873 タヌキのち、即決
ギルド職員との話は続く。
チンピラがどうなったか問われたが……
『さて、どう答えたものかね』
正直に答えるしかないけれど。
情報を絞ったりぼかしたりするのも意味はない。
目撃者多数ってやつだからね。
「勇者の従者を自称するチンピラ連中は死んだよ」
「やはり出血が多くてですか」
「死因としては、そうなるな。
処置ができるような状況じゃなかったし」
俺は金ピカの相手をしていたことになっているからな。
そこはアピールしておかないとダメだろう。
「あれだけ血を流して生きているなら人間じゃない」
職員の顔がわずかに引きつった。
血の海をどう処理したものかと思っていそうだ。
「心配しなくても大量に流れ出た血は処理済みだ」
「そうなんですか!?」
「金ピカが屍もろとも全部吸収して合体した」
「はあっ!?」
素っ頓狂な声を上げて目を丸くする職員。
吹き出し笑いのことなど完全に素っ飛んでしまったようだ。
「呪われた装備品にやられて化け物になったんだよ」
一瞬、呆気にとられたようになった職員だったが。
「そうですか……」
すぐ我に返ったようだ。
「最初から呪われていたということですね」
この職員、突拍子もない俺の説明を受け止めることができるようだ。
思った以上に大物である。
少なくとも彼女の上司であるハンス班長よりは安定感を感じるんだが。
まあ、今はそれを気にしている場合じゃない。
「で、浄化したら跡形もなく消え去った」
「ええっ!?」
驚きは隠せないだろうな。
全部消えたとか普通は信じられないだろう。
現に職員は俯き加減になってブツブツと呟いている。
「そんな……」
目撃していないから現実として受け止められないのだろう。
「でも、賢者様だし……」
俺が浄化すると何でも全消しとか思ってないだろうな。
パズルゲームじゃないんだぞ。
「死骸を吸収するほどの呪われた魔道具……」
そちらの考察をしてくれるのはありがたいね。
俺がそれだけ強力な浄化をせざるを得なかったと思ってくれそうだし。
職員が俯かせていた顔を上げた。
「なるほど、分かりました」
やけに落ち着いた表情だ。
『ホントかよ』
思わずツッコミを入れたくなったさ。
「細かな状況は他の冒険者たちに聞きます」
意外な申し出だった。
「いいのか?」
「ええ、賢者様と同じように正確かつ詳細に把握している人などいないでしょうし」
それじゃあダメじゃん。
「だったら尚更、他の連中に聞くのは問題があるんじゃないのか?」
「むしろ逆です」
「ん?」
「報告の内容が賢者様にしか分からないことだらけになりますから」
「説明しろと言われても返答のしようがない訳か」
「はい」
職員が意味ありげに笑った。
ずいぶんと人の悪い笑みを浮かべるものだ。
「俺が説明を面倒くさがったことにするつもりだな」
「あら、分かりますか」
人のせいにして有耶無耶にするつもりだ。
責任の押しつけとも言う。
「分からん方がどうかしてるだろ」
「フフフ、そうですね」
屈託なく笑ってくれたことにゲンナリした。
どうにか【千両役者】で表に出ないようにはしたけどな。
まるで何処かの丸投げ女神様のようだ。
印象は随分と違うが、やり口は近いと感じる。
かなりスケールダウンしているとは思うから、おそらくは面倒事にはならないだろう。
まあ、報告を受ける側の印象は悪くなるのは間違いなさそうだが。
そのくらいなら心理的な負担にもならない。
彼女はそこまで計算しているはずだ。
『意外にタヌキだな』
彼女の方がギルド長の研修を受けるに相応しい気がする。
そう思ったところで気が付いた。
彼女が現在の責任者なのだと。
「ギルド長代理も大変だと思うことにしておくよ」
俺がそう言うと、職員が目を丸くした。
「あの、賢者様」
「なんだ?」
「役職のことは言った覚えがないのですが……」
困惑の表情を浮かべている。
こういう部分はまだまだ甘いようだ。
「聞いていないな。
名前すら聞いてない」
ハッとした表情になった。
「失礼しました。
ギルド長代理を務めさせていただいております、ガブリエラと申します」
「あー、ハルト・ヒガだ」
向こうも俺の名前は知っているだろうが答礼のようなものだ。
あまり礼儀を欠くのも良くないだろう。
「それで、どうして私の役職が分かったのでしょうか?」
「ゴードンもハンスも短期間で帰ってくるような状況じゃないんだろ」
「はい」
「なら、代理でもギルド長が必要だよな」
「それは分かりますが……」
どうして自分がと言いたいようだ。
まあ、先程までは見るからにモブ感のある職員だったからな。
そう見えるように自ら仕向けていた風だが。
だからこそ見抜かれたことがショックだったのだろう。
「詰めが甘いんだよ」
この瞬間に俺の中で彼女のあだ名が決定した。
命名、ガブやん。
チャッカリしてそうで詰めが甘いイメージでつけたんだが、どうだろうか。
まあ、違和感があるとクレームが来ても変えるつもりはないがね。
「えっ!?」
指摘されて驚くということは、まるで気付いていなかったという証拠だ。
「肝心なところで態度に出てしまっていたぞ」
口元を手で押さえて固まってしまっているガブやん。
『なるほどね』
ゴードンはちゃんと見ている訳だ。
こういうボロを他所で出すのは頂けないからな。
地元なら顔なじみの冒険者のフォローも期待できるが出先ではそうはいかない。
一見、頼りなさそうに見えるハンスだがギルド長に昇格するだけのことはあるようだ。
こういうボロはなかなか出さないのだろう。
『人は見かけによらないってことだな』
「どういう部分がなのかは自分で考えた方がいい」
その方が修正も早いはずだ。
「どうしても分からなきゃゴードンやハンスが帰ってきたら聞くんだな」
返事はなかった。
それもそのはずで固まったままだ。
動揺したままなのか、考え込んでしまっているのか。
「まあ、俺の役目は終わったよな」
後始末とも言うべき説明をしなくて良くなったからな。
訓練場に残っていたはずの他の職員たちがこちらに向かって来ているし。
偵察に出たはずのガブやんが戻ってこなくて痺れを切らしたのだろう。
話し込んだ挙げ句に固まられて彼女らを呼びに行かなきゃならんかと思っていたのだが。
そうならずに済んでラッキーだ。
俺は回れ右で通路を戻っていった。
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その夜。
といっても少し遅めの夕飯を食べた程度の時間だ。
寝るにはまだ早い。
俺はアーキンの経営する宿屋の最上階にいた。
今回は小さい方の部屋で宿泊である。
ドアがコンコンコンと3回ノックされた。
呼びかけはない。
気配からするとウィスのようだ。
俺はドアの前に行き、おもむろに開いた。
少し下がるようにしてウィスがいる。
「説明が終わった」
簡潔に報告してくれる。
フィズたちに説明を丸投げしていたんだが。
「後は俺がちゃんとお願いしないとな」
丸投げとはいえ状況の説明を頼んだだけだ。
皆を迎え入れるから是非いらっしゃいと言うのは俺の役目である。
「そこから相談タイムになるだろうな」
即決とはなかなかいかないはずだ。
『一晩で終わればいいんだが』
そのために大部屋の方に皆を放り込んだのだ。
ベッドの数はまるで足りていないがね。
いよいよ眠気に勝てなくなってきたら床で雑魚寝するだろう。
俺1人では持て余すという理由もあるけどな。
「必要ない」
ボソッとウィスが呟いた。
「え?」
思わず聞き返してしまった。
聞こえなかった訳ではないのだが。
「みんなミズホ国の国民になると言っている」
「おいおい、相談もしなかったのか?」
コクリと頷かれた。
「判断に迷ったりは?」
「誰もしなかった」
「即決ってことか」
コクリと頷くウィス。
心持ち嬉しそうに見える。
「もちろん強引な勧誘はしていない」
「そうなんだ……」
風と踊るの面々は説得が得意なようだ。
手間が省けるのは助かる。
「先に国民になったと言っただけ」
「……………」
説得じゃなかったようで。
おそらくは取り残された気分になったんじゃないだろうか。
不安を感じている状況で仲間に先を越されたようなものだからな。
そういう心境になっても不思議はない。
それはそれで詐欺的な気がしなくもないのだが。
『気にしたら負けか』
どうあっても結論が覆るとは思えないし。
「じゃあ、今晩はゆっくり休むように伝えてくれるか」
「手続きはしない?」
「興奮状態だと書類の書き損じとかありそうだからな」
まあ、西方と違ってうちでは紙など安いものだけど。
リサイクルだって簡単だし。
「それは大変」
上手い具合に誤解してくれたので、良しとしよう。
読んでくれてありがとう。




