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尾神橋

 ◯牛丸家 5月9日 開戦日早朝


 明里は移動の準備を整え、姿見で自分の姿を確認していた。


 「ん〜やっぱり洋服に刀剣って似合わない気がする」

 「ママ、そんなことないよぉ。カッコイイてば」


 娘のさやかにそんなことを言われながらも、明里は少しでも自分が納得出来る様に、腰に差した刀を調節したり、見る角度を変えたりしていた。


 「明里ちゃん、そろそろ出発するよ」


 忠良の声に明里達は部屋を出て玄関に向かうと、そこには剣道着姿の忠良が待っていた。


 「おじいちゃん、カッコイイ!!」

 「そうか、そうか。カッコイイか!」


 忠良は嬉しそうにさやかの頭を撫でた。

 明里は娘のカッコイイの言い方が、自分の時と明らかに違っていた事に軽くヘコみながらも忠良に声をかけた。


 「先生だけズルいです。やっぱり刀には和装ですよねぇ。私の道着は家に置いてきてしまったから・・・」

 「それは残念だったね。まぁ格好で戦う訳じゃないから。さぁ出発だ!」


 そして4人は家を出た。


 


 ◯白川村南端、尾神橋(白川村、高山市との境目)午前7時


 尾神橋の白川村側には、150人程の男女の姿があった。

 その集団の中には観光に来て、身動きが取れなくなっていた外国人の姿や、高山市から脱出してきた人も散見された。


 その他にも地形を無視して移動された場合を考えて、山に分け入り警戒している者や、侵攻ルートが尾神橋でなかった時に直ぐ動けるようにと、村の中心部で待機してる者達もいた。


 動ける者は総動員されていた。


 そして忠良は剣の腕前が村でも有名であった為、リーダー的存在として150人程の集団の先頭に立ち、対岸の高山市側を睨むように見つめていた。


 そんな忠良に声をかけたのは、猟師仲間である仁志であった。


 「忠良さん、来るかねぇ?」

 「こっちか飛騨市のどちらかには来るさ。両方かもしれんが」

 「まぁそうだろうなぁ。そういえば、朝のニュース見たかい?あの赤い鎧武者のやつ?」

 「そのニュースを見てからこっちに来たよ。向こう岸に居ないかと思って見てるんだが、一向に見当たらん」


 二人は暫くそちらを見ていたが、見えるのは渡って来る者がいないかを見張っている、数体のアシガロイドのみだった。


 「仁志さん、どう思う?あの数で侵攻はないと思うんだが?」

 「確かになぁ。でも、ないならないでいいんじゃないか?後ろ見てみなよ」


 忠良が後ろを振り返ると、開戦時間が近づいて来て緊張が高まったのか、顔を青白くしている者や、気分が悪くなって座り込んでいる者もいた。


 「平和な日本で生まれ育ってれば仕方ないとは思うが、ちょっとマズいな」


 そう言うと忠良は、橋に向かって歩み始めた。


 「ちょ、ちょっと忠良さん、どうするんだ?」

 「奴らは倒せる事を誰かが証明すれば、少しは元気になるんじゃないか?それにあの数が気になる。ちょっかいをかけて反応を見てくる」


 仁志は慌てて忠良を止めた。


 「忠良さん、待ってくれ!それは開戦時間になってからでもいいだろう?開戦と同時に何処からともなく湧き出てくるかもしれんし、下手に突いて藪蛇にならんとも限らん。様子を見てからでも、遅くはないと思うんだが」

 

 忠良は仁志のその言葉に足を止めた。


 「そうだな。すまん。気が高ぶって焦ってしまった。俺もまだまだ甘いな」

 「忠良さんだけじゃないさ。みんな初めての実戦だからね。でも俺達は猟師だろ?静かにその時を待つのはお手の物。今は待ちだよ」


 忠良は笑顔を見せると、仁志の肩を叩いた。


 「そうだな。あのアシガロイドが猪よりも、待つ価値があればいいんだが」

 「食べれないにしても、狩りがいはあるんじゃないか?」


 そう言うと二人は笑いあった。


 開戦も間近に迫った頃、忠良達の後ろでラジオや電話で情報収集をしていた村役場の若い女性が、携帯電話を耳に当てながら声を上げた。


 「飛騨市と高山市との市境に、敵が集まってるようです!」

 「どこの市境か解るか?」

 「国道の41号に神岡側の471号線、その他にも飛騨市に通じる県道にも現れています。数は・・・え?数は数えられない程の大軍です。・・・はい。こちらは変化ありません。変化があれば直ぐに連絡します」

 

 彼女はそう言って電話を切った。


 現場には、とりあえず自分達の所ではなかったというホッとした空気が流れた。

 忠良はそんな空気を引き締める為に声を張り上げた。


 「皆、油断するなよ!こんなギリギリで大軍の情報だ。開戦と同時にこちらでも湧き出てこないとも限らんぞ!!」



 そして開戦時間の8時になった。



 忠良達は何か変化はないかと警戒をしていたが、時間が5分、10分と経っても変化はなかった。

 

 「何か情報は入ってるか?」

 「飛騨市は開戦と同時に戦闘に入ったようですが、それ以降の事はまだ・・・南の下呂市と郡上市も変化はないと先程入りました」


 忠良は暫く考えた後、仁志に声をかけた。


 「やっぱり、ちょっかいを掛けてみようか?」

 「藪蛇にならんかな?」

 「昨日と一緒さ。奴等が境を越えてこなければ、白川村に入らないように命令が出てる。そうなると今回は飛騨市だけが目的だ。まぁこの時間だけかもしれんが・・・」

 「そうだなぁ、いつ来るか?いつ来るか?と緊張してても、戦う前にバテてしまいそうというか、既にバテてるのもいるか。とりあえずハッキリさせるのも悪くはないな」


 忠良は仁志の同意を得られると、皆に向かって声をかけた。


 「昨日と一緒で、奴等の反応を見る為に少し向こうに行ってくる。奴等が境を越えないようならとりあえずは安心だ」


 忠良のその言葉に大丈夫なのか?という表情をしている者もいたが、言葉として反対をする者はいなった。

 忠良が見回して反対意見がないのを確認していると、服の上からでも解るぐらい実践的に鍛え上げられた肉体を持つ一人の黒人青年が手を挙げた。


 「私も、イッショに行ってもイイデスカ?」

 「君は?」

 「ジョージと言いマス。合衆国海兵隊デス。近接戦闘訓練を受けてマス。キュウカ旅行でココに来ました」


 忠良は一瞬驚いた顔をしたが、ジョージを入れて仁志と三人で向かう事にした。


 三人が剣を片手に橋の中央に向かって歩いてると、仁志が忠良に声をかけた。


 「忠良さん、直ぐに逃げずに一当てするつもりだろ?」

 「バレてたか。この超振動ブレードとやらが、奴等に本当に効果があるのか確かめたくてな。確かめるなら、俺が一番適任だろ?」

 「Oh〜私もデス。シンヨウできない武器では戦えないデス」

 「ジョージさんもかよ。しょうがねぇな〜付き合うよ」


 三人が市境を一歩越えると、アシガロイドの注意が三人に向いた。しかし動きがない為、さらに二歩、三歩と進むと、対岸に居たアシガロイドの内二体が忠良達に向かって来た。


 「二体か・・・まず俺が一当てするから二人は下がっててくれ。もし俺が殺られたら「すぐに逃げるよ」・・・頼む」


 向かって来るアシガロイドの手には、忠良達が持つ超振動ブレードとは違う白い棒が握られていた。


 「ただの棒切れではないだろうが・・・まぁそれも戦ってみれば解るか」


 忠良は、超振動ブレードを中段に構えて待ち受けた。

 アシガロイド二体の内、忠良から見て右にいる一体が、上段に構えて先に間合いに入って来た。

 忠良は思い切って懐に飛び込み、がら空きの胴を横薙ぎに剣を一閃した。


 アシガロイドは、上下二つに両断され機能を停止した。

 忠良はあまりの呆気なさに一瞬驚いた物の、すぐにもう一体と向き合った。

 そして左肩を狙って打ち下ろされる敵の攻撃を、剣で受け止めてからそのまま押し込み、バランスが崩れたところを袈裟斬りにした。


 それを見ていた白川村側から歓声が上がり、仁志とジョージも忠良に駆け寄って喜んだ。そして仁志が忠良に感想を聞いた。


 「忠良さん、どうだった?」

 「戦ってみた感じそんなに強くない。たぶん他のみんなでも何とかなると思う。それに見てたと思うが、あの白い棒は斬れないみたいだな」

 「あの棒はボウグデスか?」

 「いや、どうかな。攻撃に使ってる以上、触れたら何らかの効果があるかもしれん。万が一があるから試す気にはなれないが」


 三人が話していると、対岸に残っていた5体が向かって来た。


 「どうする?」

 「忠良サン、何体メンドウみれますか?」

 「防御と牽制に徹すれば三体は」

 「ナラ残り一体ずつデスね」


 ジョージのその発言に、仁志は苦笑しつつも承諾した。


 忠良が三体を引き受けている間に、ジョージがアシガロイドの顔面に突きを入れ、一体を倒す事に成功した。

 そして忠良から一体を引き受け、そのままもう一体を倒し、忠良も二体になったところで攻勢に転じ、これも倒した。

 仁志も手間取りはしたが、小手からの面打ちが決まり機能停止に追い込んだ。


 「ふぅ〜暇な時に忠良さんから習っておいて良かった」

 「仁志さんは一生懸命練習してたからね。倒せると思ってたよ」

 「ところで、全滅させちゃったけど、これじゃ市境を越えるか確認取れないね」

 「「あっ!!」」


 忠良とジョージの二人が、今気付いたとばかりに揃って声を出した。


 「まぁ、何だ。増援がその内来るだろう」

 「ソウデスヨー」

 「ん〜そう思うけど、忠良さん、もう少し先に進んで様子を見てみないか?出来ればあのカーブの先まで行って」

 「おっ!仁志さん積極的だねぇ。俺に感化された?」

 

 仁志は苦笑しながら否定して、自分の考えを言った。


 「木々に遮られて道の様子が解らないのもあるけど、反応が鈍すぎる気がするんだ。現に、今だに元々ここに居たアシガロイド以外現れてない。戦闘行為があったのにだ」

 「確かにそうだなぁ。もう少し進んで確かめてみるか」


 三人は、橋の白川村側のたもとで待つ人達に少し先に進む事を伝えると、警戒しながら進んだ。

 この道はダム湖と山に挟まれた一本道であり、高山市から直接白川村に行くなら、唯一と言っていい舗装された道である為、この道のアシガロイドの配置状況を確認する必要があった。


 三人が橋を渡りきり、カーブの先を見てもアシガロイドの姿はなかった。

 不審に思いつつも更に進むと、500m程先のカーブの影から10体のアシガロイドが現れ向かって来た。


 「忠良さん!」

 「待て!後続があるか確認するんだ。奴等の足はそんなに速くない」


 忠良の言う通り、アシガロイド達は軽いジョギング程度のスピードで移動していた。

 忠良達は、アシガロイドとの距離が300mまで縮まるまで待ったが、後続は現れなかった。


 三人が白川村に戻る為に走り出すと、山側から三体のアシガロイドが三人と橋の間に降り立った。


 「チッ!上の林道からか!二人共、突破するぞ!!」


 忠良のその言葉に二人がおう!と返事をすると、走るスピードを落とさずにそのまま三体と戦闘に入った。

 一体は瞬く間に忠良が斬り捨て、もう一体はジョージが敵の攻撃を剣で払いそのまま突きで仕留めた。最後の一体は、仁志が相手をしてる間にその背後に回り込んだ忠良が倒した。


 三人はそのまま橋を駆け抜け、白川村側に戻ってきた。


 戻った三人は歓声で迎えられたが、忠良はそれを落ち着かせると、10体の敵が近づいて来る事を伝え警戒させた。


 10体はそのまま橋の中ほどまで来た為、忠良達を緊張させたが、アシガロイドの残骸を回収すると、そのまま高山市側の橋のたもとまで戻って行った。


 忠良達が、アシガロイドが市境を越えるか確認する為に境を越えると、向かっては来るが境を越えて追って来る事はなかった。

 何度か繰り返したが、同じ結果に終わった。


 そしてその間、敵の増援がなかった事から忠良は全員に交代で休憩を取るように指示した。

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