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951 神官ちゃんは御機嫌ナナメ

 神官ちゃんに仕事を押し付けた輩は処罰が決定。

 だが、被害者であるシーニュの表情は晴れなかった。


 いつもの乏しい表情だからという訳ではない。

 むしろ不機嫌なままだからな。


「これでも、まだ不服か?

 それとも膿は出きっていないのか?」


 俺が問うとシーニュは頭を振った。


「そんなのは、どうでもいい」


 ノータイムで興味がないと断じた。

 口振りからすると本気のようだ。

 しかしながら矛先を俺に向けられても困る。


「まあ、そっちの問題だしなぁ」


 他人事のように言うしかない。

 ゲストとして連れて行ったゲールウエザー組の方を見た。


「面目ない」


「申し訳ありません」


 クラウドとダニエルが謝罪する。


「いや、謝ってほしいんじゃないんだけど」


 対応してほしいからこその言葉だったのだが。

 マグ枢機卿などは俺の言葉に耳を傾ける余裕もないようだったし。

 ショックがデカいのは分かるがね。


 どうやら放逐される神官はシーニュと同レベルの実力の持ち主のようだし。

 そういう人材を失うことが決定しているんじゃ無理もない。


 とはいえ虎の威を借ろうとする狐を放置したのは禿げジジイだ。

 到底、同情する気にはなれない。

 知り合いですらないし。


 同情するなら断然シーニュの方だろう。


『変なことになってるな』


 何故か同情している相手に突っ掛かられている。

 実に面倒くさい状況だ。


「マグ枢機卿を連れて行け。

 適当な部屋に放り込んで外に出すな」


 ダニエルが出した指示は不可思議なものであった。


『普通は神官ちゃんを連れて行くんじゃないのか?』


 よく分からんが、問題の解決に必要と判断したのだろう。

 口を挟むのは保留する。

 そんな訳で禿げジジイは駆け寄ってきた兵士たちに両脇を抱えられた。


「何をするっ」


 禿げジジイが払い除けようと体を動かすがビクともしない。

 小走りで足元をふらつかせるような足腰だからな。

 背丈も小さいくて抱えられると浮いてしまっているし。

 足をばたつかせるんだが、それが子供っぽく見えてしまうほどだ。


「宰相閣下の命により連行します」


「馬鹿者が!」


 顔を真っ赤にして一喝しようとするが……


『残念、声量が足りんな』


 しわがれた声では迫力など欠片も感じない。

 本人は激怒しているつもりなのだろうがね。


「私は枢機卿だぞっ」


 身分を主張して威圧しようとしたが、完全に失敗している。

 到底、殺気立っているようには見えないし。

 ただのヒステリックな禿頭のジジイでしかない。


 まるで何かの犯人扱いだが、あながち間違いではない。


「こんなことが許されるとでも──」


 高圧的な発言を続けようとするが……


「ワシが許す」


 禿げジジイの言葉はダニエルによってぶった切られた。


「その方も無罪とは言えんのだからな」


「なっ!?」


 驚きを露わにする禿げジジイ。


「問題を放置したであろう」


「それは違いますっ」


 禿げジジイは慌てた様子で弁明しようとする。


「違わんよ」


 にべも無い返しだ。

 禿げジジイを見るダニエルの瞳は情など微塵も感じられぬほどに冷たいものであった。

 ほとんど汚物へ向けるそれである。


「いいえっ、私には国内の神官に対する処遇を決める権限があります」


 禿げジジイも負けてはいない。


「件の司祭に対しても職務を全うするよう粘り強く説得していたのです」


「思い違いも甚だしいわ、愚か者め」


 言い訳を断じるダニエル。


「貴様に与えられた権限は処遇を判断するものでしかないわ。

 陛下の許可なく処遇を決定することなどできぬことを忘れたか」


「うぐっ……」


 返事もできぬ様子で言葉に詰まる禿げジジイ。

 ダニエルの指摘で失念していたことを思い出したようだ。

 今までは問題なく許可されてきたせいで認識が麻痺してしたというところか。


「それに何が粘り強くだ。

 そんなことを言っておるから足元を見られるのだ」


「なっ!?」


「貴様には逐次、報告する義務があった。

 それをせぬから貴族子女の神官は罰されることはないと高をくくったのだ」


「くぅっ……」


 痛いところをつかれたらしく顔をしかめる禿げジジイ。


「だからこそ其奴は調子に乗り貴様の言葉に耳を貸さぬようになった。

 粘り強くなどと聞き心地の良いことを言いおって。

 何も成果を出せぬまま愚か者を跋扈させただけではないか。

 報告を怠ることが常態化していた証拠に他ならぬわ」


 核心を突かれたらしい。

 禿げジジイは呻くこともできなかった。


「追って沙汰を言い渡す。

 先に言っておくが、教会内に居場所があると思うな」


「お、お待ちくださいっ」


「知らぬ。

 もはや貴様に語る言葉などない」


 縋ろうとする禿げジジイの言葉を切って捨てるダニエル。


「引っ立てよ!」


 そして兵士に強く命じた。

 禿げジジイが連行される。


 オプションのように付き従っていた2人は連行されるまでもなく同行するようだ。

 観念したような表情をしている。

 禿げジジイの側近のようだし処分は免れないと考えたようだな。


『潔いと言えるか』


 禿げジジイとは比べるべくもない。

 後で聴取などあるかもしれないが素直にありのままを答えるだろう。

 この2人はもしかすると処分が多少軽くなるかもしれない。


「宰相閣下っ、困ります!」


 遠ざかる禿げジジイが喚き続けていた。


『こっちは厳罰だろうな』


 往生際が悪すぎる。

 自業自得という認識はないのだろうが、それは何の助けにもならない。

 シーニュがブチ切れるまで問題を放置したのだから逆効果でしかないと思うのだが。

 つくづく自分に都合のいいようにしか考えられないらしい。


「我々はヴォレ司祭を説得せねばならんのですっ」


 まだ枢機卿でいられるつもりらしい。

 教会内に居場所がないと言われているのに図々しいものだ。


「これでヴォレ司祭までいなくなると我々は責務を果たせなくなりますぞ!」


『訳が分からんことを』


「説得できるのは私だけなのです!」


 神官ちゃんが嫌悪感もあらわに顔をしかめた。

 そして小さく頭を振る。


「禿げに説得されたくない」


 不機嫌そうな顔のままボソリと呟いた。


「ぶふっ!」


 思わず吹き出したさ。

 もろに禿げとか言ってますよ。

 俺だって声には出してないというのに。

 神官ちゃんは大胆素敵である。


「仕事はすべて人に押し付けるような奴が責務を語るな」


 シーニュが吐き捨てるように断じた。


『これは禿げと言いたくもなるわな』


 とんだパワハラ野郎だったようだ。

 それでも今までは我慢したのだろう。


 で、今回は鬱積した不満が爆発したと。


「口先と外面の良さだけで生きているお調子者が」


 神官ちゃんが更に吐き捨てる。

 バッサリと切り捨てたものだ。

 言葉で人を傷つけられるなら深手を負わせていただろう。


 とにかく今まで悪評が表に出てこなかったのは、そのせいらしい。


『なんか故事に出てくる狐みたいだな』


 見た目は狸っぽい感じだったが。


「そもそも非番の日に遊びに行くのを制限されるいわれはない」


 確かに神官ちゃんの言う通りだ。

 この調子だと今までもそうだったのだろう。


「ましてや他人の仕事を押し付けるなど論外」


 労働基準法を無視して有給休暇を取らせないパワハラ上司そのものだ。

 神殿に対するイメージは悪くないだけに上司の悪さが際立って見える。


『離職率高そー』


 禿げジジイを追放するだけで一気に改善しそうだけどな。


「何とぞ御慈悲をーっ!」


 慈悲の欠片もないような奴に言われてもね。

 余計に処罰したくなるだけだ。

 まあ、俺は部外者だから口出しもできないんだけど。


「陛下ぁーっ!!」


 必死で叫ぶ禿げジジイ。

 本当に往生際が悪い奴だ。


 呼ばれたはずのクラウドは反応が鈍い。

 探し物をするかのように周囲を見渡す。


 だが、その動作は緩慢だ。

 やる気の欠片も見られない。


「はて?」


 恍けた表情でクラウドが首を傾げた。


「どこの陛下に言ってるのだろうな?」


 芝居がかった台詞回しだ。

 禿げジジイに問いかけているようで、そうでないのは明白である。

 聞こえるのは近場にいる俺たちだけだからな。

 既に屋内へと消えようとしている禿げジジイの耳には大声でなければ届くはずもない。


「ここには該当人物が3人もいるんだがねぇ」


 トドメとばかりに、すっとぼけたことを言う。


「「「「「─────っ」」」」」


 吹き出しそうになったさ。

 そしてそれは俺だけじゃなかった。

 ダニエルだけではなくエーベネラント組まで頬を引きつらせたり顔を背けたり。


 無反応なのはシーニュだけ。


「長年の実績があるではないですか───っ……」


 禿げジジイは姿が見えなくなるまで世迷い言を並べ立てていた。


「どこが?」


 神官ちゃんの切り返しが辛辣だ。

 何の感情もこもっていない。


 本人としては真面目にそう思ったのだろうが、その一言には破壊力があった。

 何人もの腹筋を崩壊させたのである。


『ナイスツッコミ……』


読んでくれてありがとう。

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