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第八話 ごちそうさま、の間違いでしょ。

 少し眠そうに細められている薄茶色の瞳をじっと見つめる。あ、欠伸した。目尻に涙が溜まってる。真っ白な頬をスーッと滑り落ちていく。触り心地いいだろうなあ。私、あの涙になりたい。ふっと薄茶色の瞳と目が合う。

「なに見てんの」

 ああ、低くて素敵な声だ。

「その真っ白な頬と、そこを滑り落ちていく涙です」

 正直に答えると、なんとも言えない表情でまじまじと私を見る天野昂輝先輩。綺麗な眉が真ん中にきゅっと寄る。横でオネエ先輩と、いつの間にかいた爽やかな女の先輩が笑っている。

「私、変なこと言いましたか?」

 正直に言っただけなんだけど。

「変というかなんというか……鈴田ちゃんは昂輝が好きなの?」

「恋愛感情はないですけど、外見と声がとてつもなく理想的なんです」

 爽やか先輩の問いに即答する。

「恋愛感情はないってことは、昂輝に彼女がいたとしても大丈夫ってことかしら?」

 オネエ先輩が顎に人差し指を当てて微笑みを浮かべ、訊いてくる。

「いたとしたら、その人に対して表情や声色がどう変わるのか、そこも堪能したいですね。いるんですか?」

 天野昂輝先輩が面倒くさそうに目を細める。

「いないけど」

 なんだ。口元がどんな風に柔らかさを宿すのか、とか、頬は紅潮するのか、とか、声は甘くなるのか、とか、色々見てみたかったのに。少しだけ残念。

「昂輝目当てだけど、恋愛感情ではなく、あくまで観察対象として興味がある……」

 ぶつぶつと呟いてから、ニッと口角を上げてオネエ先輩を見上げる爽やか先輩。目が合ったオネエ先輩も同じ表情をしてコクリと頷く。そしてポン、と昂輝先輩の肩を叩く。

「コウちゃん……」

「なに、ユウ」

「こんな子、滅多にいないわよぉ?」

「確かにいないだろうね、俺をそういう対象として見てないのにこんなに見てくる人は」

 壁にもたれ掛かっていた天野昂輝先輩が、ふっと身体を起こすと、私の真ん前に来る。と思えば、突然ズイッと顔を近づけられた。私の視界には綺麗な顔しか写らなくなる。間近で見ても、肌のきめ細やかさや整った眉、澄んだ瞳は変わることなく、薄い唇も、ちっとも荒れていない。すごい、この人本物だ……。

「ごちそうさまです」

 思わず出てしまった言葉に、爽やか先輩とオネエ先輩が勢いよく吹き出す。

「……おそまつさまでした」

 どことなく不機嫌な声。あ、この声もいい。いい具合に低くて耳に心地いい。最高だ。本当に、一生分の幸せを今ここで消費している気がする。ガチャリとドアが開く音。あの子も終わったのか。そう思ったときだった。

「しゅ、すすすす鈴っ! わたたた私のすじゅっ、鈴田さんになにをしてるんでしゅっ、ですかぁぁぁぁああああああっ!」

 もの凄い勢いで私と天野昂輝先輩の間になにかが割り込んでくる。耳が痛い。慣用句ではなく、物理的に。

「ちょっと。私はいつの間にあなたの物になったのよ」

 ため息混じりに目の前の小動物のような彼女につっこむ。彼女は私を守るように両手を広げて天野昂輝先輩を見上げている。先輩はじっと彼女を見下ろすと、なにかを閃いた表情になり、そして勢いよく彼女に顔を近づける。瞬間。

「――っ!!??」

 人語だとは到底思えない奇声を上げて、彼女は私にしがみついた。

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