1章 始まり
安藤玲衣、神崎詩季、塔谷陽芽は私立の名門お嬢様学校の生徒である。
三人とも中等部から同じクラスで中学一年生から仲良しだったが、容姿も性格も異なっていた。
玲衣は長身で元気があり、女子校の王子様的存在だった。
本人もそうみなされることは嫌ではないようで、進んでクールに振舞っている節があった。
詩季は落ち着きがあって、おとなしい大和撫子キャラだった。
普段から騒ぎ立てもせず、玲衣、陽芽が騒いでいるときも、聞き役に回っていた。
趣味は読書で、静かに本を読むことが好きだった。
陽芽は授業中は静かにしていても、休み時間になると騒ぐ元気の良い女の子だった。
大和撫子というより、大切に育てられたおてんばお姫様だった。
格式の高い家柄で、小さい頃から様々な習い事をしていて教養があり、華があった。
そんなバラバラな三人だったので、中等部で知り合ったときは別のグループにいた。
しかし、それぞれのグループは三人にとって居心地が悪く退屈な日々を過ごしていた。変化点は体育祭の時で、三人は同じグループで運動体操することになる。
運動体操の中で、三人は色々あったが仲良しになった。
玲衣は詩季の落ち着いた雰囲気が好きだったし、陽芽の華やかなところが好きだった。
詩季は玲衣の爽やかで人を惹きつけるところが好きだったし、陽芽の元気なところが好きだった。
陽芽は玲衣の話しやすいところとかっこいいところが好きだったし、詩季の人の気持ちをわかってくれるところが好きだった。
そして中等部から高等部に入っても三人は仲良しで、今年も文化祭の季節となった。
構内のイチョウの木は色が変わり始め、風が冷たくなってきている。
三人はその日の授業が終わり、ホームルームの後に教室でだべっていた。
「文化祭の話がホームルームであったけど、文化祭は何するのかな?」陽芽が言った。
「高等部だとやっぱ喫茶店とかお化け屋敷とか?」玲衣が答える。
「うーんどうせならもっと他の人がしないような楽しいことやりたいな。」
「例えば?」
「例えばぁ……。例えばぁ……。舞台とか」
陽芽はその場でバレーのように片足を少し上げ腕を広げた。
「あー、いいんじゃない。陽芽は向いてると思うよ。」玲衣は素っ気なく返す。
「玲衣も出てもらうからね。玲衣身長あるし、絶対に舞台出たら人気出るよ。」
「私はいいよ。」
「そんなこといわないで。詩季ももちろん参加ね。詩季も密かにファン多いし、出たら喜んでもらえるよ。」
「私恥ずかしいから、あんまり。」
詩季は小さく首を振りながら答えた。詩季は人の前に出るのは嫌いなところがあった。
その後も陽芽は具体的な舞台の案を話し続ける。玲衣と詩季はその話を聴き、時々意見した。
気づくと教室には三人とあと何人かしかいなくなり、帰り仕度が済んだので、教室を出た。
下駄箱に向かう際の生徒会室前の掲示板にミスコンのチラシが貼り付けてあった。
ミスコンだけでなく、ミスターコン、カップリングコンテストも兼ねると記載がされていた。
「あっ、」陽芽が目ざとくそのチラシに気づいた。
「見てみて。ミスコンだって。」
「なんか高等部で毎年やってるよね。」玲衣は答える。
「ふーん。」
陽芽は何か考え事をしはじめた。玲衣と詩季は嫌な予感がした。
「私たち、出てみない?」
玲衣と詩季の予感通りの陽芽は言った。
「玲衣と陽芽が出たら優勝取れそう。」
詩季は自身は参加したくないので、玲衣と陽芽ならと進めた。
「えっ、でも私はこういうのに参加するのは嫌だよ」
玲衣は詩季に名前を挙られ、不服そうに答えた。
「おもしろそう。出ましょうよ。」
陽芽は乗り気のようで、玲衣の腕に手を絡ませ、しきりに参加しようと言ってくる。
「うーん」
玲衣はどうやって断るか悩んだ。
「安藤さん」玲衣は自分を呼ぶ声に振り向くとそこには三人の担任である夢口先生がいた。
夢口はメガネをかけ、厳格そうな雰囲気を持つ女教師だった。
数学の授業を受け持つていて、厳しいテストを出しては赤点を続出させることで有名だった。
本来であれば赤点生徒の量産は問題であったが、全国模試での数学偏差値は
夢口が担当になってから如実に上がるようになり、おとがめになるることはなかった。
しかし、鬼の目にも、というべきか夢口は玲衣、詩季にだけはやさしい、甘いと陽芽は思っていた。
玲衣、詩季、陽芽は基本的に優秀な生徒であったが、三人とも数学は苦手だった。
そのため、数学が赤点ギリギリで時たま赤点になることがあった。
赤点の生徒は夢口から疎まれるのが常であったが、玲衣と詩季の二人は夢口からの覚えが良く、陽芽からすると優しくしく扱われているように見えていた。
「先生って面食いじゃないのか。」と陽芽は数学で赤点を取り、公開処刑される度に玲衣と詩季にいつも言った。
陽芽も見た目に華があるが嫌われる理由は生意気そうで好みじゃないんじゃないと陽芽の推測していた。
そんな夢口が玲衣に声をかけてきた。玲衣は夢口に振り向いた。
「安藤さん、ミスコンに参加するの?」夢口は気さくに玲衣に話しかける。
「いえ、ちょっと見てただけです。」
「えー、参加しようよ」陽芽は玲衣に腕を絡ませたままいった。
夢口は陽芽に一瞥する。その目は少し苛立っているよう見えた。
「ふーん。迷ってるんだ。玲衣さんは女子校の中だとあんまりいないタイプだから、いいとこ行くと思うよ。」
っと夢口は言った。夢口は生徒会の担当しているので、参加者を募っているのかもしれないと玲衣は思った。
「先生もそういえば、この学校の卒業生だったんですよね。先生のときにもミスコンってあったんですか?」
詩季が夢口に尋ねた。夢口の顔が一瞬曇った、ように三人は見えた。
「あったよ。あの時はまだ始まったばかりだったけど、盛り上がってね。地元の新聞にも取り上げられたりしてたよ。」
「へぇー。もしかして先生も出てたりしました?」
詩季は無邪気に尋ねた。玲衣も陽芽も気になり、夢口の回答を待つ。
夢口は答えずらそうにしていたが、意を決して答えた。
「うん出たことあるよ。友達と二人一緒に」
「先生って性格きついけど顔つきいい気がするし、いいところまで行ったと思うんだよね。」
陽芽は夢口と離れてた後に言った。詩季, 陽芽はミスコンでは何位くらいまで言ったかを夢口に聞いたが、
はぐらかされて、順位までは教えてもらえなかった。
「うーん気になる」陽芽はよっぽどきになるようだ。
「でも、言いたくなさそうだったから、あんまりだったんじゃないかな」
玲衣は冷静に言った。
「そうかもしれないけど……。」
陽芽はなお気にしているようだ。下駄箱に着くと、下駄箱にもミスコンのチラシが貼り付けられていた。
陽芽はじっとそのチラシを見ていたが、何か閃いたようでキラリと目を光らせた。
「そうか。ミスコンって一応生徒会の出し物だったよね。それなら過去のグランプリの結果とか残ってるんじゃないかな。探しに行こうよ。」
玲衣、陽芽はなんて答えようと迷ったが、陽芽はワクワクしているようで、すぐさま探しに行きたいようだ。
陽芽はいつものように玲衣の手を取ってすぐに向かおうとする。
「しょうがないなぁ」
玲衣は元来の強く押しに出るタイプに弱く、引っ張られていいく。
詩季も気にしているようで後ろから一緒についてくる。
三人は来た道を戻って生徒会室に向かった。
「ミスコンの歴史ねー、あるよ。」
生徒会に着くと運良く同じクラスの生徒会メンバーがいた。
三人はミスコンの歴史について聞いたところ、彼女は机の上のファイルを示した。
「実はさっき、ちょうど見てたんだ。もしかしてこの学校出身の先生とか出場してたりしてないかなって。」
陽芽はファイルを受け取ると一番後ろのページから開いた。
ミスコン自体は二十年ほど前から開催されているようで、そのファイルは辞書くらいに分厚かった。
そこには当時のチラシや出場者の写真がとじられてあった。
写真を見ると制服は今の制服と変わりないが、風貌は今の子たちに比べるとおぼこく見える面があった。
しかし、ミスコンに出るだけあって、基本的に整っている顔立ちをしている。
三人は興味を覚えながら、後ろから順に読み続けた。
十数年前の欄にきた時に、「待って。」とそれまで静かにしていた詩季が言った。
詩季は一枚の写真に目がとられていた。そこには神崎九子と名前が書いてあった。
「詩季の知り合いなの?」玲衣が詩季に尋ねた。
「うん、親戚のお姉ちゃんだった人。ミスコンに出たって聞いてたけど写真残ってたんだ。」
「へーっ、そう言われて見ると詩季と面影が似ていて、やさしそう。」玲衣は写真に写っている九子と見比べながら言った。
「そうかな。でも、すごくやさしくて綺麗な人だったんだ。」
詩季は少し照れながら、つぶやくように言った。
「あっ、これって夢口先生じゃない!?」陽芽が九子と隣に写っている一人の女性とを指差した。
そこには髪が短く、色黒で自信に満ち荒れている女性が写っていたが、今の夢口先生とは違っているように見えた。
しかし、名前欄を見ると確かに夢口日色と名前が書いてある。
「しかも、これって。」陽芽はその年のコンテストの受賞者欄を指差した。
三人は驚いた。ミスターコン優勝者は夢口先生だった。
「いやびっくりだよね。」陽芽が帰り道に言った。
「まさか夢口先生が王子様だったとは。」玲衣がそれに答えていった。
「本当にそうだね。」詩季も賛同する。
「確かに、夢口先生は身長高めだし、顔も整っているけど、あの写真のような爽やかさがまったくなくなってるよね。」
陽芽は厳しく評する。しかし、玲衣も詩季も心の中では同じようなことを思っていた。
今の夢口先生にはあの写真の女生徒のような爽やかさ、活発さがないようだかったからだ。
「年取って変わったのかな」陽芽はなお辛辣に言う。
「多分、落ち着いたんだよ。」玲衣はフォローするように言った。
「もしかしたら、何か変わるような大きなことがあったのかもね。」
詩季はぽつりと言った。詩季は何か思いを巡らしているように見えた。
三人はその後もミスコンのことや出場するかどうかについて話しながら、帰途についた。
「やっぱり私夢口先生嫌い。」陽芽が言う。
夢口担当の数学の授業の後に三人は昨日知ったミスコンの話を聞きにいった。
すると夢口は怪訝そうに優勝したことは認めたが、それ以上は語りたくないようで、
代わりに今日の授業に陽芽がぼんやりしていたことを咎めた。どうも夢口と陽芽は馬が合わないようなのだ。
「まぁあんまり昔のことを話したくないんだよ。」玲衣は慰めるように陽芽に言った。
「そうかもしれないけど、気になるじゃん。」
陽芽はふてくされたようにほっぺを膨らませた。
「でも、先生にミスコンのこと聞けなかったけど、私たちもミスコン出ようよ」陽芽はミスコンに出場したいようだった。
「私はやめとく。」玲衣はあっさりと断る。
「なんでよ。玲衣は夢口先生よりかっこいいから、優勝狙えるよ。」しかし陽芽は諦めない。
「うーん、優勝云々よりも、よく知らない人の前に出て数分で評価されるシステムが気に食わない。」
「いやいや事前の評価も重要なんだよ。」
「まあそうかもだけど評価されるのが嫌。」玲衣は考えを変えないようだった。すると陽芽は次に詩季に狙いを定めた。
「詩季は出るよね?お姉さんも出てたんだよね?」
「九子姉さんが出ていたのは気になるんだけど、、私も参加は遠慮したいかな。」詩季も参加はしたくないようだった。。
「そんな。。」陽芽は悲しそうに言った。
結局、陽芽は三枚分の申し込み書を入手し、一枚を取って、残り二枚を二人に渡そうとした。
しかし、受けとってもらえず、しぶしぶと二人のエントリーは諦めたようだった。
帰りに陽芽は自分の分だけ、生徒会室前の投書箱に入れた
そして数日が経ち、下駄箱前の掲示板にミスコン出場者の欄が貼り付けられていた。
クラスの中でも、その話題が上がっていて、三人も掲示板まで見に行くことにした。
「……。私の名前がある。」玲衣が言った。
「陽芽、私の名前でエントリーしたでしょ。」
「してないよ。私の分はしたけど。」玲衣は顔を背けて答えた。
「私もエントリーになってる……。」詩季は口を押さえて言った。
申し込み書には玲衣, C, 陽芽の名前がそれぞれ登録されていたのである。
「え、なんで……。」と陽芽も驚いた顔をした。
陽芽の分は自身で登録したのは間違いないが、玲衣、詩季は自身では登録していなかった。
「間違いだったって、取り消してもらう」玲衣は思いもしないので、取り消してもらい生徒会室に向かおうとした。
「ちょっと待ってよ。」陽芽は後を追いかけた。三人は生徒会室に向かった。
途中、玲衣、詩季、陽芽は下級生、同級生、はたまだ上級生から黄色い声を上げられた。
どうも三人がミスコンに参加することはすでに広まっているようだった。
生徒会室に着くと三人は自分たちの申し込み用紙を見せて欲しいと言った。
生徒会員は訝しく思いながらも、本人分だけならとそれぞれ見せてくれた。
三人はそれぞれ自分の申し込み書を見た。
「PCで書かれていて、誰が書いたかわからない。」玲衣は自身の申し込み書を見て言った。
「うん、後書いている内容もある程度はあっているけど、正しくないよ。」
詩季も見ながら言った。玲衣、詩季の申し込み書はPCに印字されていて、基本的な項目は正しかったが、
体重、スリーサイズや趣味特技欄が正確ではなかった。アピール文は手短に玲衣、詩季を端的に示す文章になっていて、味気がないが特徴は捉えていた。
陽芽の申し込み書は自身で書いたものだから、正確だし、明らかに陽芽手書きの丸っこい文字だった。アピール文章も陽芽らしさがあった。
「一体誰が、申し込みを……。」三人は揃って言った。
「でも、私は登録していないから、辞退さ」
「待って。」玲衣は辞退を宣言しようとしたときに、詩季が大きな声で制止させた。「玲衣も参加してほしい。私も参加嫌だけど、何でかエントリーに入ってた。多分私たちに出場して欲しいって思っている人がいると思うんだ。」
玲衣も陽芽も詩季の真剣に話す姿に驚いた。詩季が積極的に何か参加を表明することが珍しかったからだ。




