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セブンス・ミストリオ  作者: カモミール
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3話 道中での出来事



ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ・・・



「これはまた早いのー」

「「「クルゥゥゥャァァァーー」」」


 まだ太陽が山から顔をのぞかせたばかりの早朝。町と街を繋ぐ街道から離れた草原を一台の馬車が猛スピードで駆け抜けていた。


 三角形の陣形で馬車を引くのは3頭の生物。名前はベロソニド。ベロソニドは通称竜馬とも呼ばれている小型の亜竜で体長は5.2メートル、体高2メートルほど。雑食で世界各地に生息している。短い手と長くすらりとした尾。そして特徴的なのはやはり発達した二本の脚と爪だ。太くしなやかな脚は大地を力強く蹴り上げ、鋭い爪はスパイクの役目を果たしている。

 彼らは群れで行動し知能も高い。仲間と共に自らよりも大きい獲物も連携して狩ることが出来る。そんなベロソニドだが力関係、信頼関係を築くことが出来れば人の言うことも聞くようになる。特に馬車を引く生物としてかなり重宝されており、瞬間最高速度200km/hを誇り120km/hぐらいであれば半日は走り続けることのできるスタミナも併せ持つ。


「ルナリス嬢、落ちるなよ~」

「そのようなへまはせぬ。にしても人間の技術には呆れるばかりじゃの。このようなものまで開発しておるとは」

「これは特注品だけどな」


 馬車の窓から風を感じていたルナリスにそう注意を促すカイト。暇つぶしなのか手に持つ本のページをぺらりと捲る。ルナリスもぱたんと窓を閉め馬車内にある適当なスペースへと座った。


「それであとどのくらいで目的地メンレータム山脈に着くのじゃ?」

「何だルナリス嬢、もう飽きたのかい?まだ街を出たばかりだぞ。調子よく進んでもあと1週間は馬車の旅。そこから隣国のアッシュラルドで物資の補給と休息で二日、そこからさらに5日はかかる」

「そうか。う~む、それならもう少し蔵書を買っておくべきじゃったか?」

「まだ買う気かよ。ルナリス嬢の荷物の大半が本だったろ? あれ以上買うと重量オーバー。暇なら寝とけ」

「魔族に睡眠は必要ないからのぅ」


 ルナリスはそう物思いにふけるかのように窓の外の流れる景色を眺めた。


「だったらルナリスも御者 (ぎょしゃ)のやり方覚える?」

「む、そうじゃのぅ。やってみるのも・・・」


 パカッと前方に設置された小窓が開きそこからルベルの声が聞こえてきた。その声に腰を上げかけたルナリスだったが思案顔を浮かべてルベルへと問いかけた。


「風は強いよの?」

「ん~?」

「この速度じゃ。お主のいる場所は風が吹き付けるじゃろう? 妾の髪は長い故に乱れて鬱陶しくなると思っての」

「あ~なるほどね。でも大丈夫だよ。そこら辺の対策はしてあるし」

「そうなのか?」

「うん。あ、でもそこからこっちに来るなら馬車一回止めないとね」

「その心配はいらぬぞ」

「あ?ってお、おい!?―――ふぶぅあぁ!!!?」


 するとルナリスは何の気も無しに馬車の扉を開け放った。当然慌てるカイトの顔に強烈な風が吹き付ける。車内で風が暴れ比較的軽い荷物が宙を舞う。しかしルナリスは後ろの惨劇など気にも留めず、ひょいと体を馬車の外に投げ出しそのまま宙を泳ぐように御者台に座るルベルの元へとやってきた。


「おお~、さすが魔王さま。髪の毛はボサボサだけど」

「ううぅむ。本来の力があれば風など気にせずにおれたと言うのに...」


 空を飛べるのは知っていたのでそこまでの驚きはなかったルベル。しかし横にちょこんと座った魔王さまの髪は一瞬とはいえ強風に煽られ見事に乱れていた。


 忌々し気に髪を手櫛で治すルナリス。


 そこでルベルは彼女の手を止めると懐から櫛を取り出しそれを渡した。


「すまぬの。・・いや待て。なぜ男のお主が懐に櫛を入れておるのじゃ?」

「秘密~」

「...ふん、まあよいか。それにしてもこれはどういった原理なのじゃ? お主の言うた通り風を感じぬの」


 櫛で髪を直しているルナリスはキョロキョロと辺りを見渡す。外の景色は変わらず流れるように過ぎていくが全く風を感じないのだ。後ろでぶちぶちと文句を垂れながら散乱した荷物を片付けるカイトの声まで聞こえている。


「これがこの馬車の凄いところその三。御者台を囲うように風の結界が張られてるんだ~」

「また何というのか...」


 どや顔で説明するルベルにジト目を向けるルナリス。


 その三と言うようにルベルたちの使う馬車には様々な仕掛けが施されている。


 一つ目はその耐久性。軽く丈夫な植物や魔物の素材をふんだんに使用されたこの馬車は、下級の魔物程度では破壊することが出来ないほど。高位の魔法にも数発なら耐え得る強度を誇る。


 二つ目はこの馬車、何と浮くのだ。原理としては底面に扱われた浮遊石と言われる素材の効果だ。その石はどういうわけかある一定の高さまで宙に浮くと言う性質を持ちダンジョンなどで極稀に発見される。石単体では重たい物を浮かすことは出来ないが、足りない分の浮力は風の魔石を利用した装置によって補っている。


 そして三つ目だ。この様子だと他にも便利さを求めた機能が搭載されているであろうこの馬車の秘密が気になり始めてしまうルナリス。


 魔王として暮らしていた頃に不便を感じたことは無かった。しかしそれは彼女の行動範囲が狭かったためでもある。食事も睡眠も必要とせず、気ままに散歩し本を読む生活。もし過去の自分がもっと活動的であれば不便さを感じるところも出てきたかもしれないが所詮たらればの話。

 そもそも魔族は基本的に力でどうにかしようとする者が大多数だ。それはルナリスでも根っこの部分は同じ。

 だからなのかルナリスは魔族には無い人間の利便性に向ける心には呆れてしまうも関心は持つ。


「もったいぶっておらんでさっさと他の機能を教えぬか!」

「え~、その時までのお楽しみだよ~」

「うぬぅ...」


 勿体ぶるルベル。その後も教えろ! 秘密~ と言い合いながらも一行は順調に旅を進めていった。






「クルゥ」

「ん~?あれは盗賊か~。カイトぉ―、どうする~?」

「ほっとけほっとけ。俺たちは慈善事業者でもねえんだし色々面倒だ」

「りょうか~い」


 ルベルたちがラワークを出発して早4日。見晴らしの良い草原地帯は過ぎ去り、日の光降り注ぐ林の道に馬車を走らせていると、先頭を走る一頭のベロソニドが鳴き声を上げた。鳴き声に気づいたルベルが前方へと目を凝らすと馬に乗り武器を持った集団が一台の馬車を襲っているようだった。二人ほど護衛なのか盗賊たちと戦っているが多勢に無勢とやられるのも時間の問題と思われた。


 念のためカイトにどうするのか聞いたルベルは手綱を操りベロソニドたちに合図を送る。ルベルの指示を受け取ったベロソニドたちはそれぞれ一鳴きすると徐々にその足を速めた。


 盗賊のうち何名かは接近するルベルたちに、それも止まるどころかスピードを上げたことに気づいたようで慌てて街道脇に逃げ出した。


「助けぬのか?」


 お尻にクッションを敷き座るぺらりと捲るページから視線を外さず問いかけたルナリス。


「やめやめ面倒くさい。ああいう輩にかまってたらキリがない。ご愁傷様ってことで諦め――」

「「「クルルッ!」」」

「―――ぁ――ッ!!」

「お?」


 三頭が声を合わせ襲われていた高さ3メートルはある馬車を飛び越える。と同時に馬車の下からは強烈な風を噴射された。


 少しだけふわりと浮くルナリスとカイト。


 一瞬の浮遊感の後着地を決めたルベルたちの馬車はそのまま街道を走り去っていく―――はずだった。


「ナイスジャンプ」

「「「クルァ!」」」


 元気よく返事をするベロソニドたち。


「そっちは大丈夫~?」

「妾は平気じゃよ。カイトは飛び出ていったがの~」

「え?」


 ルベルが慌てて左右に取り付けられた後写鏡を見ると丁度カイトが盗賊の一人を蹴り飛ばしている姿が映っていた。






「マリー!!」

「お父さん!お母さん!!」

「へっへっへ。こりゃまた結構な別嬪さんじゃねえか。奴隷商に売ればいい値が付きそうだ」

「ま、お前は別だがな!」


 盗賊の手につかまった女性マリーは地面に倒れ、盗賊に足蹴にされている両親へと手を伸ばす。しかし田舎商人の一人娘であるマリーの力では盗賊の男の腕を振り払うことは出来ずずるずると両親から引き離されてしまった。。


「くっ、その子から離れろ!」

「お前の相手は俺たちだろ?」

「くぅ・・っ!!?」

「ロック!」

「お嬢ちゃんの相手は俺様よぉ!!」

「二コラ!」


 ロックと呼ばれた護衛の若い冒険者がロングソードを振るうが数人の盗賊が彼を囲んで逃がさない。彼らはロックの抵抗を楽しむかのように攻撃しては離れを繰り返していた。


 そしてもう一人の若い冒険者二コラの前には、図体(ずうたい)がひと際大きい盗賊が刀身2メートルの巨大な剣を片手に立ち塞がっている。

 

「ほらほら護衛なんだろ?もっと頑張れよ!」

「ぎゃはは!そら背中ががら空きぃぃいい!!」

「ぐあぁ!!?」

「ロック! そこを退きなさい!!」

「吠えるだけの子犬か?おら噛みついて来いよぉ!!」


 背後からの攻撃に対応できず切り付けられるロック。深手は避けたようだが顔を顰める。


 二コラが二振りの短剣で盗賊へと切りかかろうとするも、巨大な剣をまるで重さを感じていないかのように振るう盗賊相手に距離が詰めれないでいた。


(早く何とかしないと...、でもどうやって?)


 ロックと二コラはまだまだ冒険者として新米だ。だから自分たちの腕を過信せず比較的安全だと思われた護衛任務を選んだはずだったが運が悪かった。現れたのは裏町にいるようなゴロツキではなく、しっかりと統率のとれた盗賊たち。襲撃からの二人を分断する手際が慣れており、守るべき依頼人も襲われている始末。

 ここ一帯で盗賊が現れると言う話は聞かなかったので何処からか流れてきたのか。

 

 見通しの悪さや、いいようにあしらわれる腕の未熟さを恥じるばかりだが、泣き言など言ってられない。


(こうなったらまだ覚えたてだけど身体強化をっ!!)


 つい最近覚えたばかりの魔法を使おうとする。


「フォー「兄貴!向こうからすごい勢いで竜馬が!!」??」

「何ぃッ!?何頭だ!?」

「えっと3頭!ハーネスも付けてやす!」

「チッ、お前ら脇に避難しろ! 獲物に逃げられるヘマするなよ!!」

『うっす!!』

「「「クルルッ!」」」

「え?きゃああーーー!!!?」


 盗賊が離れたと安堵する暇なく目前まで迫ってきた3頭のベロソニドの恐ろしさに叫び縮こまるマリーだったが、竜馬は彼女どころか後ろにある馬車を飛び越え走り去ってしまった。


 その場にいた誰もが突然の出来事に固まってしまう。そして最初に我を取り戻したのは新米冒険者の二コラであった。


「ロック!大丈夫ッ!?」

「二コラ、うん。傷はそんなに深くないよ。それよりも...」

「そうね。ここを乗り越えないと...」


 ロックの容態に安心したが危機は去っていない。またぞろぞろと周囲を囲み始めた盗賊たち。


「はっはぁ!助けじゃなくて残念だったな?おい!おめえら!ねえとは思うがさっきの奴が戻ってくると厄介だ。さっさと終わらすぞ!!!」

『うっす!!』

「ロックさん!俺たちはいい!!マリーだけでもッ!」

「お願いします!!」

「そんな!お父さん!お母さん!」

「ひゅー、泣かせるねぇ。けどそっちの嬢ちゃんも勿論お前らも誰一人逃がしやしねえよ」


 そうロックたちに巨刀を突き付ける盗賊。


「ロック、あれを使うわ。その隙に何とかカエサルさんたちを逃がして」

「でも二コルが!」

「ロックよりも私のほうが強いし傷も浅い。大丈夫。適当に暴れて逃げるから」

「・・・くっ」

「作戦タイムは終わったか?」

「あら、優しいのね?」

「あがく奴をなぶるのが趣味なんだよ。だがここまでだ」


 スッと掲げた巨刀を合図に盗賊たちの殺気が高まる。


「やっちま「ちょっと待ったああぁぁぁぁああーーー!!」!!?」


 いざ号令と合図が振り下ろされる寸前。あたりに響く大声と共に空から一人の男がマリーの前へと着地を決めた。


「誰だ!!?てめえ!」


 乱入者にがなる盗賊。


「レディーの涙を見過ごして、明日の朝陽を拝めるか!?勿論それは否!腐った盗賊どもに人誅を下す!!男カイト、ここに見参!!」


 そう決めポーズを取ったカイトは背後でへたり込むマリーに向かって渾身のキメ顔を浮かべたのだった。



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