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857 気まずい理由

「とりあえず座ろうぜ」


 俺は風と踊るの面々に着座を促した。

 広い円テーブルは8人掛けなので全員が座っても余裕がある。


「失礼します」


 フィズが俺の対面に座った。

 その隣にジニア。

 つい今し方、喧嘩になりかけたとは思えないくらい普通にしている。

 まあ、喧嘩に発展したかどうかはフィズ次第なところはあった訳だけど。


『長年の付き合いってことか』


 揉める心配がないなら、俺が心配するだけ無意味だろう。

 そんなことを考える間にも斥候女子ことウィスがジニアの隣に座った。

 槍士3人組は3席あいた方に座る。


 必然的にウィスとは空席を挟むことになったが、それが彼女の距離感なのだろう。

 やたらと人見知りするウィスにしては近い気がしなくもない。

 俺の方をチラ見しているのは何か気になることでもあるのかどうか。

 相手のことをほぼ知らない現状では推測はできるが確信が持てない。

 話の流れの中で判断するしかないだろう。


「とりあえず飯でも食いながら話そうか」


 俺の感覚だと少し早い夕食となるのだが。

 風と踊るのメンバーはこの時間帯に来ることが多いそうだ。

 食堂3姉妹からの情報なので間違いは無い。

 手短に注文を済ませたあたりでフィズが口を開いた。


「お手間を取らせてしまい申し訳ありません」


 恐縮しきりである。

 他の面子も程度の差はあれ似たようなものだ。


「気にするなと言っても無駄のようだな」


 俺の指摘に気まずそうにする一同。

 それでも話を聞いてほしいと思うからには深刻な問題なのだろう。


「とにかく話を聞こうか」


 促してみたのだが……

 誰も口を開かない。


「……………」


 表情が硬くなったように見える。


「…………………………」


 催促しないとダメなのかと思いつつも我慢した。

 俺から催促すると無理やり聞き出すような感じがしたからだ。

 それで表面的なことしか聞けないのでは意味がない。


「…………………………………………………………………」


『何の我慢くらべなんだ?』


 内心で苦笑しつつも待ち続ける。


「おまちどおさま~」


「おまたせ……」


 次々と料理が運ばれてきて無言の夕食が始まった。

 まるでお通夜のような雰囲気だ。


「ねえ、ちょっとアンタたち」


 料理をすべて運び終わったシーオが風と踊るの面々に声を掛けた。

 もの申すと言わんばかりに仁王立ちで両拳を腰に当てている。

 そんなポーズを取ったにもかかわらず威厳は感じられないのだが。

 まあ、本人はどう見えているかなどは気にしていない様子である。


「賢者様に話を聞いてもらいたくて来ているんでしょ」


「え、まあ、そうだけど……」


 シーオの間近に座っていた3人組のローヌがしどろもどろになりながらも返事をした。


「大丈夫よ」


 自信たっぷりに断言しながらフンスと鼻息を漏らす。


「私達姉妹も助けてもらったからね」


「え?」


「縁も縁もなかったけど助けてくれたわよ。

 そうでなきゃ今ここで食堂なんてしてないから」


「本当……

 紛れもない事実」


 いつの間にかシーオの隣に来ていたミーンが証言した。

 一同が姉妹たちを驚きの表情で見る。

 視線を集めたシーオはドヤ顔で胸を張った。


「シー姉、カッコ悪い。

 助けてもらったのに偉そう」


 ミーンのツッコミにガクッとずっこけるシーオ。


「い、いいじゃないのっ。

 格好いい賢者様を自慢したいんだから」


 シーオは唇を尖らせて抗議する。


『頼むから俺のこと格好いいとか言わないでくれ』


 内心だけで抗議する。

 いま発言すると注目の的になって居心地が悪くなるのが目に見えているからな。


 いや、手遅れだった。

 風と踊るの面々が俺の方に視線を集めてきた。

 話を聞くことになっている以上、逃れようがない。

 お陰で凄く居心地が悪かった。

 罪悪感を抱いた時のような変な感じだ。


 きっと彼女らがうつむき加減だったからだろう。

 俺が苛めた訳でもないのに、そういう風に見えてしまうのだ。

 そんな形でしばらく沈黙が続く。


 そんな中で意を決したように顔を上げる者がいた。

 槍士3人組のナーエである。


「村に帰れなくなったっす」


 そんな風にポツリと漏らした。

 喋り方がまたしても変わっていたが、もしかするとこちらが地かもしれない。


「それは例の件が関係しているのか?」


 そう問いかけると、全員ばつが悪そうな表情になりつつも頷いた。


「賢者様のことを悪し様に言う者たちがいたのです」


 謝罪の後は沈黙を守っていたフィズがようやく口を開いた。


「あー、それでそんなことはないと否定したら追い出されたと」


「「「「「……………」」」」」


 返事はなかったが、沈黙こそがこの上ない肯定である。

 風と踊るの面々が気まずそうにしていた理由がよく分かった。

 フィズが過剰な反応をしていたのも、これのせいだろう。


 だが、彼女らの責任は一切ない。

 むしろ俺の責任だろう。

 アフターフォローをちゃんとしておくべきだった。


 既に後の祭りとなった現状ではできることは何もない。

 手を尽くして彼女らを村に戻れるようにしても何の解決にもならないだろう。

 俺に対して悪感情を持っている者たちが、その気持ちを変えることなどないはずだ。


「ダンジョンで犠牲になった冒険者の家族か」


「「「「「……………」」」」」


 再び沈黙による肯定。


「俺ならもっと助けられたはずだとか言われたんだろうな」


 できるだけのことをしたつもりだが、現場にいなかった者たちには分からないだろう。

 まして家族が亡くなっているのだ。

 どういう状況だったかを説明されても納得はできまい。

 理解する以前に納得することを拒否するのは想像に難くない訳で……


「いや、悪し様に言ったのなら俺が仕組んだことだと言い触らすくらいはしたのかもな」


 風と踊るの面々がビクリと体を震わせた。

 どうやら図星らしい。

 それを見かねて抗議したら村を追い出された。

 そういう流れのようだ。


「ちょっとぉ、酷いじゃない」


 シーオが割り込んできた。

 黙っていられなかったのだろう。

 俺に対して怒っているのではなく、その矛先は村人の方に向かってはいるようだが。


 ただ、シーオは事情を知らない。

 話の流れから想像を働かせて文句を言っているに過ぎないのだ。


 俺はミーンにアイコンタクトを取った。

 ここで引っかき回されても話がややこしくなりそうで困るからな。

 小さく頷いて了承するミーン。


「部外者は撤収」


 そう言ってシーオのエプロンをむんずと掴んでグイッと引っ張った。


「えっ!?」


 ヨタヨタとシーオがバランスを崩してよろめく。

 それを利用してミーンはそのまま引っ張り始めた。


「あ、ちょっ、待ってよー」


 情けない声を出しつつシーオが引っ張られていく。

 ミーンは姉に立て直す隙を与えず一気に退場に持ち込んだ。

 見事なものだ。


『最近まで伏せっていたとは思えないよな』


 これもレベルアップしたお陰だろう。

 感慨深いものがあるが、ずっと浸っている訳にもいかない。

 今は風と踊るの面々に集中すべき時だ。


「俺のせいで、すまない。

 つらい思いをさせたようだな」


 俺が頭を下げると一同がハッとして慌て始めた。


「そんなことはありません!」


 真っ先に反応したのはフィズだった。


「そうです、あれは逆恨みもいいところでした」


 ジニアが続く。

 それだけではない。


「助かった全員がグルだとも言われたっすよ」


「自分は体を売って助かろうとしたんだろうって」


「同じこと言われたっす。

 それで売女は村から出て行けって」


 3人娘が具体的なことを言ってきた。

 斥候女子ウィスも静かに頷いている。


「根も葉もないことを言い触らされたのは事実です」


 フィズも表情を強張らせながら肯定した。


「信じない者の方が多かったのですが……」


 途中まで言うとフィズは辛そうに言葉を止めてしまった。

 何か俺に聞かせたくないような事態に発展したのだろうか。

 そんな風に考えていると──


「犠牲者の家族たちが暴動を起こしかけまして」


 ジニアが補足してくれた。

 暴動とは穏やかではない。

 状況次第では国が派兵して鎮圧することになりかねないからな。

 特に衛兵などがいない村では、そうせざるを得なくなる。

 フィズが説明を渋ったのは俺が更に責任を感じるかもと考えたのかもしれない。


「出鱈目なこと言ってるのを否定しただけなのに無茶苦茶っすよ」


 3人娘のライネが唇を尖らせながら不平を言った。


「ウソは良くないって言ったら石投げたりしてきたっす」


「それも無差別にっすよ」


 ローヌとナーエが犠牲者の家族が何をしたのか教えてくれた。

 自暴自棄になって暴れたみたいだ。


「それでよく暴動にならなかったな?」


「衛兵の部隊が派遣されていましたから。

 彼らの目の届くところにいる時だけは暴れなかったので」


 俺の疑問にフィズが答えた。

 衛兵たちも一応は抑止力になっていたようだ。

 これは宰相であるダニエルのファインプレーだろう。


「犠牲者の家族が危険と判断された訳じゃないんだろ?」


「ダンジョンの監視が主な仕事だったようです。

 それと冒険者の不足を補うという目的もあったそうですが」


 これもフィズが答える。

 それでどうして村に帰れなくなったのかが分からない。

 流れがそうなった瞬間が見えてこないのだ。


 俺の疑問が顔に出ていたのだろう。

 フィズが語り始める


「村長に言われました。

 このままでは、いずれ抑えきれなくなる。

 衛兵が大勢いる間に村を出るように、と」


 原因である被害者家族を追放しようとしても言うことを聞かなかっただろう。

 それどころか暴走して何かをやらかしかねない。

 ならば連中ではなく生存した当事者に出ていってもらった方が良いと判断したか。


 とんだとばっちりである。


読んでくれてありがとう。

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