納得
転校生襲来の知らせに沸いていたクラスも静まり、一限と二限の間の休み時間である。
「音無君!来ちゃいました〜」
「来ちゃいましたじゃねえよ。綾瀬なんて固まってるじゃねえか。本当この世界都合よくできてるな。どうやって入ったんだよ。学校なんて入れてくださいって言えば入れるもんじゃないだろ。」
「朝、綾ちゃんのお母様に頼んで、体験入学できるように頼んでもらったんですよ!なんかテスト受けさせられたんですけど、一瞬で解き終わって、尚且つ満点だったもんですからとりあえず体験としての授業参加は認められた次第です!まあ、正式な入学としての手続きとかは綾ちゃんのお母さんがやってくれるってことで、私は丸投げしてきました!」
おいおい綾ちゃんとかもう仲良しかよ。まあ神様が目の前に現れた時点でほとんどの出来事に驚きなんてしないと思っていたが、やはり驚きが隠せない。何がってこの世界がチョロすぎることだ。こんなにチョロいなら俺の人生もっとイージーモードにしてくれ。とりたててハードだった出来事なんてなかったが。
自分の人生の薄っぺらさに落胆していると、いろはが無垢な笑顔で続ける。
「クラスメイトになれたんだし、もっと近くにいれますね!」
「お、おう」なんだこの返しは重度のコミュ障かよ。心なしか顔が熱い。夏の暑さはもう本気を出し始めたみたいだ。すると隣の綾瀬が少し拗ねたように固まっていた口を開く。
「デレデレしちゃって気持ち悪い!変態!すぐ鼻の下のばすんだから!」
「なんだよいきなり!別になんも思ってねえよ!いや、少し萌えただけだ。」
「なっ!ほんとキモい!」
「キモいしか言えねえのかよ語彙力乏しすぎるだろ」
「あんたより国語できるもんね〜つか私に勝てる教科なんてあるのかしら?」
「まあまあお二人さん落ち着いて。夫婦喧嘩はそのへんにしときましょうよ!」
「「誰が夫婦だ!」」
綾瀬と俺の声がシンクロする。シンクロ率200%はあるくらいのシンクロ率だ。すると、いろはが嬉しそうに胸の前で手を組み、声をあげる。
「おおおっ!これが真の幼馴染のシンクロですね!本当だったのですね幼馴染ふたりに夫婦喧嘩とかいうと一緒に怒るやつ!今朝も音無君を起こしに部屋までいこうとしたんですよ!綾ちゃんも居れば、音無君のご両親もすんなり入れてくれそうですし!」やっぱり企んでやがったのか。明日からはちゃんと服着て、念入りに歯磨きしてから寝なくては。違うか。違うな。
「でも、綾ちゃんがあいつ昔っから低血圧だし、ギリギリまで寝たいやつだから起こしにいかないであげてとかなんとかって言って止めるんですよ〜愛ですねえ」
「ちょ、ちょっといろはちゃん!そんなこと言わないでよ!」
綾瀬が顔を真っ赤にしながらいろはの口を手で押さえる。いろははふごふご苦しそうにしている。かわいい。
「まあ、綾瀬の言う通り、朝弱いんだ。だから朝はそっとしといてくれ。あ。後、俺の好きな食べ物とかは綾瀬に聞くと教えてくれるぞ。コイツは俺のことをなんでもなんでも知っているからな。」
綾瀬が照れ気味に俯きながら口にする。
「何でもは知らないわよ。知っていることだけ。」
俺といろはは、お〜!とこちらもまた綺麗にシンクロした。アニメやらが好きないろはのことだ。分かったのだろう。お互い嬉しそうに顔を見合わせる。なかなかこの神様、趣味が合いそうだ。
「それでも、綾瀬と結婚なんてないだろうな。お前、俺のこと嫌いなのかよってくらい俺に暴言吐いてくるもんな」
「そうよ。翠はキモくて嫌いだもん。」
今年は例年より早く、ひぐらしが鳴いている。決してうるさくないその鳴き声はいつになく俯きがちな綾瀬の声をかき消していく気がした。
「ははーん。なるほどなるほど」
何に納得しているのかはわからないが、いろはのことだ。どうでもいいことだろう。
それにしても暑い。窓から入る砂っぽい風が不愉快指数をあげていく。
「はやく秋こないかな」
夏はまだ始まったばかりだ。