956 さっそくのお出迎えが騒がしい?
幼女まみれな俺である。
普段なら皆が堪能するのを待ってから解放してもらうのだが。
こんな状態ではゲストを案内することもままならない。
「こらこら、お客さんがいるんだぞ」
そんな訳で即座に注意した。
「「「「「はーい」」」」」
シュバッと離れて一同整列。
素直な良い子たちである。
「「「「「いらっしゃいませー」」」」」
まるでファミレスにでもいるかのような錯覚を覚える挨拶だ。
着ているのはミズホ服なんだけど。
「コンニチハ……」
先程、教えたばかりのミズホ語で挨拶を返すシーニュ。
「「「「「おおーっ!」」」」」
驚きを露わにしつつも身を乗り出して興味津々な子供組。
「ミズホ語にゃ」
「ミズホ語なの」
「外国の人なのに凄いね」
「「陛下が教えたのかなぁ」」
口々に思ったことを言いつつシーニュをグルッと囲んでいる。
「えっと……」
勢いに圧倒されたらしいシーニュが困惑の表情を浮かべた。
子供組の面々を次々と見ていくしかできない。
質問されたなら答えていたのだろうが、そうではないしな。
にもかかわらず幼女たちは興味深げな視線で見上げてくるのだ。
どうしていいのか分からないのだろう。
オロオロした感じが見られてレアな感じがする。
不謹慎にも可愛いと思ってしまった。
『おっと、いかんな』
困っている相手を放置するものではない。
シーニュが目で俺に助けを求めてきた。
ますますレアだと思うが、そんな場合ではないだろう。
「そのくらいにしておけ。
客人が困っているぞ」
「「「「「はーい!」」」」」
手を挙げて元気に答えた子供組。
そして軽く距離を取る。
たったそれだけだったが精神的なプレッシャーから解放されたのだろう。
シーニュは小さくホッと息をついた。
『玄関に辿り着くまでで、これなのか』
前途多難でゲンナリさせられそうだったが気合いを入れ直す。
子供組が両脇に控える玄関前で俺はシーニュに振り返る。
「ここは迎賓館だが、中に入る前に言っておく」
真剣な面持ちの頷きが返ってきた。
心して聞くべきことと思ったようだ。
「そこまで大層なことじゃない」
苦笑交じりに言うと、シーニュの表情が少し和らいで神官ちゃんな感じになった。
「この先にうちの国民たちが大勢待っているってだけだ」
『ドアの前にへばり付いているくらいだからな』
子供組がフライング気味に出てきた後にこうなった。
ドアを閉じて出てこなかったのは自制心が働いたからなんだろう。
ただ、外の様子を気にするあまりドアの向こう側が凄いことになっているのだが。
『興味津々なのは分かるんだけどさぁ』
何人もドアに耳を押し当てているような状況だ。
アニメなんかで時折見かけるような感じ。
このままだとドアを開けた途端に雪崩のように崩れ落ちてくるだろう。
マジでアニメのようになりかねない。
故にこの忠告はシーニュのためだけではない。
ドアの向こうにいる面々に対する警告を兼ねている。
これを言っておけば、開けた瞬間に飛び退いて何もなかったかのように振る舞うはずだ。
『芝居の面では不安が残るところではあるがね』
まあ、白々しいのは仕方がない。
緊張しているとでも言えば誤魔化すことは可能だし。
みっともない姿を見せるよりは余程マシである。
誰だ? 既にフラグを立てているから回避不能とか言っているのは?
フラグも絶対ではないのだよ。
なんとしてでも回避してみせようじゃないか。
「今みたいに圧倒されんよう、ちょっとだけ気を付けてくれればいい」
後半部分はドアの向こうの面子にも向けた警告の言葉だ。
『俺の言葉は聞こえたよな。
ちゃんと対応してくれよ』
ドアの向こうに心の中で呼びかける。
ただし、念話は使っていない。
『神官ちゃんがラソル様のお告げを何度も受けているのがねー』
その影響で念話を受けやすくなっていてもおかしくないのだ。
万が一を考えると迂闊なことはできない。
後は俺の言葉が皆に対する警告であることを察してくれることを祈るばかりである。
一方、シーニュはコクコクと頷いていた。
その呼吸を確認し──
「準備はいいか?」
充分と感じたところで尋ねた。
今度はリラックスした感じの頷きが返ってくる。
「では、行くぞ」
一泊の間を置き──
「ようこそミズホ国へ!」
力強く言いながらドアを開く。
中へとシーニュを招き入れようとしたのだが。
「「「「「うわあっ!?」」」」」
ドドドドドッと雪崩のように崩れ落ちてくる国民たち。
完全に将棋倒しの状態だ。
「ちょっとぉ、重いじゃないのー」
一番下で文句を言っているマイカ。
普通は重いでは済まない。
マイカの上には何人ものし掛かっているからだ。
常人であれば圧殺されてもおかしくない。
なのに発した言葉に反して重さを感じているとは思えない余裕が感じられる。
「せやでー、はよ退いてんかー」
その隣でアニスも体を揺すりながら唸っていた。
こちらも緊迫感がない。
文句を言っているというよりはヤジを飛ばしているかのようである。
「こらー、暴れるなーっ。
こっちに荷重がかかるでしょうがっ」
アニスに文句を言うのは、その隣にいるレイナだった。
やはり文句を言う割には必死さが感じられない。
荷重がどうとか言っているものの平然としているのだ。
「そんなん知ったことかいな。
重いのは、うちのせいやないで。
上が退いたら済むこっちゃさかい。
注文つけるんやったら上の面子に言うたらええやん」
アニスの反論にレイナが体を揺すって抗議する。
「屁理屈、言ってんじゃないわよっ。
アンタが大人しくしてればいいっつうの!」
半ばヒステリックになって言い返すレイナ。
「そっちこそ暴れてるやん。
うちの方に重さが来てるで。
文句を言うんやったら自分の方を先にどうにかしぃや」
更に反論するアニス。
「なんだとー」
「なんやねんな」
隣同士でバチバチと火花を散らすかのように睨み合う2人である。
「おい……」
「何?」
「何やの?」
俺の呼びかけに刺々しい声と視線で応じる2人。
「客人の前で何をしてるんだ」
「「あ……」」
指摘すると、ようやく気付いたようだ。
俺のそばで呆気にとられている神官ちゃんがいることに。
「いやははは、ちわーっす。
どうもお騒がせしてますぅ」
笑って誤魔化そうとするレイナ。
「こんにちはぁ。
こんな格好で済んまへん」
アニスも照れ隠しをするように苦笑している。
「お騒がせしてもうて申し訳ありまへんなぁ」
一応は謝罪もしているが。
「……………」
シーニュからの返事はない。
呆気にとられたままだからだ。
意外な気もしたが、よくよく考えると教会内の日常では経験できないことだろう。
『さすがに、こんな漫才じみた口喧嘩は見たことないだろうしな』
なにより下敷きになったまま真顔で謝ってくる光景はシュールすぎた。
どう見てもギャグアニメのシチュエーションである。
結局、想定した通りフラグを回収してしまった訳だ。
『フラグは絶対だった』
俺、敗北である。
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どうにか人間雪崩の積み上がり状態を解消して玄関ホールへと入った。
「「「「「ようこそ、ミズホ国へ!」」」」」
改めて挨拶をする一同。
圧倒されたのか無言で頭を下げるのが精一杯な感じのシーニュである。
「大丈夫か?」
コクリと頷くシーニュ。
「こんな出迎えを受けたのは初めて」
「不躾ですまんな」
フルフルと頭が振られた。
「愉快で楽しい。
暖かい感じがする」
フッと柔らかい笑みを浮かべるシーニュ。
どうやらお世辞的な反応ではないようだ。
「そう言ってもらえると助かるよ」
ホッとしていたのだが。
「「「「「イエーイ」」」」」
などという声が聞こえてきた。
見ればVサインやサムズアップをしている者たちがいた。
マイカやレイナも面子に入っている。
「君たちは、ふざけすぎ」
「「「「「へーい」」」」」
返事はするが、真摯さが感じられない。
ショボーンと落ち込む振りまでする始末だ。
それを見てクスクスと笑う神官ちゃんである。
『マジで!?』
二重に驚かされた。
シーニュがこんなことで笑うタイプではないと思っていたし。
皆がこうなることを読んで動いていたのが分かったからな。
「「「「「イエー!」」」」」
おふざけ組でハイタッチなんかしている。
「人間雪崩から仕組んでたな」
「「「「「そうでぇーす!」」」」」
元気よく答えられた。
俺はゲンナリだ。
そういうのは事前に知らせてくれよと言いたい。
『俺は神官ちゃんがゲストだってちゃんと連絡しただろう』
その結果がこれって……
何だか俺だけ疲れているような気がするんですけど?
読んでくれてありがとう。




