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セブンス・ミストリオ  作者: カモミール
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7話 叫べ!その技の名はーーっ!


「お願いします神様。どうか...」

「ママどうしたの?怖いの?」

「ううん、怖くないわ。大丈夫よ、大丈夫。お兄さんたちがきっと守ってくれるからね」

「死にたくない死にたくないブツブツ...」

「どうして、こんな...」


 手を組み祈る者。子供を抱きしめ大丈夫と子供にも自分にも言い聞かせる者。へたり込み頭を抱える者。呆然と空を見上げる者。セルトラ村の村長であるウィクサーは不安と恐怖に怯える住民たちの様子に心を痛めた。


(平和な村を襲う悲劇。何処にでもある、ありふれた物語に出てきそうな話。じゃが、いざその当事者になるとここまで恐ろしいものなのか...)


 病気でもないのに気を抜くと体は震え、ぐわんぐわんと世界が回っているように感じてしまう。唇は渇き、喉が枯れ、今は鳥の鳴き声すら恐ろしい。

 彼の周りに集まった村人全員が同じ心境だ。誰もがマスカの影に怯え頻りに周囲に目を光らせている。風で軋む戸の音に肩を跳ねさせ、隣にいる仲間の息遣いがやけにはっきりと聞こえる。何か一つのきっかけでいつパニックが起きてもおかしくない、そんなギリギリの状態だった。


「ウィクサーさん、本当に彼らに任せて大丈夫なのか? それに5,000万コルなんて金、いったいどうやって...」


 普段森に出て狩りをしている男がウィクサーに話しかける。命のやり取りをするという意味ではまだ経験がある彼は他の村人と比べると冷静だが、それでも顔色が悪い。


「...じゃが他に方法が無いのも事実。年寄りや女子供を連れて奴らから逃げることも出来んじゃろう」

「それは、そうだが...」

「金の問題は猶予期間をもらえるよう何とか交渉してみるよ」


 そう言いウィクサーは集団から少し離れたところでゴソゴソと作業をしているルベルと、その背後に浮いているルナリスの背中を見つめた。他の村人も同様だ。今はただ静かに祈るしかない。村の命運はルベルたちの働きにかかっているのだから。


 そんな村人たちの思いを背負ったルベルはと言うと、カバンから何やら長さ30センチほどの何の変哲もない真っ黒な杭を取り出した。


「それが結界を張る魔道具なのかの?」

「そだよ。四方結界って言って四か所にこれを打ち込むと囲われた範囲に結界が張られるんだ。夜眠るときとかに使ってるんだけど、かなりの強度があるんだ。村全体を覆うのは無理だけど集団を纏めて守ることは出来る。相手の力量は知らないけどマスカの影ならその人数が多いのは確か。それだと俺とカイト、あとロックと二コラの四人だけで村全体を守るのはちょっと難しいしね」


 そう言いながらルベルは軽く杭を地面に刺し込み立たせると、杭の半分以上が地面に隠れるまでしっかりと踏みつけ埋め込む。すると日中故に見えずらいが杭を中心にぼんやりとした青白く淡い光が線を描き魔法陣を浮かび上がらせた。


「ずいぶんお手軽なんじゃな。本当に大丈夫なのか?」

「お手軽なのはいいことでしょ?」


 杭がしっかりと作動したのを満足げに確認したルベルは次のポイントへと移動した。四方結界なのであと3つ杭を打ち込まなければ結界は発動しない。そのまま二つ目、三つ目と杭を埋め込み残り最後の一つと言うところで村長へ話しかける。


「どうかなさいましたか?」

「うん。結界を張るのにあとこれ一つだけなんだけど、俺がこのまま埋めちゃうと結界の中に俺も入っちゃうから誰か代わりにお願いしたいんだ。半分以上地面に埋めればいいだけだし」

「分かりました。おいタタハ、頼めるか?」

「ああ、それくらいなら大丈夫だ」

「じゃあはい。埋める場所はこっちね」

「分かった」


 はい、とタタハに気軽に杭を渡すルベル。タタハは未だ半信半疑で渡された何の変哲もない杭に視線を落とした。ルベルがしていた作業はしっかりと見ていた。杭を軽く突き刺して足で踏む。ただそれだけ。


(ほんとにこんなもんで結界を張れるのか?)


 自分よりも10は若く、そして体の線も鍛えられているが自身と比べると細い。歴戦の戦士のような覇気も感じず、見れば見るほど心配になってしまう。


「・・ここに埋めるんだな?」

「うん。じゃあ任せたよ~」


 最後の杭を埋め込む場所は村の入口の手前であった。ルベルが入口から出て振り向く。タタハは頷き少し緊張しつつ杭を地面に刺す。


(頼む!)


 祈りを込めやけくそ気味に足で杭の頭を踏みつける。すると杭は驚くほどあっさりと地面へと沈んだ。

 何度も言うがここは村の入口近く。人の往来が活発で時に馬車も通る。何が言いたいかと言うとそれだけ地面が踏み固められている場所なのだ。だと言うのに杭はあっさりと埋め込まれ、そして次の瞬間―――。


「こ、これはっ!!?」


 結界を生み出す魔道具の起動条件が満たされたことによって四本の杭が光りだす。まず最初に杭同士を結ぶ光の曲線が地面を走り、それら全てが繋がると同時に四方の杭から上空へと別の光が伸びる。その光は結界の中心点と言える上空で合流すると光の幕がヴェールのように広がった。


「うん。ちゃんと発動したね」

「ほぉ~、このように発動するのじゃな」


 コンコンと地面まで降りてきた光の幕を叩くルベル。用途が結界だからか柔らかく広がった割にその質感は堅い。その物珍しさに宙を飛び回りながら叩いたり座ったりと色々結界の感触を楽しむルナリス。


「じゃあ結界から出ないでね?」

「あ、ああ・・分かった...」


 ルベルは腰を抜かし結界を見上げたまま座り込んでしまったタタハを置いて外で一服しているカイト、そして緊張した様子のロック、二コラと合流した。


「よっ。無事発動したな」

「これで取りあえずは安心かな?」


 ポイっとタバコを地面に捨て足で消火するカイト。


(二人とも特に変わった武器を使うわけじゃないんだ・・・)


 ロックは目の前に立つ二人の武装を前に意外だと感じた。ルベルの装備は年季の入った暗い灰色のロングコートに胸当てに手甲と脛あてだけ。カイトもロングコートを着ていない分ルベルよりも軽装だ。まさに必要最低限しか身に着けていない。

 それを言えばロックと二コラも大した鎧を着ている訳では無いが、彼らは単に鎧を揃えるだけの資金が無いだけだ。盗賊を軽くあしらうだけの技量を持つ彼らに限ってそんな理由ではないだろう。その実高価な結界道具を持っているのだから。


「探知はできた?」

「ばっちし。あっちのタヒトの森方面から来てるぜ」


 カイトが指さしたおよそ500メートル先に広がるのはタヒトの森と呼ばれる場所。広大な森で村のベテラン猟師ですら奥に立ち入らないほどだ。その分森の資源は豊富に取れセルトラ村の生活を支えていたりもする。


「あと捕虜にした盗賊たちの話は本当だったみたいだぜ?」

「ってことは・・」

「ああ、暴虐牛のボーギンズがいた」

「――っ!!」


 ボーギンズの名前にびくっと反応したロックと二コラ。カイトがその姿を確認したのなら捕虜の盗賊たちの話が虚勢だったという線が消えた。


「ついでに言うとこっちの探知もバレたわ」

「へ~。使ったのは?」

「鷹の目。可哀そうだが弓で射られて南無さん」

伊達(だて)に国から逃げてないってことね~」


 カイトが使った『鷹の目』は対象とした動物の目を借りることで周囲を探る魔法だ。そして動物に簡易的な指示も出せ操ることが出来る便利さから冒険者なら覚えておきたい魔法トップ10入りを果たしている。


「ま、それは仕方ない。森から来るってことは散開はせずに一点突破かな?」

「だろうな。何せ道案内役の次に先頭をボーギンズが走ってるからな。こっちとしては―――来たか・・」

「え?」

「もう?」


 カイトとルベルの空気が変わる。二人が何を感じ取ったのかロックと二コラは分からずただ二人と同じ方向を見つめた。しかし森に変わった様子は見えず、思わず二人で顔を見合わせる。


「二人とも。集団戦になるから絶対に俺から離れないでね。それとできるだけ二人で背後を守り戦うことを意識して。いいね?」

「「は、はい!!」」

「よし。あ、それとルナリスは手を出しちゃだめだよ?」

「相手が悪党でもか?」

「そういう約束でしょ?」

「なら妾は高見の見物としようか。ふふっ、簡単に死んでくれるなよ?」

「「そのつもりはないよ(な)」」


 ルナリスはふわっと浮き上がり結界の上部へ腰を下ろした。

 確認を終えたルベルはシャランと小気味いい音を立てて小太刀を抜き放ち、カイトは己の内にある魔力を高める。

 二人に続くようにロックと二コラもそれぞれの武器を構えタヒトの森へと集中した。


 張りつめていく空気。






 バキッ、ガサガサッ―――






 森の木々が揺れ野鳥が飛び立つ。


 ガサッ 

『!!』


『ギィーギィー!!』


 草藪を突き抜けて3体のゴブリンが森から飛び出した。



――何だ、違うのか。



 紛らわしく現れたゴブリンにロックの警戒が緩む。


 その時だった。


 一部森の木々が道を譲るようにぐにゃりと曲がり一本の道を作り出す。そしてその道を大地を震わす雄叫びと共に暴虐牛のボーギンズが4頭立てのチャリオットに乗って突撃してきたのだ。彼に続いて続々と森から現れるマスカの影のメンバーはギラギラとした目をセルトラ村へ、そしてその前に立っているルベルたち四人へと向けた。


「き、来た!!」

「何あれ!?森がッ!!?」


 ロックと二コラはマスカの影が現れたこともそうだが、森の木々が折れもせずに曲がり不自然な道を作り出す超常現象に唖然としてしまう。木に意思が宿り動いているような、そんな馬鹿げた現象。そして彼らの見つめる先では生木で作られたかトンネルの奥から、続々と盗賊たちが馬に跨り現れていく。その光景はまるで巣穴から這い出てくる虫の様であった。


「カイト」


 ルベルの持つ宝玉が光を放つ。


「ああ、間違いない。ロロの遺産だな」


 驚愕するロックと二コラとは違い、カイトとルベルは神妙な顔でその光景を見ていた。


 

――ロロの遺産。古代ロロキシアの民が生み出した魔道具の総称だ。彼らは現代の魔道技術レベルよりも遥かに高いレベルを誇っており、その最たる魔道具が七つの神秘(セブンス・ミストリオ)と呼ばれている。しかし彼らが作った魔道具は何もそれだけではない。ルベルの持つ『神秘への光(ミストリオ・ルーサル)』もその一つであり、世界にはまだまだ眠っているロロの遺産があると言われている。


 今回、マスカの影が森から現れる際に使ったのが正にそれだとルベルたちは確信を以ってそう述べた。まるで空間を捻じ曲げたかのような超常現象。この世であのような超常現象を起こす方法は二つだけ。


 即ち魔法か魔道具か。


 そのどちらも魔力を用いて世界へ働きかけることは変わらないが、後者のほうがより複雑な事象を引き起こすとされている。


 理由として挙げられるのは、人が脳内で行う処理能力には限界があるが、魔道具には理論上それが無いとされているからだ。どれだけ複雑な現象も構築理論(術式や魔法陣)さえ編み出せば、後はそれを魔道具に落とし込み発動するだけ。しかし同じ魔法を人が発動する場合、脳内でその複雑難解な構築理論を一から形成しなければならず、その者の脳が持たないのだ。


 そして先の現象だ。人が行使する魔法では再現が難しく、現代の魔道具の技術レベルではありえない現象。そして何よりルベルの持つ神秘への光(ミストリオ・ルーサル)が光り輝いているのを踏まえると、マスカの影は古代ロロキシア文明の民が作り残した魔道具を持っていることは間違い無かった。



「野郎ども!奴らに恐怖を刻み込んでやれ!!!」

『おおおおおおおおおおぉォォォ』


 そうこうしている内に、最後の盗賊が現れ何事も無かったかのように元に戻る森の木々。そして森から飛び出した勢いそのままにボーギンズを筆頭に盗賊たちがセルトラ村に押し寄せてきた。


(こんな数相手に...っ)


 覚悟はしていた。死ぬかもしれないことは理解している。けれども迫る大軍を前にロックとニコラの心には拭えぬ不安と恐怖が溢れ、体の動きを、思考を鈍くする。


「大丈夫だ」

「え・・・?」

「カイト、さん?」


 そんな二人に向かってカイトは背中越しにニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 決して強がりでは無い。

 緊張もしていない。

 どこまでも自然体なその姿は二人の目に大きく映り、勇気を与えた。


「ま、見てろ。先輩冒険者の凄さってやつを」


 そう言って一人歩いていくカイトの右手にバチバチと目に見えての放電現象が起きる。それは次第に激しさを増し今か今かと獲物を求めるかのように暴れる。



「先手必勝ッ!スーパーアタァァァッッック!!!!」



 カイトはググッと腰だめに引き絞った右拳を幼稚な掛け声とともに前方へと打ち込んだ。


 放たれたのは名前に似合わず凶悪で極太の雷撃。


 大気を焦がし音を置き去りにする真っすぐな光が(ほとば)り、轟音と共に盗賊たちの先頭を走るボーギンズへと着弾した。

 

 

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