871 人の姿も捨て去る
金ピカが人とは思えない状態になったとはいえ、それは精神面の話だ。
人外の姿になった訳でもないので迂闊に殺す訳にはいかない。
下手をすればこちらがお尋ね者である。
『コイツらが罪人でないという証明がギルドによってされていたからな』
これが厄介だ。
俺の噂も独り歩きしているみたいだし。
現状においては悪評などがないのは、せめてもの救いである。
ならば、これを維持するのが最低限の目標だろう。
故に今回のことが拡散した場合の影響を考慮しておかないといけない。
そのためには金ピカが絶対的に悪であったという共通認識が必要だ。
でないと、どこで話がねじ曲がるか分かったもんじゃない。
噂というのはそれだけ恐ろしいものなのだ。
今のところは、こちらにとって都合の良い展開だと思う。
金ピカが仲間を斬り捨てているからな。
奴が犯罪者なのは確定だ。
虚偽の耳飾りはすでに解呪しているので目撃証言が得られなくなることもない。
もうひとつ厄介なのが瀕死状態だったチンピラどもである。
こいつら、迷惑行為をしていただけで犯罪者ではないことになっているからな。
無実の人間を救命措置をせずに見殺しにしたことにされてはたまらない。
金ピカの相手で、その隙はなかったという認識を持たれるようにはしたつもりだ。
が、何が起きるか分からないのが現実である。
『まだまだ油断のできる状態ではないよな』
金ピカだって犯罪者とはいえ魔物という訳ではない。
見た目が人の姿をしているだけに慎重さが求められる。
衆人環視の状況でなければ、どうとでも処理できたんだが。
それこそファントムミストとベリアルのコンボ魔法なら一発だ。
ただ、見た目がよろしくないから衆人環視の元では使えない。
縛りがある上に段階的に手順を踏まないといけない訳だ。
『面倒くさいったらありゃしない』
幸運なことにギャラリーのお陰で奴が呪いのアイテム持ちであることを認識させた。
これで万が一の時は呪いのアイテムのせいにしてしまえる。
指輪を初めとする装飾品も金ピカの鎧もすべて呪われているからな。
『どこで、こんなの手に入れたんだか』
最初に鑑定した時はそんな風に内心で呆れたものである。
鑑定結果を確認して墓荒らしをした結果だと知った時も呆れたけどね。
半ばダンジョンと同化している古代遺跡内にある墓地で片っ端から持ち去ったようだ。
『そりゃあ呪われるわ』
正気を失ったのも呪いの効果みたいだし。
「呪われているのは剣だけじゃないぞ」
俺が金ピカから視線を外さずに冒険者たちに声を掛けると──
「「「「「ええっ!?」」」」」
驚きの声が上がった。
「どういうことっすか、賢者様!?」
呪われていたと推理した冒険者が聞いてきた。
「俺には奴の装備品すべてが呪いのアイテムに見えるんだがな」
「「「「「マジっすか!?」」」」」
「分からんか?
禍々しい気を放っているだろう」
「い、言われてみれば……」
「ヤバそうな感じがするな」
「まるでアンデッドを見ているみたいだ」
次々に同意するような発言が続く。
彼らが本当にそう見えているかは俺には分からない。
もしかしたら誰もアレが見えていないこともあり得る。
それでも構わないのだ。
本人たちが、その気にさえなっていれば後の証言が崩れることはない。
「それが瘴気だ。
アンデッドの元とも言われているから迂闊に近づくなよ」
冒険者たちが一斉にブルブルと首を振った。
「そんなバカな真似しねえっす」
「だよな……」
「死にたくねえっすよ」
さすがにそこまでの命知らずなバカはいないようだ。
それでも逃げ出そうとする者はいないけどね。
野次馬根性が染みついているみたいだ。
『まったく……
どいつもこいつも困った連中だ』
「結界は張ってあるが、近づいたら保証はしない」
念のために釘を刺しておく。
今度はコクコクと頷いているので大丈夫だろう。
嘘にならないように結界を張る。
「ギョギィ─────ッ!」
金ピカが吠えた。
結界に反応した訳ではない。
砕けた手を誇示するように握って開いてを繰り返す。
どうやら治せたようだ。
『威嚇しながらも大人しいと思ったら、そういうことか』
万全でなければやるつもりがないらしい。
ビビって戦意を喪失しているなら、もう少し楽だったのだが。
とにかく奴が、ああいう意思表示委をしたと言うことは戦闘再開となるだろう。
「来るぞ!」
俺の警告に冒険者たちが身構える。
「ギギッ!」
物を投げようとするかのように腕を振りかぶる金ピカ。
「お?」
そして見当違いの方向に腕を振るう。
「おー、そういうことかー」
金ピカの腕が伸びた。
真っ直ぐにしたという意味ではない。
何倍もの長さになったのだ。
「「「「「なにぃ──────っ!?」」」」」
冒険者たちにはよほどの衝撃だったらしい。
無理もないとは思う。
『普通の人間は腕が伸びたりしないからな』
先程までは本当に生身の人間だったのだ。
俺がさほど驚かないのは、コイツの中身が人間でなくなったことに気付いていたからだ。
それは砕かれた手の甲を治す際に同時進行でやっていた。
治したと言うよりは筋肉や骨を変質させてつなげたと言うべきか。
もしかすると筋肉も骨もない液状の中身になっているかもしれない。
それと腕が伸びるのはアニメやゲームなんかで、よく使われているからでもある。
腕が伸びるキャラを挙げるとなれば人によって想像するものが変わってくるだろう。
俺は火を吹く禿げのゲームキャラだ。
トモさんだと何だろうな。
グランダムの水陸両用機あたりかもしれない。
人間ですらない上にサイズも全然違うけど。
ミズキやマイカは2人で変身する特撮ヒーローだと思う。
元日本人組で片っ端から挙げていけば、もっと出てくるだろう。
とにかく人ではない何かに成り果てた金ピカが腕を伸ばした。
その先にあるのはチンピラどもの死骸。
奴の手がそれを無造作に掴んだ。
すると手が腕が奇妙に波打ち始める。
ポンプで水を吸い上げるようだと感じた。
現にチンピラの体は干涸らびていく。
それと入れ替わるように金ピカの皺が消えていった。
「「「「「うわあああぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
冒険者たちはプチパニック状態である。
混乱はしているが錯乱して逃げ惑うようなことがないのは不幸中の幸いか。
「どどどどうなってるんだっ!?」
「知らねえよっ!」
「とにかく、もう人間じゃねえだろっ!」
「あんなの化け物じゃねえかっ!」
その認識はありがたい。
「どうすんだよぉ!?」
「大丈夫だ、賢者様が何とかしてくれる」
他力本願な考えは感心しないが。
「本当に大丈夫だろうな?」
「ダメだと思うなら逃げろ」
「いいや、逃げねえっ。
ここで逃げたら絶対に後悔する」
大騒ぎしている割には見物姿勢を崩さない一同。
『お前ら……』
自己責任という言葉を知っているのだろうか。
まあ、結界を張っているから大丈夫だとは思う。
この連中はいつか痛い目を見るだろうとも。
そして金ピカの吸収が最終段階に入った。
チンピラの完全に干上がった体が、あっと言う間に縮まっていく。
装備もろともに奴の手の中に吸い込まれていった。
「「「「「うわぁ……」」」」」
冒険者たちが震え上がる。
だが、これで終わりではない。
金ピカが吸い取りに使っていた腕を引くのと同時に、別の腕を伸ばした。
「「「「「なにぃ──────っ!?」」」」」
再び冒険者たちの驚愕の声がギルド内を木霊する。
「腕がっ!」
「同時に3本伸ばしたぁ!?」
冒険者の1人が言ったように金ピカは増やした腕を伸ばしていた。
縮めた分と合わせて合計4本。
「いつの間に増えたんだ!?」
チンピラを吸収してからだな。
増えた分はリユースしているといったところか。
その割に見た目は金ピカの腕だ。
吸収して再構成したのだろう。
「訳が分かんねえよっ!」
「正真正銘の化け物だぁっ!」
どうやら冒険者たちの精神耐性が限界に達しそうな状況である。
このまま錯乱状態に陥られると面倒なのでバフっておいた。
どうにか極限状態からは復帰する一同。
まだまだ混乱はしているが、暴走されるよりはマシというものだろう。
その間に金ピカは残りの死骸の吸収を終えようとしていた。
見れば奴の体がフグのように膨れ上がっている。
顔もパンパンに腫れていて、イケメンの面影はなかった。
もはやオーク顔である。
「清掃、御苦労だったな。
血の海まで綺麗にしてくれるとは後始末の手間が省けて助かったぞ」
挑発気味に金ピカに声を掛ける。
奴はオーク顔を歪ませ笑った。
挑発には挑発で返すということらしい。
圧倒的な力を手に入れたと思い込んでいるが故の余裕だろう。
「ギィエエエエエエェェェェェェェェッ!」
甲高くなった咆哮と共に、もはや触手じみた動きで腕を伸ばしてくる金ピカ。
左右5対の手刀攻撃。
鋭い爪が勢いよく迫ってくる。
だが、しかし……
「残念」
目前に迫ったところで見えない壁に弾かれる。
「ギィッ!?」
「届かないんだな、これが」
「ギィィィィィィィィ──────ッ!?」
金ピカの余裕の笑みは怒りの形相に変化した。
ただただ醜いだけだ。
鞭のように腕を叩き付ける。
何度も何度も何度も何度も何度もひたすらに。
肉が裂け、どす黒い血を飛び散らせてもお構いなしだ。
理屈ではない。
憎悪だけがそこにあった。
「「「「「…………………………」」」」」
冒険者たちは圧倒されて言葉もなかった。
誰かが身震いする。
『ここまで見せれば充分か……』
俺はパチンと指を弾いた。
「不浄なる者よっ。
この世から消え去れ!」
浄化の光に覆い尽くされる金ピカ。
その光が消えたとき、目の前に居たはずのものは何の痕跡も残さず消え去っていた。
読んでくれてありがとう。




