972 和気藹々だったり、悩んだり
フードファイター化したのは一部の面子だったが。
「お好み焼きもいけるわね」
「私はこっちの方が好みかな。
お好み棒は味が濃すぎるもの」
マイカやミズキもおかわりしていたりする。
「どちらも捨てがたいですよ」
お好み棒とお好み焼きの両方を交互に食べるカーラとか。
「程々にしておかないと後でどうなっても知らぬぞ」
カーラを呆れた目で見ながら忠告しつつも、お好み焼きを食べているツバキ。
「それはツバキもであろう?
妾も人のことは言えぬがの」
言葉通りシヅカもお好み焼きを堪能している。
「ふむ、シンプルな方が妾も好みじゃな」
「それならばPシートの味を抜いたものを開発すると更に売れるかもしれませんね」
そんな風に意見したのはマリアであった。
「味のない食材ってどうなんでしょう。
需要があるとも思えないのですが?
食べても美味しくないでしょうし……」
クリスが困惑気味に首を傾げる。
いまいち想像つかないと言いたげだ。
「寒天や春雨があるじゃない」
すかさずエリスが指摘した。
「あ、そうでした」
小さくテヘペロをするクリス。
何気ない仕草だが割と似合っていると思う。
有り体に言ってしまうと可愛い。
『最近は茶目っ気のある表情をするようになってきたんだよな』
これがクリス本来の地の性格である。
ゲールウエザー王国時代はこういう部分が出せなかっただけだ。
王族として振る舞う必要があったからなのは言うまでもない。
え? 俺の奥さんだからミズホ国の王族だろって?
うちは格式とか厳格なしきたりとか存在しないからな。
対外的なあれこれも気にしないし。
そんなやり取りをしながら、お好み焼きをシェアしながら食べる3姉妹。
彼女らの話を耳にしながら不思議そうに首を傾げる者がいた。
リオンである。
こちらも姉妹でシェアしているため、箸が止まっていることにレオーネが気付く。
「どうしたの、リオン?」
「うん、春雨って何だろうと思って……
寒天は食べたことがあるから分かるんだけど」
『リオンは食べたことがなかったか』
だとすると微妙なタイミングの差だと思う。
「ああ、それね」
レオーネは理解しているからな。
「デンプンの粉から作る乾燥食材よ。
糸状で白いから春の雨に例えられるんじゃないかしら」
「ふーん」
上を見るような仕草で考え込むリオン。
姉の説明から自分なりに想像しようとしているのだろう。
それを見たレオーネがフッと笑みを浮かべる。
「今度、何か料理で使ってみよっか」
「ホント?」
姉の提案に瞳を輝かせるリオン。
「久しぶりにお姉ちゃんと一緒に作ってみたいな」
「そうね、それもいいわね」
こちらも仲良しさんな感じで盛り上がっていた。
「あら、じゃあ私達も混ぜてもらえないかしら」
耳聡く聞きつけているエリスさんである。
「春雨パーティにしましょう」
クリスも追随していた。
『どんなパーティだよ』
他の食材も使うんだろうけど。
春雨がメインになると微妙に感じるのは俺だけではないだろう。
現にマリアがクリスの後ろで困ったような顔をしている。
迷った挙げ句、レオーネたちに頭を下げるマリア。
それを受けてレオーネが隣にいるリオンを見た。
「ほら、リオン」
返事を促しているようだ。
「うん、皆で楽しくやろっ」
「「あのー、自分たちも御一緒したいです」」
小さく手を挙げて会話に入ってくるアンネとベリーのABコンビ。
「もちろんっ!
皆でやろうよ」
「どうせなら奥さんズでやりましょう」
エリスが提案した。
「リーシャたちは今いないけど、後で誘ってみるわ」
「いいわね、乗った」
「私も。
それとフェルトちゃんも誘おうよ」
マイカとミズキも加わる。
「春雨で料理のバリエーションを増やしましょう」
前向きな意見を出しつつ参加表明するカーラ。
「ふむ、研究してからそれを披露するのも面白そうだ」
ツバキは更に意欲的だ。
「妾は食べる専門で良いかの」
シヅカはこんな感じ。
料理しない訳じゃないんだけどね。
どちらかというと食べる方が好きなのだ。
『俺が頼むと張り切って作ってくれたりするけどな』
ツンデレさんである。
ツン成分がかなり薄めではあるが。
なんにせよ、こんな具合で場にいる皆が賛同した。
『けど、奥さんズってことは俺とトモさんは外れるのか……』
ちょっと寂しい気がする。
「くーくぅ」
元気出せってさ。
ポンポンと俺の肩を叩きながら慰めてくれるローズさんである。
まあ、すぐにどこかへ行ってしまうんだけどね。
フリーダムに祭りを堪能している我が相棒だった。
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奥さんたちのやり取りを見ている間に食堂3姉妹の様子が変わっていた。
お好みを食べながらも、何故か重い雰囲気を漂わせているのだ。
『何があった?』
さほど深刻な感じではなさそうだが。
注意して3人のやり取りを見ることにする。
「単純なように見えてお好み焼きって奥が深いのね」
一口食べ終わったところで箸を置いて、そんなことを言うスー。
その表情は神妙なものだ。
「……どういう、こと?」
恐る恐るといった感じでシーオが尋ねる。
姉の様子から何か感じ取ったのだろうか。
俺には分からない。
「この味を真似ることができないのよ。
お好み棒の時はここまでだとは気付けなかったわ」
「スー姉でも無理なの!?」
驚きを隠さずシーオが聞いている。
「無理に決まってるじゃない」
苦笑するスー。
「私のことなんだと思ってるのよ」
「え、スー姉はスー姉だけど」
真顔で返すシーオ。
「そういう意味じゃない。
シーオ姉はボケ方が天然過ぎ」
すかさずミーンのツッコミが入る。
「ボケてないわよぉ」
ミーンのダメ出しに抗議するシーオ。
だが、ミーンもスーも取り合わない。
ジーッと冷めた表情でシーオを見つめている。
「うぐぐ……」
視線の圧力にシーオは反論できず敗北した。
「真面目な話、ネックは何?」
今度はミーンがスーに聞いていた。
「そんなに複雑な味がするとは思えない。
スー姉が無理と言うほどの何かがあるの?」
真面目な話と言っている割にはパクパク食べながら喋っている。
『大丈夫かな?
行儀が悪いとかスーに注意されるぞ』
「それは何を置いても隠し味ね」
ミーンが食べながら喋ることには特に何も言わず返事をする。
どうやら自分だけに厳しい主義のようだ。
大らかさんである。
「公開されているレシピにない隠し味が使われているわよ」
なかなかの名探偵ぶりだ。
【鑑定】スキルを持たないのに、そこを見極められるとは見事なものである。
「それが何なのかがねー……」
スーが困った顔をしながら溜め息をついた。
「隠し味だけで味わっても何であるか分からないと思う」
「そうなの!?」
目を丸くするシーオ。
姉の調理技術と味覚に絶対の信頼を置いているが故だろう。
「だって味わったことがないんだもの」
姉の返事と愚痴に首を傾げながらパクパク食べ続けるミーン。
隠し味があることさえ気付かないようだ。
「Pシートの味じゃなくて?」
シーオも首を傾げながら聞いている。
次女も3女も絶対味覚は備わっていないらしい。
この様子では【鑑定】スキルも生えてきそうにないな。
そんな簡単にゲットできるなら西方でも【鑑定】スキル持ちが大勢いるだろうけど。
「お好み焼きの方はPシートなんて使ってないでしょ」
「あ、そっか」
「じゃあ、生地に秘密があるのかな?」
「そうでしょうね。
ソースでないのは間違いないわ」
「さすがスー姉、見切りが凄い」
シーオが驚いた表情で感想を漏らす。
俺も同感だ。
たった一口だけで見極めたんだからな。
「なに言ってるのよ、もう」
照れながらも唇をとがらせ気味にして抗議するスー。
茶化されたと思ったらしい。
そして2人のやり取りを横目に黙々と食べ続けるミーン。
丸々1枚を食べ尽くす勢いである。
『お土産じゃないのかよ』
ツッコミを入れたくなったが仕方あるまい。
つい手を出してしまうくらい旨いのだ。
それがお土産だと分かっていたとしてもね。
決してミーンの食い意地が張っているせいではない。
他の面子もハイペースで食べているしな。
『食べ過ぎさん、当初よりも増加確定っと』
読んでくれてありがとう。




