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978 目撃者は凹む

 修羅場が終わったのを確認してから他の奥さんたちも集まってきた。

 助けてくれても良かったのにと思わなくもない。


 が、まあ俺以外に被害が拡大しなくて済んだから良しとすべきだろう。


「2人とも酔っていたんですね。

 もしかしたらとは思っていたんですが」


 エリスは気付いていたようである。


『もしもしぃ』


 そういうことは先に知りたかった情報だ。

 気付いた時点で教えてほしかった。


「確証はありませんでしたが私もそうじゃないかとは……」


 マリアがそれに続く。

 ちょっとばつが悪そうだ。


 が、それを見て考えを改める。

 エリスもマリアも自信のない状態だったのあろう。


 ならば言わないのも頷けるというもの。

 もしも違っていたなら別のトラブルになっていたかもしれないからな。


「姉さんたちは凄いですね」


 クリスが目を丸くしてそう言った。


「気付いたのは途中からよ」


「私もです。

 最初は半信半疑でした」


「ハルトさんが気付く直前でも微妙だったかしら」


「そうですね」


 エリスとマリアが頷き合った。


『それじゃ、しょうがないか』


 完璧超人なエリスのことだから、もっと早い段階で気付いていたのかと思ったのだが。

 2人の言うようなタイミングだと俺は強制暴食イベントからは逃れようがなかった訳だ。


「それでも凄いです。

 私はまったく気が付きませんでした」


 クリスが本気で感心しているのが分かる。

 それだけ分かりづらい状態だったのだろう。


 そして、それはクリスだけではなかったようだ。

 リオンが同意するように頷いていた。


「お姉ちゃんはどうだった?」


「いつもと少し違うかなと感じたけど……」


 妹に尋ねられて少し考え込むレオーネ。


「お酒が入っているとまでは分からなかったわね」


 答えて苦笑する。


『レオーネも気付いていなかった側だったか』


「私も気付きませんでした」


 困惑の表情で首を捻るカーラさん。

 ハイケットシーとしては敏感に酒の匂いを嗅ぎ取って当然だという自負があるのだろう。


「それは当然だ。

 酒の匂いなどする訳がないのだからな」


 ツバキが淡々と言った。


「何故です?」


「2人とも消臭していたのだ。

 匂いで気付けるはずもなかろう」


「いえ、どう消臭しようと匂いは微かにでも残るでしょう」


 納得がいかないようでカーラが食い下がる。


「ホホホ、甘いのう」


 笑いながらツッコミを入れてきたのはシヅカだった。


「分解の魔法ならば酒臭さも消せるじゃろう?」


「ですが、呼気に含まれる匂いまでは」


「そんなものは顔の周りに酒の匂いだけを消すよう魔法を常時発動しておけば良い」


「そこまでしますか」


 呆れたような声を出すカーラ。


「したんじゃろうな。

 お主が気付かなかったのじゃから」


 シヅカの言葉にガックリ肩を落とすカーラであった。

 俺も気付かなかったから、そこまで気落ちする必要はないと思うがね。


『朝からニンニクでも食べたのかと思ったら、そういうことだったとはな』


 魔法の発動には気付いていても理由に気付かなかった訳だ。

 朝っぱらから酒を飲むはずがないと思い込んでいた弊害と言える。

 ベリルママが来ることは分かっているのだし、余計にな。


 お祭りの雰囲気にあてられて飲むとまでは思わなかったさ。


『この調子だと、正月もヤバいかもな』


 気を付けておかねばなるまい。

 なんにせよ、マイカたちの飲酒に気付かなかった面子がそれなりにいる訳で。

 ならば報告しづらいのも納得というものである。


 ところが……


「あ、私は見ましたよ」


 何かを思い出したようにアンネがそんなことを言い出した。


「何を?」


「2人が飲酒しているところです」


「ぬわにぃーっ!?」


 飛び退くような勢いで仰け反ってしまった。

 丸椅子に座って休んでいたトモさんが──


「ぬわにぃー」


 と反応したのは言うまでもない。

 ホント好きだね、群青さん。

 そういや、好きだから物真似をするんだと日本人だった頃に言ってたな。


『というか熱く語ってくれたんだよな』


 居酒屋で。

 憧れが情熱に火をつけて云々とくだを巻かれたさ。

 ちょっと懐かしく感じてしまった。


 しかしながら、そんな風に気を取られたのは明らかにミスだと言えるだろう。

 俺の驚きを誤解されてしまったが故に。


「あの、申し訳ありません」


 ションボリ肩を落とすアンネ。

 相当な罪悪感を感じているようだ。


 そりゃそうだろう。

 客観的に見れば俺は怒っているようにしか見えなかったはずだ。


「アンネだけじゃありません」


 ベリーが割って入ってくるのも当然というもの。


「私もその場にいましたからっ」


『まあ、そうだろうな』


 この2人はいつも一緒だし。

 今も並んで捨てられた子犬のような目を向けてきている。


『その目は勘弁してくれー』


 罪悪感が一気に吹き出してしまうんだよ。


『心臓に悪いったら』


 目撃証言を聞いた瞬間よりドキドキしてるんですが。


「スマン、スマン」


 慌てて俺の方からも謝った。


「単に驚いただけだから」


 どうにか宥めて落ち着かせようと試みる。


「別に叱ったりするつもりはないんだ」


 そう言うと、どうにか罪悪感を刺激しない程度にはションボリ具合も収まった。


『やれやれ……』


 すぐに収束させられたはずなのだが、ドッと疲れた気がする。

 まあ、本当の意味で収束したとは言えないのだが。


「その調子だと上手く誤魔化されたんだろう?」


 フォローも兼ねて聞いてみた。


「誤魔化されたというか……」


「自分たちで勝手に判断してしまった部分があるんです」


 実に正直な返答である。

 故に再びションボリモードへと移行しかけるABコンビ。


「だーっ、ちょい待ち」


 不安定な2人に心拍数が上がってしまう。


「責めてるんじゃないんだ」


 くれぐれもそこは間違えないでもらいたい。


 だったら、もっと上手く喋れ?

 ごもっとも。


 だが、元選択ぼっちの俺にリア充の会話などできるはずもないだろ?

 内心じゃアタフタもしている。

 表面には出さぬよう【千両役者】を使って誤魔化しているほどだ。


「どういう状況だったか知りたいだけだから」


 とにかく必死。

 ギリギリ目一杯な俺です。


 そういう状況を知ってか知らずか──


「「はあ……」」


 生返事をするABコンビ。

 【千両役者】を使う前の慌てぶりを見て呆気にとられてしまったようだ。

 何が幸いするか分からない。


 なんにせよ、どうにかションボリは回避できた訳だ。


「で?」


 2人に先を促す。


「えっと、ハルト様がそろそろ到着するかという頃でした」


 まずアンネが話し始めた。


「別室にいたから呼びに行ったんです」


 ベリーが補足説明をする。


「そこで飲んでた訳か」


「「はい」」


 ABコンビ2人そろって返事をする。

 だが、息ピッタリという感じはしない。

 むしろ我先に返事をした雰囲気があった。

 たまたまタイミングが合っただけのようだ。


「部屋に入ったときはアルコール臭もしたんです」


 アンネが必死ささえ感じさせる訴え方をしてくる。

 先に気付いたのは自分だから責任は自分にあると言いたげだ。


「でも、部屋に入ったら急に匂いがしなくなったんです」


 ベリーはそれを打ち消すように言ってくる。

 アンネだけが悪い訳じゃないと言いたいようだ。


「別に2人を罰するために聞いてる訳じゃないから」


 そう言って安心させようと思ったのだが、反応は芳しくない。

 ABコンビはどちらも納得しているように見えなかった。

 俺が断罪のために事情聴取をしているものとばかり思われているっぽい。


「こういうのはどういう状況か把握しておくのが大事なんだ。

 そうすることで再発防止策を練りやすくなるからな」


 ABコンビより周囲の皆の方が先にホッとした雰囲気になった。


『もしかして俺がすごく怒ってるように思われてたのか?』


 そんなつもりは毛頭なかったのだが。

 やはり驚いたときに余計な考え事をしたのがいけなかったようだ。


 今更ではあるが反省。


「そんな訳だから、その先も聞いておこうか」


 再び先を促した。


「匂いが消えた後は普通だったので特に何かした訳ではありません」


「でも、確認は怠りました」


「怠ったのは私もです」


 責任は自分の方が重いとでも言わんばかりのABコンビである。


「いや、それを言うなら俺だって同じだぞ」


 様子がおかしいと思った時点で確認してなかったからな。


「「ハルト様は違いますっ」」


 今度は連係プレーだ。


「私達は目撃していたんです」


「そうです、そこは決定的に違います」


「なのに勝手に魔法でアルコールを抜いたんだと思ってしまいました」


「もっと注意深く観察していればっ」


「消臭しただけなのに気付いたって?

 そりゃ無理だろ。

 長い付き合いのある俺でさえ最初は気付かなかったんだし」


「「うっ」」


「まあ、次から注意深くなってくれればいいよ。

 俺も気を付けるようにはするからさ」


読んでくれてありがとう。

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