快感。己の力で敵対者の命を剥ぎ取り自分は絶対的な強者なのだと感じるあの圧倒的な優越感と恍惚(こうこつ)感。どれだけ美味い飯を食おうが、どんな美味い酒を浴びるほど飲もうが、どれだけ女を抱こうが勝るものが無い。そして、何度味わおうと飽きることのない極上の快楽。それが今目の前にあるのだ。


(生意気にもこのボーギンズ様に挑んだこと、後悔して死ね!!!)


 振り切った得物を引き戻しそのまま振るう。狙うはカイトの腰。上下二つに切り分けてくれる!と、より一層力を込めた。

 しかしボーギンズの目の前にいる男は一筋縄ではいかなかった。


「閃光」


ピカッ!!


「ぐうっ!?」


 強烈な光がボーギンズの視界を一瞬にして白に染め上げた。堪らず目を瞑るボーギンズ。ターゲットを見失い体に余計な力みが生まれハルバードが虚しく空を切る。


「糞餓鬼が!猪口才な真似を!!」

「頭冷やせよおっさん。ただの脳筋が生き残れるほど世界は甘くないぞ」


 腕で目を押さえよたよたと後退するボーギンズ。視界が潰されがむしゃらにハルバードを振り回すも精細さも力強さも失われた攻撃にカイトが当たる筈もない。


「充電完了!」

「っ!!?」


 ぼやける視界に飛び込んできたのは、溢れんばかりの魔力を込めた右手を上に向けるカイトの姿。


――不味いっ!!?


 身を動かしたボーギンズだが遅すぎた。


「天より轟け!雷落とし!!」

「あがあああぁぁぁァァァァ!!??!?」


 カイトの生み出した雷がボーギンズへと落ちる。初撃に放った雷撃よりも尚魔力を込めて放たれた雷に流石のボーギンズも苦痛の声を上げた。

 

「ぐぅ、餓鬼ぃ・・っ!!」


 ハルバードを支えに片膝をつくボーギンズ。体の至る所が赤黒く焦げ付きプスプスと煙が上がっている。戦意は衰えていないようだが受けたダメージは相当堪えたようですぐには動けそうもなかった。


「この程度かよ暴虐牛。マタドールが暇してるぜ?」


 そんなボーギンズに向けてカイトはクイクイっと指で挑発するのであった。




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