ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ
廃線を見に行った
雨が降っていた。
ハイキングのつもりで誘ったのだが、彼も気を遣ってなのか「雨のほうが雰囲気がありますね」と言う。
有料道路を足早に駆け抜け、きっちりと幌を下ろしたオープンカーを停めた。
クルマを停めたときには雨は小降りになっていた。
廃駅でサンドイッチを作って食べた。
雨はやんだようだ。
荷物を持ち直すと歩き出す。
雨に濡れた草が辺りを清浄なものに変えていく。
線路が残っていて、いかにも廃線の雰囲気を色濃く残す。
不思議な感覚だ、線路を歩くということは。
スタンド・バイ・ミー、と彼が言い、ああ、と思う。
When the night has come
And the land is dark
And the moon is the only light we see・・・
けど、あの映画は青春物のようで、本当はホラーなんだよな。
死体を見つけてしまう話。
しばらくいくと廃線は山へと続いていく。
そこは夏の雑草が藪のように行く手を遮っていた。
雨も激しくなってきたので引き返す。
クルマで山を迂回する。
今日の目的はトンネルを見ることだ。
廃線のトンネルを見たい。けれども、そこは山に入らないとたどり着けない。
だが、激藪に入らなければ山には入れない。
ジレンマだ。
消えてしまった鉄橋を見上げ、また移動する。
再び山を迂回すると線路が再び現れた。
「ここなら、向こうの畑の脇から奥に出られそうだ」
そう伝えて強引に突っ込んでいく。
そして、そこにトンネルはあった。
ぬかるんだ線路はトンネルに近づくにつれて藪は浅くなっていた。
日陰のおかげで成長が遅いのだろう。
そうしてトンネルの入り口までたどり着いた。
あたりは霧が立ち込めていた。
トンネルの向こう側は霧にぼやけて幻のような姿を見せていた。
「トンネル、入ってみる?」
そう聞いてみるのだが、彼は、その真っ暗な闇に怖れをなして首を決して縦には振らなかった。
仕方ないので、そこで写真を撮って帰る事にした。
長いコードが巻かれて置かれている。
廃トンネルのものなのか。その薄汚れたコードの束の上に、真新しいバッグが置かれていた。クーラーボックス、なのか。
廃線ファンの忘れ物かな。
これだけ雰囲気を残した廃線だから知る人の間では有名なのかもしれない。
でも、と思う。
このクーラーボックスを忘れていった廃線ファンは、ここで一休みした後、トンネルに入ったのだろう。山を迂回してきた我々は知っている。トンネルを抜けた先は激藪だ。その人はトンネルに入ったにせよ、必ずここへ戻ってきたはずだ。
戻ってくるつもりだったからこそ、ここへ置いていったのかもしれない。
こんなに目立つのに、どうして置きっぱなしになっているのかな。
トンネルの向こう側は、霧に遮られて幻想の世界のようだ。
まるで別の世界につながっているような、そんな気がした。