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APST:BM  作者: ロボゲニウム
[02]巨大暗窟の朝が絶える時
9/9

陽光下に集う思惑

次回辺りから戦闘パート入れるかな?

 

 合流したシュテルやノービスの駆る三機のAPST増援部隊は、護衛大隊『白夜』隊長のチャックの指示により、前方と後方に別れ稼動限界が近付くAPSTと交代しながら旧人工太陽の護衛を始めようとしていた。


《こちらノービス・K、最後のAPST増援部隊っす》


「こちら同じく、ロダ・ナインスです。稼動限界が近いAPSTは私たちと交代をお願いします」


《了解。俺と隣の機体のジェネレーターが焼け付く寸前だから交代を頼む》


 ノービスと、ロダという三人目の、増援部隊のAPSTパイロット達。

 彼らのAPSTは後方で護衛をしていた二機のAPSTと交代し、襲撃確率が高い方向である場所に向かう。


《オッケーっす! それじゃっいっちょ頑張るっすか!》


 全く緊張のない声で応答を返すノービス・K。

 APSTパイロットとして若輩者と自覚があり、今回のような地下世界を左右するような依頼を任されて緊張の抜けないロダ・ナインスは、同じ仕事を任された筈のノービスの落ち着きように驚き、思わず彼に向けて個人通信をかけていた。


「ノービス・K、そちらのパイロット歴は如何程でしょうか?」


《んー? あんまり覚えていないっすけど……》


 ノービスは本当に覚えていないのだろう。

 そう信じても良いほどの悩み声をあげるノービス。


《オペレーターさん、俺っていつから……あー………ちょっと情報秘匿の関係で話しちゃダメって怒られたっす》


「そうですか……」


 どうやら相手のオペレーターに確認して貰おうと考えたようであったが、何かしらの制限に引っかかるようで結局教えることは出来ないようだ。


 肩を落とすロダ。

 だが、個人通信は続いていた。


《まあ、俺はNo.4100位の奴っすからね。結構長生き出来てる方だと思うっす》


「っ…………!?」


 ノービスのパイロット番号に言葉を失うロダ。

 二年前にAPSTパイロットとなり、死と隣り合わせの仕事をこなしてきたからこそ、ノービスの強さを理解し、頼もしさを感じた。


 これまでやってきたどの仕事も、ロダにとって一瞬の油断で死を覚悟するような過酷な依頼ばかりであった。


 幾ら『企業戦争』が終結した後の時代であっても、兵器の需要が途絶えることはない。


 基本的に、大企業の手に負えなくなった、あるいは()()()()()()()()()()()()重武装犯罪テロや暴走した無人兵器の鎮圧などを()()()鎮圧することを求められるのがAPSTとそのパイロットだ。


 必然的に、こちらが少数の多対一の状況である事が多い。

 一度戦闘になれば、敵対する全てを潰すまで気を抜けず効率的な動きを常に求められるのだ。


 二年という、APSTパイロットとしては中々良く生存していると評されるロダでさえ、一年目に右半身を機械化させ、今年は大火傷により、無事だった左足も義足にするほどの重症を負っている。


 次に生身の部分の欠損が起きたら治せないとまで警告されている為に、この依頼を最後に引退を決意していたロダのパイロット番号はNo.4723。

 対して、ノービスはNo.4100台と言っていた。


 それが示すことは、ノービスはロダより以前の、六百人以上いたAPSTパイロットが生まれる前からAPSTパイロットであるということ。

 ()()()()()()()APSTパイロットとして生きていると言っているのだ。


 APSTパイロット達の間では、有名な言葉がある。


【一年で死ねば凡人止まり。

 二年生きる奴はセンスがあるから仲間にしておけ。

 三年残れば卑怯者で、逃げる後ろを襲えば倒せる。

 四年も続ければ天才だ、最悪でも二体一で挑んで殺せ。

 ―――五年生き残った奴らは『古参(バケモノ)』だ、そもそも戦うな】


 つまり、十年もAPSTパイロットであるノービスは――『古参(バケモノ)』の中でも選り抜きの実力者。


「まさか『古参』の一人だったとは……場数が違う筈です」


《あっはっは! 運が良かっただけっすよ!》


 謙遜するノービスの通信機越しの声に、底知れない雰囲気を感じるロダ。


「お話ありがとうございました。この依頼、完遂しましょう」


《そっちも頑張ってっす! あっごめんっすオペレーターさんペナルティはやめ――》


 通信機を切り、ふぅ、と息を吸うロダ。


《男に声掛けるなんて……そろそろロダも人恋しくなったの〜?》


「……いいえ。そうじゃないけれど、もっと上手くいってたらなあって」


 自分のオペレーターに茶化されるも、心を揺らさず平然と返すロダ。

 義眼に変えた右目は周囲の偵察のため忙しく動かしているが、生身の肉体として残った左目は、朧々と霞んでいた。


「私も、運が良ければこうならなかったって言うの……?」


《ロダ……》


 操縦レバーから左手を離し、その手を前に翳すロダ。

 彼女が決して失わなかった左手の薬指には、色褪せた指輪が嵌っていた。






《もぉー! 可愛い声の女性だからってー、ふざけた理由で機密事項を話すおバカさんはー、減給処分ですよー!》


「マジごめんっす! 反省しているし二度としないっすから!」


《そう言ってこれで四回目ですからもう無理なのですよー》


「そんなぁー………酷いっす」


 ロダ・ナインスとの個人通信の後、ノービス・Kは禁則事項の抵触をオペレーターに咎められ、ぐったりとしていた。


「許してくれっす……下心だったんすよ……」


《貴方の実力を推測されるような情報をー、不特定多数の人に知られたらー、私が怒られるんですよー? その可能性があるのはめって言われてますよねー?》


「うぐぅ」


 言葉に詰まるノービス。

 確かに、彼の()()()からは不用意に正体を表さないように警告されていた。

 それをちょっとでも忘れてしまったのは、ノービスの過失である。


《この依頼が失敗したらー、貯金全額機体に回しますからねー》


「分かったっす! こっからはちゃんとやるっすよ!」


 茶番じみた会話を終えて、古参の操縦士は先程の雰囲気を一変させる。


依頼(オーダー)()()()()()()()()に遂行させてみせるっす」






「あの首輪付き共が飼い主の手を噛んだと聞き、過剰に守りを固めたが……一向に来ないのは何故だ?」


 護衛大隊『白夜』隊長のチャック・ソッグは周囲を警戒しながらも疑問を浮かべていた。


《隊長、どうかなさいましたか?》


「あの名ばかり反社会的勢力の手口は、偵察を繰り返してこちらの情報を獲得してから、目的の対象とそれ以外の二方面から襲撃をかけるのが定石だ」


《は、はあ……?》


「だと言うのに、旧人工太陽(こちら)も、新型人工太陽(あちら)にも、それどころか重要施設の何処にも偵察機の一つも反応が無い」


《それは……『解放者(リベレイター)』共は来ないという訳でありますか?》


 喜色混じりの部下の声に、チャックは苦笑し、ゆっくりと走る旧人工太陽を背にした、自身の乗るJT-WT/SNRIZEをその場で滞空させた。

 そして、その場でチャック機に付けられた()()()()()A()P()S()T()()()()()、正式名称NAS-SJ/ASを構え、地平線の果てまでくまなく睨み付けるようにして、操縦席に展開された狙撃用の拡張スコープ越しに覗いた。


「……まさか、本当に居ないと言うのか?」


 進行方向も、左右も、はたまた後方も、何処を見てもテロリストの影も形もない。

 残る時間はあと僅かだと言うのに、一向に襲撃のない状況にチャックは怒りで肩を震わせる。


(何が要注意勢力だ! 結局無駄金を使って盾を増やしただけで終わるぞ!)


 過剰に護衛を増やす必要はあったのだろうかと、ポケットマネーから捻出してまで今回の護衛を増やし、財布の中身が寂しくなったと部隊でも噂の隊長は憤りを覚えていた。






「こちらシュテル・ゲインダウト、誰と交代すれば良い?」


《ああ、俺と交代してく………なんだその機体!? 動くガラクタじゃねえか!?》


 一方、シュテルは前方の護衛と交代をする事となり……交代する相手のパイロットからの顰蹙を買っていた。


《おい、そこの機体のパイロット! NAに負ける出力しか出せない機体なんぞ乗っても、操縦席でトマトジュースになるだけだぞ!》


 特徴的過ぎる短足の、二脚パーツを持つシュテルの機体。

 その短い二脚を使えるAPSTというのは、第一世代型にしか存在しない。


 第一世代型の機体が猛威を奮っていたのは、子供が老人へと変わる程の、かなり前の話である。

 量産機のNAと同じか、あるいはそれ以下ともされる運動性能。ジェネレーターのエネルギー生産・供給の効率が低いが故に一度に使える武器が限られ、現代の兵器として同コスト帯の兵器と比較しても、継戦能力や火力も低い。

 今の時代において、第一世代のAPSTは非常に頼りない。


 つまりAPSTに携わる者からすると、シュテルとそのAPSTは【弱い機体に乗った、使えないパイロット】という印象に結びつけるのも当然であった。


 だが、シュテルにも言い分はある。


「文句があれば強制依頼をかけた奴に言ってくれ! 何せ支給されたAPSTがコレで、始めての仕事で、強制依頼だったからな!」


 シュテルの相棒であるユースティティアが一定の安全マージンを取ったと保証すれど、不満は溢れるほどある。


 まず、闇金による借金地獄でまともな機体もパーツも揃えられず修繕は完了しているものの、まともなAPSTと比較するのもおこがましい性能の、支給されただけの第一世代型APSTをそのまま乗る事になった。


 幾らユースティティアが機体のAIとしてサポートしようとも、隠しきれないほどに弱い機体なのである。

 これは今日の依頼当日まで、()()()()()()操縦練習を、ユースティティアのサポートの効果の確認と合わせ、毎日欠かさずに行なってきた上での結論だ。


 また、強制依頼であることもシュテルの不満に拍車をかける。

 何せ強制依頼とは絶対に断れない依頼だ。

 もしも拒否したとなると今後APSTパイロットとしての生命は絶たれるも同然の処分を受けるという。

 シュテルは危険と分かった上で依頼を受ける羽目になったと言ってもいい。


 最後に、そういった不満をさらりと聞き流すユースティティアに対しても苛立っていた。


《……そ、そうか……まあ、前方から突進するテロリストなんてそうそう居ないしからな……うん、頑張れよ?》


 何にせよ、そういった諸々の不満が積もりに積もって爆発したシュテルの叫び。

 怒り気味だった交代相手は通信機越しから伝わるシュテルの苛立ちに戸惑い、事情を察し、同情しながら離脱した。


《さっきの彼はあんな事言ってたけど、多分僕と相棒(バディ)なら大丈夫さ》


「世代落ちの機体なんだ、サポートはしっかりやってくれよ」


《ああ、もちろん! 最低限相棒(バディ)の命は保証するよ》


 ニヤリとした笑顔のユースティティアに、シュテルは冷めかけた怒りを再燃させる。


「お前の『最低限』って本当にギリギリを狙ってるからタチ悪いんだよ!」


《その怒り、相棒(バディ)の借金返済に向けようか!》


「借金抱えさせた元凶が言うのかああ゛あ゛あ!?」


 こうして、シュテルも護衛大隊『白夜』へと加わり、残り百キロメートルという、長い道のりを行き始めた。







《ニグレ様、準備ガでキましタぁ》


 ひび割れた声が、通信機越しに伝わる。


「うむ、他の進捗はどうか?」


 『 解放者(リベレイター)』の指導者。デミナント・ニグレは、淡々と尋ねた。


《旧人工太陽の包囲はほぼ完成しました。支持ひとつで囲みきれます》


《超長距離狙撃のセッティング終了だ、引き金一つ引くだけでで柱は折れてくれっかな?》


《撹乱準備も大丈夫。いつでも良いですよ》


《APST()()()、旧人工太陽への奇襲準備万端でさぁ》


 次々に上がる完了の報告に、デミナント・ニグレは閉じていた双眸を開けて、黒色の瞳に爛々とした炎を燃やす。


「我ら『解放者(リベレイター)』の悲願。贋物の太陽を……企業の傀儡と化した、この世界を堕とす」


 第五世代型のAPSTに標準搭載される、()()()()()()()()()()()()()()()を握り、地上を取り戻さんとする野望を掲げるニグレ。

 深緑で彩られた細身のAPSTは、操縦者であるニグレの感情に呼応するかのように青く透明な合金で保護されたセンサーユニットを静かに光らせる。




夫を失った半身擬態のパイロットは、夫を奪った機体を探すための足掛かりとして依頼を受け、未熟である事を歯噛みする。


野良猫の様に奔放な気質を律して生存競争に勝ち続けるパイロットは、企業でも反社会的勢力でもない、ある個人からの依頼を受けて密かに漁夫の利を待ち望む。


護衛大隊を率い地下の太陽を護る、警戒心の高い男は、このまま無事に人工太陽を到着させられるのか、一向に訪れない脅威に神経を尖らせる。


未熟なパイロットは相棒である電子生命体のサポートが如何程か知らずに挑む初依頼を迎え、危険性の高い仕事を強制された不満を主に借金返済のための一歩と割り切り、貧弱な機体で地面を駆ける。


地上の世界を求める反社会的勢力の指導者は、同胞を結集し最初で最後の『自己の目的の為のテロ』を始めた。




 様々な思いを抱えて人工太陽に集う者達。

 彼らによって、この日、世界は転換を迎える事になる。




設定関係〜APST関連〜


オペレーター

・一般的なパイロットには必ず一人つくよ。

・主にAPSTパイロットの把握しきれない外部情報を伝えてくれて、ナビゲートも行うね。

・主人公は不思議な事にオペレーターがついていないよ! なんでかなぁ?

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