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兵士招集 前編


「リセルは何を思ってそんなことを……?」

「知ったことか……くそ……面倒なことを考えおってからに……」


頭を抱え私室に戻ったアムスに、宰相は全てを知らされた。記録では長らく動きを見せていなかった大魔導士リセルが、今になって今世を揺るがすような提案……ではなく報告をしてきたことだ。

彼らは自分を呪った。リセルが妙なことを思い出したタイミングで、何故自分達が国王であり宰相であるのか。


「去年のオーリックとの戦争を機に引退するべきだったか……?いや、ルイスにそれを押し付けるのも酷だ……くそ……何故ローセインでやるんだ……本当に……」

「いかがいたしますか、陛下」

「いかがも何も、やるしかない。魔法使いをローセインに囲い込み、どこよりも早く魔法技術を我が物にするしかない」


問題はその手段だ、とアムスは最近薄くなってきた頭を掻きむしった。


「戦闘に関しては魔法技術がそう優位ではないと言っていたが……それも馬鹿げていることはともかく、それは良いのだ。我々が囲い込めばそれでいい。だが、魔法を使えない人間がどうやって生きていくのか。法を改めなければならん。このままでは魔法使いが尊き存在になってしまう。せめて対等にしなければ……魔法が常識になるだと……知ったことか……」

「国の戦力を増やすとなるとまた金がかかりますな」

「……兵を一部解雇するか」

「反乱が起こっても良いならご自由に」


善政善政とローセインでは言われているがその実、民のことなど知ったことではない。彼らとて人類に同族意識があり、子孫に繁栄してほしいという一般的な思考回路が備わっているのだ。

現存国家で最も魔導士リセルと関わってきたローセインに対し、どの大陸国家も王城までは攻め込んでこないのは、果たして。



―――

―――

―――


アムスの苦悩など知ったことではない傍若無人の化身、リセルは、屋敷に戻り全席を集めていた。ミーシャも人間の姿、ごく一般的で何の特徴も見いだせない女性の姿に戻らせつつ、立たせたレミィを促した。


「では、報告を。順序に関わる話のみで良い」

「畏まりました。報告させていただきます」


重々しい雰囲気と、全員集めるなら何故私に聞かせたんだという疑問の中、レミィはメモを開く。もちろんそんな疑問は口にしない。次の仕事に関わるし、極端な話脳内で会話し心を読むことも出来る、それどころか未来に飛ぶことすら可能な彼らにそんな疑問は無意味であるから。


「ええと……それぞれの魔法についてですが、炎の魔法は優先して教える、ただし理論と、移動に関する魔法よりは後とする、だそうです。概念燃焼については教えないとのことです」

「追加するわ。火、雷、水の魔法は攻撃として優秀な魔法群。適性もあるでしょうし、同時に教えるべきだと思う」

「……とのことです」


酒が抜け真面目に話す心持ちのフィリーネ。ごめんね、とレミィにウインクを飛ばし、さらに続ける。


「コツさえあればやり易い魔法でもあると思うし、早めでもいいと思うの、師匠」

「うむ……では続けてくれ今代の」

「はい。水の魔法ですが、優先して教えるべきとのことです。時間の魔法は……言い方からして、初歩の魔法なら、武器戦闘と共に教える、ということでよろしかったでしょうか、フィルマン様」

「ん、いーよ」


七席でフィルマンが手を振った。軽い調子で隣席のマリーズの髪を結い遊んでいる。


「フィルマン。ダーチャでも大人しくしているんだぞ」

「レオ?私のことなんだと思ってます?」

「そっか……ごめんね、止めるよ」

「私を理由に自分を曲げないでください!悲しくなるでしょう!お師匠様が真面目な話をしてる時はいつも黙ってるでしょう!」

「ふ……真面目な話は出来ないからな、ダーチャは」

「おーいアリューザァ?なんか言いましたか?あ?」

「何も?クソガキに用は無いからな」

「……続けてください、今代」


アルドスが眼鏡のブリッジを持ち上げながら促した。顔を突き合わせ睨み合うアリューザとダーチャ。我関せずのレオ。これで何の会議が出来るんだと思いつつも、レミィは続ける。


「光の魔法は序盤にさっとやり、しかし卒業に必要な資格とするべき。闇の魔法は時間を取るが、これは最後に。移動の魔法は最優先にとのことです」

「うむ。移動の魔法のある程度は卒業に必要とするべきだろう」

「ではそういうことで纏めます……ああ、聞いていませんでしたが、ミーシャ。変化の魔法は教えなくても構いませんね?」


いいよ、と無言で手を振る女性、ミーシャ。変化の魔法がどんなものなのかレミィには解らないけれど、それでも、美男美女が多い超越した魔法使いの中でもそうでもない容姿をしているだけで変わり者というのは解る。そんな魔法があるのなら、もう少し私の鼻を高くしてくれないか、とレミィは彼女を羨んだ。


「ではそういうことで考えます、師匠」

「うむ……五年しかないのだ。選べよエーリク」

「畏まりました。それで、ここからは?」

「うむ。それでは――――――」



―――

―――

―――



「……解った」

「えらくあっさりと認めますね。なにかありました?」

「好都合なんだ……残念なことにね」


当日の会議は終わり、翌々日。諸用を終わらせたダーチャは王城に赴き、無断で私室に侵入すると、アムスに対し会議の諸々を伝えた。距離が近いことも含め、寝る直前に部屋に入られつつも、アムスは何も言わず対応していく。

兵士を国から調達したい、というのは、国からしても願ったり叶ったりである。ただし、質の悪い兵士は、であるが。だが、ここにいるのはダーチャ。アリューザと並び、リセルを侮辱しなければ問題ない少女である。


「では、兵士をこちらに寄越してくれるんですか?」

「ああ……まあ、協力しよう。しかし、給金は安くしてはもらえないか」

「うーん……こちらとしてはいくら払おうと知ったことではないのですが……質の良い兵士が来た方が使えますし」

「……こちらの軍が立ち行かなくなる」

「んー……」


アムスのベッドから離れ壁に寄りかかり、ダーチャは首をひねる。兵士調達はリセルから任された……というよりアリューザが続投するところを奪ってきたいるのだが、特にリセルは人間が使う通貨に糸目をつけようとは思っていない。金貨など無限に生み出せるのだから、リセルが直接赴いたなら適当と大金を押し付け有無も言わせず兵士の引き抜きを行っただろう。

が、ダーチャはそうではない。考え、少なくともリセルにマイナスが無いように。ローセインが無くなれば困るというのはそこそこ理解している。


「解りました。じゃあ、少しこちらが高いようにします」

「……何が解ったのかね」

「その代わり、移るにあたっては試験を課します。これでいかがですか?」

「……それでは、こちらが安いということに変わりないだろう。それが困るというのだ」


ダーチャが交渉人であるうちに何とかしなくては。アムスは少し強く彼女を睨む。


「うーん……こっちが安いと、変な人ばかり来ませんか?」

「だが、高いとこちらの士気が下がる」

「……平行線です?」

「いや……くっ……待て、待ってくれ……」


ダーチャといえども魔法使いである。会話が面倒になれば止めてしまうだろう。少し興味を無くした彼女を引き留め、アムスは考える。


ローセインにはローセインで、兵士の数や練度は必要不可欠である。ただでさえ、周辺国家が偵察や挑発程度の兵しか送っていないせいで、雑兵や一部指揮官クラスが助長し始めているのだ。この上で、さらに高給でかつ戦闘訓練という安全そうな仕事。士気が落ちるのは目に見えている。

それに、その条件で真っ先に移籍を決めるのは、国に対しての忠誠心で動いていない兵士たち。貴族の息がかかり権力争いに戦果を持ち込む過激派ばかりが残ってもらっては困るのである。


「……兼業では駄目か。戦争が無ければ半数の兵士は不要だ」

「いえいえ。何故そちらが戦争をするからと言って兵士を返さなければならないんです?こちらは関与しません」

「では……せめて、こちらにあるような制度に関してはそちらでは採用しないでくれ。こちらにいる方が金の他の利があるようにしてくれないか」


これでもまだ甘い。命より大切なものを持つ兵士がいるものか。安全と言うだけで移る兵士はいる。そこに関しては止めようがないのだ。あらゆる待遇で国の方が勝っていて、学校の優位性を安全というだけにする。


「うーん……まあ……うーん……」

「試験さえちゃんと行えばそれでいいだろう。最低限の質はそちらで判断すればいい」

「んー……それくらいなら、まあ……何も言わなければ、お師匠様は給金しか考えない……いや、死んだときに家族を弔うくらいはするかな……でもなあ……お師匠様……うーん……」

「……どうだね」

「ちょっと待ってください。一応たぶん、男手で家族が暮らしているくらいの人間の仕組みは理解しているはず……」


彼女の口がリセルをどんどん非情な人物として描いていく。それを聞いて、少しだけアムスに安心感が生まれる。人間に興味が無い方がアムスには好都合である。


「……まあ、まあ……良いかな……それくらいなら、はい。良いですよ。じゃあ、こちらでは給金しか出しません。え、住まわせる場所もダメって意味ですか?」

「出来れば」

「ごめんなさい、それは流石にお師匠様も解っているし、作られるからダメ。受け入れられないなら、さっきまでの約束も無かったことに……」

「解った……それでいい……」


そう?と笑顔で身体を起こすダーチャ。もちろんのことそれで良いわけがない、が。


「ではそれだけは守ってくれ……」

「はいはい。安心してください。約束は守りますよ」


だがそれでも、ほんの少しでも譲歩を引き出され芭それでいい。少なくとも、何も言わなければ、衣食住を完全にしたうえで武器まで与え、無尽蔵の金に物を言わせ給金をばら撒き国が一つ潰れた可能性があった。それを止められただけ、寝ぼけたアムスでもよくやった方とは言えるだろう。

まあ、朝か昼に来てくれればと思わないでもなかったが……まあいい。まだ幸運と言える。リセル達は生活サイクルだけは何故か日の出に起き月を見て眠るという人間に近いものを持っている。この時間に来たからこそ、ダーチャが報告に来たのだ。そう信じて、それ以上は考えないようにして、アムスは迷わず眠りについた。

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