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推し流す激流 アルドス


「アルドス様、レミィです。リセル様の話をお伝えに参りました」

「おう、入れ」


次の部屋は隣、水の魔法使い、三席アルドス。屋敷に来るたびにスピード勝負に明け暮れ、その度に正面玄関を破壊する三人の一人、一番体格が大きく粗暴な、脳みそまで魔法力でできた男。これはレミィの印象ではなく、他二人の談である。レミィは何度かその襲撃染みた登場を見ているが、他の魔法使いたちが毎回遅刻するのは彼らの争いに巻き込まれないためではないのかと疑っている。


ともかくアルドスの部屋である。彼の部屋は改造がなされており、ドアを開いた瞬間目の前に水の壁が現れる。彼は部屋を常に水で満たし、その中で濡れるでもなく漂っている。まだ駆け出しだったころ、水の魔法が上手く使えず、大量の水の中で暮らす生活を始めたところ開花に成功、その代わり、眠るときや休む時は身体が水に浮いていないと落ち着かないという妙な体質の持ち主である。


「あの……これは……」

「ん、そのまま入れ。水が勝手に避ける」


力なく漂いながら適当に言っているようにしか見えないアルドスの言葉だが、彼らがレミィに対し嘘をつく必要が無い。言葉の通り入ると、確かにレミィの周囲数センチを水が避けていく。空気の膜が彼女の身体を覆うように守ってくれているが、これもアルドスの魔法による操作である。


「メモを使っても?」

「ああ。早速聞かせてくれ」


メモを取り出したり手で周りに触れようとしてみても、身体の動きに合わせて水が完璧な動きでレミィを一滴も濡らさない。アルドスは溺れたら人間は死ぬだろう重そうな服を見ているし、そもそも水を通しているのに声がはっきりと聞こえ過ぎているが、とりあえずそれは気にしないことにして。一通りの説明を終え、フィリーネと同じように意見を求める。


「まあ、そうだな。水の魔法は優先して覚えてもいいかもな。これだけで助かる命もあるし、大地の魔法で植物を育てても水が無きゃな。それに、水の魔法が使えれば毒にも強くなるし、空気が無くても生きていられる」

「そうなのですか?」

「ん?珍しいな、お飾りが俺達に魔法のことを聞いてくるなんて」

「フィリーネ様に、伝える上で少しくらい知っておけと言われまして」

「ふーん……まあ、必要だぁな。教える練習みたいなもんか。発見したのは師匠だが、どうやら生物というのは水のマナを吸わないと死ぬらしい。息をしてるだろ?あれで吸ってるんだと」


髭の生えた、いつも少し軽薄にニヤついているようなアルドスが、真面目な顔で水を操り始めた。水の中で水を操っているのにも関わらず、その流れがはっきりと見える。


「火や雷の魔法ってのはマナをめちゃくちゃに使うから使わないんだが、マナの他にオドというのがある」

「オド」

「そうだ。まあ、簡単に言えばマナが身体の中に染みついたようなものでな。日常的に魔法を使ってるとその量も多くなる。それを使っても魔法は発動できるんだな、実は」

「はあ……」

「もちろん普通の人間にもある。そもそも液体ってのは水のマナが水の形をとっているだけだからな。お前さんがフィリーネにビビらされて下着を濡らしたそれも、お前さんが食い物や飲み物で取り込んだマナだ」

「っ~~~~~!!!????」


飛びずさってドレスのスカートを押さえるレミィ。元々レミィが感情豊かというのもあるが、ペンダントをよくもまあそう貫通するもんだ、とアルドスは笑った。いくら顔が良かろうが許されないことがある。レミィは彼を睨み、少し気にして足を擦り合わせた。


「なんで知ってるのかって、そりゃ心を読んだからだろ。だからマナの説明をしてないんだ。わざわざ聞くのも面倒だし。怒ったか?」

「……当たり前です……!何を、お、乙女をなんだと……魔法使いは畜生の集まりですか!」

「下着を濡らす乙女ねえ……おっと、フィリーネに言いつけるのは勘弁な。ほら、綺麗にしてやったから」

「ぅぁ~~~~~~っ!!!???」

「おっと、これもダメか?面倒だな。勝手に続けるぞ」


心を読まれることはまあいい。読まれて困ることは考えていない。しかし、自分でも忘れようとした秘密を掘り起こされ、勝手に洗われ。

確かに、さっきレミィが少しだけ、ほんの少しだけ汚した下着は新品同様に戻っていた。それが時を巻き戻す魔法なのか水を操る魔法なのかはレミィには解らない。


しかし、洗われたということはこの男、レミィの心を読み取り、どこがどの程度汚れてしまったのか把握したということである。魔法使いであるアルドスがレミィを性的対象に見るはずはないのだが、それでも羞恥心が顔に出る。


「そういう風に、人間は水のマナを身体に循環させないと、いくら栄養のある物を食っても死ぬ。だが、体内にある水のオドをその代わりに使うことで生きていられる。水を飲まなくても息をしなくても平気なんだ。マナで魔法を使うとオドが蓄積されるから、理論上それを無限に繰り返すこともできる。面倒だからやらないが」

「……ご説明ありがとうございます……!他に何かありますか……!」

「本当に感情を抑制してるのか?そんな睨むな」

「他には何かありますか!」

「お、おう……まあ、無いよ。まあ、大きめの、水を大量に溜められるスペースだけ頼むって伝えてくれ。あと、何か文句があるならさっき綺麗にしたの、戻しても良いぜ」

「は?戻すって……何を」

「こうだろ?」


ひゅっ、と、とても軽い音と共に、レミィの右耳がとても涼やかに耳鳴りを始めた。背筋を駆け上がる鳥肌を感じながらゆっくりと振り向く。閉じたドアに、アルドスが作って投げたのだろう、一本のナイフが刺さっていた。


「………ぁ」

「……あ?」


少しでもズレれば死んでいた。自覚する前か後か、腰を抜かしたレミィの下着が元に戻ったのか、流石にアルドスもそれを読み取るほどデリカシーに欠けていなかったようである。


フィリーネに追いかけまわされるまであと三分。そうなればレミィの頭を覗く余裕も無くなるだろう。一度お手洗いに行ったため、次の部屋に行くのが遅れたが些末な問題である。

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