捌
「あぁ!!」
突然一人の侍女が顔を覆って崩れ落ちてしまった。
「ごめんなさい! スバル様ごめんなさいぃぃぃ!!!!」
泣き崩れる侍女に先輩の侍女や他の女官達は彼女の肩を抱いて「貴女は悪くない」「悪くないわ」と言って慰めながら彼女を連れて広間を離れた。
不敬な行動を起こした侍女を王族達は咎めず、逆に同情や哀れを含んだ視線を送った。
「……ご存知ですか? 神子様、殿下方」
レフィアナは口元を引きつった笑顔を向ける。
「魔族達は手始めに近くにあった小さな小さな村を襲いました。そこは……そこは、スバル様が初めて訪問した村であり、私達に心を開いてくれた切っ掛けを作ってくれたあの村でした。……スバル様は彼等を助けようとしてっ」
何故魔族達がその村を狙ったのか分からない。
近かったから、はたまた唯の気まぐれか。兎も角魔族達はあの村を襲撃したのだ。直ぐに騎士団とスバルが駆け付けたが、ただの人間が魔族に勝てる訳はなく。立っていたのは魔族と立つのがやっとのスバルだけだった。
魔族は怯えて縮こまる村人達と傷だらけで倒れている騎士団を人質にした。
『その気配、お前異世界人だな?』
魔族の一人がニタニタと嗤った。
スバルが異世界人だと知った魔族達は取引を持ちこんだ。
『だったらどうする?』
『お前が俺達とくればコイツ等の命は助けてやろう』
『いけませんスバル様!』
騎士団や村人達は只管自分達に構わず逃げる様に言うが、魔族の一人が幼い男の子の首を捻りあげようとした時だった。
『分かった! 私がお前達に着いて行くから誰も殺すな!!』
「先程泣き崩れたのは殺されそうになった男の子の姉です。スバル様が自らを犠牲になってくれたお陰で騎士団も村人も誰一人犠牲者を出さなかったのです。彼女を救出するまで五カ月も掛かったのです。ええ、騎士団だけではなく、城を守る衛兵や非力な文官、国民だけではなく王族からも志願兵になると言う人が何人も出て、剣聖や知聖が前線に立ってそれでやっと取り戻したのです。
……誰がお前等の様な穀潰し共に時間を割ける暇があるかっ!!!!!!!!!!!!」
レフィアナの血反吐を吐きそうな苦痛の慟哭は広間の空気を揺らす程だった。
ライアンは妻の肩を優しく抱きながら神子達を睨む。
「保護されたスバル様はとんな惨劇でも顔色を変えなかった剣聖さまが泣き出す程の惨状でした。……女神子様、王女様方。同じ性別なら何があったか想像できますね?」
女神子や王女達は想像出来たのか顔を真っ青に染まった。