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860 このタイミングでそれを聞く?

改訂版7話をバージョン2に差し替えました。

「とりあえず店の前で話し込むのは営業妨害だから移動するぞ」


 そう言って俺は歩き始めた。

 もちろん、どう説明するか考えるための時間稼ぎである。

 歩きながら考えようと思ったのだが──


「どういうことだ、ウィス?」


 ジニアが俺の後ろについて来ながらも問いかけていた。

 困惑顔であるところを見ると、すぐにでも聞かずにはいられなかったようだ。


 そんな訳で俺の目論見は外されてしまった。

 とりあえず成り行きに任せつつ歩き続ける。


「ここはドワーフの国だろう。

 確かジェダイト王国とか言ったはず」


 フィズが己の常識が正しいものと思い込んだまま訂正しようとする。


『そこなんだよなぁ』


 どう切り崩したものかと考えるも妙案は浮かんでくれない。

 だが、俺は小難しく考えすぎていた。

 もっとシンプルで良かったのだ。


「その情報、古い……」


 ウィスがボソッと告げる。


「「古い?」」


 怪訝な表情を見せるジニアとフィズが顔を見合わせた。


「古いってどういうこと?」


「知らない。

 わからないわ」


 2人の困惑は加速していく。

 対照的に3人娘はウィスの答え待ちで見守る体勢になっていた。


 それを見て自分たちでいくら考えても無駄と言うことに気付いたのだろう。

 2人もウィスの方を見た。

 それを待っていたかのようにウィスが口を開く。


「今はミズホ国のジェダイトシティ」


 その情報がもたらされた瞬間、皆が固まった。

 各々が聞いた言葉を自分の中に定着させるための時間であるように思えた。

 おそらく間違ってはいまい。

 その情報が彼女らの中で確定した瞬間。


「「「「「ええ────────っ!?」」」」」


 ウィス以外の面々が仰け反るようにして驚いていた。


「どどどどういうことっ?」


「なんでなんでっ?」


「どうしてさっ?」


 3人娘が堰を切ったように聞いていた。


 が、ウィスは返事をしない。

 それどころか遠い目をして無反応を貫く姿勢を見せる。

 雰囲気的にも完全シャットアウトと言わんばかりだ。


「お前たち、そんなに詰め寄ったらウィスが答えられないぞ」


 ジニアがたしなめた。

 3人娘も自分たちが引かないとダメだと悟ったのだろう。

 スゴスゴといった感じで引いていく。


 それを見たウィスが再起動。

 物凄く分かりにくい差だけど確実に表情が変わっていた。

 まるで出会った当時のノエルを見ているかのようだ。


「理由なんて知らない。

 急に変わったことしか分からない」


 ウィスの言う通りだ。

 本当に急だったからな。


「「「そうなんだー」」」


 3人娘は落胆した様子を見せたが、それだけだ。

 深く追及するつもりはないようである。


『それにしてもウィスは無口で人見知りするのによく情報を集められたな』


 俺にしてみれば、そちらの方が驚きである。

 改めてそのことに感心していると……

 ウィスがクルリと振り向いた。


「おっ、何だ?」


「情報収集は斥候の仕事……」


 ボソッと言うと、ササッとそばにいたジニアの影に隠れるように回り込んだ。


『いや、そうなんだけど』


 エスパーか、と言いたくなったさ。

 とはいえ何時までも気にしている訳にはいかない。

 せっかくウィスが説明してくれたんだからな。


「ちなみにこの食堂で働いているのは、ミズホ国の人間だ」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 またしてもウィス以外の面々が驚く。


「その様子だとウィスは知っているのか?」


 ウィスは口を閉ざしたままだ。

 かわりにフルフルと頭が振られた。

 知らないようだ。


「……………」


 読みにくい相手である。

 困惑の海に引きずり込まれそうになったが、あえて考えないことで踏み止まった。

 風と踊るの面々との話が終わった訳ではないのだ。


「彼女らも元はゲールウエザー王国の人間だったんだけどな」


「マジっすか?」


 ローヌが聞いてきた。

 言うほどには驚いていないように見える。

 元から知らない国の人間だったと言われるよりは受け止めやすいのだろう。


「事情は君らとは違うが訳ありでな。

 そのあたりのことは聞かないでやってくれ」


 父親のこととか思い出させるのは酷だもんな。

 バラバラのタイミングだったが全員が頷いてくれた。


「ただ、迷いがあるなら相談してみるといい。

 君らの話を聞くぐらいはしてくれると思うぞ」


 風と踊るの面々は俺について来てはいる。

 とはいえミズホ国民になるかどうかは確認していない。

 移動中はシンキングタイムと思っておいた方がいいだろう。


 彼女らにとっては将来を決める重要な選択である。

 落ち着ける場所で聞くべきだ。


 そういう訳で俺が目指したのは外壁付近。

 ただし、正門近くではない。

 ダンジョンがあるために日が暮れても人の出入りが途絶えることはないからな。

 24時間営業みたいなものだ。


 案内したのは外壁近くで等間隔に配置された詰め所のひとつである。

 フィズたちは場所が衛兵詰め所であると知って引き気味であった。

 普通は犯罪に関わりでもしなければ連れて来られる場所ではないからな。


「よっ、お疲れー」


 入り口に立つドワーフに声を掛けると敬礼が返ってきた。


「お疲れ様ですっ」


 やや緊張気味の見張りくんの肩をポンと叩く。


「ちょっと中の部屋を借りるよ」


「光栄ですっ」


 なんでそうなると言いたくなるような返事であった。

 何をどうすれば部屋を借りると光栄だと言われることになるのか。

 理解できない。


「おいおい……」


 どうやら緊張気味というのは間違いだったようだ。

 中身はガチガチである。


『もう少し普段から国民と触れあうような機会が必要かもな』


 とりあえず、この場はスルーだ。


「ほら、入るぞ」


 風と踊るの面々に呼びかけると困惑しながらも追随してきた。


「邪魔をする」


 俺がそう言って中に入ると待機中だった2人のドワーフが飛び上がって敬礼した。

 それを見ていたフィズたちはドン引きだ。

 だが、その姿を見たお陰で何となくだが気付けた。

 ドワーフたちの反応は単なる緊張ではなさそうだ。


『これって俺が通報してきたとか思ってるのか?』


「あー、問題があった訳じゃないから」


 そう言うと、ドワーフの2人は軽く安堵していた。

 どうやらお互いに誤解があったようだ。


『そりゃあ捕り物があるとか思えば緊張もするわな』


 となると見張りくんの緊張も、そういうことなのかもしれない。

 完全に俺の配慮不足だ。

 脱ぼっちを目指してやってきたはずなのに、まだまだ甘い。

 だが、これ以上の反省は後だ。


「ちょっと外国人に聞かれたくない話をしたくてね」


「はあ……」


「でも、部外者を内側に入れる訳にはいかないだろ」


「「ああ、そういうことでしたか」」


「そういうことだから2階を借りるよ」


「どうぞ」


「それと外の見張りくんにも今のこと説明しておいてくれるかい。

 事情を説明してないから誤解されてるみたいなんだ」


「了解しました」


 1人が外に出るのを見て俺は階段を上った。

 フィズを先頭に風と踊るのメンバーもおずおずと付いて来る。

 戸惑いの色は隠せないようではあったが。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 2階の会議室で席に座る。

 フィズたちも俺が促すと座ってくれた。


「さて、じゃあ本題に入ろうか」


 まずは返答を聞くところからだろう。


「その前にいいだろうか?」


 ジニアが小さく手を挙げていた。


「何かな?」


「アナタは一体何者なんだ?」


 もっともな疑問である。

 故に他の面々がうんうんと頷いていた。


 ミズホ国への勧誘をしただけでも一般市民でないのは分かっていただろう。

 それに加えて衛兵の態度である。

 あそこまで見られてしまってはね。

 彼女らも俺のことを、ただの賢者だとは思ってはいまい。


「たぶん信じないぞ」


「それでも先に聞かせてもらいたい」


 ここで隠せば彼女らは俺を信用しないだろう。

 微妙にぼかしても同じだと思われる。


「俺の名はハルト・ヒガ。

 これは偽りなく本名だ。

 商人である時も冒険者の時もこの名で通している」


 そう言いながらギルドカードを呈示して見せた。


「見たことないカードっす」


 燻し銀のような色のカードを見たローヌが首を捻った。


「知ってる?」


「知らない」


 ナーエがライネに聞くが首を横に振られてしまう。


「でも、間違いなくギルドカードだわ」


 フィズが断言した。

 書式のフォーマットから判断したか。

 身分証として用いられるギルドカードは偽造すると厳しく処罰されるからな。


「ちょっと!」


 ジニアがフィズの肩を忙しなく叩いた。


「なに? どうしたのよ?」


 ジニアは口をパクパクさせて落ち着きを失っていた。


「ラ、ラ…ンク……」


 まともに喋れていない。


「え?」


 フィズが怪訝な表情でジニアを見るのも無理からぬことだろう。


「ランクが……」


 ジニアはカードを指差し、どうにか単語を紡ぎ出した。


「ランク?」


 コクコクと頷くジニア。

 フィズが気遣わしげな視線を向けている間に──


「「「紫ランク!」」」


 3人娘が叫んでいた。


『そこに食いつくんだ』


 冒険者ギルドで認定される最上位ランクなのは分かるんだけどさ。

 まだ俺が何者か言ってないよ。


読んでくれてありがとう。

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