さざえさんの憂鬱
その三 仁義なき 戦も裁きも 平安なり?
さてさて、ひょんなことから沸き上がった総選挙は結果が出るまでにしばらくかかりますので、少し息抜きのお話でもいたしますわね。
皆さまがパレス六条に引っ越していらしたのが桜の咲く頃でしたが、うららかな風が薫る皐月となりました。今日は葵祭の日でございます。光る君が勅使(帝の使い)として行列にお出になるので、滅多にお出かけをしない女性陣もお祭りの見物に出かけることになったようでございます。
行列のコースに牛車を停めてその中から見物することもあるのですが、光る君は大切な奥さま方のために通り沿いに桟敷席を用意なさったようでございます。通りに面しているお屋敷の眺めのよい2階席をご用意なさいました。このお屋敷は大人気のようで多くの貴族さまがご利用になっていらっしゃるようでございます。
光る君のご一行も紫子さま率いるチームすぷりんぐに花子さまとチームさまー、それに明子さまとチームういんたーがこちらのお屋敷へとやってまいりました。
奥さまがたがお座敷へと移動していきます。最後尾をチームういんたーのさざえとあさりが歩いておりました。
そこへ見知らぬ集団がやってまいりました。どうやら光る君の政敵ウダイジン家のご一行さまでいらっしゃるようですわね。
「まあまあ、華やかなお色目の襲やこと」
襲とは何枚か重ねた襟元の色使いのことでございます。
顔中に笑みを浮かべたウダイジン家の女房が前を歩くさざえに話しかけます。
「それほどでもございませんわ。ほほほ」
褒められて気をよくした破顔一笑のさざえでございます。
「斬新な色合わせやわぁ。ねえ?」
ほんまやなぁと女房同士がくすくすと笑っております。
「そうかしら。ほほほほほ」
(さざえさん、違います)
さざえの斜め後ろに控えていたあさりがさざえにこっそりと耳打ちします。
「何なの、何が違うの? 今こちらさまとお話を……」
ごちゃごちゃうるさいわね、とさざえはあさりに注意をしようとします。
(褒めているんじゃありません。゛華やか゛ということは゛派手゛って言われているんです)
「はぁ?」
(どういうことなの?)
さざえが眉間にしわを寄せます。
(京特有の言い回しです。言葉通りとっちゃいけません)
あさりが小声でさざえに伝えます。
(『まあ年甲斐もなくそんなハデな色着ちゃって、わたしたちみやこびとはとてもじゃないけどそんな組み合わせ着られないわ』って言ってるんです)
「!!!」
さざえがあさりの翻訳に息をのみます。見ると彼女たちは「よう似合たはるわぁ」とまだ笑っています。
さざえは明石にお住まいだった明子さまの家でお仕えしており、明子さまについて京に来たので女房としてのキャリアはバツグンでも京についてはまだまだ慣れていないところもあるようです。あさりは明子さまが京に来てから新しく雇った京生まれの娘ですので、みやこびとの話のウラおもてがわかるのでございます。
「そちらさまの山吹のお色目と裏山吹のお色目こそ素敵ですわ。おふたりお揃いになると色合わせがいっそう映えますわね」
あさりがそう言うと、きらん、と女房Aの目が光り、ぱあっと女房Bの顔がほころびます。
「まあまあ、若いのによう知ったはるなぁ。優秀な方がついたはってあなたさまも心強いことどすなぁ」
ふふ、と女房Aがさざえに笑いかけます。
(今度はなんて?)
さざえは目であさりに尋ねます。
(大丈夫です。言葉通りです)
あさりも目で応えます。
「そうなんですの。ほほほほ」
努めて優雅にさざえは答えますが、またあさりが袖を引っ張ります。
(なんなの? 言葉どおりなんでしょ?)
(こちらが肯定しちゃダメです。まだ未熟者だって否定してください)
「い?」
思わず口に出してしまい、さざえはあわてて取り繕います。
「い、いえいえっ。まだまだまだまだ未熟でして……」
おほっほほほほほほ。
まあまあ、いややわぁ。
「最近はみやこ以外からもぎょうさん来たはるんやなぁ」
「主上(帝)の御代が栄えたはるからどすなぁ」
「華やかなことどすなぁ」
(【翻訳】イナカもんが何しに来てんの? とっとと田舎にお帰りやす)
おほっほほほほほ、と高笑いをしながらウダイジン女房ズは立ち去っていきました。
「あさり……」
「はい」
「みやこびとはみんなこうなの?」
「まあ、そうですね。親しくない場合は特にそうですね。おまけに今回はウダイジン家でしたしね」
「京ではこういうお付き合いに慣れていかないといけないのね」
はぁぁ、とさざえが深いため息をつきます。
「大丈夫ですよ。慣れますから」
あさりは優しいフォローをします。
「今日は助かったわ。ありがとう」
「いえ」
「頼りにしてるわ」
「ありがとうございます」
「わたしの言葉にウラはないわよ?」
んぷっ! とふたりで笑い合っています。
「サイン決めましょ」
さざえがぽんっとてをたたきます。
「はっ?」
あさりはその決意に満ちたさざえの横顔をみつめます。
「ウラがあるときは手のひらを見せて咳払いをひとつね」
さざえがてのひらをひらひらとあさりにふってみせます。
「はぁ」
あさりが力弱く笑います。
「あくまでも自然によ。髪や衣装を直すフリをしながら手のひらを見せるの」
髪をさわっては手をフリフリ、襟合わせをさわってはフリフリフリ。
「はい」
目の前がちらちらしてとてもじゃないけど自然には見えない、とは言えないあさりです。
「ウラがないときは手の甲ね。咳払いはナシ」
今度は右手の甲をこちらに見せながら肩や胸、二の腕などを触ります。まるで野球のバントの指示のようでございます。
「わかりました」
あさりはくすりと笑みをもらしながらもそう答えました。
「さあ、お祭り見物を楽しまないとね」
「そうですね」
「殿もお通りになられるし、他のいいオトコも観られるかしらね?」
「そうですね」
ふたりで歩きながら指定された席へとつきます。御簾をたらした前方の席に明子さまと姫子さまがお座りでいらっしゃいます。その後方にほたてが控えております。
「ほたてぇぇぇ」
突然さざえがほたての横に崩れ落ちるように座り込みました。
「さざえさん? どうしたの? どこ行ってたの?」
訳がわからないのはほたてです。
「怖かったのぉ。こわかったのぉぉぉ。おぉぉぉぉん」
ほたても明石から京にやってきた仲間の女房です。事情はわからないながらもほたてはよしよしとさざえの肩や背中を撫でてやります。
本日もパレス六条、じゃなかったチームういんたー一応平安なり? でございます。
☆本日のBGM♬
Let's Swing!
✨『げんこいっ!』トピックス
「ちょっとあがっていかはったら?」
「ぶぶ漬け(お茶漬け)でもどうどす?」
みやこびとのこんな誘いにホイホイ乗るとあとでエライ目にあう。(……らしい)
☆次回予告
さざえさんの反撃




