892 ウォークラリー終わる?
何チームかの奮闘ぶりを見させてもらった。
課題でどれだけ得点するかはチームによって差があったが、それは仕方のないことだ。
だが、どのチームにも言えることがある。
みんな楽しんでくれていたということだ。
他の3人がどう思っているかは分からなかったがね。
が、俺としては皆が楽しんでいるのを見られただけで満足だ。
とはいえ何時までも楽しんでいられる訳じゃない。
必ず終わりの時はやってくる。
「そろそろスクリーンでの鑑賞タイムは終了だよ」
「えー、ブーブー」
トモさんが不服そうに唇を尖らせた。
どうやら楽しんでいたのは参加者たちだけではなさそうだ。
不平は口にしないもののフェルトやシヅカも残念そうにしている。
『ちゃんと暇つぶしにはなったようだな』
それが分かっただけでも収穫だ。
「先頭のチームがゴールに近づいているからね」
「すまんな。
妾の仕事の時間じゃ」
ゴールで待ち受ける簡単なお仕事です。
まるで求人広告みたいだけど。
実際、することはひとつだけなので簡単すぎるくらい簡単だ。
ゲートを潜ったチームから得点シートを受け取るだけだからね。
それでも仕事は仕事。
ちゃんと実行しなければならない。
それを尻目に俺たちだけ参加者の奮闘ぶりを見続けるのは気が引ける。
「そっかー、残念」
故にトモさんもあっさりと引いた。
「そんなに残念でもないよ」
「どういうことだい?」
首を傾げて聞いてくるトモさん。
「自動人形の映像ログに残るからさ。
後で編集して皆で見ることは可能だよ」
「参加した人たちも見られる訳ですね?」
フェルトが少し笑顔を見せながら聞いてきた。
「ああ、悪戦苦闘ぶりを見せられる側としては見たくないかもだけど」
「そんなことないと思います。
素敵なことじゃないでしょうか」
そんなことを言いながらトモさんの方を見た。
「そうだね」
頷きながらフェルトの手を取るトモさん。
互いに薄く頬を染めて見つめ合う。
『これは自分たちのワールドを構築しちゃったか?』
見てると背中がムズムズしてくるんだが、悠長にもしていられない。
「あー、ゴホンゴホン」
わざとらしい咳払いで2人の意識をどうにか引き付ける。
「何かな?」
トモさんがこちらを見た。
が、フェルトの手は握ったままだ。
俺との会話が終了次第、2人の夢の世界へと舞い戻るつもりなのだろう。
「ラブラブなのは分かったけどさ」
「うん」
「ゴールしてくるチームにも熱々なところを見せたいのかい?」
俺がそう言うとフェルトの方からパッと離れた。
さすがに俺たち以外に見られるのは恥ずかしいらしい。
トモさんも自分からは離れなかったが、今までと違って明らかに赤面している。
手を離したときのポーズのまま固まっているし。
『2人とも照れくさいなら最初からやらなきゃいいのに』
つい苦笑が漏れてしまう。
「間一髪じゃったの」
ツバキの声に俺はゴールゲートを見やった。
トモさんとフェルトはビキッと固まって見ることもままならない状態だったけど。
「どれどれ……」
わざとらしく額に手をかざしてゲートの向こう側を見る。
「お、キースのチームだな」
婆孫コンビの次に出発したチームだ。
なにか話をしながら、こちらに向かっている。
「まだ距離があるな」
俺のこの一言でトモさんとフェルトの金縛り状態が解けた。
恐る恐るゲートの方を見てくる。
が、既にキースたちの姿を確認できる状態では見られたかどうかは確かめようがない。
それを悟って今度は俺の方を見てきた。
「俺も姿を現した瞬間を見ていた訳じゃないからなぁ」
「「うっ」」
2人の顔が更に赤くなる。
別にそれを見たくて意地悪をしている訳ではないのだが。
「シヅカ、どうだったんだ?」
「見られてはおらんじゃろう。
ギリギリセーフといったところかの」
苦笑しながらシヅカが言った。
それを聞くなり、トモさんとフェルトの2人は──
「「はあーっ……」」
そろって大きく息を吐き出した。
心底、安堵したようだ。
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「だー、到着ぅ~」
「ようやくだよぉ」
「やっぱ走るんじゃなかったねー」
「まったくだわ」
疲れ切った声を出しながらゴールゲートを潜る女子組のチーム。
そのまま倒れ込んでしまった。
が、砂浜なので怪我はしないだろう。
それに当人たちは、そこまで気にする余裕は無さそうな状態だ。
完全にヘロヘロである。
最初にへばったときに固形の疲労回復ポーションを口にしているはずだけどね。
おそらく古参組に抜かれたときに無理をしたのだろう。
古参組は全チームが帰還済みだしな。
新規国民組はまだ半分ほどが未帰還だ。
基礎体力が決定的に違うから無理もない。
女子組はそのあたりを本当の意味で理解できていないのだろう。
それでも2回目の救助が必要になるような状況にだけはなっていなかった。
『1回目がちゃんと教訓になったか』
過ちは繰り返さない。
ちゃんとミスを反省し肝に銘じている証拠だ。
まあ、際どいところまで踏み込んではいたみたいだけど。
「それで状況はどうなっておるんじゃ?」
シヅカがスマホの電話を使って他の講師陣と連絡を取っていた。
ふんふんと電話の向こうの相手の話に相槌を打っている。
「2度目のヘマをする愚か者はおらぬか」
そんな声が聞こえてきた。
ゴールしたチームだけではなく、他のチームも教訓になっているようで何よりだ。
「それだけでも上出来と言うべきなんじゃろうな」
シヅカも俺と同じような考えを電話の向こうの相手に語っている。
「うむ、後片付けをしながら戻って来ておるのじゃな」
どうやら最後尾のチームもチェックポイントをすべてクリアしたみたいだ。
満点を貰えたかどうかは不明だけどな。
「待っておるぞ。
では、また後でな」
そう言ってシヅカが電話を切った。
息つく暇もなくゴールゲートへと向かう。
「お主ら」
倒れ込んだ女子組のチームに声を掛けるシヅカ。
「「「「ふわぁいっ!?」」」」
声を掛けられた女子冒険者たちが泡を食ったように上半身を起こした。
とっさの反応では立ち上がることもままならないらしい。
どうにかそれが精一杯といった具合だ。
「ゴールしたばかりで疲れておるのは分かるのじゃがのう」
「「「「ひいいいぃぃぃぃぃっ!」」」」
悲鳴と共に慌てた様子で正座する女子冒険者たち。
ガクブル状態である。
「そこまで恐れずとも良い。
取って食うたりはせぬわ」
シヅカは苦笑しながらも、なんとか宥めようとしていた。
内心では、かなり困っているはずだ。
『女子組にもシヅカの正体を明かしたしなぁ』
人化を解いたら土下座してたもんね。
なかなか頭を上げてくれなかったのはお約束みたいなものである。
通過儀礼みたいなものかもしれない。
そういう意味では土下座されていない現状はマシだと言える。
「寝転がるなとは言わぬ。
じゃが場所は変えてくれるか。
そこじゃと後からゴールするチームの邪魔になるからの」
「「「「もももももっ申し訳ありませんっ!!」」」」
女子冒険者たちが精神的重圧に耐えきれず、とうとう土下座してしまった。
別にシヅカがプレッシャーをかけた訳ではない。
むしろ威圧感を出さぬよう気を遣っていたはずなのだ。
まあ、勝手に重圧を感じて自滅されたんじゃどうしようもないのだけど。
「どうすれば良いのじゃ~」
途方に暮れるシヅカ。
旦那として困っている妻を放っておく訳にはいかないだろう。
転送魔法を使って邪魔にならない場所へと移動させた。
「主よ、すまぬ」
シヅカは誰の仕業かすぐに分かったようだ。
礼を言ってから土下座組に向かおうとするのだが。
「そっちのフォローは俺に任せろ」
「いや、しかしじゃな……」
シヅカは俺の提案に素直には頷かない。
俺が土下座に対して苦手意識を持っていることを気にしているのだろう。
「ゴールするチームはまだあるぞ。
彼女らのように倒れ込んだら同じことの繰り返しになる」
そのためにはシヅカがゴールゲートの近くで睨みをきかせた方がいいのだ。
それを理解したシヅカが困り顔で逡巡する。
「いいから、ほら。
自分の夫に格好つけさせろよ」
そう言って促すと──
「むう、重ね重ねすまぬのう」
申し訳なさそうにしながらもゲートの方へと向かった。
「さて、それじゃあ俺も気合いを入れるか」
土下座の対象が俺でないだけ気が楽だ。
それでも気合いを入れてからでないと向き合えそうにないのは情けないところである。
腹に力を入れて振り返った。
「あらりるれ?」
女子冒険者たちの土下座が解除されている。
それだけではない。
彼女たちより先にゴールしていた風と踊るの面々が正面に立っていた。
女子組は正座の状態でシュンとしている。
どうやらフィズやジニアが説教しているようだ。
そしてウィスが俺の方を見てサムズアップしてきた。
『任せろということか?』
ならば御言葉に甘えさせてもらうとしよう。
人に任せることも大事なことだよな。
決して逃げた訳じゃない。
適材適所というやつだ。
え? 言い訳くさい?
俺もそう思う。
読んでくれてありがとう。




