③おはようサマンサタバサ
土曜日。
待ちに待った休み。特にすることはないのだが、1人でただ引き立てのコーヒーを、ホットで飲んでいる瞬間が幸せを感じる。
一人暮らしのを始めて、もう2年。実家は神奈川だから、大学まで実家暮らしでも通えたのだが、家で家族といる空間が心地良いとは、到底思えなかったので1人暮らしを志願した。
ヴヴ
携帯が小刻みに振動した。LINEが来た振動だ。こんな俺にLINEをくれるのは、ゆうき、あやか、しおりの三択しかない。それ以外ならばどっかの会社の迷惑なDMだろう。
タッチパネルを素早くなぞる。やっぱり。
「おはようサマンサタバサ! 天気いいし、どっかいかね? 俺ちゃん珍しく暇なの☆」
はぁ、と短く息をはいた。しかし、誘われるのは素直にうれしい。返信を打つ。
「り。いつ、どこで?」
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ
携帯が踊りだす。ゆうきのスタンプ連打だ。急いで返す。
「わかった、わかった、1時に新宿でどーですか?」
「り」
自分の言い回しをうまく使われてすこし悔しい。携帯をガラス製のテーブルに置き身支度をする。
新宿は、いつきても忙しそうにしている。まるで、何かに追われて逃げる草食動物みたいに。
「うーすっ」
金髪、もさもさ、にやにや顔、低身長男が声をかけてきた。時計はちょうど1の数字に短い針が止まっている。
同じ言葉を小さく返した。友達に会った瞬間というのは、なぜかうーすっ、とか、ちーすっ、とかしか言えないものだ。やあ、とかはよく小説や漫画、ドラマで聞くが、現実には中々いないのではないだろうか。
とりあえず、ゆうきが食べたいと言っていたパンケーキのお店に向かう。結構な人気店だという。
「いやー食った、食った。甘すぎでしんどかったけど」
2人で1つがちょうどいいと店員さんにも言われていたのに、ゆうきが意地はって1人1つずつ注文した。そりゃ、しんどくもなる。
「んで、しおりちゃんと次はいつデートすんのさ、彼氏殿?」
言い方は無視。
「明日」
「まじかよ、死ねよリア充~」
「聞いてきたのはおまえだろ」
「んじゃ、しおりちゃんのどこが好きなの?」
「……そいうのはよくわかんないわ、具体的にどことか。」
「はぁ!? あるだろういろいろ! 顔とか、おっぱいとか!」
「外見だけかよ」
こいつは昔から本当に面食いだ。小学校のときも、中学、高校も可愛い子がいると聞いたら、すぐそのクラスに見に行ってた。そんなのに何回付き合わされたことだか。
「逆にゆうきの好きな人ってどんな感じよ?」
全然逆になってないけど、話をそらす。
急にゆうきが照れだす。面食いのくせして、仲良くなる勇気がないんだよな。他の女子とは仲良しなのに。こういうたじろいでいるゆうきを見ると、昔を思い出す。
「お、俺はびびっとくる人だよ。なんかこう、びびっと」
「びびっとねえ~」
ゆうきの言う、好きの定義が恋の正体ならば、俺はしおりに対して好きでもないし、恋すらしていないのだろう。