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セブンス・ミストリオ  作者: カモミール
1/36

プロローグ

暇つぶしにどうぞ


「チッ、しつこいな。一体どこまで追ってくるんだよ!!」


 とある荒れた山場を一人の男性が走っていた。名はカイト。短くツンツンと立っている銀髪に使い込まれたゴーグル。背丈は190といったところ。ガッチリとした筋肉質でありながらもゴロゴロと大小さまざまな岩石が転がる荒れた山肌を駆ける肉体はしなやかさも持ち合わせているようだった。


「カイト頑張れ~」

「ルベルこのヤロ!手伝ってくれてもいいんですけど!!?」


 そんな逃げるカイトを安全な岩の上から見下ろす男性が一人。名前はルベル。深海を思わせるような青黒い髪。こちらはカイトとは違いすらりとした体型。カイトから送られてくる縋る視線をヒラヒラと手を振って跳ねのけた。


 ところでカイトが何故必死になっている理由は何なのか。それは背後に迫る機械仕掛けの全長10メートルの巨大なゴーレムが原因だった。このゴーレム、とある遺跡の調査を行った際に侵入者用の迎撃装置が作動してしまった結果なのだが、兎に角しつこかった。ある程度離れれば追ってこないだろうと逃げを選択したのだが、もう既に遺跡から出て30分、未だに追いかけっこは続いていた。




ガチャン! 



「!!」


 ゴーレムはその巨体を支える四本の足を機敏に動かし遂にカイトを攻撃の圏内に修めると振り上げたその岩のような拳を不届き者目掛け振り下ろした。


「このっ!」


 カイトはその拳を機敏に察知し体をくるり回転させ避けるとその叩きつけられた腕を足場にゴーレムの眼前に躍り出た。腰から抜き放つのは二振りの短刀。キラリ怪しく光るそれらを操り目にも止まらぬ斬撃をゴーレムに浴びせた。


「これで終い!」


 そして止めとばかりにゴーレムの頭に両の短刀を叩きつけその反動で後ろに片膝立ちで着地した。決めポーズも忘れない。


「はぁ~全く。大した金にもならねえ遺物が手間取らせんなよ」

ピキッ

「ピキ?」


 しっかりと余韻に浸り立ち上がるカイトが持つ短刀から何か不吉な音が聞こえた。しっかりとその音を耳にしたカイトは手に持つ武器に視線を送る。


「うそん」


 音の正体。それは男の懸念した通り音の正体は刃に罅か入った音だった。訂正。今しがた根元から折れ地面で虚しく跳ねた。二本とも。


ギギギッ


「あ~~、許してくれたりは...?」


 カイトの頭上に影が伸びる。振り返れば多少頭部が掛けているもまだまだ健全なゴーレムがその赤く光る目をカイトに向け再び愚か者へと攻撃を繰り出そうとしていた。


「ルベルくーーーん!ヘ~~~ルプミィィィィ!!!!あれ?返事は!?っていねえ!!?うひゃあああーーっ!!!?」




――――




「ああ゛~、最初からこうしておけばよかった。」


 そう言いつつプラプラと手を振るカイトの背後には無残にもボロボロになったゴーレムが沈黙していた。その体には無数の焦げた跡が目立ち、左胸部分は穴が開通し反対の壁が見えている。当然当たりにはゴーレムを動かしていたと思われる歯車やその部品も散乱していた。


「で?結局相棒である俺を置き去りにしたあいつはどこいった?」


 キョロキョロと当たりを見回しつつシュボと懐から取り出した煙草に金色のライターで火を点ける。パチンと景気のいい音を立て蓋をし、運動後の一服を堪能しているとガサガサと探し人が草むらから出てきた。


「ねえカイト」

「お、ルベルどこ行って――捨てて来い」

「まだ何も言ってないよ~」


 ルベルに抱えられている少女を見てカイトは思わずそう言ってしまった。







ガヤガヤ


「おい!聞いたか!?西の魔界域で聖女率いる聖騎士団の奴らが魔王を討伐したって話!」

「隣の国で内乱が起きるかもだってよ。近寄らない方がいいぞ」

「おい!その酒こっちのだろ!」

「次の仕事はどうしよっかな~」

「カマンドの野郎ぜってぇ許さねえ!」

「ブハハハア!!」


 ここは『ニベア大陸』南西部の都市『ラワーク』にある冒険者ギルド支部。そこには腕に自信を持つ者が集まり彼らは魔物の討伐から野草の採取、住民の依頼などを(こな)すことで発生する報酬を元に生活している。


「ソフィーちゃ~ん!こっちに酒追加ぁ!!」

「今度デートして~~!!」

「は~い!それとデートはしませ~ん」

「あちゃ~振られた~」

「ぎゃはは!一片死んで生まれ直してこい!」

「何だとこの野郎!」


 ラワーク支部、だけでは無いが大抵の冒険者ギルドの一階には冒険者たちの交流の場と言う体で酒場が併設されており、その中でもソフィと呼ばれた女性職員は雑誌の表紙を何度も飾った実績もありこのギルドの看板娘として人気を博していた。両サイドを丁寧に編み込みハーフアップ風にした綺麗な白髪を靡かせ給仕に歩き回る彼女目当てにここを訪れる冒険者もいる程だ。


「はぁ~ソフィちゃん今日も綺麗だな~。むさ苦しいギルド唯一の癒しだ」

「分かる。あの見た目に抜群のプロポーション。そしてあの愛嬌。仕事の疲れもあの笑顔を見ただけで吹っ飛ぶってもんよ」

「今度本気でアプローチしてみようかな?確か彼氏いないんだろ?」

「ば~か。お前が相手される訳ねえだろ。噂によると一国の王子の求婚も断ったらしいぜ?」

「マジかよ。勿体ない」

「がはは!ソフィはそんじょそこらの女とは違うからのう!!」

「「っっ!!? マスター!!!?」」ガタンッ!!


 にこやかに働くソフィを眺めながら酒場の端でぼやいている二人の若い冒険者の後ろから豪快な声が降ってきた。


 驚き椅子から転げ落ちる二人をニヤリと見下ろすその男は、ラワーク支部の支部長アルバス・メイキウッドだった。御年70歳にして3メートルはあろう巨体。剃り上げられた頭。左目には眼帯、頬傷とその迫力は恐ろしい。そして彼も又現役バリバリの冒険者でもある。


「お、脅かすなよマスター」

「ぶわっはっは!何、ちょっとした悪戯じゃて」

「ああ~、こりゃ他の奴を笑えない。全く気付かなかった」


 恥ずかし気に周りを見る男は他の冒険者と目が合い苦笑いを返された。その他にもニヤニヤと笑うものも数名、呆れるもの数名。彼らの内何名かはこのデカいやんちゃ爺さんにしてやられた被害者なのだろう。


「もうマスター。人を脅かすのもほどほどにして下さいね?二人とも大丈夫?」

「は、はい!大丈夫です!ソフィさん!俺と付き合ってください!」

「いや!俺と!!」


 しゃがんで零れてしまった料理を片付けをするソフィ。まさか先ほどまで話していたアイドルとも言える存在に話しかけられ二人は、緊張と照れが混ざったのか唐突に告白をかますと言う暴挙にでた。しかし他の冒険者が黙っているはずもなく――。


「おい新入り!何ソフィちゃんに色目使ってんだ!ちょっとこっち来い!」

「うるせえ!あんたに関係ねえだろ!!」

「んだとてんめえ!こっち来い!ここのルールを教えてやる!」

「上等だぁ!!」

「あらあら」

「ぶわっはっは!」


 腕に自信を持つ者だからこそなのか頻繁に発生する喧嘩を困った顔で眺めるソフィと、机をバンバン叩いて爆笑するマスターがこのギルドの日常だった。





 カランコロン




「ただいま~」

「お~っすってどうしたどうした?喧嘩か?俺も混ぜろ」


 どったんばったん。外まで聞こえる騒動の中、ウエスタン風の小さな両開きの扉を開けギルドに帰ってきたのはルベルとカイトだった。カイトはそのまま入って右手の酒場にて行われる男たちの殴り合いを見て腕をまくり歩いて行き、ルベルは我関せずで左手にある受付カウンターに歩いて行く。


「あら、ルベルとカイト。お帰りなさい」

「ただいま~」

「ソフィーさぁーん!たっだいま~~!おらお前ら!喧嘩なら俺も混ぜろ!!」

「なっ!!?カイトさん!!!?おめえらカイトさんが来たぞ!!囲め!!」

『おう!』

「しゃあ来い!!」

「ふふっ、二人とも元気そうね。あら? その女の子はどうしたの?」


 ベンチタイプの長椅子に背負っていた女の子を下ろし一息ついたルベルの前にソフィが木製のカップを置いた。中にはマンムと呼ばれる果実が絞られたジュースが注がれている。ルベルの好物だ。そしてソフィは静かに眠っている少女をのぞき込んみルベルに問いかけた。


「ん~遺跡近くで倒れてたんだ。因みに捜索届ある?」

「どうだったかしら。人探しの依頼はあったと思うけど・・・そのくらいの女の子は無かったかな?」


 頬に手を添え記憶を探すソフィ。ここギルドで従業員の受付嬢もする彼女であれば人物捜索の依頼も覚えているのではないかと、期待を込めたルベルなのだが空振りに終わってしまう。


「う~ん」

「その子どうするの?」


 対面の椅子に座るソフィに対してルベルは悩まし気に眠る少女を見つめた。


「拾ったからには親元か、他にどうにかするつもり、です」

「ふふっ。どうしたの?急に敬語になっちゃって」

「いや、だってさ~」

「おうルベル!今回の遺跡はどうだったんだ?当たりか!!」

「あっ、マスター」


 ソフィに見つめられ居心地悪そうにしていたルベルだったが、のっしのっしとその巨体を揺らして歩いてきたアルバスの声に露骨な反応をした。そんなルベルの様子など気にもせずルベルの座る席のテーブルに腰を下ろしたアルバスはワクワクした顔をルベルへと寄せた


「近い。あ~今回は当たりみたいだよ。ほらこれがカイトの探している『七つの神秘(セブンス・ミストリオ)』の手がかり」


 ルベルが眼前に迫ってきた強面爺さんの顔を押し戻し背負っていたバックパックから取り出したのは、手のひらに収まるくらいの小さな玉だった。


「これが『七つの神秘(セブンス・ミストリオ)』に反応するっていう宝玉なの?」


 ルベルの持つ見た目ただのガラス玉をまじまじと見つめるソフィとアルバス。アルバスの巨体で上手く見えなかったのかソフィは少女を挟んで隣の席に移動していた。喧嘩に巻き込まれないように避難している他の従業員もテーブル周りに集まり興味深そうに見ていた。


「少し違うんだ~。この宝玉の名前は『神秘への光(ミストリオ・ルーサル)』。古代ロロキシア文明が残した神秘に反応する宝玉なんだ」

「どう違うの?」

「これは七つの神秘(セブンス・ミストリオ)だけじゃなくて他の神秘にも反応するんだ。だからこれが指し示す場所に必ずしも七つの神秘(セブンス・ミストリオ)がある訳じゃないんだ~」

「へえ、それでも凄いじゃな――「おいこのもやし野郎」」


 ガッとソフィの言葉を遮ってルベルの頭に手を置いたのは酷く酔っぱらている中年の冒険者だった。


「さっきから黙って見てりゃあヒック、何馴れ馴れしくソフィちゃんに話してんだ?ヒック」

「...はぁ、おじさん誰? あまり見ない顔だけど。それに俺はマスターとも話してたよ。水呑んだら?」


 ため息交じりに置かれた手をそのままに振り向いたルベル。面倒くさいという態度を隠しもしない。そのルベルの態度にこめかみの血管を浮かび上がらせた男は、持っている酒瓶を振り揚げた。


「ああ?何だその目は??あ゛あ゛!? どうやら年上への礼儀がなってないようだなぁぁ?生意気なんだよ―はぁっぅ!!?」


 そのままの勢いでルベルに酒瓶を叩きつけようとしたのだろう男は、見えない力によって酒場まで吹き飛ばされた。


「ぐはっ、痛ってえな! あのガキ!何しやがった!!?」

「いらっしゃぁぁ~~い」

「ああ゛ッ!!?」


 そこそこの距離を飛び、椅子やテーブルを巻き込み倒れた男を迎えたのは先ほどまで騒いでいたカイト含めた冒険者たちだった。


「このギルドの掟その2『ギルド内の喧嘩は酒場フロアで行うこと。受付フロアに持ち込むべからず』だ、おっさん」

「知るかそんなこと!!どけ!あの嘗めたクソガキぶっ殺してやる!」

「待て待て。とっても重要なことだから。今さっきおっさんが破った掟な?俺らにも影響があるんだよ。住民が依頼するためにギルドに入らないといけないだろ?だが俺たちが騒いでたら入りたくても入りにくい。だから分けてんのよ。騒いでいい場所と駄目な場所を。でだ。あんたはそれを破った。掟を破ったら罰があるもんだ」

「破ったらな、なんだってだよ...」


 周りの冒険者含めたカイトの真剣な様子に酔いが醒めたのか理性を取り戻した男。


「ギルドの掟その2を、その2を破ったらなー―ー・・・一週間酒場の料金が倍額になるだけじゃなく、今日から5回分依頼の報酬が2割引きされんだよ!!!ふざけんな!!!」

「どうしてくれんだ!!この野郎!!!」

「今日の分の報酬がパーじゃねえか!!」

「貯金なんてねえよ!!」

「なっ!?や、やめっ!ギャア~~~」


 その場にいた冒険者全員の恨みを買った男はボロボロになって外に放り出されたのだった。




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