⑪私から見た四人
二人が買い物に飛び出していったため、部屋にはあやかと私だけになった。あやかは部屋をぼんやりと見渡しているだけで、私と何か話す気ではないようだ。
この部屋も寂しくなっちゃったなぁ。使わないものはすでにダンボールに詰めてあるから、部屋には必要最低限の物しかない。
カレンダーは外しておくべきだった、と今になって後悔する。みんながいきなり来たから、とりあえず来週の予定のところだけ塗り消したけど、何故かカレンダーを外すという発想にはならなかった。
見られてはいけないものではないが、このカレンダーを見て何かを感じ取られるのが嫌なのである。
写真立てはダンボールに詰めてあるので、見られずに済んだ。
——あやかはずっと片思いしている
私が出した見解である。何故そう思ったのかは、決定的な何かがあるわけではない。女の勘、というか好きな男に見せる女の仕草というのは、同性からみるといとも簡単に分かってしまうものだ。好意を抱いているというシグナルはどうも男には届かないことが多い。
「しおりさ、どうして別れたの?」
あやかが部屋をぼんやりと見渡したまま聞いてくる。
いきなりこのことを聞いてくるなんてやっぱ本気だと女の私の勘が教えてくれる。
「どうしたの? いきなり」
なるべくこの話をしたくない。できれば話を逸らしたい。
「いや、単純に疑問だったから聞いたの。二人ともお似合いだったからさ」
"お似合いだった"という言葉に少し毒があるように感じる。あやかは多分私がこの話をしたくないというのも分かっている。それでも踏み込んでくるというのはやっぱり気持ちの根底それがあるからだと。自分の見解の証拠を集めていく。
「私があの人に頼りすぎてたの。向こうはそれを我慢してたけど中々本音を言わなかった。だからこのままだとあの人が不幸になるってそう思ったから別れたの」
淡々と話す。そうでないと引きずっているように思われる。自分の心が相手に読まれることは良い気分ではない。
「それだけなの?」
「そうだよ、ただそれだけ」
「じゃあ何で付き合ったの?」
予想外の質問である。質問するにしてもこの質問はこのタイミングではないだろう。
「ごめん、もういいかな? 今はあんまりこのこと考えたくないんだ。ごめんね」
無理矢理話を打ち切る。もうこれ以上あやかに話す必要はないし、知られたくもない。あやかもこの返しに対して、再び同じ話をする訳には行かず、話は終わった。
食器などの準備をする。二人でこれ以上くだらない話ですら続けるのは耐えられないと思ったからだ。
そして二人が帰ってきた。
ゆうきくんは私の家にたこ焼き機があるかどうかを確認せずにたこ焼きの具材を買ってきていた。ゆうきくんは基本的にミラクルを起こす人である。それは良い意味でも悪い意味でも。意図的にやっているのかは分からないけど、周りの人の顔色を伺うのはうまいような気がする。
たこ焼きを焼きながらゆうきくんが昔の話をし始めた。私は冷蔵庫に入れられていたジンジャーエールをコップに注いで飲む。
四人でBBQした話。あー、懐かしい。三人の輪に入るのがすごく難しくて、且つ三人の輪を乱すような気がしてずっとBBQの準備していたなぁ。でもゆうきくんが私を会話に積極的に入れてくれて嬉しかった。なにより、大学で初めて友達と思えるような人たちが出来たことに感謝していた。
四人でディズニーランド行った話。四人で回るけどアトラクション乗る時は基本二人だから、色々と悩んだなぁ。ゆうきくんが勝手にあの人の隣座るから、必然的に私はあやかと隣だった。あやかも凄い楽しんでいたから、来て良かったなって素直に思った。
四人で年越した話。この時くらいからだったかな。あやかがだんだん楽しそうな顔をしなくなったのは。みんなベロベロに酔ってたから覚えてないかもだけど、あやかは一人でうっすらと泣いていたんだよね。あの時はよく分からなかったけど、今なら分かる。
四人で京都に行った話。だんだん私とあの人の関係が悪くなっていったころ。実際に悪くなっていたわけじゃないんだけど、お互い終わりを見据えていた、気がする。その時あやかが茶髪に染めてきたなぁ。よく似合っていた。きっと似合ってるねって言ってもらいたかったんだと思うけど、ゆうきくんがその雰囲気をぶち壊していて、なんだか面白かった。
飲んでいるうちにみんな寝てしまったみたいだ。久しぶりに結構みんなが楽しそうな顔してたからなんだ嬉しかった。
やっぱり寂しいな。
もう一度しっかり話してからここを離れたい。そう、強く思った。
「私が東京を出る前に最後にもう一度デートしてくれない?」
寝起きの彼にそう言った。彼と私以外に起きている人はいない。今しか話すチャンスはなかったのである。
「え?」
寝起きの顔からいつもの顔に戻っていく。
たこ焼きの焦げたかすをみると、時間の経過を感じる。
もう一度だけ、もう一度だけ。しっかり終わろう。心残りはないように。