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957 神官ちゃんは友達がいなかった

 あっと言う間に神官ちゃんと皆が仲良くなった。

 うちの賑やかなメンバーが率先して動いてくれたからなんだけど。


「秋祭り会場の案内はうちらに任せてや」


「そうそう、任せて!

 皆で遊べば楽しいわよ」


「分かった。

 案内は任せる」


 アニスやレイナの言葉に頷くシーニュである。


「皆で遊ぶというのがよく分からないけど」


 頷いた直後の発言は爆弾であった。


「「「「「なんですとー!?」」」」」


 ほとんどの面子が驚きを露わにしていた。


「よく分からないって何よ?」


 レイナが目を見開ききったまま詰め寄るように聞いている。


「せやで!

 どういうこっちゃの?」


 アニスも興奮していた。


「2人とも落ち着きなさい」


 リーシャがレイナとアニスの襟首を掴んで引き下がる。


「「ぐえっ」」


 首が絞まって珍妙な声を出す両名。

 そのまま最前線からの撤退を余儀なくされた。


 というか強制連行みたいなものだ。

 ズルズルと引きずられるように後方へ送り込まれ、ゲホゴホと小さく咳き込む。


 そしてノエルから脳天にダブルでチョップを落とされる。

 本気ではないので身体的なダメージはないのだが。


「調子に乗りすぎ」


 メッという感じでお叱りを受けると──


「ごめーん」


「すまんこっちゃ」


 萎れていくばかりである。

 じきに復活するのが分かっているので誰もフォローに回らない。


 フォローするなら神官ちゃんの方だろう。

 アニスとレイナの勢いに呆気にとられて目を白黒させているからな。

 まだ完全には復帰できていない状態だった。


「すまない。

 仲間が見苦しい真似をしてしまった」


 下がったリーシャたちに代わってルーリアが頭を下げる。


「問題ない。

 ちょっと驚いただけ」


 シーニュはそう言って怒っていないことを伝えてきた。


「でも、おどろいたよねー」


「そうそう」


 双子ちゃんたちが話を戻そうとしている。


「「皆で遊ぶのがよく分からないってどういうこと?」」


 ハモって質問していた。


『想像つかんのか』


 ちょっと考えれば分かりそうなものだが。

 とはいえ分かっても言えるかどうかは別問題である。


 答えを言ってしまうとシーニュにダメージが入りかねないからな。

 故に俺は口出しできずにいたのだが。


「もしかしてー、皆で遊んだことがないとかですかー?」


 ダニエラがストレートに質問していた。


『俺の自重をどうしてくれるんだ』


 先の2人のように前のめりにはなっていないが、聞いていることが核心を突きすぎだ。

 ホームラン級の失言だろう。


 しかしながら本人にその自覚はない。

 周囲が「やっちまったー」な目で見てハラハラするばかりである。

 もちろん俺もその口だ。


『勢いで話を流すこともできないしなぁ』


 どうしたものかと頭を悩ませるばかりだ。


「その通り」


 あっさり肯定するシーニュさんである。

 本人はダニエラの質問も平然と受け止めていたらしい。

 俺らの心配など無意味だったようだ。


「幼い頃は友達がいなかった」


 自分で暴露するくらいだし。


「主に銭ゲバどものせいで」


『それが理由か』


 悲惨な子供時代だったのだろう。

 シーニュが嘘を言っているとは思えない。

 毛嫌いぶりを聞かされた後だしな。


『親の因果が子に報い、の口か……』


 毒親という言葉がピッタリ当てはまりそうだ。


「「銭ゲバって?」」


 事情を知らない双子たちが聞いてしまった。

 どんどん深みにはまっていく。

 孤立無援で底なし沼のど真ん中にいる心境だ。


 今度こそシーニュが不機嫌になってもおかしくない。


「かつての扶養者」


 凄く嫌そうな雰囲気を醸しながらの返事だった。

 表情といい声といい、嫌悪感が如実に表れている。


「守銭奴で腐れ外道」


 そして身も蓋もない評価。

 これを耳にして何も感じないのは鈍感どころの話ではない。


「「そ、そうなんだー……」」


 引きつった作り笑顔でそう返すのが精一杯な双子たちであった。

 まあ、他の面々も似たような反応をしているがね。

 ダニエラだって目を丸くするほどだ。


 なんにせよ、この話に関しては皆がデリケートでヤバいことには気付けたみたい。

 知らなかったのだから、しょうがないとは言えそうだけど。


 おそらく次はない。

 ドッと疲れが押し寄せてきた。


「今も友達はいない」


 要するに友達いない歴イコール年齢と。

 ある意味、恋人いない歴より重い話である。


 なのに本人はあっさり言ってのけるんだよな。

 周りの皆は微妙な空気を醸し出しているのだけれど。

 それさえ、どこ吹く風と言った様子だ。


「教会は年の近い者がいないのだな?」


 ルーリアが質問を繰り出す。

 どうにか話を繋ごうとしたつもりなのだろう。


 だが、それはどちらかといえば悪手に近い。

 事情を知らないのだから仕方ないのだが。

 さっきからこんなのばかりで俺としてはドキハラものである。


「いない訳ではない」


「え?」


「同世代の人間は何人もいる。

 でも、見習いがほとんど。

 助祭はそれなりで司祭はほとんどいない」


「上下関係があるから友達になれる訳ではないと?」


「そう」


 そこが教会の面倒なところだ。


「司祭にもいない訳ではないのだろう?」


「アレを友達とするなら魔物や盗賊とも友好関係を結べる」


 約1名しかいないらしい。


『言うなぁ』


 内心で苦笑を漏らしたさ。

 俺にとっては見たことさえない相手だ。


 とはいえ神官ちゃんが敵認定している相手である。

 そこまで言い切っても不思議ではない気がしたのも事実だ。


「何と!?」


 事情を知らぬルーリアがたじろぐかのように驚いていた。

 他の面子も同じようなものだ。

 隣の者と顔を見合わせたり口元に手を当てたり。


『何だ?』


 思った以上に衝撃を受けているようだが。


「そのような人物が教会の司祭に?」


 訝しげな表情でルーリアが尋ねた。


『なるほど、そういうことか……

 まあ、普通はそう思うよなぁ』


 人に仕事を押し付けたり、あれこれやらかしてくれる敵がいることを知らないからな。

 事前に話を聞いていなければ俺も同じ疑問を抱いたことだろう。


「バカが勘違いして調子に乗った」


「勘違い?」


「親が貴族で枢機卿と知り合いだった。

 それだけのことで自分が特別だと思い込んだ」


「「「「「あー……」」」」」


 ルーリアだけでなく多くの面子が納得の声を漏らして頷いていた。

 皆まで言わずとも想像がつくといったところか。


「すまない」


 ふと我に返ったルーリアが頭を下げる。


「そちらのことを碌に知りもしないのにあれこれと言ってしまった」


 皆もそろって謝罪する。


「大丈夫、気にしてない」


 淡々と答えるシーニュ。

 玄関ホールを埋め尽くさんばかりの面子に頭を下げられても動じない。


「バカについては解決したも同然。

 帰る頃には処分済みのはず」


「「そうなんだー」」


 感心したように相槌を打つ双子たち。

 ルーリアは無言である。


 何か言いたそうな雰囲気は感じるけどな。

 これ以上は余計なことを言わないようにと己を律しているのだろう。


「もしもアレの処分が手緩かったら私にも考えがある」


 シーニュの目力が増した。


『こりゃ出奔する気だな』


 問題はどのくらいで手緩いと考えるかだ。

 追放処分で充分とするならいいのだが。


 斥候型自動人形で観察する限りは、そうなっている。

 実家にまで見限られているので助ける者は誰もいない。


 当然だろう。

 教会に入ったことで家を継ぐ資格を失った者が血縁関係だけを頼りにしてもね。

 当主が1人を助けるために一族郎党が路頭に迷うような真似をする訳がないのだ。


『まあ、俺には関係のないことだ』


 シーニュが満足はしないまでも納得する処分なら、後は知ったことではない。


 もし、追放処分になっていなければ横槍は入れただろうがね。

 密かに自動人形を残していったのもそのためだし。


 特別、世話になった訳ではない。

 それでも好ましいと思うから手を貸そうと思えるのだ。

 今回はそういうことにはならなかったが。


「「そ、そうなんだ……」」


 一方でメリーとリリーの双子はシーニュの言葉に引き気味である。


『どうなっているかを知らんからなぁ』


「アレがいる教会に残る意味はない」


 そう言い切るからには敵がいなくなれば充分と考えているのだろう。


「追放されれば、それで充分か?」


 念のために聞いてみた。


「もちろん。

 それだけで居心地が良くなる」


 しっかりとした頷きが返ってきた。


「私だけでなく、皆も憂いなく過ごせるようになる」


「ならば問題ない。

 敵は排除された」


 俺の言葉にシーニュが目を丸くする。


「さすがヒガ陛下」


「勘違いするなよ。

 俺はどうなったか探りを入れただけだぞ」


 他意はないし特別扱いでもない。

 ゲストに気がかりなく過ごしてもらうための手を打っただけだ。


「これで今日は心置きなく遊べるだろ?」


 シーニュがフワリと柔らかく笑った。


読んでくれてありがとう。

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