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958 神官ちゃんが得たものとマイカのミス

「よぉーしっ、シーニュはん」


 ダダダダダッと神官ちゃんに駆け寄るアニス。


「友達がおらんのは、よう分かった」


 問題発言を堂々としてくれる。

 頭が痛くなった。


「せやけど、そんな日とは今日でおさらばやっ!」


 妙に暑苦しく力説する。


『あー、そういうこと』


 止めようかと思ったが放置することにした。

 納得がいった途端にドッと疲れが押し寄せてきたからというのもある。


「言ってる意味がよく分からない」


 困惑の表情で首を傾げるシーニュ。

 アニスの発言内容だけでは想像が及ばないようだ。

 ノリと勢いで迫るアニスに圧倒されているのもあるだろう。


「意味なんていらんねん。

 たった今からうちら皆が友達や!」


 ドヤ顔で言い切るアニス。

 振り返って──


「皆も依存はないやろ?」


 力強く拳を突き上げて呼びかけた。


「「「「「おーっ!」」」」」


 皆が応じた声が玄関ホールに木霊する。

 ビリビリと空気を震わせる迫力があった。

 シーニュがビクッと体を震わせたほどだ。


「友達……」


「せやでっ」


 ニカッと歯を見せて笑うアニス。


「ヨロシク!」


 ビシッという擬音が聞こえてきそうなサムズアップを決めるレイナ。


「「よろしくねー」」


「よろしくですー」


「よろしく頼む」


 双子にダニエラにルーリアが続いた。

 他の面々も声を掛けていく。

 元ゲールウエザー組の3姉妹やABコンビもね。


「アナタと友達なんて素敵ね」


 フフッと蠱惑的な笑みを浮かべるエリス。


『あれは女子でもたまらんだろうなぁ』


 俺なんか蜘蛛の巣に絡め取られた気分になったぞ。

 面と向かって言われた訳じゃないんだがな。


「私もそう思います」


 淡々と言っているようで前のめりに言ってくるマリア。

 真面目な顔をしてるんだが冷たい感じがしない。


 瞳が情熱的に潤みかけているからだろうか。

 これはこれでクーデレ風味な魅力があふれていると思う。


「これからヨロシク!」


 クリスはハキハキした感じでホッとする。

 友達になろうと声を掛けるなら、これこそが正統派だろう。


 何にせよ3人とも他の面子より力が入っていると感じられた。


『見知った相手なら当然か』


 ただ、神官ちゃんの方に3姉妹の記憶はないんだけど。

 そのせいか雰囲気に圧倒される感じになっていた。

 返事をする余地もないほどだ。


「大変だったわね」


「私達も色々あったけど」


 ABコンビは自然体な感じだったと思う。


「何かあったら言ってちょうだい」


 アンネが明るく相談に乗るぞ的な口振りで言えば──


「何もなくても言ってくれればいいわよ」


 ベリーがそう言いながらイタズラっぽい笑みでウィンクする。


 これはこれで想定外のノリらしい。

 シーニュは呆然としている。


 そして他の面子も次々と前のめりにグイグイ来る感じだった。

 神官ちゃんが我を取り戻したのは皆が声を掛け終わってからだった。


「その……

 ありがとう」


 照れくさそうに頬を染めるシーニュさん。

 普段のようなドライな雰囲気が影を潜めてしまっている。


『ちょっと反則じゃないか?』


 実に可愛らしい感じだ。


「こちらこそ、よろしく」


 ペコリと頭を下げるシーニュ。

 こんな具合に神官ちゃんには一度に沢山の友達ができるのであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 あれから半時間は過ぎただろうか。

 俺たちは未だ迎賓館の玄関ホールにいた。


 無駄に油を売っている訳ではない。

 シーニュを中心に皆が自己紹介しながら何気ない会話をしている。


 俺はボーッと眺めるだけだがな。

 ルディア様に任された仕事を掻っさらわれたような気がしなくはない。


 だが、渡りに船とも言える。

 ベリルママが来ることになっているのだ。


 シーニュに掛かり切りになる訳にはいかない。

 【多重思考】で同時に対応することは可能だが、できればそうはしたくない。


 ベリルママだって仕事をどうにかやりくりして全力で遊びに来ているのだ。

 俺だって片手間仕事のような真似はできない。


『なら、皆に神官ちゃんを任せるのが正解か』


 ルディア様に任された仕事ではあるが、具体的な指示まで受けた訳じゃない。

 丸投げしても文句は言われないだろう。


 そう思うと脱力ものである。

 今まで肩に力が入りすぎていたってことか。

 俺は小さく溜め息をついた。


「あら、御不満そうね」


 細かな変化を見逃さない女、それがマイカである。


『面倒くさいのに見つかったな……』


「みんなにゲストちゃんを奪われて悔しいのかしら」


 からかうような感じでクスクス笑っている。


「そっちの方が助かるから肩の荷が下りた心境」


 ボソッとした感じで言ってやる。


「なんだ、つまんない」


「ベリルママが来るって時に適当なことはできんだろ」


 皆まで言わずとも俺の考えていることが分かるはず。

 伊達に付き合いが長い訳ではない。


「あー、そういうことねぇ」


 意味ありげな笑みを浮かべられてしまった。

 分かってはもらえたようだが、その分からかいの材料を与えてしまった気がする。


「マザコンとか言うなよ。

 これは歴とした親孝行なんだからな」


 先に釘を刺しておく。


「あーん、なんで先に言っちゃうかなぁ」


 目論んでいたイタズラが不発だったかのように小さく悔しがるマイカ。


「どこかの筆頭亜神様のせいで気疲れしてるんだよ」


「御愁傷様よねー」


 お気楽な感じで言ってくれるものだ。

 ちょっとイラッとした。


「もう、マイカちゃん。

 ハルくんをこれ以上、からかっちゃダメだよ」


 ミズキがここで間に入ってきた。

 さすが付き合いが長いだけある。

 喧嘩になりそうなタイミングを心得てらっしゃる。


「せっかくの休みなんだからー」


「へーい」


 これ以上は俺を怒らせるだけだと分かっているマイカも素直に引き下がった。


「そんなハルに朗報でーす」


 白々しいほどの満面の笑みを浮かべるマイカ。

 この期に及んで、まだ俺をからかおうとしている。

 ネタが違えば別腹とでも言うつもりか?


『食後のデザートじゃあるまいし』


「なんだよ?」


 思わずぶっきらぼうな口調で聞いてしまう。

 が、警戒心も露わになるのは無理からぬことだろう。


「ベリル様、来てるよ」


「ぬわにぃーっ!?」


 似ていない岩塚群青さんが出てしまったさ。

 降臨の気配はまるで感じなかったんだが。

 そこは狙ってのことだろう。


『サプライズ~とか言うつもりだったんだろうな』


 何処かの誰かさんのせいでパーになってしまったが。

 その誰かさんは、してやったりのドヤ顔をしている。

 斜め後ろにいたミズキが「ダメだ、こりゃ」の表情で嘆息していた。


「いいのか?」


「何がよ?」


 己の失態にはまるで気付いていない様子のマイカ。

 何も言わず哀れみの表情を浮かべ片手で拝んでいるミズキ。

 台詞があったなら「御愁傷様」だろうか。


「ベリルママが降臨してるのって内緒だったんだろ」


「うっ……」


 俺の指摘を受けて言葉に詰まるマイカ。

 どうやら図星らしい。


 瞬時に顔が青ざめていく。

 これがギャグ系のマンガやアニメなら大量の汗で顔面が埋め尽くされていただろう。


「どどどどうしようっ!?」


 激しく動揺しているが今更である。


「変に誤魔化そうとしないことを勧める」


「ええっ!?」


 衝撃を受けて固まるマイカ。


「悪足掻きをすると碌なことにならんと思うが?」


「ううっ」


 ガタガタと震え始める。

 あれやこれやと想像しているせいだろう。


「どうせ、ここの様子も見られてるだろうし」


「ノオオオォォォォォッ!」


 奇声を発したかと思うとマイカは頭を抱えて身悶えし始めた。


『ノオってYesNoのNoってことか?』


 まあ、気持ちは分からんではないが。


「マイカちゃん、諦めが肝心だよ」


 後ろからマイカの肩にポンと手を置いてミズキが言った。


「しょんにゃあー……」


 くしゃっと顔を歪めてマイカが泣き言を言った。

 修行しているときに何かあったのかもしれんな。

 この様子だと聞いても教えてもらえそうにない気がする。


「素直に謝った方が絶対いいと思う」


「俺もそう思うな。

 それとも厳罰を望むのか?」


 ブルブルブル────────ッと高速で頭を振るマイカ。


『どんだけビビってんだよ』


 完全に震え上がってしまっている。

 まるで追い詰められた小動物のようだ。

 俺も調子に乗らないようにしよう。


読んでくれてありがとう。

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