第3話 火遁の術
僕は、結局、棍棒の復讐はせずにこっそり城から逃げ出した。
城から抜け出すと、太陽がちょうど真上にきていて、正午くらいの時間であることがわかった。
城の外は、城壁に囲まれた市街地が形成されており、城門を通らないと外に出ることができない仕組みとなっていた。
僕は、門番の警備兵を【神の眼】で見た。
ダン
性別:男
職業:警備兵
レベル 85
腕力 20
体力 20
速度 20
魔力 3
精神 5
魅力 5
スキル:断頭 連続攻撃
なんと、レベル85の警備兵だった。
腕力なんて一般人の4倍はある。
見た目からして筋肉モリモリだ。
それはそうだ。
帝都の門を守る人間が弱いはずがない。
国の金で鍛えているんだ。当然だ。
僕は、すっかり委縮してしまった。
僕は、看守の装備のままでは、目立って捕まってしまうと思った。
そこで、雑貨屋を見つけ、看守の装備を売却して、目立たない服装に着替えようと考えた。
看守の装備は汎用の城の警備兵のものであるらしい。
こんなものを売却してしまえば、足がつくかもしれない。
そこで、僕は、考え方を変えた。
裏路地を歩いている僕と同じくらいの背格好の男を襲い服を奪い取ろうと考え、それを実行した。
裏路地を歩く男を【神の眼】で見た。
ジョン
性別:男
職業:平民
レベル 1
腕力 3
体力 3
速度 4
魔力 3
精神 3
魅力 4
スキル:なし
よし、この男なら勝てそうだ。
僕は、男の首を絞めて気絶させ、服を剥ぎ取り、身体はそこらへんの空き樽の中に隠した。
この世界の服装になじむ格好に着替えた僕は、城門からの脱出を考えた。
なぜならば、不良品だからといって人権を無視し、尻に棍棒を突っ込み、生贄にしようとする皇帝が治める帝国などろくでもないからだ。
そう思って、城門を観察していると、この国から出国するには、身分証明書のようなものが必要ということが判明した。
「くそっ、強硬突破に失敗すれば、またひどい目に遭うぞ」
僕は、女神から、勇者の力を授かっていたが、さすがに一国の警備戦力を相手に無双するのは無理だろうと考えていた。
そこで、忍者漫画で火遁の術という技術の説明がされていたことを思い出した。
本来の火遁というのは、火を使って逃げる技術ということだ。
帝都の城壁は石造りで防火性が高そうであったが、市街地には、木造の建築物も散見された。
僕は、木造家屋に放火をすることで、鎮火に多くの警備兵が集まることで、城門から逃げ出す機会を作ることができないかと思った。
そこで、僕は、炎の魔法を行使することで家屋を燃やすことにした。
僕は、勇者としての【能力】を得たことで、魔法を行使できるようになっていた。
僕は、帝国民までに罪はないと思い、なるべく人が住んでなさそうな建造物を探した。
そして、およそ人が居住するようには見えない小汚い建造物に【火炎球】の魔法を使い、放火をした。
しばらくすると、炎が燃え広がり、建造物の中から助けを求める声が聞こえてきた。
あれ?人が中にいたのか。
そう思い僕は、【神の眼】を発動した。
そうすると、中にいた人間の職業は兵士であった。
クソッ、あいつらの仲間か。
助けたいけど、僕の受けた被害を考えると、助けたい気持ちも萎える。
すまない。命は諦めてくれ。
そう心の中で念じつつも、周りを注意深く観察した。
そうすると、火が燃え広がることを抑えるために、警備兵がどんどん集まってきており、城門の警備が手薄になっていることに気づいた。
僕は、城門の外に逃げ出すことができた。
城門の外に出た僕は、周りを見渡したが、この世界の地理を全く理解していなかった。
どこに行けば分からなかったが、整備された街道を見ると、地名を表す立札が見えた。
来た道をそのまま戻ると、【サン帝国】ということだ。
そして、東に向かうと、【商業都市ゼニス】という場所につくらしい。
僕は、転生または召喚ものでは、主人公は奴隷で可愛い獣人の女の子などを見つけて、ハーレムを作る仕組みになっていることを知っていた。
商業都市に行けば、そこには闇市や奴隷市場もあるに違いない。
僕は、自分の欲望に忠実に商業都市に行くことにした。
僕は、遠くの方の帝都で煙が上がるのを背に、商業都市を目指した。