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⑧俺から見た四人

二人が辿ったと思われる道を一人で頬にある確かな痛みを感じながら、歩幅を大きくしピッチを上げ歩く。

再び直感的に行きたくないと思ったが、体は確実にしおりの家へ歩みを進めている。しおりは大学がある駅から4つ離れた駅の近くに住んでいる。しおりの家には数回行ったことがある。お家デート、ということではなく、単純に飲みつぶれ電車を逃してしまった時にお願いして泊まらせてもらった為、家を知っている。

しおりが住んでいる町の最寄の駅につく。見慣れてはいるが、自分が使う最寄駅に着いた時ほどに体が勝手に動くという感じではなく、こっちであってるかどうかを少し探りながら歩かなくてはならない。確か、駅の西口の階段を降りて、大きな道路に出て、道のりに進んで、適当なところで右だったような……


曖昧な記憶を辿りながら歩く。明るい時間帯に来るのは初めてなのが故に様々な所に目が行く。

ここ、ファミマだったけな? セブンじゃなかったっけ? あそこのマンションまだ工事してるんだ。どんだけ工事進んでないんだよ。6ヶ月くらいたってるぞ。


これぞ三毛猫って感じの三毛猫が有料駐車場にとめてある黒いキューブの下からこちらの様子を見ている。なんか文句でもあるのか、三毛猫の分際で。俺の気持ちが分かるのか。 きっとこの三毛猫は先に通った二人の顔も俺と同じようにじっと見ていたに違いない。ふざけた顔の男とカワイイと騒いでいる茶色の髪の女を。


不安視していた足取りは案の定、遠回りをしていた。普通は駅から十分で着くところを二十分もかかってしまった。まぁ、結局目的の場所に着けたからよしとしよう、と自分の足取りを許した。


しおりの住んでいるアパートはなんだか古びている。しっかり外壁は白く塗装されているが、ところどころ剥がれており、その剥き出しになった茶色い部分から古びた印象を受ける。田舎っ子のしおりだからそんなことは気にも留めず、ここに住むことを決めたのだろう。駅近だし、三階建ての三階で眺めが良いしってね。


見た目は綺麗な階段を上って行く。しおりの部屋の前に着く。あとはこの音符が着いた黒いインターホンを鳴らすだけ。


——どんな顔で入ればいいのか


ドアの前でポケットに左手を突っ込みながら、考える。中にはゆうきとあやかはいるのだろうか。しおりはあまり自分の家に人を入れたがらないから、適当な理由をつけて、二人を返したのかもしれない。


笑い声。何人かの笑い声が中から聞こえる。ああ、みんないるのかと先ほどの考えた時間が無駄であったと感じる。家の中の笑い声で溢れるような空気ならなんとかなるかも。いや、逆に空気を壊してしまうかもしれない。

右手の人差し指が曲がったり伸びたりしている。


スイッチを押した時のカチッといった感触と同時に高い機械音が部屋の中に鳴り響く。結局押すしか選択肢は元々なかったのだ。


はーい、と綺麗な声とともに彼女であった人が扉をあける。


「どうぞ。みんなそろってるよん」


早く早くと言っているような手招きをしている。


正直ホッとした。もっと気まずいかと思った。いや、みんな気まずいけどその空気を出さないようにしているのかもしれない。とりあえず様子を見ないといけないな。


靴の踵の内側に指を二本突っ込み靴をぬぐ。綺麗に並べられている大きさが異なる三足にならって自分の靴も並べる。


しおりとともに細い廊下を抜け、しおりの家でいうリビングにつくと、二人がクッションを抱き抱えて、足を自由に伸ばして座っている。


「くるの、おっせーぞ、元彼さん」


ゆうきがいつもみたいに顔にシワを目一杯よせて言っている。やっぱりゆうきにデリカシーはないと改めて思った。顔面に殴りかかったのなんて知りませんといったような顔をしている。俺は適当に座る。すると、あやかが何かを思い出したかのように、


「あ、さっきまで話してたこと話すね」


と言い、アナウンサーが原稿を読む時のようにスラスラ話しはじめた。


「しおりちゃん、もともと大学辞める予定だったんだって。後期が始まる前の夏休み中に。だから別れたことがショックで辞めるわけじゃないんだよ。もともと経済的にもこの時期までしかいれないんだって。一人暮らしもお金がかかるし。私たちに言わなかったのは心配させてしまうのと、自分から言うのは少し寂しかったからだって」


しおりを見ると頷きながら笑っている。いつもの笑い方で。

俺は誰かと目を合わせたくなかったので、話を聞きながら部屋をなんとなく見渡す。

しおりの部屋は以前来た時よりも生活感がない。部屋があまりにも綺麗すぎていることに気がついた。


「んで、いつ東京離れるんだっけ?」


ゆうきがクッションを手で揉みながらしおりに問いかける。


「えーと、ちょうど来週の今日にここから離れるよ」


しおりが部屋に掛けてあるカレンダーの方を見ながら言う。今日の日付の所には赤いペンで『ラスト!』と書かれている。


ゆうきがクッションを抱き抱えたまま立ち上がる。髪の毛を揉みこみながら言う。


「というわけで、しおりちゃん今までありがとう会を開催しまーす!」


ゆうきが隣の部屋にも聞こえるくらいの声で言う。今から買い出しに行って参ります、とゆうきが俺の腕を引っ張り強引に外に連れ出す。戸惑いながらもゆうきとともに外に出た。


しおりの家から近くのスーパーに行く。歩いて五分ほどだ。その道のりでゆうきと特に話すこともなかった。

ゆうきが俺にカートとカゴを渡し、カート係はお前な! と言わんばかりに押し付けてくる。

カートを押しながら、少し気になったことをゆうきに聞いた。


「しおりってさ、どこに帰るの?」


「どこって、山梨だべさ。両親もそこにいるだべさ」


ゆうきは山梨の人の方言が『だべさ』だと思い込んでいる。山梨に両親なんかいる訳がない。おそらく、しおりの父の両親が住んでいるところだろう。しおりは二人に真実は話していないみたいだ。


ゆうきはたこ焼きの具材を次々カゴの中に放り込んでいく。これは多すぎ、と言ったがゆうきは、食べれる食べれると、言い張り聞かなかった。ゆうきは大量のお酒もカゴに入れていく。俺はそれを見て、ジンジャーエールとウーロン茶を数本カゴにいれる。



今にも破けそうなビニール袋を一人二袋ずつ持ってしおりの家に帰る。


何を作るの? としおりがゆうきに問いかけるとたこ焼き! と嬉しそうに言う。しおりは、私の家にたまたまたこ焼きがあって良かったね、と言うとゆうきは、そこまで考えてなかったわ、と言った。


材料さえ揃えばあとは想像通り。具材をボールで混ぜたものを熱したたこ焼きに流し込む。


冷やしておいたお酒を取り出す。ゆうきがビール缶を右手に上げ、


「んじゃあ、俺たちの友情にかんぱーい!」


と言い、こつんと三人の持っている飲み物に打ちつけあう。俺たちの友情、ね。


一口飲むと、アルコールはすぐに俺の血液を伝って全身に行き渡る。お酒はかなり弱い方である。ゆうきも弱い方だが、何回も飲むにつれて強くなった、らしい。

ゆうきが中心となって、四人の思い出話を語り出す。


去年の夏のBBQの話。あー、たしかあの時だったか、しおりが俺ら三人と仲良くなったのは。しおりがテキパキ動いてBBQの準備を進めていて。天使だ、女神だの言っていたなぁ。しおりもとても嬉しそうだったなぁ。


四人でネズミーランドに言った話。これも去年の夏休みに行った気がする。四人でペアルックをする予定だったのにゆうきが間違えて普通のTシャツ着てきて、みんながびっくりしたことがあったなぁ。


四人で年越しした話。この時も俺の家でたこ焼きパーティーだった気がする。ゆうきは人の家でご飯を食べる時は大体たこ焼きを提案してくる。しおり以外の三人ともべろんべろんで何を話したか覚えてないくらい酔ってたなぁ。


四人で京都に旅行に行った話。これは春休みに行った気がする。あやかが黒髪から茶髪になったのもちょうどこの頃だった。ゆうきが似合わねえな! とかデリカシーのない発言をしていたなぁ。


四人で……




いつの間にか寝てしまっていたようだ。お酒がまわった若干の気持ち悪さがある。たこ焼き機に焦げたカスが残っている。トイレに行こうと立ち上がると、唯一起きていたと思われるしおりが


「気持ちよさそうに寝てたね」


と言った。とにかくトイレ行きたかったが、しおりが続けて言うので立ち上がったまま聞く。


「私が東京を出る前に最後にもう一度デートしてくれない?」


さっきまで起きたてほやほやで意識がぼんやりしていたが、その言葉を聞いて意識がクリアになる。


「え?」


と聞き返す。

足元近くにゆうきとあやかが寝ている。


あやかが寝返りをうった、らしい音がした。











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