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セブンス・ミストリオ  作者: カモミール
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4話 旅は道連れ世は情け


「あ、貴方は...?」


 突如現れた乱入者に盗賊たちも二人の冒険者も動きを止めた。勿論マリーも落ち葉を散らし目の前に降り立ったカイトに目を白黒させた。

 カイトは混乱しているマリーへ優しく手を差し伸べる。


「俺の名はカイト。しがない冒険者さ」


 白い歯をキラリと光らせ、まるで俳優のような爽やかな笑みを浮かべるカイト。


「カイト、さん。ーーッうしろ!」

「あ?」

「おらぁ!!」


ガキンッ!


「なっ、に...!?」


 盗賊の1人が剣を振り下ろす。しかしカイトは焦ることなく腰に装備してあった短剣を抜き放ち受け止めた。まさか不意打ちを防がれると思わなかった盗賊はぎょっと目を見開く。


「むさい男はお呼びじゃねえ、よ!」

「どはぁ!?」

「なっ!ぐへぇ!」

「何やってんだ!?」


 そのまま盗賊の腹中心を蹴り抜き他の数名の盗賊たちの方へと吹き飛ばした。


「さて、と」


 ポンポンと短剣を片手で玩びつつリーダー格と思われる巨剣持ちの盗賊につまらなさそうな視線を向ける。


「お前らみたいな盗賊を殺してもたいした価値もねえし、時間の無駄だからさっさと消えてくんない? てか消えろ?」


 カイトは羽虫を払うかのようにしっしと手を振る。カイトからすれば本心であり優しさでもあった。カイトは面倒を回避し、盗賊たちは死ななくて済む。両者ともに万々歳だね!と。 しかし盗賊たちは百点満点の挑発として受け取ったようだった。巨剣持ちの盗賊は額に青筋を浮かべ雄たけびを上げて突進してくる。


「チャンスはやったぞ?」

「死ねぇぇええ!!!」


 2メートルはある大柄な男による怒りに任せた全力の振り下ろし。

 当たれば脳天はカチ割られ数秒後にカイトは物言わぬ死体と成り果てるだろう一撃だったがそれは当たればの話。

 底冷えするような冷淡な声を残したカイトは盗賊のフッと視界から消える。目標を見失い不格好のまま巨剣を止めてしまった盗賊の横をすり抜けるカイトの腕がブレる。


「あぁ...ぁぁ..ぁ――!」


 正に一瞬の出来事だった。カイトが立ち止まり短剣に付着した血を払う。――と同時に盗賊の両足手首、そして首から鮮やかな血が吹き出しそのまま彼は倒れ動かなくなった。


「なっ!」

「ガッツがやられた!!?」

「何だあの動き、見えなかった...」

「おい、やばいんじゃねえのか!?」


 圧倒的優位から一変し動揺が激しい盗賊たち。

 場の空気は完全にカイトが支配していた。


「お前らも、やるのか?」

『ひっ!!』


 特に威圧を出したわけでもないカイトに目を向けられた盗賊たちは声にならない声を上げる。言外に次はお前らか?と、問いかけられた気がしたのだ。しかしその中で勇敢なのか馬鹿なのか。一人の男が声を張り上げた。


「お前ら!何ビビってやがる!相手はたったの1人だぞ!!さっきのはまぐれに決まってる!!全員で一斉にやりゃああんな色男楽勝だ!!!」

「盗賊に褒められても嬉しかねーぞ?」

「うるせえ!!どの道手ぶらで帰ったらボスに殺されっぞ!!分かってんのか!!? いいから野郎どもやっちまえ!!!」

『お、おおおおぉぉぉぉ!!!!』

「ちっ、リーダーはこいつじゃなかったか」


 カイトは忌々し気に先ほど殺した男を見下ろす。


(頭を先に潰して面倒を避ける作戦失敗かよ。それに背後にまだ誰か居やがんのか...)


 本物のリーダーの激励と共に一斉に襲い掛かってくる盗賊たち。はぁーとため息を吐いたカイトはしょうがないと武器を構える。


「お、俺たちも戦います!!」

「私も!!」


 すると護衛の若い冒険者がカイトの横に並び立つ。ロックは傷の手当てもされていないのだが闘志だけは衰えていない。二コラも同様だ。


「お!じゃあ適当に頼むわ」

『はい!!』

(う~ん。元気でよろしい!)


 まだまだ若いと言われるカイトだが、それでも自分よりも更に若い後輩冒険者に昔の自分を重ねた。前しか見えず、がむしゃらに進んだあの頃の自分を。


(やめやめ。まだそんな年じゃねえよ)


 これ以上考えると悲しくなる未来が見えたので気を取り直す。手伝ってくれると言うのならその厚意にあやかろうと走り出す。


「二人ともしっかりついて来いよ!」

『はい!』

「死ねぇ!」

「くたばれぇ」

「おらあ!!」


 カイトの前に迫るは三人。それぞれ一般的とも言える長剣を振りかぶる。ロックと二コラの前にも一人ずつ盗賊が襲い掛かった。そしてなんとリーダーの男は姑息にもカイトたちへは向かわず商人夫婦へと向かっていた。恐らく人質を取るつもりなのだろう。なるほど。ひとつの集団を纏める者としてある程度頭は働くようだ。


 しかしカイトは焦ることは無かった。カイトの視線の先には商人夫婦に迫る盗賊とその奥、こちらに向かってくる別の者を捉えていた。


「到着っと、カイト。何してんの~。あ、大丈夫ですか?」

「え、ああ。私たちは大丈夫。かすり傷程度だよ。それより君たちは...?」

「俺たちはね――」

「貴方!今それどころじゃ――っ!!」


 馬車から飛び降りたカイトを追って小走りで戻ってきたルベルは、座り込む商人夫婦とその娘マリーの横に立ち止まった。切迫した状況にも関わらず呑気に話しかけてきたルベルに天然なのかマイペースなのか律義に答える夫。そして迫る盗賊に慌てる奥さん。


「な、またっっ!クッソがぁ!お前から死ねえ!!!」

「いきなりだな~」


 新たに追加された謎の男(ルベル)に怒りを爆発させたリーダーは邪魔者を排除すべく襲い掛かる。

 

「死ね死ね死ね死ねぇええ!!」

「ほい、よっと」


 ぶんぶんと盗賊が武器を振り回すもルベルはひらひらと宙を舞う木の葉のように躱す。盗賊のリーダーとしてその剣捌きは部下に比べて鋭い。しかしルベルの体にその剣が当たることは無く、切っ先が掠ることも無い。


「死ね死ね・・くそが避けてんじゃ――っ!!」

「ふふん♪」


 ルベルに悉く攻撃を躱された盗賊リーダーの眼前に突然ルナリスが現れる。


 「――なっ、なんだこのガキっ!!?」


 驚き体を仰け反らせる盗賊リーダー。

 そのままルナリスは笑みを浮かべながら扇子片手にふわりと踊るように舞い上がった。


「隙あり!」

「ごぉ、ぶっ、ぐはぅっ!!!!」

「「とおーー」」


 一体どこから。そして誰なのか。あまりにも場違いな美少女の登場に思考と動きが固まる盗賊リーダーだったが、ルナリスが退いた視界に迫るルベルの足。鳩尾に一発、下がった顔に一発、ふらつき後ずさった止めの一撃、ルナリスとシンクロした飛び蹴り(ルナリスは空中で動きを真似ているだけ)が炸裂した。


 綺麗な放物線を描き街道に叩き堕ちた盗賊のリーダーは堪らず気絶。


「雑魚じゃの」


 ひくひくと白目を向いて倒れる盗賊のリーダーの上空をくるりと泳ぐルナリスはパタンと扇子を閉じた。


「そだね~」


 ぷらぷらと蹴った足を振るルベル。その二人の後ろ姿を呆然と商人一家が眺めていた。


 そしてその後盗賊子分たちを片付けたカイトら三名も集まり戦闘は終了した。






「あの、本当にありがとうございます。ルベルさん」

「ん~?全然いいよー。送る村もそんなに遠くないみたいだしさ」

「ふふっ、優しい上にあんな御強いなんて凄いですね。それにこんな立派な馬車まで...」

「凄いでしょ~。俺たち色んな場所に行くからさ、道中出来るだけ早く移動したし、でも疲れるのも嫌ってことで腕利きの職人に特注で作ってもらったんだ」

「だからこんな凄いんですね。あ、もしよろしければこれまでの旅のお話を聞かせてもらえませんか?」

「いいよ~。そうだねー...」



「おかしいだろ。そこは俺が座る筈のポジションだろ。なんでルベルなんだよー」

「えっと、そのすいません」

 

 御者台でルベルと楽しそうに話すマリーの声にそう不貞腐れるカイトは、御者台とは反対を向いてごろんと寝転んでいた。

 その様子に申し訳なさそうに謝るのはマリーの母親であるハンナだった。


 あれからルベルたちは商人一家が向かっていた村、セルトラ村に向かって馬車を走らせていた。




『ありがとうございます!』


 戦闘も終わりお礼の言葉と共に頭を下げた商人一家と護衛の二人。


「お前たち!俺らに手出してタダで済むとむぐぅー!」

「はいはい、お口チャックしましょうね~」


 後始末として倒した盗賊を縛り上げ、後日近くの町に引き渡すということで話が付いた一行は道中を共に進む事となった。と言うのも護衛であるロックが負傷し、満足に戦えるのは二コラ一人。また同様に盗賊に出くわすと今度こそ命が危ぶまれるので二コラと商人の夫カエサルがルベルたちに頭を下げたのだ。ルベルたちも助けた相手が死んでしまっては助けた意味が薄くなる。急ぎの旅でもないのでその願いを受け入れたのだ。


 あとは盗賊をどちらの馬車に入れるかという話になったのだがそこでルベルが難色を示した。曰く、お気に入りの馬車に盗賊なんて入れたくない!汚れる!とのことだった。確かに彼らは泥臭く汚れており、見るからに不潔だった。呆れるカイトとルナリスだったがルベルの気持ちも分かってしまう。

 となれば盗賊たちはカエサルの馬車に乗せるしかない。幸いにもカエサルたちの積み荷は村で手に入らない調味料や魚などの乾物、農具の数点だけであった。そこである程度ルベルたちの馬車に移し替え、空いたスペースに盗賊たちを押しこむ形で収まった。




「一度は見捨てようとした罰では無いのか?」

「はんっ!」


 鼻で笑い小馬鹿にするルナリス。


 案内ということで先頭をカエサル操る馬車が走り、盗賊たちの見張りは二コラが務めることになった。そしてその後ろをルベル操る馬車が追走していた。後ろにはカイトとルナリス、ハンナと手当てを受け眠っているロックが乗っている。

 そして竜馬を操るルベルの横にはマリーが座り先ほどから頻りにルベルに話しかけているのだ。それがカイト的に面白くないのだ。と言うのもいざ出発するときだが―――




『じゃあ遅くなるのもあれだし出発しようか』

『そうですね。あなた、案内よろしくね』

『ああ、任せてくれ』

『じゃあマリーさん、俺たちの馬車に―――』

『あの、ルベルさん』

『?』


 カイトが差し出した手には気づかずマリーは御者台に上ったルベルへ話しかけた。


『えっと、私も隣、いいですか?』

『後ろに行かないの?』

(ナイス!ルベル!)

『マリーさん、中の方が安全で――』

『その、お話をしてみたいな、と。い、いえ!あのベロソニドを引馬にしている馬車は珍しくて走ってる姿とか見たいなって!!』

『??』

(ルベル断れ断れ断断れ断れ断るよな?危ないもんな?お前分かってるよな?相棒だろ?)

『ん~、なら乗ってみる?』

(ルベルーーー!!!!)

『はい!是非!』




――――――なんてやり取りがあり、マリーと仲良くなりたかったカイトは進行形で不貞腐れているのだ。


「見てください!この森を抜けたらセルトラ村はもう少しですよ!」

「そうなの?聞いた通り結構近いんだね」

「ルベルさんとのお話に夢中で何だかあっという間でした」

「俺も楽しかったよ」

「ほんとですかっ!」


 彼女は聞き上手なのかルベルも楽し気に話しており、何も知らない者が見れば二人はカップルの様にも見え、ますますカイトの機嫌が悪くなってしまう。


「カイト~、そろそろ着くって~」

「聞こえてるよ!」

「?? 何で怒ってんの?」

「はぁ、お主が気にすることではない」

「そう?」


 首を傾げるもルナリスにそう言われ流すルベル。


 それから暫く馬車を走らせるとちらほらと田畑を耕す人の姿が見え始めた。夏に向けての準備だろうか。野菜の種を撒いたり、田植えの準備をしている。近くを流れる川では洗濯する女性たちや楽しそうに遊ぶ子どもの姿もあった。


 ルナリスはそんな田舎の風景を窓から眺めていた。何人かの農夫が一行に気づき農作業の手を止めこちらを不思議そうに見ていたので手を振ってみると皆微笑ましそうに手を振り返してくる。


「お~い、カエサルさんか~?お帰り~~」

「おお、ヴィヴァか。村に変わりは無かったか?」

「それが・・・」


 カエサルは村の入口まで迫った馬車をゆっくりと止め、出てきた村の住民と何やら話始める。


「よいしょっと、ルベルさん、カイトさん、ルナリスちゃん。送ってくださってありがとうございます!ここが私の故郷、セルトラ村です!」


 そして馬車から降りたマリーも体をくるり反転させ満面の笑みを浮かべた。






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