4章 その後のこと
夢口はその後、体調不良を理由に一ヶ月近く休んだ。
詩季が両親から聞いた話だと、夢口は九子の実家に行ってお墓まいりをしているようだ。
陽芽はミスコンの一週間後に退院し、松葉杖をついて学校に来るようになった。
玲衣はいつも陽芽に付き添って彼女を支えた。
その姿は周りの生徒にベストカップリング賞はこの二人しかなかったと思えるものだった。
陽芽が登校した日の放課後、ホームルームが終わった後に玲衣は陽芽に声をかけた。
「陽芽、このあとちょっといいかな。」
「うん、いいよ。足がこれだから、ゆっくりね。」陽芽は三人でどこか寄って帰るのかなと思って軽く了解する。
「詩季は、ちょっと外してもらえる?」玲衣が言った。
「がんばって。」詩季はそういうと怪しい笑みを浮かべ先に帰途についた。二人が仲良くなって詩季も嬉しかった。
「えっ。」陽芽は先週病室で伝えられたことを思い出し、頰が火照る。
玲衣は陽芽と二人で屋上に続く階段に到着すると、玲衣は陽芽に近寄り、陽芽をお姫様抱っこした。
「これなら楽でしょ。」玲衣は抱えている陽芽に向かっていう。
「うん。」陽芽は顔を赤くしながら言った。
二人は屋上に向かった。太陽はまだ山の少し上で照っていて、屋上には日が差していた。
屋上は練習していたときと同じようにやさしく二人を向かい入れる。
玲衣は屋上につくと陽芽を屋上の縁に座らせる。
「陽芽はあの舞台の時にどう思った?」玲衣は陽芽に向かい聞いた。
「私は、玲衣が駆けつけてくれて本当に嬉しかった。やっぱり玲衣は私の王子様だって思った。」
陽芽はうつむきがちで照れながら話す。
「玲衣は、どうして駆けつけてくれたの?」
「舞台で陽芽が倒れるのを見て、心がえぐられそうになって、気づいたら側に寄ってた。
陽芽の顔に笑みが浮かんだときは本当にほっとしたんだ。そのあと陽芽を見ながら、
自分の気持ちに気づいたんだ。この子とずっと一緒にいたい。幸せになりたいって。」
玲衣は静かに思いを告げると陽芽に向き合った。
「陽芽、大好きだよ。」
そういうと、玲衣は膝をつき、陽芽の前に手を差し出す。
「私と付き合ってください。」
陽芽は少し涙目になりながら、その手を取る。
「はい。私も玲衣が大好きです。」
玲衣は立ち上がり、陽芽を抱きしめた。陽芽も強く玲衣を抱きしめ返す。
そして、お互いに向き合い、二人はキスをした。
二人ともファーストキッスだったので拙いものであったが、二人とも心がかつてないほど充足していくのを感じた。
二人は屋上でお互いの思いを伝え合い、そして結ばれた。
夕焼けが差し、暗くなる時まで時間であったが、永遠のような時を二人は過ごした。
詩季は二人を残し帰っていた。
途中、薄暗くなった空を見上げながら、自分の王子様かお姫様はいつあらわれるんだろうとほんやり思っていた。
そして何週間かが過ぎた。
玲衣と陽芽の仲の良さは日に日に増していて、学校内で公認のカップルだった。
お互いの家族にも紹介するくらいに二人は堂々と付き合っていた。互いの家族は批判こそはしなかったが、賛同もしなかったようだ。
両親たちは今だけ、大人になると、と思っているのだろうと玲衣も陽芽も思っていた。
それでもいつか二人でいることを認めてもらう、と二人は思っていた。
詩季はそんな二人をやさしく見守りながら、恋に焦がれていた。夢口先生はどうしているんだろうと思いながら。
そして、夢口が教室に戻ってくることになった。
夢口が教室に現れると生徒たちは復帰に喜びの声をあげる。
夢口自身はというといつも通りに見えたが、ミスコンのときの不安定さはなくなっていた。憑き物がとれたようにも見え、何より楽しそうだった。
ミスコンでは、玲衣と陽芽には一生を共にする伴侶が、詩季には人を愛したいという気持ちが、夢口には過去としばらく離れ、落ち着きが、生まれれた。
夢口は、自己都合で休んでしまったことを申し訳ないと謝った後に彼女は言った。
「ところで、さっそくなんですが今日は転校生を紹介します。」
夢口は得たものは心の安静だけではなかった。
# おまけ話
ある日、夢口は三人を呼び止めた。
「陽芽さん、ミスコンのことなんだけど、あの申し込み表を返すわね。
「えっ」陽芽は驚いた。夢口はあの申し込み表を残していたのだった。
夢口は陽芽の返信を聞く前に、なぜか玲衣その紙を渡した。
そこには玲衣のプロフィールが正しく趣味も正しく書かれていた。それは手書きだった。
文字は丸まっていて、一目で陽芽と判別がつくくらいだった。
そして玲衣はそのアピール文を声に出して読んだ。
「”私は本当はミスコンには参加したくないんです。でもある女性が参加するということで、その人とカップリングするために参加することにしました。”……。」
「あっあっやめて。」陽芽は玲衣が読むことを止めようとする。しかし、玲衣は読み続ける。
「”彼女が他の人に取られるのはいやなので、なので、私に惚れないで欲しい。”……。何これ。。」
「そっそれはぁ~。。」
陽芽が顔を赤らめる。陽芽は玲衣にお姫様のように扱ってほしかったのである。
そして、図らずもそれは叶っていたのである。
「陽芽さん、本当にごめんなさい。」夢口は陽芽に謝った。陽芽はキョトンとした。
「あれは陽芽さんからしたら、ラブレターだったのよね。
あそこまで直接的に伝える文章を玲衣さんが見たら、陽芽さんの気持ちはもっと前に気づいていたのに。」
「違いますよ!そんなにわかりやすい内容だったなんて」陽芽は答える。
夢口と詩季は笑った。玲衣は笑いながら陽芽を抱きしめた。




