916 ゲスト対策は万全に?
秋祭りに向けてやるべきことはやったつもりだ。
主に錬成魔法を用いた建造物関連で。
祭りの会場として劇場や遊戯施設などがヤクモにできた。
建物自体が完成したのは何日も前のことである。
なのに設置はゲストを迎えに行く前日。
別の言い方をするならプレオープンの前日だな。
プレオープンにはゲスト以外だと祭りの本番に参加できない国民も来る。
大山脈の領地を無人にする訳にはいかないからね。
特にダンジョンを抱えるジェダイトシティは外部の人間も大勢訪れるし。
対策としてプレオープン以外の日にも交代で来る予定ではある。
本番との違いは受け入れ人数が少なめなのとゲストを迎えること。
なによりベリルママたちがいないことだ。
さすがに他国の人間に合わせるわけにはいかない。
『どう考えてもマズいっしょ。
神様とその眷属の亜神だもんなぁ』
そんなことになったら王族の土下座が見ることになるだろう。
それ以前に友好国として健全な関係性を保てなくなってしまう。
実に好ましくない話だ。
故に入場者を限定したプレオープンを実施する訳である。
クラウドやカーターたちには警備の都合上とでも説明するつもりだ。
それを言うなら人をまったく入れない方が警備上は都合がいいだろう。
が、それだと祭りの雰囲気が損なわれてしまう。
難しいものである。
なんにせよ、あれやこれやの施設が凝縮した会場も設置完了した。
「カオスだな」
会場内に乱立する建物のことではない。
ヤクモ全体を上空から見下ろした際の感想だ。
ここには俺と守護者組がいる。
というより皆が明日のプレオープンに向けて奔走しているので退避した。
誰だ? 邪魔者扱いされたから逃げてきたとか言ってるのは?
半分正解だ。
何処に行っても走り回っているから避けてばっかりだったんだよな。
もっと早くに設置すれば、こんなことにはならなかったはずだが。
まあ、秋祭りの宣伝もかねて新領地を巡っていたらこんな結果になった訳だ。
遅くなったのは皆に申し訳ないと思う。
『歓迎してくれるのは嬉しいんだけどなぁ』
どの領地に行っても連夜の酒宴である。
ドワーフの酒好きを甘く見すぎていたのは俺のミスだ。
強引にでもスケジュールを伝えておけば逃れられたとは思うが。
それをするとギクシャクしそうで言えなかった。
「今更、配置は変更できないし」
それこそ皆の邪魔になるからな。
「そんなことをしても無意味じゃな」
シヅカのツッコミが入った。
「そうか?」
時間さえあれば少しはマシにできると思うのだが。
「農地以外の建造物が派手派手しいからの」
シヅカが苦笑しながら指摘してきた。
「それは否定しない」
「周囲の景観とのバランスを考慮して設計しておらぬじゃろ」
なかなか鋭いところを突いてくるものだ。
シヅカの指摘するように景観データは倉の中での作業で用いなかった。
造成場所の地形データを必要最小限の情報として使ったのみである。
某国際的な遊園地はそういうところまで考慮されていると聞く。
俺などまだまだ未熟者ってことだ。
それは分かっちゃいるが素直に認めたくはない。
「そんなことないよな?」
味方になってくれそうなマリカに向かって聞いてみた。
「んー、よく分かんない」
幼女モードのマリカがコテンと首を傾げながら言った。
「……………」
浅はかな増援要請だったようだ。
俺の敗北かと思ったのだが。
「くーくくぅくっくうくくっ」
楽しければ何でもいいのさ、とローズの増援があった。
何故か仁王立ちでドヤ顔をしてなければ、素直にありがたいと思うのだけれど。
「それもそうじゃな。
祭りが終われば解体するのであろ?」
「いいや、残すよ」
「どう見ても普段のヤクモでは使わん施設ばかりじゃろう」
農業と漁業が主体の飛び地だからな。
だが、飛び地であるが故に使い勝手の良さがある。
「友好国のゲストを迎える時に使えるだろ。
ジェダイトシティだと人目があるし。
ミズホシティまで連れて行くつもりはないし」
「ふむ、そういうことか」
ようやくシヅカも納得してくれたようだ。
「それで、アレなんじゃな」
「ん?」
「ひとつだけ地味な建物があると思うておったのじゃ」
「ああ、そういうことか」
「どうやら迎賓館だったようじゃな」
「その通りだよ」
ふむふむと頷くシヅカ。
「迎賓館の庭で輸送機の離着陸をさせて迎え入れる訳じゃな」
「ああ、部外者は迎賓館に入ってから出ないと遊戯施設に入れないようにしてある」
「格式を持たせたように見せておるようじゃが」
シヅカが俺の方を見てニヤリと笑った。
俺の考えなどお見通しと言わんばかりだ。
「あの食いしん坊対策じゃろう」
自信満々なだけあって察しもいい。
シヅカの言う食いしん坊とはクラウドのオッサンのことである。
「そういうことだ」
秋祭り会場は屋台のスペースも広く取られている。
そんなのを見たらオッサンは、こっちの説明も聞かずにダッシュしかねない。
『旨い食べ物のことになると目の色を変えるからなぁ』
その結果、食べ過ぎで引っ繰り返ることになるのだ。
そういう姿を何度も目撃すれば残念イケメンオヤジと言わざるを得ない。
他国の王に対する呼称としては不適切なので実際に口にはしないが。
ただ、宰相のダニエルあたりは条件付きで許可しそうな気はする。
「この会場でのみ通用する通貨を使うと聞いた時に引っ掛かっておったのじゃ」
「あー、あれかぁ」
わざわざ魔物樹脂を使ってカラフルなコインを作ったのだ。
意図的にチープな作りにして玩具っぽさを出している。
ただし魔道具化してあるので偽造はできない。
見た目だけ似せても会場内へコピーを持ち込むと割れてしまう。
対になる魔道具で専用の結界を張るからだ。
逆に正規品は傷がついていても修復する。
魔道具として傷がつきにくいようにもしているから外でも長く使えるんだけど。
まあ、イベント限定にしているから西方だけでなくミズホ国でも普段は使えない。
玩具っぽくしたのはそのためだ。
下手に実際の硬貨に近づけて作ると判別がややこしくなって仕方がないからな。
そんな訳で間違って使わないように信号機の色をモチーフにして2種3色を用意した。
2種類の違いは大きさだ。
そのあたりは通常の硬貨に合わせている。
色と質感で違いは明確だし銅貨を交換レートの基準にしているからだ。
カラー大硬貨1枚が大銅貨1枚、カラー硬貨1枚が銅貨1枚である。
そして、これを迎賓館で両替する形で使ってもらう。
もちろん両替の上限も決めている。
ゲストは王族だからな。
ポケットマネーでも侮れないのだ。
ちなみに色はレートには関係しない。
ならば何故に信号みたいな色にするのかと疑問に思うことだろう。
もちろん華やかさの演出やお祭り気分の盛り上げを狙ってのことではない。
色にはそれぞれ意味があるのだ。
赤は食品専用。
ぶっちゃけ買い食い用だ。
黄色は施設専用。
こちらは遊戯施設の利用のために使う。
利用が無料となると延々とループで並び続ける者が出かねないからな。
そして緑は両方に対応している。
食べるか遊ぶかを自分で調整できる訳だ。
「なぜ面倒な真似をするのかと思ったんだろ?」
こんな細かい決まりを作ってまでイベントで利用しようというのだからな。
俺が面倒くさがりなのを知っていれば尚のことである。
「その通りよな。
我が主が意味もなく、そのような真似をするはずがないからの」
「そりゃどうも」
「あの王の食べ過ぎ防止と考えれば、シックリくるわ。
ポケットマネーを隠し持っていても使えぬとあれば考えるであろ」
「宰相のダニエルに頼まれていたからな」
ファックスを使って、どうにかしてほしいと対策を依頼されていたのだ。
『こんなことで使いこなすとは思わんかったな』
それが送られてきた時間は向こうにしてみると深夜である。
夜中に紙束を持ったダニエルがコソコソとファックスの元へと向かう。
で、やきもきしながらファックスを操作して送信する。
その光景を思い浮かべるだけで苦笑が漏れた。
『音声ガイダンスの音量が一際大きく聞こえただろうなぁ』
時間帯によってボリュームが自動で変わるようにはしてあるが、それでもである。
「それはそれは苦労が絶えぬのう」
ホホホとシヅカが笑った。
「笑っちゃ悪いよ。
ダニエルも必死さ」
「確かにの。
恥をかくわけにはいかぬよな。
エーベネラントの王も来るからの」
初めて会う他国の王の前で醜態をさらさせる訳にはいかない。
そう思うのは当然のことである。
「おそらく無駄じゃとは思うがのう」
「どうして、そう思う?」
「主は工夫して制限がつくようにしたつもりじゃろうが」
「ああ、これしか思いつかんかった」
決して考えるのが面倒だった訳ではないのである。
「残念じゃが、抜け道はあるぞ」
「護衛のコインを当てにするとかだろ」
あからさまに言えば集る訳だ。
「それもあるのう」
「コインのトレードは、それよりは穏便か」
「浅ましいことに違いはあるまい」
穏やかに語ってはいるが、シヅカの言葉は辛辣だ。
「まだあるぞ、主よ。
これが最も浅ましかろうて」
シヅカが皮肉げな笑みを浮かべた。
「誰かの食べているものを分けてもらうパターンか」
思わず溜め息が漏れる。
見ようによっては物乞いだからな。
速攻で赤いコインを使い果たし、それを実行するクラウドを思い浮かべる。
「ダニエルがもっとも恐れるパターンだな」
食べ過ぎよりも恥さらしな行為だからね。
「であろ?」
得意げなシヅカである。
ダニエルがこの会話に参加していれば、さぞかしイラッとしたことだろう。
俺は特に何とも思わない。
対策を破られた格好になるがね。
元より承知していたことだ。
「だが、これ以上の対策はしないぞ。
依頼は可能な限りという話だったし。
受けた依頼に対してやるだけのことはやったからな」
俺の考えた対策が潰されようが知ったことではないのだ。
「どう動いてもイタチごっこになるじゃろうしな」
「そういうことだ」
食い意地の張った人間ほど厄介な者はそうそういないのである。
読んでくれてありがとう。




