護衛大隊『白夜』
身体が闘争を求めるロボゲー、Vの系統全部買って楽しんでました。
重たくて、レーザーに滅法弱いどどめ色のバッタみたいなのが私の機体です。
旧型人工太陽の護衛当日、つまり人工太陽の交換が行われる日。
シュテルは依頼に指定された待機ポイントで、やがて来たる旧型人工太陽とその護衛隊に合流する為。
短足のAPST。F-GOLEMの操縦席で待機していた。
「『電子生命体』、どれくらいで人工太陽が来るんだ?」
《いつもならあと二時間と十三分で、朝日を拝めるよ……それと、いい加減、僕を名前で呼んで欲しいな?》
「うるせーこの悪辣AI。毒気抜いて愛嬌持てば呼んでやる」
《『僕の名前を呼んで共犯者になってよ!』》
「胡散臭いな!? ってか共犯者て……」
シュテルは旧型人工太陽が来る前からF-GOLEMに乗り、そのまま反重力型ヘリによる輸送で、護衛交代ポイントである地点まで、古い太陽が稼働を終えるまで百キロメートルの場所で降ろされてから、ひたすら暇な時間を耐え忍んでいた。
彼はまだ二時間程時間が掛かると聞いてまで警戒を続けるのに疲れ、操縦席のシートの背もたれに体重を寄せてリラックスする姿勢を取った。
「ふぅー……救援要請なし、事故なし、テロ行為なしで平和だ……」
《そう油断して、背部の荷物を壊されないようにね》
「……おい、荷物なんて聞いてないぞ? この機体に何があるんだ?」
《対人工太陽に設計された中和爆弾。人工太陽が大爆発する前に対消滅させる用だよ。因みに普通に爆発するから被弾は厳禁だよ。範囲と威力が高すぎて、地底に都市一つ呑み込める大穴空けるからね》
「それをっ! 何でっ! このタイミングで言った!?」
不貞腐れた表情をF-GOLEMの全面モニターに浮かべながら、恐ろしい事実を打ち明けたユースティティアに、溜まった眠気が吹き飛ぶほどに目を剥くシュテル。
依頼のブリーフィングで全て口にした筈では、と物語るシュテルの表情に、画面に居る赤目の少女は意地悪な笑みを浮かべる。
《僕は「依頼内容」について全て話したに過ぎないよ。だから、相棒の機体を話さないのは当然だよ》
「迂闊だった……っ!」
何もかもを話していたと思い込んでしまったが故に、自分の『APST』を碌にチェックしていなかった失敗に、背中に掛けた体重がずり落ちていくシュテル。
はっと振り返り、後ろも見える全面モニターを見れば、F-GOLEMの背部に、しっかりと見覚えのない黒い円筒が背負われていたのに気づき、顔を青ざめる。
《大丈夫さ。僕のアシストもあるから、何か起きても三発被弾した程度なら問題ないよ》
「フォローになってないからなその言葉……」
つまり銃弾を三発以上黒い円筒に被弾した時が自分の最後になると理解し、シュテルは灰褐色の瞳を揺らす。
《それに、実際人工太陽に何か起きた時の為にもその中和爆弾は必要不可欠だからね。こっそり降ろされたら大変だったと思ったのさ》
「そうだな……? ところで、この爆弾いつから背負ってる?」
《…………?》
「小首傾げて誤魔化すな」
また一つ、ユースティティアへの警戒心が上がったシュテル。
相棒の心情を理解しながらも、ユースティティアは素知らぬ振りをするのでどうしようもない。
《相棒も程よく緊張感を保てるようになった所で、もう一度依頼を確認しようか》
「まさかお前その為だけに爆弾を!?」
《相棒、護衛対象は?》
「旧型人工太陽……の柱と機動車」
《依頼主は?》
「『テゾブロス』『ネシキナル』の二大企業から、合同依頼を請け負った『ニュートラルシステム』」
《護衛隊の総数は?》
「NAが六十機、哨戒戦闘機が十機と戦車二十台、それと『APST』が十五機。ここのポイントで、その内NAが十機、哨戒戦闘機が五機、『APST』一機が俺の機体と交代するんだろ?」
《合ってるよ。護衛中に敵性勢力と遭遇した際は?》
「直ちに護衛隊長に連絡を取り、護衛対象から距離を離して殲滅すること……だな」
《良いね。最後に護衛終了後の行動は?》
「完了の連絡が伝わってくるまで待機」
《しっかり覚えているね》
「飽きるまで確認続けていたからな」
何度もユースティティアとシュテルは共に依頼の動きを確認し、不足の事態に陥る前にと、念を入れていた。
それは、未だに連絡もないまま時間が過ぎて暇だった事もあるが、シュテルが咄嗟の判断を下せるかどうか不安を感じていたのもある。
だが、かれこれ一時間以上も同じ内容を繰り返し諳んじているので、やる事の無さにシュテルは手を拱いていた。
「でもまあNAの数からして凄いが、よく『APST』を大量に雇ったよな……これ普段からこんな感じじゃないよな?」
話題作りの為に依頼について触れるシュテルは、自分でその異常さを口にしてモニターに映る赤髪の少女に問いかけた。
《APSTを雇用したのはそれだけ警戒を要するからだね。普段は護衛に一機雇うかどうかみたいだよ?》
新旧の人工太陽の護衛に、合計三十機ものAPSTを雇用するのは、今回限りである。
大企業が関わっているから。
そんな理由で、何かしらの反社会的勢力の襲撃が起こることは度々あったが、NAを始めとした陸空の兵器に小気味よく殲滅・防衛される。
基本的にAPSTは同種の敵が出現する最悪の事態に備えて常時一機護衛に寄越される位なのだ。
《NAもいつもの倍投入しているみたいかな? 第三世代が相手なのだから、多少は万全を期して挑む腹積もりだね》
なるほど、とシュテルは関心する。
「新型人工太陽の防衛組と合わせると『APST』が三十機だろ……『APST』に限れば、単純計算で一・五倍の戦力差だ。これなら手出ししにくいよな」
わざわざニュースで取り上げられるほどの反社会的勢力である。徹底的に鎮圧して、『大企業』としての名声を更に高める魂胆でもあるのだろうと茶髪を掻く。
そのシュテルの考えを聞いて、ユースティティアの口角はニヤリと上に上がっていく。
《いや、本当にそうなるのなら、どれだけ良いだろうね?》
含みのある言い方に嫌な予感を覚えたシュテルが、赤目を細める彼女から詳しい話を得ようとして―――
《こちら護衛大隊『白夜』隊長のチャック・ソッグだ、交代ポイントに間も無く接触する》
旧型人工太陽の護衛が始まることを告げる野太い男性の声に、そういえば前に時間を尋ねた時から二時間経っていたと思い出し、より一層笑みを浮かべるユースティティアを見て、シュテルの顔は引き攣った。
「……えー、こちら『APST』パイロットNO.4801、シュテル・ゲインダウト。予定通り他『APST』と交代する」
《了解した。残り百キロだ、よろしく頼むぞ》
「了解…………『電子生命体』、お前また……」
《僕に何かあったのかい?》
「……いいや、何でも無い」
絶対狙ったような言動だったと憤りを感じながら、シュテルはF-GOLEMを戦闘モードへと切り替え、クラッチから歩行ペダルへと踏み変え、二頭身な鈍色の機体は移動を始めた。
旧型人工太陽の護衛大隊『白夜』一行は、旧型人工太陽を囲むようにして、最終交代ポイントまでのルートを予定通りに移動していた。
その護衛大隊『白夜』を率いるチャック・ソッグは交代人員であるシュテルの連絡を受け、溜息を吐く。
《哨戒戦闘機四機の合流を確認。一機エンジントラブルで合流前に離脱しました!》
(NO.4801の『APST』パイロット……話には聞いていたが実在していたのか)
『ニュートラルシステム』が定める『APST』パイロットは、狭き門を潜り抜けた選りすぐりのエリートが、毎年一度実施される操縦試験に合格した百名のみが認められる称号である。
限られた百名の称号を求め、それを狙う者は多く、百名の席に欠員は出ない。
故に、今年新たに現れた百一人目のパイロットと言う有り得ざる存在に、チャックは懐疑的だった。
《NA十五機、全機合流を確認。稼動限界のNAと交代します!》
(名ばかりの管理機関ではある。然れどマニュアルを徹底する姿勢は頑なな日和見連中が特例を許し、初仕事で最重要施設の防衛……それだけの人材であるというのか、はたまた上層部のコネで捩じ込まれた木偶の坊か)
真実は『ニュートラルシステム』を動かせる程の依頼金を協力者の『電子生命体』に出させられて、操作試験を受ける羽目になっただけである。
チャックはその経緯を知らないため、謎めいた『APST』パイロットに並々ならぬ関心を抱いていた。
「どちらにせよ、報酬分の仕事をこなすなら問題ないか」
《規定数のAPST友軍反応を感知。接触まで、三、二、一……反応、有視界下に入ります》
隊長機のNAに搭載されたAIが捉えた友軍の接近報告。
チャックはすぐさま護衛大隊『白夜』へと指令を下す。
「活動限界のNA及びAPSTの離脱を許可する。増援との合流後、直ちに隊列を整えよ」
NA六十機、哨戒戦闘機十機、戦車二十台、APST十五機。
機動車で走る人工太陽が、高熱と光を放出する直下に晒されている、生半可な武装勢力を木端微塵に出来る戦力を持った護衛大隊『白夜』。
(……あの機体は……あの脚部はまさかF-GOLEM? まさか……動く骨董品が、シュテルとやらが乗るAPSTだと言うのか……第一世代を護衛に寄越すとは、『ニュートラルシステム』は何を考えている)
大規模な護衛隊の前側中央列で、鼻で笑うチャックの視線の先。
護衛大隊『白夜』の進行方向の横側からシュテルの乗るF-GOLEMを含めたAPST増援部隊が接近していた。
護衛大隊『白夜』へと合流する為、シュテルの駆るF-GOLEMは、他のAPSTと共に増援部隊と共に移動していた。
「この速度はキツいぞ……油断すると骨を折りそうだ……操縦試験の時より速いし、まるで別物だ」
フルフェイスヘルメットも、支給された簡易操縦服も、座席から離れなくなる迄に速度をあげている。
《ああ、まだ相棒はG制御システムのエネルギー供給抑えると怪我しそうだね? 少し速度下がるけど元に戻しておくよ》
「ちょっと待てや」
F-GOLEMは戦闘モードで利用出来るようになった圧縮ジェネレータで生成されたエネルギーの七割をスラスターに回し、鈍色の装甲で覆われた短足二脚の機体に爆発的な推進力を生み出していた。
流石に操縦者自身が耐えられない殺人的なGをかけるのは不味いかと、供給エネルギーの調整をしていたユースティティアは、加速用ブースターに行くエネルギーの一部をGを軽減するシステムに回す。
《護衛大隊『白夜』接触まで、あと二百メートルだね。》
「分かった……このままG制御システムとやらを切らないでくれ」
《うん。何も無ければこのまま維持しておくよ》
シュテルの指摘により、安全を優先し僅かに速度は落ちたが、応援部隊に置いていかれるほどに遅くはない速さで移動し、身体を潰す程のGがかかっていた操縦席は制御システムを重視した結果高速で走る車程度まで負荷を減らしていった。
「次があれば俺死ぬからな? 冗談じゃねえよ……うん? ……っっ!?」
《相棒? ……ああ、あれは確かに目立つからね》
慣性の圧力から抜け出し、安全となった操縦席。
APSTの操作負荷を解消し、漸く見た人工太陽の真下。
シュテルは被ったフルフェイスのヘルメットの奥で、瞳を大きく見開かせる。
「あれが、『白夜』の……」
《……そう。あれが人工太陽の防衛を八十余年の長きにわたり担い続け、第三世代APSTに比肩する成果を上げている部隊―――》
「ヒュー! あれが世にも珍しい二大企業合同の防衛部隊! 『白夜』の部隊なんすね!」
シュテルの驚いたタイミングと同じくして、別のAPSTの操縦席で感嘆の声をあげる男が一人いた。
《ノービス・K、興奮しすぎて他APSTから離れないようにしなさいよー》
「大丈夫っすよ!」
オペレーターからノービス・Kと呼ばれる男は、楽観的な言葉でオペレーターからの警告に応え、しかし眼光は鋭く油断はなかった。
「感が告げているっすから、俺たちの増援部隊に空を望む馬鹿はいないって」
自身の直感に頼って今まで生き残った男は言う。
故に、解放者はこれから来るのだと。
「周囲に銃口を向けるだけでいい仕事なんすから。はしゃぐくらいは許して欲しいっすよ!」
《貴方の直感は確かに超能力と断じてもおかしくない的中率だよー。でも、だからこそー、不意の事故に注意を忘れないでよねー?》
「そんなの当たり前っす! でもそれを抜いてもあのNAは抜群にかっけーっすからね。思わず見てしまうっすよ」
間伸びた声の専属オペレーターからの堅苦しい言葉も意に介さず、ノービス・Kはひたすらモニター越しの護衛大隊『白夜』に注目している。
「人工太陽の光を反射する純白の装甲。あのNAが『白夜』の中核たる所以っすか……近づくと眩しさがすっごいっす!」
シュテルと同じものに、ノービス・Kもまた驚いている。
人工太陽を下から支え、敷かれたレールの上を走る四十機の機動車。
それを取り囲むようにして多彩な兵器が駆ける中に、ノービス・Kと、シュテルの関心が向けられる特異な兵器。
それは真上の人工太陽から受けた光を鏡のように跳ね返し、終日ずっとここまで飛行を続けている機体達。
『白夜』の象徴である、戦場で一度も光沢を失わないNA部隊。
線の細い二脚を畳み、胴体の上半身と一体化した、翼型のバーニアからは青焔が吹き出ている。
特筆すべきは、機体の一番上に、各々の機体が胴体パーツから飛び出る程のサイズの、異なる種類の大型砲を二門搭載しているというのに、その重量をものともせずに飛翔を続けている異質さ。
並のAPSTでは到底できない無限飛行を可能としている特殊なNA。
それがチャック・ソッグとその直属の部下達、人工太陽護衛大隊『白夜』の対重武装テロに特化した部隊が乗る機体。
JT-WT/SNRIZE、それが地下世界の朝を守護する量産機最強のNAである。