①豚骨醤油で
「よーし、飯行くぞ」
聞きなれたチャイムと同時にゆうきが立ち上がる。
「り」
「短っ! 了解くらいちゃんと言えよ、じゃなかったらこれから俺も一文字で返すぞ!」
頬に綺麗で嬉しそうなしわをつくりながら怒ってくる。
「じゃあ、やれば? 3、2、1どうぞ」
「う」
「それどういう意味?」
「うんこ」
「小学生かよ」
ゆうきのボキャブラリーのレベルは、小学生の時から変わっていないように思える。まさか小学校から大学まで、すべて同じ学校に通うと予想してはいなかった。そこらへんの地縛霊より、長くとり憑いている。
「で、最近はどうよ、順調?」
軽快な足取りで俺の前を歩く。
「へ?」
「へ? じゃねーよ、女カノのことだよ、まったく、鈍感だなぁ」
鈍感じゃなくて、おまえの言葉が足りないんだよ、とツッコミたい。
「あー、彼女ね、順調、順調」
悔しそうな顔で振り向いてきたときに、到着。木曜日の昼はラーメン屋という暗黙の了解がある。ここのラーメン屋は、田舎のキャンパスにとって貴重な食事処だ。ここの看板メニューは豚骨醤油ラーメン。100人いたら100人がまずいとは言わないが、美味いというのも10人くらいな味である。俺の前で食券買っているボキャ貧は、間違いなくこの10人のうちの1人だろう。
「今日の発達心理学面白かったな~、なんだっけ、あいつ、へりくつみたいな名前のやつ」
「エリクソンだろ。さっき習ったばっかじゃん」
お前はエリクソンの発達課題をどれもクリアしてなさそうだな、喉ぼとけ辺りでひっこめた。
そうだったと言いながら、キレ良い音を立てながら麺を吸い込む。
「やっぱ、しおりちゃんは可愛いよなぁ、なぁ、彼氏殿?」
脈絡がおかしいとすら、最近では感じなくなるくらいゆうきの会話には慣れた。
「まぁ、普通に可愛いよ」
「むかー、なんだよ、普通にって! あんなに可愛いんだぜ? 俺だったらSNSに2ショットあげまくるのに~」
「……」
「もしもーし?きこえてますか?西條君?」
「あっ、ごめん、ごめん、そうだよな」
うわっ適当~といってラーメンをまたすすり始めた。ゆうきはいつも人の触れられたくない話題を必ず触れてくる。本当に触れたらよくないと分かっていれば、触れてこないのだが、この感じだと探りを入れているのかもしれない。
ゆうきには言えないが俺はしおりことが好きではない。