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小さな恋の物語④ふたりを隔てる川

その四 君だけに 誓うLoving You 永遠に

 光る君が建てられた豪邸パレス六条は平安なる日々でございます。各ヴィレッジのプリンセスは生き生きと楽しそうにお過ごしですし、SKJや源ちゃんズも仕事に恋に充実しております。光る君もあいかわらず(源ちゃんクオリティ)のお暮らしぶりでございましたね。


 さて、その平安なるパレス六条から少し離れて、夕さまと雲子さまのお話の続きをいたしましょうか。幼馴染としてご一緒にお育ちになられたおふたりはいつしか恋心を抱くようになり、幼いながらにも結婚の約束をなさいました。けれどもふたりの想いとはうらはらに、雲子さまのお父さまである頭中将さまによって引き離されてしまったところまでをお話いたしましたわね。


 元服をして正式に宮中でお勤めするようになった夕さまは三条邸を離れられました。お父さまの光る君から母親代わりとして花子さまを紹介され、花子さまの元でお暮らしになることになりました。優しく温かく気遣ってくれる花子さまに夕さまも次第に打ち解けてゆかれます。お母さまの葵子さまを覚えていない夕さまにとっては花子さまが初めて接する母親のように思われたことでしょう。


 花子さまもご自分にお子さまがいらっしゃらないので夕さまをとても可愛がられます。いつしか夕さまも「母さん」と花子さまのことをお呼びするようになっていらっしゃいました。

 雲子さまと引き離された寂しさや悔しさはいつまでたっても癒えることはございませんでしたが、花子さまとの穏やかな生活は夕さまのお心を少しばかり明るくはしたようでございます。


「夕くん、今日もお仕事ご苦労様ね。残業もほどほどにしてね」

「母さん、心配性だなぁ。大丈夫だよ。ありがと」


 雲子さまを迎えに行くためにはご自分が出世をして官位を上げなくてはなりません。雲子さまのお父さまの頭中将さまも同じ宮中でお勤めでいらっしゃいます。夕さまは頭中将さまに認めてもらえるよう仕事に打ち込むことになさいました。


「もう絶対に泣かせたりしない」

 思い出すのは別れ際の雲子さまの泣き顔です。

 自分がもっとしっかりしていればこうならなかったのかもしれない。

 自分がもっと早くにおじさんに話をしていれば許してもらえたのかもしれない。

 あの日から夕さまはずっと考えていることです。


 けれども時間をさかのぼることはできませんし、過去を変えることもできません。

 実直な夕さまは頭中将さまを恨むこともなさいません。すべては自分が至らなかったからこれからは勉強も仕事も努力して人間として大きくなる。そうして頭中将さまに認めてもらえる男になろうと心にお誓いになられたのでした。


「大きくなったらけっこんしようね」

「ずっといっしょにいようね」


 この約束を果たすためだけに夕さまは努力の日々を送っておられます。


 引き離された夏が逃げ、初めてのひとりの色のない秋が過ぎました。雪だるまを作ることも眺めることもなく冬も素通りしていきました。




「さくらがそろそろ咲きそうだね」

「そのようですね」

「うちのさくらはまだまだ咲きそうにないのかな」

「そのようですね」

 頭中将さまと雲子さまの会話でございます。頭中将さまのお屋敷に引き取られた雲子さまは用意されたご自身のお部屋からまったくお出にならない生活をなさっておいででした。

 最初のうちはお食事も召し上がらず、ふとしたことで気を失い倒れてしまうほどでございました。さすがに頭中将さまもご心配になり病床の雲子さまをお見舞いになられました。


「どうか食べられるものだけでも食べてくれ。このままでは死んでしまう」

 無理やりに屋敷に連れてきたのは少し強引すぎたかと頭中将さまは反省なさいました。

「お願いがございます」

 起き上がるのもやっとの雲子さまがそれでも必死で正座をしてお手をつかれます。

「縁談を進めるのをやめてください。私はどなたとも結婚しません」

 決意に満ちた目でお父さまをごらんになります。

「そのお約束をしていただけるのならお食事をいただきます」


 これ以上強引に物事を進めたのならそれこそ本当に死んでしまいそうな雲子さまのご意思に頭中将さまは圧倒されてしまわれます。

「わかった。わかったから食べてくれるな?」

 雲子さまはゆっくりと頷かれました。

「お約束を反故なされたら、私は舌をかみきって死にます」

 うっ、と頭中将さまは息をのまれましたが、仕方なくその条件をのむことにいたしました。とにかくまずは「普通の姫君」になってもらわないと。そう思われました。

  

 お父さまがお部屋から出ていかれたので、雲子さまはまた臥せられました。手には肌身離さず持ち続けているあの扇子を握りしめていらっしゃいます。


「誰とも結婚なんかしない」

「迎えに来てくれることを信じて待ってる」

 雲子さまがあの日誓ったことでございます。幼いとはいえ夕さまも雲子さまも真剣でした。幼いからこそ純粋に相手を想っていらっしゃいました。自分との結婚を認めてもらうために夕さまが必死で努力しているのなら、それを信じて待っている。誰とも結婚しない。それだけが雲子さまにできることでございました。


「大きくなったらけっこんしようね」

「ずっといっしょにいようね」


 雲子さまを支えるのもこの約束でございます。こちらも必死で日々をお暮らしでございました。


 早いものであの別れた七夕の日がやってきました。今年も天空の恋人たちの逢瀬は叶ったようですが、地上の織姫と彦星は逢うことはできません。



 今日も夕さまはお仕事に励んでいらっしゃいます。昇進のための資格試験を受けるように勧めれていらっしゃるようでございます。


 雲子さまもお部屋にて和歌や琴などのおけいこをしていらっしゃいます。染物やお裁縫もSKJから教わっているようでございます。



 表面上は穏やかに努めて平安を装っているおふたりでございました。



♬BGM

月の光(ベルガマスク組曲第3曲) ドビュッシー


✨『げんこいっ!』トピックス

 貴族の身分には一位から九位まで(さらに細分化)あり、夕のような貴族の子弟は元服すると四位くらいの身分を授かるのが普通だったが、父の光る君が夕に与えたのは六位の身分だった。


☆次回予告

小さな恋の物語⑤割れてしまう瀬の早み

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