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96 玄人好みの試合展開

改訂版です。

 見えない打ち込みを幾度となく繰り出してみたがルーリアは動かない。

 威圧の強弱でフェイントを入れてみても動じないとは、かなり場慣れしているな。

 決闘騒ぎに巻き込まれた経験が少なからずありそうだ。


 当初の予定では去なして地味に終わらせるつもりだったんだが。

 カウンター狙いで待ちを決め込むとは予想外もいいところだ。


 模擬戦だからこその選択とも言える。

 実剣だったら死んでもおかしくない訳だし。

 勝敗はそっちのけで何処まで通用するかを見極めたいのかもしれない。


 この様子だと納得させて終わらせるのは相当に難しくなったのではなかろうか。

 抑えればルーリアが納得しない。

 派手にやらかすとゴードンたちが騒ぎ出すのが目に見えている。

 さすがに偽装レベルがバレることはないと思うが。

 それでも野次馬冒険者たちが噂を広めてしまうのは避けられそうにない。


 腹をくくるしかなさそうだ。

 目論見通りに行かない以上は方針を変更するしかあるまい。

 ならば発想の転換だ。

 評判を高めて変な連中が絡んでくるのを予防する。

 完全に防ぐことはできないと思うが減らすことができるなら良しとしよう。


 まずは真っ向勝負。

 ルーリアが逆袈裟切りで切り払うつもりなら受けて立つ。


 俺はグルンと木剣を回して肩に担ぐように構えた。

 昔、時代劇で見た首切りの構えを俺なりにアレンジしたものだ。

 片刃の刀であることを前提にした技を両刃の剣でそのまま再現はできない。

 使っているのは詰め物をした革巻きの木剣だが実剣のつもりで勝負しないとな。

 本気で挑んでくる相手に失礼というものだ。


 何にせよ一撃必殺狙いの大技であることに違いはない。

 速さと威力がある反面、隙は大きいものになる訳だが。


 ルーリアがやや腰を落としどっしりとした構えになった。

 俺が大技で真っ向勝負してくるつもりだと見抜いたようだ。

 速さでも力でも負けるつもりはないという意思表示なのは明白。

 意志の強さを感じさせる瞳からほとばしる気迫は周囲に静寂をもたらしていた。


 殺気にも似たピリピリとした気配は野次馬連中を一斉に黙らせたじろがせる程。

 相手にとって不足なし。

 いざ、尋常に勝負っ!


 俺は間合いに飛び込み暴風を想起させるような勢いの袈裟切りを繰り出した。


「っ!」


 すかさずルーリアが斜めに切り上げてくる。

 いい反応だった。

 外野で反応できたのはミズホ組だけだ。


 バチッ!


 木剣が瞬間的に接触。

 それだけで互いに剣の軌道がそらされ当たるはずだった一撃は空を切る。

 だが、それはルーリアも同じ。

 そう簡単に小手を取らせはしない。


 すかさず素早い切り返しが来る。

 がら空きとなった右の胴に返す刀で薙ぎ払い。

 俺が深く沈み込んで躱すと頭上すれすれを木剣が通り過ぎていった。


 お返しに低い姿勢から切り上げればルーリアは後ろに跳ぼうという足さばきを見せた。

 間合いを外そうというのだろうが読み通りだ。

 初手が通じなかった時点で更に踏み込もうとしてこなかったから仕切り直すつもりだろうとね。


 逃げるなら追うまでとばかりに切り上げの剣筋を強引に突きへと変えてやる。

 これが実剣であれば致命打にはならないまでも負傷は免れない。


 バシッ!


「っとぉ」


 突きは木剣で払われた。

 いや、押し退けて跳躍の軌道も変えている。

 見事な技の冴えだ。

 咄嗟の反応で同じ真似をできる人間がこの場に何人いる?

 うちの面々以外では難しいだろうな。


「な、何だよ、今の」


「なんでお姉ちゃんが後ろに跳んだんだ」


「賢者が斬りかかって空振りしたんじゃないのかよ」


「いや、それはお姉ちゃんが弾いた」


「見えたのか!?」


「腕の振りがそうだったってだけで当たったかどうかまでは見えてねえよ」


「じゃあ違うかもしれねえじゃんか」


「音が聞こえたろ」


「言われてみれば……」


「それより、その後だよ」


「分かる訳ないだろ」


「だな。速過ぎんだよ」


 今の攻防でほとんどの外野は動揺が抑えきれないようで騒然としていた。

 身内以外で最後まで見届けられた者はほとんどいないっぽい。

 ハマーはボルトに何があったか説明しているので見切ったのだろう。

 審判のゴードンも呆気にとられてはいるが把握できたからこそ衝撃を受けている感じだ。


 宣伝効果を考えれば充分と言えそうだが、試合はまだ終わっていない。


「さて、どうする?」


 俺の問いかけにルーリアの視線が険しくなった。

 はて? 怒らせるようなことをしただろうか。

 加減はしたが手抜きにはならないようにしたつもりなんだけど。

 あるいは待ち主体から切り替えるべきか迷っているのか。


「何故だ?」


 返答は意味不明な疑問形だった。


「貴公の腕前なら追撃できたはず」


 あー、飛び退った後は隙だらけだったと言いたい訳か。

 ということは怒っているのかな?

 言うほど隙はなかったんだけど信じてくれるかは微妙なところ。


「外野の声は聞こえているよな」


「何が言いたいのか」


「呆気なく終わらせると後々に影響するんだよ」


 ルーリアの表情から険は取れたが入れ替わりに困惑が乗ってきた。


「見知らぬ他人に侮られてケンカを吹っ掛けられたりはしたくないだろう?」


「そうだな」


「だからといって、やり過ぎると人が寄りつかなくなる」


「む……」


「かといって手加減が甘いと、うるさいのが後を絶たない」


 思い当たることがあるらしくルーリアの表情が一気に硬くなった。

 居場所がなく放浪の旅を続けていたと言っていたし容易に想像できたことだ。

 いままで散々しくじってきたって顔をしているので間違いないだろう。


「どうして……」


 苦々しい表情で呟くルーリア。

 そこまで分かるのかと問いたいに違いない。

 己の失敗をどうやって俺が知ったのかという見当違いな疑問を抱いてさえいるかもな。


「世間的に見て、そういう失敗は割とありふれた話だからな」


 俺が[犯罪者キラー]の称号を得た時のように。

 隙があるから変なのが寄りつくし調子に乗らせてしまう。

 で、やり過ぎたからキラーなんて称号がついた。


 あるいは他人への素っ気ない態度を徹底させると鉄仮面なんて呼ばれることになる。

 手段や程度の差はあれども、結果は同じという訳だ。


 ルーリアは赤面していた。

 どうやら勘違いしていたみたいだな。

 ぼっち仲間のよしみで、そこはスルーしておく。


「さて、あんまり駄弁っている訳にもいかないな」


 俺の言葉でハッとするルーリア。


「有象無象に絡まれやすくなる、か」


「そういうことだ」


 話をしている間は周囲に対して威圧をかましてたから文句を言う奴もいなかったが。

 耳のいい奴もいるみたいだから風魔法で話が聞かれないようにもしていた。


 今度はルーリアが切り掛かってきた。

 基本に忠実な一刀は速く鋭い。

 が、当人にしてみれば遅い方だろう。


 俺は僅かな動きで躱す。

 そして同じように切り掛かればルーリアも同じように躱した。

 ひたすらその応酬が続く中で違いの動きは徐々に速くなっていく。


 斬る躱す斬る躱す斬る躱す。


「ウソみたいな2人だな」


「かすりもしねえ……」


 見切れない奴らが増えてきたようだが俺たちには余力がある。

 動画をループさせているかのように動きは変わらない。


「まだ速くなるのかよ」


「さっきと違って立ち位置がほとんど同じままだぞ」


 一瞬引いて戻るくらいのことはしてるんだが、それを見切れと言うのは酷か。

 ルーリアも余裕がなくなってきているくらいだからな。


 斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す。


 これがまともに当たれば革巻きの木剣でも大怪我はまぬがれないだろうな。

 それでもルーリアは食らい付いてくる。

 胆力も根性もある。

 スタミナは言うまでもなく、だ。


 斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す斬る躱す。


 やがて残像が出始めた。


「うおっ!?」


「今の当たってねえのかよ」


「切ったように見えたぞ!」


 ここまで来るとルーリアも苦しげな表情を隠しきれなくなってきた。

 それでも乱れない。

 並大抵の鍛えようでないのは明らか。


 延々と続くかと思われた剣の応酬も終わりは唐突にやってくる。

 不意にルーリアが予備動作なしで突いてきた。

 これが同程度の実力の持ち主同士の真剣勝負であれば躱せなかっただろう。

 ただ、ルーリアは同時に飛び退っていたので深手を負うことはなかったはずだ。

 俺は軽く体を捻ることで突きを躱した。


 間合いを取ったルーリアは完全に足を止め肩で息をしている。

 呼吸が整うまで、しばし時間がかかるだろう。


「参り……ましたっ」


 ルーリアが降参し一礼した。


「ありがとうございました」


 俺もルーリアに合わせて木剣を脇に収め一礼する。

 が、周囲は時間が止まったかのように静まりかえっていた。

 これならゴミ掃除の頻度が大幅に減ることだろう。


「ゴードン」


「しょ、勝負あり! 勝者、ヒガ」


 審判であるゴードンが決着がついたことを告げても静けさは保たれたままだった。

 些か刺激が強かっただろうか。

 あ、勝負に集中するあまり威圧してた。


 慌てて解除すれば、へたり込んでしまう者たちが続出。

 大半の野次馬はアウトだったが衛兵は全員立っている。

 隊長のケニー以外はかろうじてって感じだけど。

 ボルトも表情は強張っているものの衛兵よりはしっかりと立っているな。

 商人ギルド組は言うまでもなく腰を抜かした口だ。

 いやはや悪いことをした。


「これでいいのか?」


 ケニーの前まで進み出て確認する。


「ええ。後のことはよろしくお願いします」


「了解」


 そうしてルーリアは釈放された。

 手錠をされていた訳じゃないので何が変わる訳でもなかったけどな。

 違いといえば衛兵の監視が無くなったこととくらいか。


 後は俺がルーリアの身元保証人になったことも変化と言えるのか。

 実感がまるで湧かないんですが?


読んでくれてありがとう。

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