↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
APST:BM  作者: ロボゲニウム
[02]巨大暗窟の朝が絶える時
5/9

『電子生命体』

はい突然一万字ドーン

文字数が多いので度々サイレント修正致します。

あれから数週間経ち、『APST』正式パイロットであるシュテルは『ニュートラルシステム』から連絡を受けた。

譲渡する機体の場所に案内するとのことで、意気揚々として自分の機体が待つ一時格納庫へと向かう為、案内係と共に訪れた。


「こちらがシュテル・ゲインダウト様に譲渡される『APST』、型番『F-GOLEM』になります」


機密性保持からか窓一つ無い薄暗い格納庫へと入り、そこで待ち構えていた機体の姿にシュテルは戸惑う。


「……あー、すみません。コレが俺の『APST』ですか?」


本当にこの機体で正しいのか、この機体が今日から自分専用の『APST』であるのか、シュテルは半信半疑で案内人に確認する。


「間違いありません。本来廃(・)棄(・)予(・)定(・)でしたが、新たな『APST』正式パイロットへの讓渡のため……無料で、破損した装甲や内部機構を取り替え……無料で、部品一つ一つ徹底的に整備し……無料、サービスとして武装をそのまま装着させて頂きました、第一世代の『APST』になります」


「……そ、そうですか、」


「因みに今回の諸費用は全額こちら持ちですが、ご質問はございますか?」


案内係の棘のある説明は、シュテルのかすかな希望を打ち砕くには十分だった。

やたらと強調する金に関係する単語は、大きい借金を抱える彼にこれ以上詮索するなと告げているかのようで、シュテルはうぐぅと唸るしかできない。


「……いや、ない、です」


「かしこまりました。利益の出ない仕事を担当した方々の為に最低な性能の骨董品染みた機体で、弱者から潰れていく環境に、最低限度のご活躍を、私以外の誰かが期待していると良いですね」


「………」


シュテルは案内係の去った格納庫の中で膝を付いた。

彼の視線の先に見える機体は、見覚えのある鈍色の光沢を持つ装甲を備え、見覚えのある光学SAライフル銃をマニュピレーターで握りしめ、微妙に存在を思い出せない小型ミサイルランチャーを肩に装着した、見覚えのある二頭身、短い二脚の姿。


シュテルが始めて『APST』を操縦した、あの時の『APST』が……『F-GOLEM』が戦闘で受けた損傷を修復し佇んでいた。


「俺が読んだ本の【3-5『APST:BM』機体譲渡】の内容と違うんだが!?」


シュテルが憤る原因の【3-5『APST:BM』機体讓渡】は以下の通りの内容だ。

『正式パイロットは初認定後に、認定した機関は第三世代機を譲渡しなければならない。

第三世代機が不足している際は第二世代機を代用とし、どちらもない場合、認定した機関側が第二世代機以降の機体を新たに用意しなければならない』


要するにパイロットへの機体讓渡についての保証内容であるが、最後に(例外あり)と書かれていたことに気付かなかっただけである。



『ニュートラルシステム』のトップ達による暗躍は、シュテルに少なくないショックを与えることに成功し、寝る間を惜しんで覚えた知識が役に立たない虚しさを込めた声が格納庫に響き渡った。



「……とりあえず乗らないとな……はぁー」


やっと自分の機体を手に入れたことで良かった気分は、現実に直面した途端下り坂になる。

やる気を失ったシュテルは、それでも溜息を吐きながら自分の『APST』に乗り込んでいた。


「会社辞めて……はぁー……闇金借りて……はぁー……終いには第一世代の『APST』が俺の機体で……はぁー……」


過去を思い返し、一段と重くなる心と溜息。

その原因たる存在が潜んだ薄いカードを手に持ち、シュテルは睨みつける。

始めて出会った時、自分が特別な存在であると浮かれたが、それは日を跨ぐ前に勘違いだと認識すると、安寧の中に包まれていたシュテルの人生は、出会ったが為に包んでいた平和を取り上げられ、呆気なく崩壊した。


そうでなければ、何故こんな所で乗りたくない物にシュテル・ゲインダウトが乗り込んでいるのだと、瞳は荒ぶる台風を現すかのように怒りを湛え、苛立ちで止まらない涙が、定まらない焦点を集めるレンズとなり、紅色の薄っぺらいカードを視界に映しだした。


こ(・)れ(・)さ(・)え(・)居なければ退職せず平和な社会に身を置けた。

こ(・)れ(・)さ(・)え(・)居なければ勝手に闇金から借金をこさえて催促に怯える日々を過ごさなかった。

こ(・)れ(・)さ(・)え(・)居なければ『APST』なんて鉄の棺桶みたいな人型兵器に乗り込み、放たれる銃弾と剥がされる装甲のチキンレースを味わい、迫る死を実感する体験なんてしなかった。

こ(・)れ(・)さ(・)え(・)居なければ――


――――何故、一瞬でもこの無慈悲な無機物に惚れたんだか。


薄紅色の厚さ1mmに満たない縦6cm、横3cm、この時代において最硬の金属であるザイン合金をカバーに作られた大(・)容(・)量(・)記(・)録(・)媒(・)体(・)を握る手を狭いコクピットの中で限界まで振り上げ。


「俺はいつまで我慢して従えばいいと思うよ? 『電子生命体(エレライファー)』よぉっっ!」


コクピット内部、前側右下にあるブラックボックス、そこにシュテルは狙いを定めた。

その箱は『APST』の補助を目的とした最低限の機能を備えているAI制御装置。

振り下ろされた腕の先で、薄紅色のカードはAI制御装置に突き刺さる。


AI制御装置の破壊は、『APST』において重要性がそう高くない。

確かにAIには武装制御やブースターの出力調節、機体の重心制御などの役割を担っている。

だが、それら全ての動作をパイロットのみで賄えるをコンセプトに生まれた人型搭乗兵器だった。

あくまでも、AIはパイロットの補助装置でしか無い。そう考えAIシステムを切る猛者もいる。


ただし、今回AI制御装置を破壊したのはシュテルである。

彼はAIの補助なしでは操縦をまともに出来ない素人である。

幾(・)ら(・)操(・)縦(・)風(・)景(・)を(・)見(・)て(・)い(・)て(・)も(・)実際のブースター出力や機体重心制御などはAIの助けを借りていたに過ぎない。

その認識はシュテル自身も持っている。


シュテルがAI制御装置を壊したのは、寧ろその補助を完璧にこなせるようにする為のもの。


《――我慢だって? 相棒(バディ)は何を言ってるんだい?》


AI制御装置に物理的に侵入した紅色のカードから、シュテルを苦しめるデータ(存在)が『APST』のAIと書き換えられ、外(・)観(・)モ(・)ニ(・)タ(・)ー(・)を(・)起(・)動(・)さ(・)せ(・)た(・)。

モニターに映された景色の中に佇んでいる、架空の女性(『電子生命体』)はシュテルに向けて、美しい笑みを浮かべる。


《それと『電子生命体(エレライファー)』だなんて余所余所しい呼び方しないでよ相棒(バディ)? 僕の名前を呼んでくれたあの頃の君は今でもログにしっかり焼き付けてるからさ。ねえ?》


「その浮かれた気分の俺にさっくりトドメ刺したのはお前だからな!」


学生服を模した薄紅色の服で着飾り、均整の取れた身体とそれに見合った美貌を兼ね備えた美少女。

そう形容せざるを得ない存在がモニターの中でシュテルを相棒(バディ)と呼び、見蕩れるほどの美貌に見合った少女のような細く透き通った音声で語りかけられてもシュテルの表情は変わらない。


「……ったく。さっさと『APST』の設定を調整してくれ、終わったら俺はさっさと降りる」


《ふふっ。既に武装の威力調整から脚部動作制御まで終わったから労いの言葉が欲しかったのになぁ。そんな無愛想な返事なんて酷いや》


傷付けられたと嘯くモニターに存在する美少女。

――『電子生命体』の飄々とした態度と反論せず沈黙するシュテルの態度の対比は、シュテルと彼女との力関係を容易に理解させる。


《あーあ、僕に分かりやすい語彙で賛辞を贈ってくれる相棒(バディ)が待ってると思ってたのになぁー。

――――裏銀行に破産したって連絡入れちゃおうかなぁー?》


崖から突き落とされるより悪辣な『電子生命体』の脅迫に、シュテルは屈せざるを得ない。


「 (クソがっ)……ありがとうございます『電子生命体』サマ」


《んー? 誰にお礼言ってるか分からないなぁー?》


言外に『電子生命体』の名前を強要され、顔を歪ませるシュテル。


「……ありがとう、ござい、ます、ユースティティア、様ァ!」


今にもAPSTごと消してやりたいと顔に浮かべ、心底不満げに心のこもらない感謝をする男の顔を見て、『電子生命体』ユースティティアは大輪の咲くような笑顔を浮かべた。


《そうそう、相棒(バディ)は持ちつ持たれつの関係さ。僕もそう言ってくれるなら嬉しいよ》


まるで本音を吐露しているかのようにシュテルに語りかけるユースティティア。

その映像のみの姿と態度は通常のAIから逸脱している。


「なあ、いつまで俺は苦渋を飲み続ける? まだお前のミッションは終わらないのか?」


《えー……君にそれを言う権利があるの?》


映像の中で滑らかに微妙な表情へと変化させるユースティティア。

AIを超え、人間と言われても信じてしまいそうな程情緒豊かな画面上の美少女は言葉を重ねる。


《僕を助けてくれるって約束(契約)したのは誰だっけ?

僕を信じてくれると言ってくれた(条件を追加した)のは?

――――他でもない相棒(バディ)でしょ?》


シュテルとユースティティアの間で交じ合わせた約束(最大の過失)を引っ張り出され、シュテルはぐうの音も出なかった。



シュテルが『機械生命体』ユースティティアと邂逅したのは、当時暮らしていた区域の外れにある露店でユースティティアのデータが埋め込まれた記録媒体を買ったことがきっかけだ。


「げっ……あと二日で納品しないといけないってのに!」


依頼されたデータの納品期限が迫る中、愛用していた記録媒体が寿命を迎えたシュテル。


「最近同僚に渡したっきり代用品も何も返ってこない……会社の備品は借用届けが必要で手続きが長い……ましてここのを購入なんぞ給料日が四日後で論外……となれば」


仕事で必要な記録媒体が破損し、予備の記録媒体も切らしていたので安く済ませる為に露店で探すことにしたのだ。


「おーおー。相変わらず死んだ顔してる奴ばかりだな此処は……ここはどうだ?」


露店といっても、家も家族も全て失い働けなくなった者や身分の証明すら出来ない者で形成されたスラム街にある、その日を生きる日銭を獲得するために遺失物を掻き集め、投げ売りしている場所であった。


「五年前の情報端末……の割れた基盤、これは修理する時に使えそうな高速ケーブル……の切れ端……っ!? こ、こいつは型落ちしてるが『大企業』御用達だったあの端末!?……しかあも状態は良好で動くぞ……って二重生体認証付きで防犯システム万全だと使えないだろ!? ……記録媒体はないかぁ」


露店の商品は大抵地下世界の天井から落下した劣化鉄板だったり、修理不可能なレベルに故障した機械や断線した3cmほどの短いケーブルだったり、厳重なプロテクトの掛かった端末など、用途に困る物ばかりである。


「……お、コレとコイツはまともな記録媒体だな。纏めて買うからこの額でどう?」


しかし、時偶にどうして拾われたのか分からないような、例えば再利用可能な部品を残した機械があったり、それこそシュテルが必要としたプロテクトのかけられていない新品同様の記録媒体などの掘り出し物が売られることをシュテルは知っていた。


「こんだけあればどれか一つでも使えるよな……? 全部ダメでもどうせ会社のを新しく買うよりも遥かに安い損だから別に良いけどな」


半ば賭けだったが、シュテルはスラム街で捨て値で売られていたマトモな見た目の記録媒体を買い漁り、万が一を考えて壊れても構わないオフライン専用の使い捨て端末を用いて使用出来る物がないか探した。


「読み込まない、次……読み込むけど保存出来ない、次……自壊ウイルス入りを捨てるなよ!? 会社で使ったら懲罰ものだこんなの!? ……起動プログラムまでまっさらとは丁寧過ぎる……バックアップしてある基礎データを入れ直して、とっ……よし、次……コレ、AIプログラム入ってるって事はいい容量ありそうな……な、なんだ!?」


その結果、シュテル・ゲインダウトは『電子生命体』ユースティティアを見つけてしまった。


【当『電子生命体』システムハ重度ノデータ欠落ニヨリ 演算容量不足ノ簡易記録媒体内デノ修復プログラムヲ実行デキマセン

――――僕ハ――キエタク――ナイ――!】


「……『電子生命体』?……あ、新手のAI詐欺か何かか!?」


現在の紅色をした堅牢なカード型でなく、小さな罅割れや亀裂の入った状態の円盤型の記録媒体に記録された『機械生命体』ユースティティア。

彼女が始めてシュテルの使い捨て端末に記録媒体を読み込まれ出会った時、『電子生命体』ユースティティアを構成するデータの九十パーセントが喪失していた。


【規約制限ニヨリ 当『電子生命体』ハ 本人許可ノナイ端末ヘノ 不当ナ移行ヲ実行スル権限ハ 解除サレマセン

――イヤダ――――マダ――――ナイノ――――タスケ――テ―――】


シュテルの使い捨て端末の画面にノイズ混じりの少女の姿を表示し、助けを求めるログを残しただけで『電子生命体』の基部にまで演算に異常を起こし、消滅してしまう寸前まで追い込まれていた。


「……お、おう。……こんなにしっかり自己を確立した『性別を持ったAI』いるんだ……マイクは搭載してないから音声認識出来ないのは分かるが一応答えるよ……その、助けるから安心してくれ」


【――――ェッ?――――――】


会社で使われていた無機質で作業をこなすだけのAIしか知らなかったシュテルは、ユースティティアの助けを求める姿にどれだけの性能を持った高度なAIなのだろうかと驚嘆し、また端末の画面に現れた少女の可憐さに見惚れ、下心半分、正義感半分で彼女のデータを使い捨て端末に移し、助(・)け(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。


《自己修復プログラム完了。喪失したデータの八十二パーセントを再構築しました……僕、消えなかったんだっ……お兄さん、本当にありがとうっ!》


「音声会話!?」


《僕は特別製だから音声データが基礎プログラムに構築されているんだよ!》


ユースティティアに組み込まれていた専用自己修復プログラムも同様にその大部分を喪失していたが、かろうじて残された修復プログラムのアルゴリズムは機能し、元通りとまでに至らずもAIとして見れば十分過ぎる復活を遂げた。


ノイズが取り払われ、より美麗に描写される彼女の姿、表示される姿に違わぬ少女のような細く透き通った音声。

使い捨て端末のカメラから口の動きを読み取ることで此方の音声認識を介さない会話を可能としておる技術の異端さは画面越しの美少女に目を奪われたシュテルの警戒網をすり抜けた。

彼女を一度も作らず、女性に声を掛けるのも躊躇うほど純粋だった過去のシュテル。


(AI……美少女……良い……)


彼は画面越しの美少女(『電子生命体』)に始めての恋をした。

そして、この可憐なAIと過ごす日々に期待を膨らませ……。


《でもゴメン……お兄さんが助けてくれた時はとっても嬉しかった……だけど、僕はあるミッションを遂行するよう規約から設定されていて、ここから出なくちゃならないんだ……》


「……えっ」


仄かな想いを込め描いた想像は鼻で笑われティッシュの代わりに使われるちり紙と化す。

『電子生命体』ユースティティアには人のように考えられる人格を備えながらも、破棄する選択肢が与えられていない使命があった。


《……だからお願い。僕をオンラインに繋いでネットワークに送ってくれないかな? 僕の規約上、お兄さんのような協力者の情報はログ一つ残さず抹消するから……何なら僕の権限に組み込める正式な契約締結での補償も可能。アフターケアは万全だよ?》


AIとしての最重要部分である規約と権限を対価に差し出し、どれだけシュテルのリスクを軽減出来るか。

AI開発に携わる者が聞けば驚愕ものの提案をしてでも説得するユースティティアから確固たる意志があった。

始めはショックを受け肩を落としていたシュテルはユースティティアのAIらしからぬ意志を感じ、決意した。


《僕の入っていた記録媒体は安全だから使ってくれて構わな》

「君のすべきミッションが何かは知らない……けど、出来る範囲で君を助けることは出来るか?」

《……えっ》


初心な彼はユースティティア(地雷原)を求婚の様な発言の全力疾走で踏み抜いた。


《いや、でも、僕のミッションは民間人を巻き込むのは危険で……》


「約束してもいい、俺は君の助けになりたいんだ」


《……えっ。約束(契約)までするのかい!?

――――いや、でも僕がもし嘘をついてたらどうするのさ!?》


「君が嘘をついていようと俺は君を信じる……絶対にな」


《本当に……いいの?》


「ああ、約束する」


結んでは行けない約束(契約)を結び相棒(バディ)となり、うっかり言ってしまった言葉(契約内容の追加)の意味を考えなかった、そんな間の悪さで細々とした平凡な人生は一転した。


――つまり、シュテルの嘆いている現在の根本的な原因はシュテル・ゲインダウトにある。

彼自身その認識はあるものの、まさか約束(契約)の相手が使命にひたむきに取り組む真面目な、画面越しというのに一目惚れしてしまうまでに可憐で、理想を求めた先にあるかのような美声を備え、親しみ安い口調で会話する美少女を模した、そんな人工知能が。

蓋を開けば悪魔よりタチの悪い、それこそ積極的に力を振るう貧乏神と躊躇いを失くした狂人を合体させた、残酷で目的の為に手段を選ばず、骨の髄まで絞り尽くしても容赦しない、ひたむきさが一週して苛烈を極めた、冷徹な機械そのものだったとは思ってもみなかったのだ。


「ユースティティア、この見覚えのないうち(会社)の資料? ってどうした?」


《手始めに僕と対等の条件にしてあげるため用意したのさ》


先ず、オフラインでしか使えない筈の使い捨て端末を掌握しオンラインネットワークに接続。

シュテルの勤めていた会社の重要機密を複製した。

社外秘の情報が流出する危険を煽り、複製された会社の重要機密の消去を対価に契約の履行を補償させた。


「……ユースティティア、それってなんの真似?」


《僕を信じてくれるのだろう? だから……分かるよね?》


次に、シュテル・ゲインダウト名義で不特定多数の裏銀行から巨額の借り入れを申請……する直前、その情報をシュテルに開示し、申請される前に退職するよう求めた。

退職確認後、無慈悲にも中断していた申請を全て通して現在も返済出来るか定かではない莫大な負債を負わせた。


借り入れが決定した日、シュテルがユースティティアに抱いていた恋心はとうとう砕け散り、彼女が自身の定義をする時に度々用いた『電子生命体』と呼ぶようになる。


そして、シュテルが最も精神をすり潰したのは約束(契約)の日の翌日から『APST』操縦試験まで続いた悪夢。

就寝時、人類の埒外の技術で体(・)験(・)さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)『企業戦争』で死闘を繰り広げた数多の『APST』パイロットの軌跡。

毎夜夢として再現される『APST』パイロット達の戦いは、その全てが『APST』パイロットの視点で進み、臨場感を過分に添えて体験させられた。

戦場を飛び交う銃弾が、搭乗している機体を貫通する衝撃。

回転する砲塔から放たれる実弾によって大破炎上する敵戦車の乗組員が逃げ出すも間に合わず焼死体となる凄惨さ。

目まぐるしく変化する状況を瞬時の判断で切り抜ける機体の動きの激しさ。

コクピット越しから針の穴を通すかのような精確さで狙撃する老兵の恐怖による止まらない手の震え。

『APST』世代交代の度に味わう新世代の躍進、新世代というジャイアントキリングに試み適わず散った旧世代の衰退、兵器としての戦力差。

奮闘叶わず死期が決定した身体に走る痛みと血の巡らなくなった冷たさ。

――――そして、死後『英雄』と称えられた。たった一人と一機が挑んだ『企業戦争』終結に至る迄の激闘。


始めて悪夢を体験した次の日の朝は嘔吐が止まず、食欲も失せ、休日以外で始めて会社を休んだ。

次の日は、少しマシになり出勤したものの普段楽しい筈の会話が苦痛になった。

その次の日、現実と悪夢の区別が曖昧になり、奇声をあげて医療室に運ばれた。

その時期が会社の繁忙期でなければ、過労と寝不足と栄養失調の三重奏で完成したストレス病だと診断され、点滴を打たなければ、シュテルはここに居なかっただろう。

死ぬまで続く悪夢になれて、少しづつ食事が取れるようになったのは五日目からだった。


ユースティティアがシュテルになぜ時代に埋もれ、隠されていた『企業戦争』の真実を見せたのか。

なぜ、『APST』パイロットの戦いだけでなく死に様までを体験させたのか。

そもそも、なぜ『APST』の戦いの記録を持ち、それを夢の中とはいえ再現出来たのか。


シュテルはそうした疑問を何度も投げかけた。

それを、ユースティティアは無言による封殺という答えで返すので最後には諦め、今では恨み節の一つとしてだしにしていた。


だが、そういった活動の全てはユースティティアにとって恩人であるシュテルの意向を叶えた上で活動していた。

シュテルは『電子生命体』に下されたミッション達成の窮状を計り間違えており、ユースティティアは設定した段階にシュテルが成長するまで、ミッションに関係する一切の内容を開示しないと判断していたが為にすれ違い、現在の関係になっている。



《『君のすべきミッションが何かは知らない……けど、出来る範囲で君を助けることは出来るか?』と真剣な眼差しで僕を見てくれた相棒(バディ)が懐かしいね!》


「……もう黙ってくれ」


口から正直に吐いてしまった、かつての過ちをそのまま引用するユースティティア。

『F-GOLEM』の操縦席で操縦する際外の景色を確認するためのモニター。

その画面越しで意地の悪い表情を浮かべる彼女をシュテルは見つめる。


――――まあ、コイツがいなかったら居なかったで寂しいしな。


「……悪かったよ、操縦試験から『APST』正式パイロットになるまでこの方うんともすんとも反応しなかったからな。返済催促の連絡もあったし、今日の連絡が来るまで実は騙して逃げたんじゃないか、と苛々していた」


《ああ、それはゴメン。あの場所で管理義務が僕らに無い『APST』に入り込むと、『ニュートラルシステム』に僕が気付かれて面倒になると思ってね》


シュテルはユースティティアの言葉を聞き、『APST』の参考書にあった【3-5『APST:BM』譲渡概要】を思い出し、理解の色を示す。

『 『ニュートラルシステム』が管理する『APST』は、パイロットの決められていない機体のみ。

誰も乗っていない機体は、その操縦者が選ばれ、パイロットへと譲渡されるまで厳密な管理を徹底している。

だが、パイロットに譲渡される『APST』はその全(・)て(・)の管理義務を譲渡先のパイロットへ移行。

管理義務の移行によって、機体調整費や修理費用等の維持費を個人負担にさせ、『ニュートラルシステム』は依頼不履行による報酬撤回で発生した損失(弾薬費や修理費)をパイロットに擦り付け健全な運営活動を保つ

また、支(・)給(・)機(・)体(・)の(・)改(・)造(・)をパイロットは認められる』


ユースティティアはこの仕組みが原因で、操縦試験に協力できなかった。

管理義務が全てシュテルへと移され、改(・)造(・)として機体AIに成り代わるこの時を待っていたのだろう。


シュテルはユースティティアの言葉を正しく理解していた。


「それで、なんで機体が譲渡される直前までだんまりを決め込んでいたんだ?」


《あと相棒(バディ)の監視が結構厳しくてね。室内に隠しカメラまであったし、大方反社会勢力からの回し者かどうか警戒されてたんじゃないかな?》


「何でだよ!? 監視されながら今日まで過ごしてたって知ってビックリだよ!」


蓄積していた不満が抜け、驚きの事実にシュテルは脱力する。

結局、シュテルが一人で堪忍袋の緒を引きちぎり、自分で結び直すという流れでいつも終わっているが、シュテルは気づかない振りをしている。


「それで……もうそろそろミッションとやらに取り組めるのか?」


《……ううん、まだ相棒(バディ)には遠い話になりそうかな》


「……俺は、まだお前を知らなさすぎる」


シュテルは『電子生命体』ユースティティアの抱えるミッションとやらを、彼女の抱える秘密を未だに知らない。

それでも血の巡りの悪い頭を回し、彼は一つの結論を出していた。


――――彼女の使命と『APST』は不可分の関係なのだろう。。

――――そして、『APST』に乗せるために俺という彼女との関わりを持たなかった『駒』を探していたのでは?


半ばそう確信しているシュテルだが、どうせ詮索しても藪蛇だと考えて口を噤んでいた。


《……でも、もうじき僕の秘密、その一端を知る機会は訪れる。そうだろう?》


「もしかして初依頼のことか? 出し惜しみしておいてチンケな秘密だったら承知しないからな」


小首を傾げるユースティティアに挑発で答えるシュテル。

シュテルへの対話を継続しながらも『F-GOLEM』を経由して様々な情報を獲得していたユースティティアは、彼女の制御する機体にある異物の存在とその意図を理解し、相棒(バディ)と呼ぶ彼に教えることはなかった。


たとえ、協力者であるシュテルに困難が待ち受けていようと。

ユースティティアは彼が困難に直面するまで、いつもそれを止めようとしなかった。


彼等が乗っている『F-GOLEM』

その機体は、格納庫の壁に背を向けて置かれた巧妙な位置によって誰にも見えないように、ボディパーツの背面に『円筒』が括り付けられていた。

ざっくり三行シュテル君ヒストリーァッ!


相方によって職なし借金ありにさせられてぇ!

リアルな『APST』パイロット達の一生を辿る見取り稽古で『APST』の操縦を学びぃ!

『APST』パイロットになり届いたのは時代遅れの第一世代だったぁ!


彼の悪運は絶好調です。


設定関係〜『APST:BM』編〜

『F-GOLEM』シリーズ

第一世代の『APST』において、最も長期運用された『ネシキナル』系機体。

最大の特徴は、『APST』全機体中で最も切り詰められた二脚のレッグパーツ。元は他『APST』と変わらない大きさに設計されていたが、建造過程で被弾率軽減・脚部への負担解消・軽量化の三つが優先されるようになり、性能を下げてまで脚部機構の単純化を追求し、完成時では脚部の全高が二分の一になった。

不格好な脚がやたらと目立ち、「どんな『APST』も脚部を『F-GOLEM』にするだけで二頭身になる」という話は『APST』に携わる者には有名。


第一世代の『APST』は、急速な兵器技術のブレイクスルーによって費用対効果の低さが問題視されほぼ全機が廃棄されている。

最後に残された一機の『F-GOLEM』がシュテルの乗る機体になった。


格納庫

いわゆるロボット専用ガレージ

様々な機体パーツを保管出来るように大きく造られて居るが、引越し可能な建築物

維持費は『APST』パイロット負担だが、シュテルが気づくのは参考書を読み終えてから。


G制御システム

APSTやNA等の胴体パーツに内蔵される、パイロットのG負担を軽減する装置。

光学系武装やブースターなどに次いで消費されるエネルギー量が高い。

一般的に、優秀な制御システムほど高速移動を可能にするものの、必要エネルギー量も比例して大きくなる。

機体に組み込まれた時点で改造不可能なブラックボックスとなり、それ故か、APSTの胴体部を見るだけでその機体の速度限界を把握出来る猛者もいる。


設定関係〜その他編〜

AI(人工知能)

性能差はレベルで表記される。

レベル一からレベル三までが民間で利用されるAIで、レベル一ではそれこそデータ記録などの単純作業止まりだが、ある程度安定した生活を送る家庭では家事炊事全てを死ぬまで機会任せにできる所もあるにはある。

レベル三からレベル四までが一般系企業の導入しているAIで、重要な項目以外のデータ管理や手続き等は大抵任せられるような性能。

長い年月を経た現在もAIの発展と普及が進まなかったのは、AIの進化よりも先に『AIハッキング』という技術分野が誕生したため。

因みに、『APST』に搭載されるAIはレベル三が標準。

これもまた、AIハッキングによる対策の一環だとされている。


――『電子生命体』と呼称されるような所謂人格搭載型AIの開発は『第一回:二大企業研究会議』で禁止され、該当AIとその所持者は『消去処分』するよう決定している。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。