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②小動物のような

 金曜日。学生にとっては一週間、いや五日間の中での最後の敵である。


 すぐ近くで突然大きな音がした。


 すこしひんやりとしている机の上に、豪快にバックパックの尻を打ちつけている。うぃーす、とさっきまでそこで寝てましたというような顔で挨拶してくる。化粧もなんだか薄い。


「水筒漏れてるよ」


「え、嘘じゃん、嘘じゃん、え、え、えー」


 鞄を持ち上げたり、おろしたり、まわりこんだり、いろいろ忙しく触っている。あたふたしている姿は、小動物が食料を探してきょろきょろしている姿に似ている。


「嘘でーす」


「うざ! 本気で焦るからやめて、その類の嘘」


 もう疲れたと、言わんばかりに机に伏している。結局食料にありつけず、うなだれている。一限からこの様子だと、最後の敵は寝ながら倒すみたいだ。


 すると突然背筋をピンと伸ばしながら、起き上がる。


「ねぇ、聞いた? この授業の最終レポート、5000字だってさ。結構多くない?」


「多い。間違いなく、今学期最大の敵。でも、あやかレポート系強くない?」


「そうだけど、私は少し嘘ついて、きれいにまとめるのがうまいだけ」


 それも十分才能なんだよな、と褒めはしなかった。調子に乗るのが火を見るよりも明らかである。あやかのコスパの良いというか、省エネな行動が出来る部分はかなり羨ましい。分かってなさそうに見えて、実は誰よりもゴールが見えているし、裏技も知っている。鈍感そうに見えて、かなり鋭敏。

 もしかしたら………


 授業が始まって、20分くらいして隣をチラッとみる。予想通り熟睡。抜けてきた茶色のミディアムヘアー。先端は内側へすこし巻かれている。女子らしい良い匂いはしない。小動物のような丸い目、小さい顔、ぎゅっと握ったら、折れてしまうと思ってしまうほどの細い腕。両親もきっと小柄なのであろう。


 「認知行動療法は認知と感情を分けることが大切です。感情は変えることができませんが、認知は変えることができ~」


 おっさんのだみ声が教室を包み込んでいる。話は面白いのだが、話し方に抑揚がなく、この教授の授業は眠いで有名だ。教授の催眠術に、あやかはかかっている。


 

 感情で好きとは思っていない。認知でどうにかこの関係を、保っているのか、と腑に落ちてしまった。












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