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夏がくる

 目が覚めた。知らない天井。綾波?なんて妄想でもしないと目を覚ました時の憂鬱を対処しきれない。俺の寝起きATフィールドは初号機にも破れまい。

 現実に立ち向かわなければならないという現実はまたため息を誘う。

「はあ」


 昨日は疲れたなと思いながら騒がしいリビングへ重い足を運ぶ。うちの家族はごくごく通常営業だ。親父はぼさぼさの寝癖のままテレビのチャンネルを回し、母親は洗濯物を干しにベランダへ出ている。弟はサッカー部の朝練の準備にてんやわんやだ。

 

 それにしても昨日の今日である。二次元に感化されているいろははお隣さんの俺を叩き起こしにくるのという幼馴染イベントが起こるのではないかと期待、もとい心配していたのだが、杞憂に終わったみたいだ。あいつは幼馴染じゃないけどな。そもそも本当の幼馴染であるところの綾瀬でさえそんなことはしない。


 いつも通り、だらだらと支度を済ませ学校に向かうとしよう。梅雨が明けた今、まとわりつくねばっこい湿度のかわりに容赦なく日差しが照りつける。背中がじわりと湿る不快感を吐き出すようにまた深くため息をついた。


              *    *    *


 学校の最寄り駅につき、ひいたはずの汗がまたシャツを湿らす。田舎とも都会ともいえないこの町は人の量も多くもなければ少なくもない。なにもかもが中途半端である。


 だらだらと歩きながら学校へ向かっていると、イヤホン越しに呼ぶ声が聞こえる。


「翠ー!おっすー」

 

 治臣だ。少し跳ねた横の髪がいつも通りの朝を感じさせる。寝癖がない場合のコイツは大体好きな人が出来たときだ。面白いくらいわかりやすいやつで裏表のない人間だ。晃正も同じで相当わかりやすい。だから気兼ねなく一緒につるんでいられるのだろう。


 おう。とだけ返し、肩を並べまた歩を進める。

 気づけば学校で、隣のクラスの治臣と別れ、自分の席についた途端綾瀬が機関銃のように話しかけてくる。マジで低血圧なんだから情報処理追いつかないって。しかし、いろはのことらしく聞かざるを得なかった。


「なんかさ、いろはちゃんが学校行かないと音無君に頼んだ意味ないし、留守番つまんないって凄くうるさいんだけど。」


 綾瀬にしては珍しく疲れた表情を見せる。あれ?髪短くなってないか?


「まあ、あいつのことだからなんとなく予想はついてたけどな。制服は着ているもののの普通の女子高生じゃないし、おそらく制服も存在しない学校のだろうしな。だいたい国籍とかでさえ持ってないだろうから入学とかも無理だろう。なんとか説得してくれ。つかお前せっかく髪のばしてももらったのにもう切ったのかよ。」


「髪は別にいいでしょ!学校に関しては言っても聞いてくんないのよ!」

 なぜか焦る様に綾瀬は捲し立てる。


「とりあえず、先生きたし、休み時間にでも対策を練ろう」


「それもそうね。はあどうしよ」


 のそのそと教室に入ってきた担任が恐ろしいことを口にする。


「今日は体験入学というか転入というか。んーとりあえず一時的にこのクラスに新しいメンバーが増えます!おいおい正式にこのクラスの一員になるだろう。それはそうと男子ども喜べ!かなりかわいいぞ」

 

 もおおおお絶対あいつしかいねえよ。テンプレもいいとこだぞ。なんでこんなに世の中ちょろいの?都合が良すぎじゃないですかね?だいたいこの担任なに言ってんだ。かわいいとか言ってんじゃねえよ。鼻の下のビオとかあだ名つけるぞ。綾瀬と目が合う。かすかに震えながら唇をわなわなさせ、何か言いたげだ。わかる。わかるぞ綾瀬。そして渾身の一言を放つ。


「諦めろ」



 「じゃあ、神谷さんどうぞー」

 ガラリと引き戸が明き、リノリウムの床をスリッパでぱたぱたと音をたて、いろはが教室に入ってくる。と、同時に男子の歓声が響き渡った。


「神谷いろはです!これからよろしくお願いしますね!」


 鳴り止まない歓声はこれからの夏の暑さをも凌駕りょうがしそうな勢いで、その中、俺は昨日見た星を思い出す。あれマジで凶星だったんだな。


「はあ」


 またため息が漏れた。

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