909 ダメ出しのような反省会のような
「ウィスは良かったわね」
エリスも指摘することは無さそうだ。
「……………」
無言でペコッと頭を下げるウィス。
そしてエリスは3人娘の方へ向き直った。
「アナタたちは翻弄されっぱなしだったわね」
「してやられたっす」
「完全に裏をかかれたっす」
「面目ないっす」
ショボンと落ち込む3人娘。
「落ち込むより問題点を克服することを考えなさい」
「「「はいっす」」」
ビシッと姿勢を正して返事をしたものの、すぐに困惑の表情を浮かべる。
「あの……」
「どこが……」
「良くなかったっすか?」
3人とも問題点には気付いていないようだ。
『まあ、対戦している当事者だったからこそ見えないこともあるか』
逆もまた然りなんだけど、今回はそういうことがなかった。
そのあたりはウィスが観察されないように上手く立ち回ったのが大きいと思う。
「まずは連携ね。
アナタたちのそれはワンパターン過ぎるの。
そんなんじゃ知能の低い魔物や獣相手にしか通用しないわよ。
それに同じパーティメンバー相手じゃ読まれて当たり前でしょう」
ガーンという擬音が聞こえてきそうなくらいショックを受けている3人娘。
「あー、やっちゃった感が満載の凹み具合だね」
トモさんが苦笑する。
「仕方ありませんよ」
フェルトも同じく苦笑いしていた。
「必勝パターンを逆手に取られていたんですから」
同情を禁じ得ないとばかりの感想を漏らすトモさん夫婦である。
「今までが上手くいったからと考えない工夫しないでは痛い目を見るんです」
エリスはにべもない。
これも3人娘を思えばこそである。
「「「はーい」」」
3人娘も分かっているのだろう。
気分の落ち込みを感じさせる間延びした返事をしているが、不服そうには見えない。
「後は連携の合図もダメね」
「「「ええっ!?」」」
「声を極力出さずにアイコンタクトを多用して工夫したつもり?」
エリスの問いにコクコクと頷く3人娘。
「完全に利用されてたわよ。
タイミングなんて丸わかりだったんじゃないかしら」
エリスがウィスの方を見た。
ゆっくり大きく頷いてみせるウィス。
「「「うへぇっ」」」
3人娘が絵に描いたような呆然とした顔で驚いている。
ズッコケそうな腰砕けぶりまで披露してくれたし。
ショックは相当なものだろう。
「真正面にいる相手の目を見ればいいだけじゃない」
「「「うっ……」」」
指摘されるまで気付いていなかったらしい。
「どうりでタイミング良く躱されると思ったっす」
「まるで後ろに目があるかとビビったっすよ」
ナーエとライネが愚痴り、ローヌが落ち込む。
「2人とも、ゴメン」
ローヌが謝ったが2人は首を横に振る。
「3人で決めたことだからね」
「そうだよ、連帯責任ってやつ!」
「2人とも……」
何故か手を取り合って瞳を潤ませている3人娘。
なんだか妙な盛り上がりを見せているが──
「そういうウェットな反省会は後でやってね」
エリスによって強制的にキャンセルされた。
「「「うひぃっ!」」」
完全に周囲が見えなくなっていたのか3人娘が飛び上がって驚く。
「アナタたちの反省点はまだあるのよ。
皆も参考になるから、ちゃんと聞いてね」
「マジっすか!?」
「まだ、あるんすか!?」
「これ以上何が!?」
3人の湿っぽい気分は驚愕で一瞬にして塗り替えられた。
「魔法をまるで使わなかったじゃない」
「「「いいっ!?」」」
エリスの次の指摘に目を開ききって驚く3人娘。
「魔法禁止じゃなかったすか?」
ローヌの疑問に他の2人が激しく頷いている。
「攻撃魔法での攻撃は禁止したけど、全面禁止じゃなかったわよ」
「「「あ……」」」
今更のように気付いたらしく3人娘が固まってしまった。
いや、同じグループにいる女子組はほぼ唖然としている。
古参組以外で平然としているのはウィスくらいだろう。
それを見てエリスが苦笑しながら嘆息した。
「その調子だと、ウィスが魔法を使っていたのに気付いていないでしょ」
「「「「「ええ────────っ!?」」」」」
グループ内の女子組が一斉に驚きの声を上げた。
同グループの古参組が苦笑している。
「まだまだね。
いつ如何なる時も魔力の感知は怠ってはダメよ。
魔法に長けた相手なら致命的な隙を見せることになるんだから」
「「「「「はーい」」」」」
女子組が返事をしたところで、1人の女子冒険者が手を挙げた。
「なにかしら?」
エリスが応じる。
「どんな魔法を使ってたんですか?」
質問を受けてエリスがウィスの方を見るが……
ウィスは怯えたようにヒュッと近くにいた古参組の後ろに隠れてしまった。
『この状況でウィスに説明させるのは酷だろう』
多少は慣れてきたようだが、まだ本当の意味で馴染んだとは言えない。
とっさに隠れたのが何よりの証拠だ。
さすがのエリスもこの状況でウィスは引っ張り出せないだろう。
力ずくでなら容易にできるだろうが、その後が続かない。
ウィスが貝になってしまうだけだからな。
まあ、エリスがそんな真似をするはずもないのだが。
早々に諦めたエリスが向き直って口を開く。
「治癒と身体強化と地魔法よ」
「そんなに!?」
女子冒険者が驚いていたが、それ以上の反応を見せたのが3人娘である。
ガックリと砂浜に手と膝をつく。
四つん這いで項垂れてしまっていた。
「なんてこったっす……」
「気付かなかったっすよ……」
「自分ら、間抜けすぎっす……」
あまりの落ち込みぶりに同情を禁じ得ない。
「でも、治癒ってどういうことでしょうか?」
驚いていた女子冒険者が追加で質問する。
「消耗したところで弱めに使うと回復できるのよ」
知らなかったからか女子組がざわつき出す。
「ウィス嬢は自力で気付いた訳だね」
トモさんが感心している。
「模擬戦中に気付いたのだとしたら凄いですね」
フェルトも驚きを隠しきれない様子だ。
「たぶんだけど昨日の午前中じゃないかな」
昨日の訓練もかなりキツかったみたいだし。
「あっ」
俺の指摘にフェルトが驚きの声を上げ、そしてすぐに納得の表情になった。
「ダメ元で試したってことですか?」
「そういうことだと思う」
計算ずくでやっているなら凄いものだ。
天才と言ってもいいと思う。
が、真相は本人にしか分からないだろう。
「でも変っす」
不意に顔を上げたローヌが言った。
「ウィスっちが身体強化の魔法を使ってたなら、さすがに気付いたはずっす」
まだ立ち上がる気力が湧かないのか正座の状態で首を傾げる。
「言われてみれば確かに」
「ローヌの言う通りっす」
ナーエとライネも正座でローヌの言うことに同意した。
3人娘の言うことも普通に考えれば道理ではある。
身体強化をかければ普段以上の力が出せるようになる訳で。
攻撃力に直結するパワーだけでなく素早さも強化される。
いずれにせよ普段より目に見えてパワーアップするのは間違いない。
身内であればすぐに気付くはず。
ローヌはそれを言っているのだが。
エリスは大きく溜め息をついた。
「見事に騙されているわね。
魔力の感知をしていれば少しは違和感を感じたんでしょうけど」
その言葉に3人娘だけでなく他の女子組も困惑の色を浮かべる。
「うちらが騙されているって……」
「どういうことっすか?」
「そんなに大きな差はなかったはずっす」
エリスが苦笑した。
「ライネ、あなたは答えを半分言ったようなものよ」
そう言われても当人は首を振るしかできなかったが。
「魔法を使ったタイミングが分からないと、アレに気付くのは無理じゃないかな?」
そんな感想を漏らしたのはトモさんだ。
「どうでしょうか?
ウィスは、その方法を思いついたようですし」
フェルトは気付く者がいてもおかしくないという意見のようだ。
生憎としばらく待っても、そういう者は出てこなかったが。
「分からないようね」
エリスがシンキングタイムの終了を告げた。
「身体強化を使ったからと言って本気を出す必要があるのかしら。
普段の全力に近い状態に抑えれば肉体的な消耗は軽減できるわね?」
「「「「「あ……」」」」」
呆然とした面持ちになったのは3人娘だけではなかった。
「気付いたようね。
ウィスはこれに気付かれることを警戒してダッシュの瞬間にしか使わなかったの」
このエリスの言葉に、何人かはしてやられたとばかりに天を仰ぎ見ている。
「それだけじゃないのよ。
同時に地魔法も使っていたの」
そこがウィスの非凡なところである。
昨日の訓練で向上した制御力をさっそく応用して使った訳だ。
「「「どういうことっすか!?」」」
「ダッシュの瞬間にだけ足場を固めたのよ」
砂浜だけに効果は絶大。
足を取られずに済めば回避ミスという致命的な失敗を防げる。
もちろん消耗も軽減できる。
「終わってもケロッとしてたでしょ。
徹頭徹尾、消耗しないよう注意していたわ。
1対多の不利はどこにあるか熟知しているようね」
そのあたりは遊撃ポジションで戦うことが多いからだろう。
瞬時の判断をより多く求められるが故に。
工夫して当たり前という感覚がウィスの中にはあるのかもしれない。
「なんてこったっす」
「見事にやられたっすよ」
「さすがウィスっち」
3人娘も他の女子組も脱帽したと言わんばかりである。
本人は騒がれるほどに小さくなっていくんだけど。
読んでくれてありがとう。




