⑩ゆうきから見た四人
西條がこのタイミングで来てくれて本当に良かった。あやかちゃんが遠慮なしにしおりちゃんに聞くもんだからひやひやする。
「くるの、おっせーぞ、元彼さん」
とりあえずこの和やかな空気を保つために言う。こんくらいフランクにしとかないと後々めんどくさくなる、と思ったからである。
「あ、さっきまで話していたこと話すね」
西條がカーペット上に座ると、すぐにあやかちゃんがさっきまで話していたことを説明する。
しおりちゃんのことをどうしてあやかちゃんが説明しようとするのか少し疑問である。しおりちゃんのことを本当に心配して話しているようには聞こえない。見方を変えれば楽しそうにも見える。どこか違和感を感じる。
しおりちゃんは頷きながら笑っている。だけど、どこか笑えていない。
西條はしおりちゃんの部屋を適当に見渡している。あいつの悪い癖だ。人が真剣に話しているのに相手の目を見れないのは昔からそうだ。
部屋に掛けてあるカレンダーを見る。ちょうど来週の今日にあたる日のところに、書いてあっただろう文字が黒く塗りつぶされている。
「というわけで、しおりちゃん今までありがとう会を開催しまーす!」
四人揃って何かできるのも今日で最後かもしれない。最後くらい気持ちよく見送ってあげたいもんよ。
とりあえずこいつを連れて買い出しに行こう、それでしっかり殴ったことを謝ろう、と決意して外に出る。
謝ろう、謝ろうと思いながらもその一言を言うことが出来ずにスーパーについてしまった。スーパーまで五分の道のりが長く感じた。
どうしてこいつはしおりちゃんのことを好きになれなかったのか、どうして俺はこいつを殴ったのか、どうしてあやかちゃんはしおりちゃんに対してどこか嫌悪感を抱いているのか、どうしてしおりちゃんはいつもうまく笑えていないのか……。
きっとこいつは自分の気持ちをどこか隠していて、きっと俺はどこかこいつに嫉妬していて、きっとあやかちゃんはしおりちゃんのことが嫌いで、きっとしおりちゃんは俺らのことを心から友達だと思えてなくて……。
「しおりってさ、どこに帰るの?」
店内の野菜売り場あたりで聞いてきた。どこって、山梨じゃね? 山梨出身だし。適当に返事をする。
たこ焼きの材料をカゴに入れていく。たこ焼きパーティが楽しくならない訳がない。
会計を終え、しおりちゃんの家に向かう。その帰り道もこいつは無言のままだった。たまにこいつの顔をちらっと見る。
――きっと俺はどこかこいつに嫉妬して……
小学校の頃からこいつには敵わなかった。運動も勉強も俺の方が出来たし、友達も俺の方が多かった。だけど、いつもこいつは余裕そうな顔していた。大事なところで自分の思い通りになるこいつを見ていてどこか悔しかった。俺が好きになる女の子は、なぜかいつもこいつのことが好きだった。そんな俺の気持ちにはまったく気がつかないから余計に質が悪い。
今回も同じなんだろうなぁ。
はっきりさせたい。しおりちゃんと別れた理由を知りたい。こいつがしおりちゃんのことを好きになれていないのは前々から気がついていた。好きじゃないのになぜ付き合ったのか、好きじゃないならなんでもっと早く別れなかったのか、悩みがあるならなんで俺に相談してくれないのか。
結局俺には何もない。恋人も親友も。
しおりちゃんの部屋に着いた時には謝ることすら頭から消えてしまっていた。
夏の明るい夕日の光が男二人と白い扉をオレンジ色に染めていく。その光はそこはかとなく優しく、そして誰かに似ているような気がした。
インターホンを押そうと思ったが、白い扉に鍵がかかっていないことに気づきゆっくりと開けた。