858 悩みの根源
帰りたくても帰れない事情があるのは分かった。
どう解決するかで風と踊るのメンバーの未来は変わってくるだろう。
相談に乗る俺の責任も重大ということだ。
もとより軽く考えている訳ではないが気を引き締めなおした。
「では、まず希望を聞こう」
そう言うと風と踊るの面々は俺の方を見た。
やや困惑気味に思えるのは彼女らにとって予想外の言葉だったからだろうか。
「何をどうしたい?
まずはそこをハッキリさせよう。
でないと解決できる問題も解決できない」
「「「「「あ……」」」」」
一同は気付いていなかったことを指摘されたと言わんばかりの表情で固まっている。
即答できるものでもないので質問していくことにした。
「件の被害者家族が何らかの形でいなくなったら村に帰りたいか?」
3人娘が互いに顔を見合わせていた。
そこに言葉はない。
それだけで何らかの結論に達したようだ。
特に表情を変えることなく3人娘は待ちの体勢に入った。
合間に手をつけていた料理に再び手をつけている。
残りのメンバーが結論を出すのを待つつもりなのだろう。
ウィスはずっと目立たないようにゆっくりと食事を続けている。
注意深く話に聞き入っているのは彼女の耳を見れば分かった。
ピクピク動いているからな。
あの様子だと俺の質問に対する答えは最初から持っていたと考えるのが妥当か。
ならば残るはヒョロッとさん1号2号のみ。
「皆はどうしたい?」
1号のフィズが残りのメンバーに問いかける。
「フィズはどうするの?」
2号のジニアが即座に切り返した。
「どちらかと言われたら帰りたくない。
だけど皆が帰りたいなら──」
「なら、決まりだね。
私達は村に帰らない」
フィズの言葉を遮ってジニアが結論を出した。
「ちょっと待って」
身を乗り出し気味にしてフィズが訴える。
「これは私の個人的な考えなのよ。
何がなんでもなんて言ってる訳じゃないし」
「帰りたい人、手を挙げて」
ジニアの言葉に誰も反応しなかった。
「じゃあ帰りたくない人」
ジニアを含めて5人の手がサッと挙がる。
「アンタたち……」
「リーダーの意見に従うとかじゃなく、だからね」
念押しするようにジニアが言うと他の面子がしっかりと頷いていた。
「村長は綺麗事を言っていたけどさ。
いつか帰ることができるようにするって嘘っぱちもいいとこだよ」
ローヌが頷きながら自分の意見を言う。
「そうそう、あのジジイは日和見主義だし。
他の皆が私らのこと厄介者呼ばわりしてたのは知ってるつーの」
ナーエが唇を尖らせながら続く。
「それも、うちらだけじゃないもんね。
他のパーティもボロカスに言われてた」
ライネも同様だ。
「私らがいる所じゃアイツらの言い掛かりに迷惑してるとか言って同情してたけど」
ローヌがそう言いながら溜め息を漏らした。
その表情には侮蔑の色が混じっている。
村人たちに向けてのもののようだ。
なかなか辛辣である。
それだけの扱いを受けたと考えるべきだろう。
「裏じゃ程度の差はあったけど、どっちもどっちだったもんね」
ナーエがローヌの言葉を補足した。
露骨に悪口を言い触らす被害者家族に陰湿極まりない陰口をたたく村人。
確かに同類だ。
「両方消えろとか言ってる奴もいたよ」
ライネの言葉は村人たちの本音だろう。
どちらも騒動の種でしかない。
ダンジョン騒動の部外者である村人たちにしてみれば同じ穴の狢ってことだ。
『随分と勝手な言い草だ』
冒険者がダンジョンで戦果を上げてくるからこそ得られていたものもあるはずだ。
日々の生活を支えているのは魔物から得られる素材である。
明かりに使われる油。
様々な場所で使われる革製品。
そして食肉。
誰のお陰かを考えたことがないのだろうか。
そんなはずはないのだが。
「衛兵がいるから大丈夫と思ったんだろう」
ジニアが溜め息をついた。
「彼らも他所から冒険者を呼び寄せるまでのつなぎでしかないのにな」
「あんな田舎に来る冒険者じゃねー」
「地元出身がいなくなったら大きな顔するに決まってるよ」
「その時も石なんか投げられるのかなー」
3人娘の嫌みが炸裂する。
ひょっとすると、くしゃみをする村人たちが大勢いるかもしれない。
「とにかく、みんな知っていたんだ。
フィズは隠したがっていたみたいだがな」
ジニアがそう告げると、フィズはガックリと肩を落とした。
「気落ちしているところを悪いんだが」
そう言って俺の方へ視線を集める。
「他のパーティも似たような境遇なんだな?」
「そうっす」
ローヌが即答した。
「ここに来ているのはうちらだけっすけど」
「後はふもとの街に行ったのが大半っす」
ナーエとライネが補足した。
「ふもとの街?
ああ、ブリーズのことか」
「そんな名前だっけ?」
ライネが隣に座るナーエに聞いている。
「だっけ?」
ナーエはローヌに聞いているけどな。
「そんなこと言われても街の名前まで知らないよ」
「「「フィズゥー」」」
3人娘が情けない声と表情で自分たちのリーダーに縋った。
なんだかんだと頼りにされている訳だ。
それを見たフィズとジニアが苦笑した。
ちなみにウィスは黙々と食事をしている。
「確かにブリーズの街です、賢者様」
フィズが3人娘に変わって答えた。
「固まってるんだな」
もっと離散する状態かと思ったのだが。
「ギルド長に紹介状をもらったので。
自分たちも当初はブリーズの街が目的地でした」
「そうなんだ。
こっちに来たってことは馴染めなかったのか?」
余所者が新天地で馴染めないなんてことは珍しいことではない。
彼女らの出身村の冒険者ギルド長はそのあたりを配慮して紹介状を書いたようだが。
ブリーズの冒険者ギルド長はゴードンだからな。
あの筋肉爺さんの面倒見の良さは養子たちが証明している。
紹介状を渡されて無視するなんてことはあり得ない。
揉め事も放置するような性格じゃないしな。
それでも人間同士のことに絶対はない。
そう思って聞いてみたのだが──
「いえ、こちらの噂を聞いてなんとなく行こうとなっただけです」
フィズが答えた。
どこかハッキリしない感じがあって、本当に何となく決まったのだと思わせる。
「今となっては誰が言い出したのかも分かりません」
ジニアの言葉もそれを裏付けるものであった。
3人娘も顔を見合わせるばかりだ。
ウィスは食べ終わったせいか気配を薄めて微動だにしなくなっていた。
全体的に落ち着きを失っている。
彼女らの自信のなさが表に出た行動に思えた。
何となくだけど彼女らの悩みが何なのか分かった気がする。
それを確かめるために──
「好きに生きればいいんだぞ」
そう言ってみた。
途端に自信のない不安げな表情になる一同。
思った通りのようだ。
「悩みの大本は環境が変わったことによる漠然とした不安だろうさ」
表情は変わらぬままだが、みんな聞き入っている。
「今までは帰る場所の存在が大きかったんだ。
当たり前だと思っていたが故に気付いていなかっただろうがな」
疑問を感じたりはしていないようだ。
質問や反対意見などはない。
「無意識のうちに心の拠り所になっていたはずだ。
今はそれを急に失ってどうすればいいのか分からない状態なんだろうよ。
だから俺が好きに生きろと言ったら何をしていいのか分からず不安になっただろ?」
言われてみればという表情をし始めている一同。
徐々に気づき始めたようだ。
そして一気に不安な表情になってしまう。
「解決手段が思いつかんか」
風と踊るの面々は揃ってコクコクと頷いた。
かなり必死な様子である。
「まずは拠り所になるものを作ることだな。
冒険者ギルドで古株になるとかでもいいんだぞ」
反応が鈍い。
何時までも冒険者を続けてはいられないと思うが故であろう。
「なら老後の資金を貯めておくんだな。
引退しても悠々自適に暮らせると分かっていれば安心感があるはずだ」
これも反応が鈍い。
彼女らにとってはストライクの答えではないのだろう。
「もっと金を貯めて開拓資金にするという手もある。
帰る場所がないというなら自分で作るってことだな」
「無理っすよ」
「そうっす」
「自分たちじゃそこまでお金を貯められないっす」
3人娘から泣きが入った。
だが、先の提案と違って資金があるなら、やる気になりそうだ。
おそらくは同じ村から出てきた面々と一緒にやりたいとは思っているのだろう。
「ブリーズの街にいる同郷の面子と組んでも無理か?」
全員に頷かれてしまった。
「引退しても何かしら働くことになると思います」
フィズがそう言うのだ。
実力的に少し落ちる他のパーティが彼女ら以上に稼ぐことはできないだろう。
『大幅なレベルアップも望めないだろうしなぁ……』
風と踊るの面々が落胆している。
不安の原因は分かったが解決方法がないからな。
いや、解決方法はある。
この手段なら資金もいらない。
もちろん開拓する必要もない。
問題は合格するかどうか。
『ローズさんや、出番だよ』
念話で連絡をする。
脳内スマホを使わないのは情報共有のリンクをダイレクトに行うためだ。
ちんたら説明なんてしてられない。
とはいえ守護者であるローズとの繋がりの強さがあればこその手段なんだけどね。
『くぅくっくーくー』
任せて超特急ぅ~などと言いながら霊体モードで飛んで行くイメージが来た。
さっそくブリーズの街に向かったようだ。
さすがはローズさん、仕事が早い。
台詞は何処で覚えてきたんだろうと思うけどね。
読んでくれてありがとう。




