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986 何やってんだか

「次は私の番だな」


 ツバキがフィールドに降り立った。


「既に2人が脱落とは思いもしなかったが。

 二度あることは三度あるとも言うし、気を引き締めねば」


 遊びなのに気合いの入ったことを言うツバキさんである。


 ただ、そう言っている割には楽しそうにしているけどね。

 不敵な感じでもない。

 ちゃんと遊びモードで楽しんでくれているようだ。


「行くぞ!」


 勇ましい掛け声で手玉を蹴る。

 なぜか後ろ回し蹴りだ。


「サイドスピンをかけたね」


 トモさんが解説している。

 手近な的玉に当たった直後に手玉が真横に移動。

 隣の的玉にも当たった。


 そしてカチンカチンと連鎖的にボールが当たっていく。


「これが狙いかー」


「でも、ひとつも落ちそうにないですよ」


 リオンが不思議そうに聞いてくる。

 程良く散らばったが、ポケットに向かうボールがない。


「そうですね」


 引き上げてきたクリスが同意した。


『ツバキもこの2人が相手だと苦戦しそうだな』


 今のは対戦相手への揺さぶりのようなものだ。

 多くのボールを動かして反応を見るのが目的である。


 現にツバキは皆の目線や反応したタイミングを確認していた。

 あわよくば相手の持ち玉を見極めようって訳だ。

 リオンやクリスは天然モードが入っているせいか読めなかったみたいだけど。


 それでも、これは2段構えの作戦である。

 ボールの散り方がサイドポケットのあたりを境にして半々になっている。

 手玉はほぼ中央。


 どちらを狙うかで相手のボールを絞り込むつもりだ。

 そう単純にはいかないだろうがね。

 それでも読み合いを始めようという意思表示にはなったはず。


 ただし、通じた相手はレオーネのみだと思われる。

 天然の入った相手は読みやすい一面もあるが、そうでなかったりもする。

 予測不能だからこその天然な訳で。


 そういう意味ではツバキには収穫が少なかったと言えるだろう。

 本人は淡々としているけどね。


 一方でレオーネは自然体であった。

 無我の境地とは言わないが、あれこれ考えているようには見えない。


『これは、いい勝負になるか?』


 いずれにせよ楽しませてくれそうである。


「お姉ちゃん、頑張れー」


「レオーネさーん」


 リオンやクリスの応援に笑みを浮かべ小さく手を振って応じている。


「対戦相手の応援をするのね」


 そこにエリスがレール上を歩いてやって来た。

 しょうがないなぁという表情で少し呆れ気味だ。


「いいんじゃないですか。

 ピリピリしたのは疲れますよ」


 マリアが苦笑しながらフォローしている。


「それもそうね」


 あっさり同意するエリス。


「あっちは酷そうだもの」


 エリスが見た方はマイカたちのいる組だ。


「やったーっ、勝ちぃっ!」


 大袈裟とも言えるガッツポーズでマイカが吠える。

 ちょうど決着がついたようだ。

 最後まで残っていた対戦相手の妖精組が──


「負けたぁっ!!」


 マイカ以上の咆哮と共にガックリな体前屈をする。

 先に負けていた者たちは体育座りをして遠い目をしていた。


「異様な雰囲気だね」


 トモさんの言う通りだ。


「殺伐としてるなぁ」


 ミズキが言った。


「全体的に見ればカオスではないか?」


 ツバキが参戦してくる。

 レオーネのプレイは見なくて良いのだろうか。


「座っている人たちだけ見るとホラーチックにも見えますよ」


 クリスは言うことが独特だ。

 姉2人は苦笑するばかりである。


 だが、いま気にすべきはその先にあるものだ。


「あの様子だと罰ゲームありで勝負していたみたいだな」


「えっ、そうなんですか?」


 リオンが驚いて聞いてくる。


「ハルさんの言う通りだろうね」


「右に同じ」


 トモさんやミズキはあり得る話だと頷いていた。


「勝者以外は特製青汁の一気のみですって」


 エリスから情報がもたらされた。

 向こうの様子にも気を配っていたようだ。


『さすが、抜け目がないな』


「順位ごとに飲む量が変わるみたいです」


 マリアが補足する。


「「「「「……………」」」」」


 我々A組の一同はドン引きとなった。


「だから死んだ目をしているのか」


 トモさんが敗者たちに同情の視線を送っている。


「マイカちゃんらしい発想だね」


 呆れたように嘆息するミズキ。

 ちょうど、そのタイミングで特製青汁が用意された。


 それを見て──


「「「「「うわぁ……」」」」」


 顔を顰める一同。


「おいおい」


 俺も呆れることしかできない。


「コップ1杯でも無茶なのに、特大ジョッキって……」


 ミズキにとっても想像以上の事態だったようだ。

 どう見ても一抱えはある特別製のジョッキだ。


 普通のジョッキと比べて何倍の容量があるのだろう。

 ちょっと考えたくない。


 あの青汁を飲める俺も「アレはない」と思う。

 マズい上に腹一杯を通り越すような量だからな。


『皆にとっては味覚破壊兵器と言わざるを得ないというのに……』


 飲みきれるかどうかの量でそれはないだろう。

 味は胃薬魔法のディジェストを使ってもどうにもならないしな。


『夕飯の味が分からなくなるぞ』


 お祭りの時になんて物を持ち出してくれるのか。

 悪ふざけにしても度が過ぎている。


「エリス」


「はい」


「止めてきてくれないか。

 さすがに、アレはシャレにならない」


 人任せではあるが、スムーズに鎮静化させることを優先した。

 俺が行けば絶対に揉めるからな。


 マイカもエリスが相手なら強くは言えまい。

 なにより向こうの組のことも注視していたエリスは事情を知っているみたいだし。


『ならば最適の人材だよな』


 エリスもそれらは理解しているはずだ。


「分かりました」


 だから余計なことは何も言わずに直行してくれた。

 早くしないと犠牲者が出てしまうというのもあるからな。


 エリスの行動は素早い。

 ササッと向こうの組に到着したかと思えば、青汁を片っ端から自前の倉庫に格納した。


「ちょっ」


 マイカが驚いて反応しきれないでいる。


「ベリル様がいらっしゃることを忘れているようですね」


 ニッコリと笑うエリス。

 目は笑っていない。


「うぐっ」


 勢いに圧倒されたこともあって反論できないマイカ。


「今日は楽しいお祭りの日ですよ。

 あまり調子に乗って、おいたが過ぎると……」


 最後まで言い切らずにエリスは不敵な笑みを浮かべた。

 ビクッとするマイカ。

 恐る恐るといった感じでベリルママの方を見る。


 ベリルママはニコニコと笑って小さく手を振っていた。


「─────っ!」


 一瞬でマイカの顔面が蒼白になったのは言うまでもない。


「ハイ、サーセン」


 そう言うのがやっとの状態で震え上がっていた。

 お仕置きでも脳裏をかすめたのだろうか。


『マイカを鍛えたのはベリルママだしな』


 どんなことをしてきたかは知らないが。

 あの様子では相当しごかれたみたいだけど。


 こんな具合でマイカの悪ノリは阻止された。


 ただ、対戦相手たちも罰ゲームありのゲームを強要された訳ではないらしい。

 エリスが青汁を飲まなくて済んだとホッとしている面々に向き直る。


「アナタたちも罰ゲームを禁止するとは言わないけど限度はあるわね」


 マイカの対戦相手たちが、ばつの悪そうな表情になった。

 あの様子だと向こうの組の全員で罰ゲームの内容を決めたみたいだな。


 大方、罰ゲームの話になった時にエスカレートしていったのだろう。


「後先は考えて行動しないと」


「「「「「はーい」」」」」


 注意されてションボリしてしまっている。

 反省しているみたいなので、後は大丈夫だろう。


「分かればいいのよ」


 エリスもくどくどと説教することなく話を終わらせた。

 そして戻ってくる。


 ただし、俺たちの方へ一直線という訳ではなかった。

 まずはベリルママの方へ向かうエリス。


「すみません」


 何故か謝っている。


「あら、どうして謝るの?」


「勝手に引き合いに出すような真似をしてしまいました」


 巻き添えにしたと言いたいのだろうか。


「気にしてないわよ」


 アッケラカンと返事をするベリルママ。


「スムーズに丸く収められたじゃない。

 良くやったと思うわ。

 晩御飯の味が分からなくなる人が出ちゃうところだったもの」


 ベリルママもそこは危惧したようだ。

 エリスが動くまで見守るだけで何も手を出さなかったけど。

 そのあたりは俺たちに任せることを選んだからなのだとは思うが。


「恐縮です」


 少々のことでは動じないエリスもベリルママの前では借りてきた猫のようだ。

 そして、今度こそ俺たちの方へ戻ってきた。


「ハルトさん、これで良かったでしょうか?」


「ああ、上出来だ。

 任せっきりになってしまって済まないな」


「いえ、御役に立てて何よりです」


 それはいいんだが、ひとつ問題がある。

 俺たちA組のゲームはまだ終わっていない。


読んでくれてありがとう。

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