969 シンキング拒否からすったもんだの名前決定
何故か食べられる包み紙のネーミングを拒否するトモさん。
一応は考えたけど、アレはない。
そもそも本人が覚えているかも怪しいところである。
だとするなら、そこが弱みとなるだろう。
向こうがゴリ押しで来るなら俺も弱点を突かせてもらうまで。
「じゃあ、もう1回だ」
「ん?」
「その長ったらしい名前を言うがいい」
『ただし、覚えていたらの話だがな、フハハ!』
なんて考えていたら悪役組織の幹部風な口調になってしまった。
ここで成り切ってしまうとトモさんが悪のりしそうなので軌道修正する。
「まさか言い出した本人が忘れてるなんて言わないよね?」
俺の反撃にトモさんがピタッと固まってしまった。
すぐに再起動したけど。
とはいえ我に返っただけだ。
「あれだな、あれあれ……」
名前がすぐに出てこない。
「えっと、うん、アレなんだ」
あれアレ言うだけで肝心の名前は出てこない。
覚えていないのは確定的だ。
「茶色くて暖かい食べられる何か、だな」
堂々と言ってのけるが違う。
ログを見るまでもなくってやつだ。
「全然、違うよ」
「そんなことはないだろう」
「ニュアンスは同じとか言わないようにね。
商品名になるんだから。
今のだと類似品の偽物ってことになるけど?」
逃げ道は先に潰す。
慈悲はない。
「うっ」
短く呻いて、たじろぐトモさん。
先手を打たれたことで動揺したようだ。
「じゃあ[茶色い何かは暖かく食べられる]だ」
諦めが悪い。
どうにかして命名することから逃れたいようだ。
『どう考えても労力はこちらの方が割に合わないよな』
そのあたりは考慮しないらしい。
「並べ替えたって永遠に正解しないよ」
「ぬわにぃー」
好きな群青さんの物真似で逃げても誤魔化されたりはしない。
「単語がポコポコ抜けたり違ったりしてることに気付いているかい?」
岩塚群青さんをスルーして指摘する。
トモさんがまたもたじろいだ。
というか不自然に上半身を泳がせている。
『なんだ?』
何かのネタみたいだが。
「これが若さというものか」
「……………」
『それがしたかったのか』
今度は三毛田庄一さんである。
「このタイミングで使う台詞じゃないよね?」
「修正された気分になったから」
そんなことをしれっと言ってのける。
「……とにかく、暖かいなんて言ってなかったよ。
それと薄いとかベタつかないが抜けてるから」
「じゃあじゃあ[薄くてベタつかず茶色い何かは熱々で食べられる]だ」
「ブッブー、不正解」
「なんとぉーっ」
大袈裟に仰け反るトモさんである。
『もしかして、アレで正解するつもりだったのか?』
なかなか神経が太い。
「正解は[何か茶色で薄くて保温もできてベタつかず食べられるやつ]だよ」
「長いじゃないか」
「トモさんが言ったのっ」
「そうだっけ?」
「そうなのっ」
空惚けるトモさんに押し切られないよう強く言い切る。
「だから、この名前は却下ね」
「おのぉれぇーっ」
この期に及んで声を作ってくる。
誰の真似かは分からなかったけど。
「それ、誰の真似さ?」
「尾安さんだよ」
「尊人さんか。
てことは黒歴史が語源になったグランダムのあの台詞?」
「そう」
「似てない」
「ぐはっ」
「いいから考えような」
「もう許して」
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食べられる包み紙はPシートと命名された。
トモさんは結局ギブアップしたけどね。
『こういう時に考えすぎてしまうからなぁ』
サービス精神が旺盛な部分が裏目に出てしまっているのだろう。
単純すぎてはいけないとか自分の中で縛りを入れてしまっている感じ。
「シンプルでいいんだよ」
「そういうものかい?」
「そういうものだよ。
分かり易い方が定着しやすいだろ」
「うーん……」
反応が芳しくない。
「長ったらしいとインパクトはあるかもね。
だけど、印象ばかりが先行して肝心の名前が覚えてもらえないよ」
「うっ」
思い当たる節はあるようで、トモさんが焦りの表情を見せた。
「それで結局、どういう名前がいいんだい?」
ギブアップしただけあって考える気はゼロのようだ。
「分かり易くて変じゃなければ何だっていいと思うけどね」
「例えば?」
丸投げ感たっぷりに聞いてくる。
「Pシートとかさ」
「じゃあ、それで」
『はやっ!』
ミリ秒単位の返答であった。
即断即決にしてもノータイム過ぎる。
「もうちょっと検討してから返事しようぜ」
「……考えた」
数秒のシンキングタイムを経て、そう言ってくる。
「短くてシンプルで覚えやすい。
そして変じゃない名前だ。
これ以上の名前はないと断言しよう」
スラスラと言ってはいるが、微妙に棒っぽい台詞回しだ。
本気で考えたとは思えないところである。
『まあ、いいか』
トモさんの言ったことは決して間違いではないんだし。
そんな訳で食べられる包み紙の名前がPシートとして決定したのであった。
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「これは、いいわね」
言いながらパクパクとお好み棒を食べていくベリルママ。
『速えー』
ガツガツしていないのに見る間に無くなっていくお好み棒。
俺が同じペースで食べたら確実にガッツ食いになってしまうだろう。
「手早く食べられるじゃない」
言葉通りベリルママは瞬く間にお好み棒を残さず食べきっていた。
『マジかっ!?』
ずっと見ていたのに信じ難い気分になってしまう。
夢でも見ているのかと思ったほどだ。
もしくは気付けば無くなっていた感じだろうか。
食べ方が汚く見えなかったのが大きく影響していそうだ。
「それにお好み焼きの味とマッチしていて美味しいわ。
ソースと喧嘩することなく馴染んでいるし。
食感もPシートとお好み焼きで違うからアクセントになってるわね」
ちゃんと味わって食べているコメントである。
「お好み棒いいわね。
ナイスよ、トモくん!」
屋台の方に向かってサムズアップしているベリルママだ。
トモさんが呼びかけに気付いて顔を上げたタイミングでバシッと決めていた。
嬉しそうに笑いながらヘラを挙げて応えるトモさん。
ただ、それも束の間のこと。
すぐに作業に戻っていた。
お好み棒のバックオーダーを抱えたままだからね。
焼いても焼いても終わらないのが現在の状況だ。
Pシートで包むのは仕込みのために席を外していたフェルトの担当になっていた。
アシストが入る前よりは確実にスピードアップしている。
『あれなら自動人形を投入しなくても大丈夫か』
大変そうだけど、本人たちは生き生きとしているから下手に増援を送れないんだよな。
そんな訳で向こうが音を上げたらどうにかすることにした。
『さて、お好み棒の評判はどうだろうな?』
食べ始めている面々の方を見た。
既に食べ終わっている者もチラホラ見かける。
ミーンなどもその口だ。
「味も歯ごたえも抜群」
口の中に残る味を反芻するように目を閉じて呟いていた。
「確かにねー」
シーオも同意している。
「だけど歯ごたえで言えば、イカ玉というチョイスもあるわよ」
「むー、それも捨てがたい」
「だったら後で頼むのもいいんじゃない?」
「悩ましいところ」
ミーンがしかめっ面になった。
「どうしてよ?」
「屋台は他にもたくさんある。
お好み焼き屋だけじゃない」
「あー、そうよねー」
しみじみとシーオが同意した。
「他のものも食べたくなるかぁ」
コクリとミーンが頷く。
「お好みは既に食べた」
「そこなのよねー」
「豚玉とイカ玉の差は大きいようで小さい」
「バカにできないんだけど、お好み焼きの範疇での話だしー」
「悩ましい」
「まったくだわ」
2人で大いに悩んでいる。
そんな妹たちのやり取りを見ながらゆっくり咀嚼しているスー。
未だ食べきっていない。
食べるのが遅いのもあるが注文を豚玉から替えたために食べ始めが遅かったのだ。
その目は何か言いたそうにしているけど……
2人の妹たちは気付いていなかった。
読んでくれてありがとう。




