898 みんなで飯ごう炊さん・準備編
結局、俺の担当する1班には4人集まった。
「班員はこれで全員か」
内訳は幼女1、男1、女2である。
「あまり面識のない相手もいるよな。
とりあえず自己紹介しといてくれるか」
俺の分は省略だ。
知らないはずないもんな。
「ミーニャだニャ。
よろしくニャー」
人なつこい笑みを浮かべて真っ先に自己紹介するミーニャさん。
妖精モードとはいえ幼女のそれは可愛くて破壊力満点です。
YLNTを連呼する変態紳士なら身悶えするんじゃなかろうかってくらいだ。
もちろん俺は変態ではないので合い言葉は言わないし身悶えもしない。
そんなことをしなくてもミーニャは可愛いのだ。
いや、単に可愛いだけではない。
妖精モードだからこその魅力がある。
具体的に言えばモフりたくなる感じ。
マイカなら、今の自己紹介でひとモフりしているところだろう。
俺はそこまでのモフラーではないので衝動に駆られたりはしない。
ごめん、ちょっと嘘だ。
後で少しモフらせてもらおう。
「ハリーです」
続いて名乗ったのは同じく妖精組のハリーだ。
実はミーニャと連んでいるところをあまり見たことがない。
群れる場合、ハリーは隅っこにいることが多いからな。
中心近くで賑やかにしたがる子供組とは接点がほぼ無いのだ。
これは仲が良い悪いを言う以前の問題だろう。
「よろしく……」
ボソッと告げるハリー。
喋り終わると、スッと1歩下がった。
ウィスに気を遣って距離を取ったという訳ではない。
これがハリーの素である。
静かに佇むのがこれほど似合う男もなかなかいないだろう。
存在感の薄さがウィスには負担にならずに済みそうだ。
「えっと、アスカミです」
ウィスが何も言わないのを確認してから人魚組の地味子さんが自己紹介した。
ペコリと頭を下げる姿が小動物を思わせる。
そして沈黙が訪れた。
『あ、このままだとマズい』
気まずい時間が流れることを察知した俺は隣にいたウィスを軽く肘で突いた。
「ウィス……」
それだけ言ったウィスは小さく頭を下げた。
会釈より小さい感じで微妙だが、これでもウィスとしては頑張った方だろう。
「1班の面子は、これだけのようだな」
その言葉にウィスが明らかに安堵していた。
他の班はもう何人かいるようだからな。
これも講師陣の配慮なんだろう。
「それじゃあ2班はレッツクッキングだぜぇ!」
「「「「イエーイッ!」」」」
隣の2班も頭数は少なめだ。
ただし謎のハイテンションで盛り上がっている。
皆ノリノリだ。
お陰でウィスだけじゃなくて地味子さんなアスカミまでビクッとしてた。
ちなみに号令をかけたのはトモさんだ。
荻久保清太郎さん風の作った声なのが意味不明である。
仮に真似をしているのだとしても、分かる面子がいるとは思えないんだが。
まあ、お構いなしで盛り上がっているようだけど。
そんなトモさんたちを3班を受け持つフェルトは余裕の笑みで見ていた。
向こうは既に班員たちが、せっせと調理の準備を始めている。
特に指導する必要のない古参メンバーばかりがそろっているからな。
普段はチームを組まない相手同士でも即座に対応できている。
『向こうは放置プレイで問題なしかぁ』
自己紹介から始めた俺たちは出遅れてしまったようだ。
「うちはマイペースで頑張ろうか」
「おーっ、だニャ!」
俺の呼びかけに拳を突き上げ声を出して応じたのはミーニャだけであった。
残りの3人も頷いてはいたけれど。
「陛下ー、まず何するニャ?」
テンションの温度差など気にすることもなくミーニャが聞いてきた。
「竈を作るのと、材料を貰ってくることから始めないとな」
「貰ってくるニャー」
「あ、おい、先に分担を……」
止める間もなくバビューンと、すっ飛んで行ってしまった。
別に竈づくりが地味で嫌だとか拒否している訳ではない。
「竈、できました」
ミーニャが動く前からハリーが地魔法を使い始めていたからだ。
普段、接点が極端に少ないのに阿吽の呼吸を見せてくれるとはね。
さすがは最古参の国民。
ちょっと嬉しくなった。
「貰ってきたニャ」
シュババッと戻ってきたミーニャが自前の倉庫から調理台代わりのテーブルなどを出す。
そこに貰ってきたばかりの材料をドサドサと積み上げた。
「スタンバイ、オーケーにゃー」
満足げにヘニャッと笑うミーニャ。
『くっ、可愛いじゃないかっ』
などと内心で悶えている場合ではない。
「じゃあ、次はアスカミとウィスに働いてもらおう」
「はい……」
ミーニャのテンションに気圧されたのかアスカミの声が小さくなっている。
ウィスが小さくコクと頷くだけなのは想定内だったけど。
「アスカミは肉を一口大に切って下味をつけてくれるか」
「はい……」
「ウィスは野菜の処理だ」
無言で軽く頷いてササッと動き始めるウィス。
それを見たアスカミも、ちょっと泡を食ったように肉の方へと向かった。
「陛下ー、ミーニャとハリーは何すればいいかニャ?」
ミーニャが問うてきた。
悩ましい問題である。
この2人はやる気満々だから単なる待機は選択肢としてあり得ないし。
補助に回しても喜んでやってくれそうだけど、アスカミやウィスがなぁ……
慣れていないせいで引き気味だ。
これ以上、引かれても困るのだが。
「そうだな」
やらなきゃならないことは確実にある。
飯ごうを使って御飯を炊くことだ。
できれば、これは全員で取り組みたい。
調理手順として無駄は多いがアスカミやウィスは飯ごうを使うのは初めてだしな。
手順だけでなく、飯ごうがこういうものだというのを見せてあげたい訳だ。
『あれは何というか見ていて飽きないんだよな』
そんな訳でカレーの下準備を先にしている。
「じゃあ、ミーニャは米を研いでくれるか」
「了解ニャ」
敬礼のポーズを決めて任務に向かうミーニャ隊員。
ハリーは表情ひとつ変えないが微妙に尻尾が揺れている。
確実に期待されている。
自分には、どんな仕事を割り振ってくれるのかと。
「ハリーは隠密行動で野菜の皮を処理だ」
「はっ」
敬礼してからスルッと行動にかかった。
さっそくミーニャに影響されているらしい。
敬礼の後は忍者的に動くんだけどな。
ウィスに気付かれないようシュッと接近して素早く皮を回収アンド離脱。
「任務完了」
直立の姿勢で報告してくれた。
ウィスは気付かぬまま野菜を適当な大きさに切っている。
そこへシュバッとミーニャが戻ってきた。
「ミーニャも任務完了ニャ。
お米は水につけてるニャー」
洗った米をすぐに炊いてしまうと新米でも炊きあがりがふっくらしづらい。
水気を吸わせる時間が必要という訳だ。
本来なら早くても半時間は必要になる。
冬場だと倍以上は必要だろう。
今なら半時間と少々ってところか。
仕上がりが硬くなるだけなので急ぐときは省略するのもありだ。
まあ、今回は魔法で米に水分を吸わせるという手を使おうかと思う。
米粒にダメージを与えないようにしないといけないので制御に気を遣うけどね。
『ウィスにやらせてみてもいいかもな』
失敗しそうになったら皆でフォローすればいい。
ちなみに、どうしても短時間で米を食べたいなら鍋で茹でる方法がある。
ザルに米を入れて紐で吊しながら沸騰したお湯に入れるだけだ。
この方法だと約10分で食べられる状態になる。
が、お勧めはしない。
大量の水が必要になるのと米がビシャビシャになるからだ。
長く茹でるとお粥に近くなってしまうしな。
「うむ、2人とも御苦労。
ハリーは見事な隠密ぶりだ。
ミーニャも指示していないのに気が利くな」
俺の言葉に尻尾を力技で止めようと力むハリー。
「ニャ~」
ヘニャヘニャと体を捩って照れるミーニャ。
どちらも見ていて苦笑を禁じ得ないところだ。
まあ、【千両役者】の助けを借りて封じ込めたけどな。
そんなこんなをするうちにアスカミが肉の処理を終えていた。
「すみません……
報告するのを忘れていました」
申し訳なさそうに縮こまっている。
「気にしなくていいぞ。
これは訓練じゃないんだ」
「あの、はい……」
モジモジとしながらも返事をした。
本当に小動物のようだ。
人魚なんだけどね。
そこへウィスが3人をやや迂回するように回ってくる。
「野菜できた」
ひとこと報告した後は貝になる。
『大丈夫かな』
心配になるが強引な手は使えない。
成り行きに任せるしかないだろう。
「じゃあ皆で御飯を炊こう」
「おーっ」
拳を突き上げて応じるミーニャ。
しっかりと頷くハリー。
無反応に近い頷きをするウィス。
そして小さく手を挙げるアスカミ。
「あのぅ……」
「どうした?」
「それって効率が悪い気がするのですが……」
「あー、それでいいんだよ」
「えっ!?」
アスカミが目を丸くした。
これは訓練じゃないという認識が欠落しているのが苦笑を禁じ得ない。
始める前にルーリアが言っていたんだが。
俺も今し方、言ったばかりだし。
『さて、どう説明すれば納得してくれるかな』
読んでくれてありがとう。




