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月夜の品定め 満月の夜

その二 恋絵巻 壁ドンあごクイ ときめいて

「「「お疲れ」」」

 がちん、とビールジョッキの合わさる音でございます。

 こちらは源ちゃんズの詰め所でございます。日々光る君にお仕えする忠実なるしもべである源ちゃんズの面々ですが、当然勤務外(オフ)もございます。

 プライベートも忙しい彼らですが、たまにはこうして仲間同士での飲み会もあるようですね。


 澄みきった夜空にぽっかりと浮かぶ満月の夜でございます。


 満月といえば光る君にとっては藤子さまでございます。光る君の初恋の君が月に帰ってしまったのは満月の夜のことでした。

 源ちゃんズの話題も藤子さまのことのようですわね。


「殿の永遠の憧れだからな」

「初恋にして実らなかった恋だもんな」

 お別れの際に藤子さまから頂戴したチョコを光る君のパティシエ甘介は研究改良いたしました。そのチョコと恋のお歌を満月のたびに光る君は月にお供えになるのでございます。


「まあ、引きずるわな。あれじゃ」

「だからの満月チョコだもんな」

 源ちゃんズは手元にあるチョコを口にします。

 月を見上げる光る君のあまりの切なさと美しさに「お供え物は月の使者が持っていった」と弦一郎がうっかり言ってしまってからは、チョコはこうして源ちゃんズでこっそり食べることになっているのでございます。お歌やお手紙は光る君に見つからないように厳重保管しております。源ちゃんズの最高機密でございます。


「でもさ、キレーだったよな」

「見たの?」

「雰囲気が……な」

 お側近くに控えることはあっても光る君の大切な方のお顔やお姿を見ることはあまりございませんでしょうね。


「ちょっとさ、紫子さまに似てる」

「見たのかよ?」

「雰囲気が……な」

 あくまでも声や振舞いや御文などからの推察、妄想、といったところでしょうね。


 ◇


「超絶美女だよな? 紫子さま」

 話題は紫子さまに移りましたね。


「そうだよな。()()()()()()()()()女君プリンセスを見てきた殿だってめっちゃ美人って言うんだからな」

 紫子さまはお小さいころから光る君とご一緒にお暮らしですので、源ちゃんズの皆もお顔やお姿を見ているようですね。

()()()()()()()()奥さんや恋人がいるけどさ、紫子さまにはデレデレだよな」

「特別な存在なんだろうな」

 目の前の七輪では焼き鳥を焼いているようです。弦一郎がこまめに位置を入れ替えてくるくると焼いております。袖が邪魔にならないようにたすきがけして生き生きしておりますわね。

 

「小さいころから理想通りに育ててさ」

「壮大、遠大だよな」

「金もヒマもねぇとできねぇぜ?」

「ホントだよな」

 ―― 男のロマン、理想の妻の育て方 ――

 『週刊平安』でも特集されたことがございました。


「でもさ、紫子さまのお言葉に裏っていうか別の意味があるような気がするのは俺の気のせい?」

 焼き鳥をタレにつけながら弦一郎がそんなことを言い始めます。

 気のせいにしておこう。気のせいにしておかなければ。気のせいにしておくんだ。弦一郎お得意の゛気のせい゛変格活用までして考え込んでいたようです。

「僕もそう思う」

 人間観察が趣味の弦三郎ですね。

「だよな?」

 同意が得られたことに弦一郎はホッといたします。

「そうなのか?」

 恐妻家管二は気づいていないようですわね。


「殿は疑ってないじゃん? いいんじゃねぇの?」

 この口調はある意味光る君の盟友、管一ですわね。

 光る君が気づいていないことには満場一致で決まりのようでございます。

「まあ、いいんじゃない?」

 何事も穏やかに円くおさめる管三。ビールを飲み終えた管二や弦二郎に焼酎の水割りやオンザロックを作ってやります。管一は缶チューハイを開けているようですわね。


「いっか? 仲良さそうだし?」

 何も俺らが知らせることでもねぇよな、とムードメーカーで事なかれ主義の弦二郎。

「「「そうそう」」」

 紫子さまの心の声に気づいている者と気づいていない者とがいるようですわね。

 光る君は思いやりあふるる従者に恵まれております。


 ◇


「葵子さまはさ」

 次は葵子さまのお話ですわね。


「家柄も良くて頭も良くて」

「お顔も綺麗だって殿言ってたぜ」

「非の打ち所がないってのが唯一の非なのかな」

 皆の動きが止まったようでございます。弦三郎のスルドイ指摘ですわね。


「わかるわー、ソレ」

「カンペキすぎるってことだろ?」

 焼き鳥ができあがったようですわね。弦一郎が皆に配ります。七輪2つを駆使してタレ用と塩用と作っております。

 

「殿もまあ、痛々しかったな」

「ものすごいそっけなさだったもんな葵子さま」

 光る君が甘介に作らせたフォンダンショコラにも見向きもなさいませんでしたわね。


「でもな、夕さまお産みになって殿ともうまくいきそうだったのにな」

「やっと氷が溶けたのにな」

 春の訪れるほんの前の永遠のお別れでございました。

 源ちゃんズ、しんみりと献杯でございます。


 ◇


「夕子さまは殿の青春だよな」

「若い恋ってカンジ」

 どうやら次々とプリンセスについて語るようですわね。


「縁側で水かけあったりしてな」

「キャピキャピってか」

「キュンキュンっつか」

 弦一郎は手酌で焼酎を飲みながら次々と焼き鳥を焼き続けます。つくねに皮にネギまにレバー、弦一郎焼き鳥、大人気のようでございます。


「ふたりとも可愛らしいというか」

「殿も夢中だったよな、嬉しそうに宮中でスキップなんかして」

「マカロン持ってすっこけてたな」

 くくっと思い出し笑いをしているようですわね。


 ◇


「六子さまはものすっげぇ美人さんらしいけど控えているとなんか気が張ったよな」

「お屋敷とかも立派すぎて確かに緊張したわな」

「でもあるよな、年上のお姉さんに憧れる時期」

 ああ、あるある、と大いに盛り上がります。


「殿はレベルの高い歌のやりとりとかがいいって言うけどな」

「……楽しいんかな?」

「楽しくはないだろ?」

 

和歌()のかけひきにゾクゾクするんじゃね?」

「ゾクゾクって別のぞくぞくなんじゃ……」

「……なんか寒くね?」

「シメのラーメン作るか?」


 満月がそろそろ南中のようでございます。源ちゃんズによる『月夜の品定め』はまだまだ続くようでございますね。


 本日もパレス六条平安なり、でございます。


 ♬BGM

 ハイホー(Hi ho!)       (白雪姫より)


 ✨『パレス六条』登場人物紹介

 夕子さま 平民出身の胸キュンベル


 ✨『げんこいっ!』トピックス

 厳重保管の藤子さま宛の手紙箱の暗証番号は225(ふじこ)


 弦一郎の「気のせい変格活用」については番外編『ジングルベルを鳴らそう』にて

☆次回予告

ペントハウス『ムーンハイアット』

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