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890 観察するだけではダメだった

「相手の本質が悪であるなら、こちらの都合には合わせてくれません」


 しみじみと語るフェルト。


「そういうことだ。

 自分が納得していなくても悪党は気にしない。

 いや、むしろ自分に有利に働くなら利用しようとするだろう」


「カーラさんは、それを教えようとしてくれたと?」


「ああ、さっき本人にメールで問い合わせたから間違いない」


「いつの間に……」


 フェルトが呆然としたように呟く。


「トモさんとシヅカが検討会を開いている間に」


 目の保養だけをしていた訳ではないのだ。

 まあ、そちらは皆には内緒だけど。


「なんにせよ、後で総括として皆にメールを送るってさ」


「そこで注意喚起する訳だね」


 ここでトモさんが入ってくる。


「そうせねば気付かぬ者たちも多いじゃろうしな」


 シヅカが頷きながら言った。


「それは分かったのですが……」


 スッキリしたかと思ったらフェルトが再び表情を曇らせる。


「どうしたんだ?」


「他のチェックポイントもこんな感じなのでしょうか?」


 そんなことを聞いてきた。

 まあ、言いたいことは分かる。

 同じような傾向の課題ばかり出されると、ウンザリさせられるからな。


「そのあたりは大丈夫だろう。

 問題を作る担当者は相談しながら作っていたようだし」


「はあ……」


 フェルトの表情は晴れない。


「ならば見ればいいんだよ。

 そのためにスクリーンでフォローしているんだから」


 俺の言葉に呆気にとられたフェルトだったが。


「そうでした」


 苦笑してスクリーンの方を見る。


「どのチームもまだゴールしていないから見応えはあると思う」


「別のチェックポイントも気になるね」


「どんな課題が出されるんじゃろうな」


 トモさんやシヅカが期待を膨らませて視線を向ける。


「そんなに期待されてもな」


 思わず苦笑が漏れる。


「カーラのは特別だ。

 あそこまで、とんちの利いた課題はないぞ」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ABコンビが待ち受けるチェックポイントに来たのは人竜組Aチームだった。

 面子は元王族のネージュとシエル、クレール、オロルの4人。

 8人だとさすがに多いからと自主的にチーム分けしたようだ。

 残りのリュンヌ、シフレ、ルシュ、コリーヌがBチームである。


 何故かデパートの制服っぽい衣装に身を包んだABコンビがお辞儀をして出迎える。


「「いらっしゃいませー」」


 イントネーションが独特だ。

 デパートの店員に成り切っているとしか思えない。

 動画を参考にしたのだろうが……


『何故このタイミングでこのコスプレなんだ?』


 意味不明である。

 コスプレに意味を求めてはいけないのかもしれないが。


「「「「……………」」」」


 やや引き気味でABコンビを見つめるAチーム。


「こちらはパズルのチェックポイントになります」


 アンネがお構いなしに説明を始めた。


「使うのはこちらのスライドパズルです」


 ベリーが説明を引き継ぐ。

 というよりは交互に喋る気のようだ。


「スライドパズルですか?」


 持ち直したネージュが聞き返した。

 どうやら知らないようだ。


 スライドパズルはタイル状のピースを縦横に動かしながら順番をそろえるパズルである。

 16個のマス目で15個のピースを動かすものが一般的じゃないだろうか。


『俺もパズルマニアって訳じゃないから詳しくないんだよね』


 問題用として机の上に置かれている物は、よく見るタイプのものだ。

 すなわちピースは15個。

 これならすぐに解けそうな気もするのだが。

 そんな簡単な課題にするだろうかという疑問も湧いてくる。


「スライドパズルというのはですね」


 アンネが説明を始めると、ベリーが机の下からマス目が9個のものを出してきた。

 説明用のサンプルのようだ。


「こういう風に……」


 ベリーが実演してみせる。

 カチャカチャとピースが動いていく。

 瞬く間に並びがバラバラだった数字が左上から順に並び替えられた。


「「「「おおーっ」」」」


 Aチームの一同が感心したように軽く驚いている。

 興味津々で瞳を輝かせていた。


『こういう単純な娯楽はあまり見せてなかったなぁ』


 ちょっと失敗したかもしれない。

 いや、それをアンネとベリーの2人がフォローしてくれたと考えるべきか。

 ありがたいことである。


「あのー、ひとついいですか?」


 シエルがおずおずと小さく手を挙げた。


「「なんでしょうか?」」


「課題の方は数字じゃなくて記号みたいなんですが……」


 困惑した様子でシエルがそう言うと──


「記号に法則性が感じられないわね」


 顎に手を当てて考え込んでいたネージュが言葉を足した。


「ホントだー」


「どういうこと?」


 クレールとオロルが首を捻った。


「これはどう並び替えればいいのか分からないです」


 シエルが困った顔のままで訴える。


「観察ポイントで見たことを思い出してください」


 対するアンネはにこやかに答えた。


「観察ポイントで得た情報が、このパズルを解く鍵になります」


 ベリーが説明を補足した。


「「「ええーっ!?」」」


 ネージュ以外の面々が驚いている。


「こんな記号はなかったよね?」


 シエルがクレールやオロルに確かめるように聞いていた。


「うん、無かったわよ」


 クレールが間違いないと頷く。


「周囲の木に矢印の描かれた札はいくつもぶら下がっていたけど……」


 オロルも自信なさげではあるものの特に反対するつもりはないようだ。

 そして3人の視線がネージュに集まっていく。


「「「ネージュ様ぁ……」」」


 助けを求めるように弱気な声でネージュを呼んでいた。


「情けない声を出さないでよ」


 困ったものだとばかりに嘆息するネージュ。


「「「そんなこと言ったってぇー……」」」


「それから、様はいらないって言ったでしょ」


 ショボンと落ち込む3人組。


「もー、そこでテンション下げないでよ」


「「「だってぇー……」」」


 捨てられた子犬のような目でネージュを見る3人組。


「あー、分かったから。

 姫様じゃなきゃ何だっていいわよ」


「「「やったー!」」」


 たったそれだけで元気が戻ってきた。

 それだけネージュが慕われているのだろう。


『ニックネーム感覚で姫様とか呼んでもいいと思うんだがな』


 まあ、それは本人に却下されるのだが。

 最近はかなり普通であることにこだわっているようだし。


「そんなことより課題をクリアしないといけないでしょう。

 制限時間もあるんだから、ちゃんと考えなさい」


 注意された3人組は浮かれた状態から表情を真剣なものに戻した。


「ネージュ様は何か気付いたことありますか?」


 3人を代表してシエルが聞く。


「あんまり自信ないんだけど」


 そう前置きすると3人組が期待のこもった目でネージュを見つめる。


「矢印の向きと長さに対応したモノがある気がしたから確かめておいたのよね」


 そう言いながらネージュはノートを引っ張り出した。


「あっ、観察ポイントで描いていたのはそれだったんですか?」


 クレールがネージュのノートが開かれる前に気付いたようだ。


「そうよ」


「じゃあ、これを記号と照らし合わせれば」


 正解への期待をオロルがその笑顔で見せた。

 さっそく4人で頭を付き合わせるようにしてノートを覗き込む。

 が、しかし……


「こっちの岩は斜めに重ね合わせた四角と考えてみては?」


「岩なら他にもあるわよ」


「縦に重なった三角形は山かしら?」


「それはこっちの針葉樹じゃない?」


 数分経過しても、ひとつの記号も確定できていなかった。

 結局、Aチームは時間切れで不正解となる。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「単純な課題かと思ったら違ったね」


 トモさんが腕組みをして唸っている。


「観察ポイントの札もパズルの記号とは関連性が薄いようでしたし」


 フェルトも首を捻っている。


「簡単すぎては意味がないからのう。

 何か捻らねば答えには結びつかんのじゃろう」


 シヅカは考え込む様子もなく俺の方を見ている。


「捻るのは札の方だったんだけどな」


 俺がそう言うと、トモさんが勢いよく腕組みを解いた。


「あ、もしかして裏面に記号が?」


「そうだよ」


 返事をすると同時に観察ポイントにいる斥候型自動人形に札の裏面へ回り込ませた。

 確かに記号が描かれている。


「じゃあ、矢印の意味はどういうことですか?」


 フェルトが聞いてきた。


「矢印だけを集めれば分かる」


 俺の言葉を受けてフェルトがノートを引っ張り出して矢印を描き始めた。

 それをトモさんやシヅカが覗き込んでいる。


「あ、斜め45度の右下がありません」


 最初に気付いたのは描いている本人だった。


「矢印は全部で15個だね」


「なるほどのう。

 パズルのピースの位置を示す矢印であったか」


 トモさんやシヅカもノートへの書き込みを見て気付いた。


「これは観察ポイントで出題されているようなものですね」


「上手いことを言うね」


 フェルトの感想にトモさんが感心する。

 そこからは、いちゃつきタイムであった。

 口から砂糖が溢れてきそうだったとだけ言っておこう。


読んでくれてありがとう。

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