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853 お人好しって誰のこと?

 どうにか仕事を終わらせた。

 報告も確認済み。


 ファイルサーバーとグループウェアの開発も完了して試してみた。

 実際に動かすと有用性がよく分かる。

 ただ、ひとつだけ問題があった。


『スマホ多すぎぃ』


 確認のためとはいえ百を超える動画を一度に見ようとしたせいなんだけどな。

 開発チームより確認要員の俺の方が圧倒的に多いという冗談のような状況が発生した。

 このあたりは、もうちょっと何とかしたいところである。

 今回はこれで終了だけどな。


 なんか帰りの道中なのに魔物と遭遇することが多いんだよ。

 まあ、対応はすべて婆孫コンビにさせたけどさ。

 それに都合がいい。

 冒険者ギルドに戦果を持ち込めばアリバイづくりにはなるし。

 俺がちゃんと監督してれば婆孫コンビのレベルが上がりやすいしな。


「次は接近戦で行きます」


 何度目かの遭遇戦でナタリーが前に出た。

 敵は単体の牙ウサギ。

 群れることが多い魔物だから珍しいと言える。

 ピョンピョンと左右に跳びはねながら近寄ってきた。


『次のジャンプで突っ込んでくるな』


 間合いを見て予測を立てたのだが。


「はあっ!」


 先にナタリーが突進。

 いや、そういう風に見えただけだ。

 実際には自分の着ていたローブを頭から抜いて放り投げた。


 結果、牙ウサギがローブに向かってまともに突っ込んでしまい視界を奪われる。

 そこにナタリーのハイキックが炸裂。

 ゴキリと鈍い音がして牙ウサギだけが真下に落下した。

 ローブはナタリーが裾を掴んでいたおかげで回収している。


『闘牛士みたいな戦い方をするよな』


 実際の闘牛士のことはよく知らないが、何となくそんな雰囲気を感じた。


「どうですか?」


 期待のこもった目でナタリーが俺を見てくる。


「50点だな」


 ドルフィンがコクリと頷く。


「えーっ、辛口じゃないですか?」


 ナタリーが意外だと言いたげだ。

 自分なりに工夫して戦ったという自負があるからだろう。


「採点基準を教えてください」


「急所が隠れた状態で的確に首ポキしたのは見事。

 なにより敵の視界を奪って一方的に攻撃した工夫も面白い」


「え?」


 呆気にとられたのかナタリーがポカンと口を開けている。

 意外な言葉を耳にしたかのような反応だ。

 実際、そうなのだろう。


「戦闘そのものは満点だ」


 ナタリーが「しまった!」という顔をする。


「あ……」


「一撃で仕留めきったか確認していない」


「はい」


 俺の指摘で落ち込むナタリー。


「他に敵が潜んでいないかの確認もない」


「はい……」


 更にションボリする。


「いつまでも獲物を放置するのは魔物を引き寄せるだけだと教えたはずだが?」


「はいっ」


 慌てて空間魔法を発動するナタリー。


「周囲の警戒を忘れてるぞ」


「はいーっ」


 ナタリーの頭の中は真っ白な状態に近いのではないだろうか。

 かなり必死な表情で警戒しつつ首の骨をへし折った牙ウサギを回収するのであった。


「ダンジョン実習は本当に大事ですね」


 ベルが苦笑する。


「身に沁みて分かっただろうから、ナタリーも必死になるだろうよ」


「それは負けていられませんね」


 という訳で今度はベルが前に出て帰りの道を進むことになった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ナタリーと交代してからどれ程の時間がたっただろうか。

 あれからひたすら歩いているが魔物と遭遇しなかった。


「出ませんねぇ」


 間延びした声で警戒感がなさそうなベルだが油断はしていない。

 目配りもぎこちなさは残っているができていた。

 もちろん気配感知もしている。


「入り口に近づいているからな。

 時間的にも、この近辺のは狩られた後だろう」


 夕刻が迫っている現状において1層目の出入り口付近の魔物はくまなく狩られたはず。

 リポップするにも時間がかかるからな。


「明日までお預けになりそうだな」


「それは残念です」


 などと返事をするが、少しも残念そうではない。

 むしろ楽しそうにクスクスと笑っている。


「いえ、今日は楽しいことが沢山ありましたので」


「そうか?」


 ベルのぎこちない動きを見て何がしたいのかはすぐに分かった。

 雑談しながらも油断せずに索敵できるか試しているのだ。

 失敗してもフォローの体勢が整っているからな。


 リスクの少ない状況で挑戦することを選択したのだろう。

 この辺りは人生経験が豊富だからこそ思いついた部分はあると思う。


 なんにせよ向上心があるのは良いことだ。

 故に付き合うことにしたのだが……


「ハルト様は本当にお人好しな方だと思うことばかりでしたよ」


「なんで、そう思うのさ?」


「自覚してらっしゃらないのですか」


 ベルが目を丸くした。

 それだけではない。

 ナタリーなどは呆気にとられて口まで開いてしまっている。


「してないんだろうな。

 何のことやらサッパリだ」


 見栄を張っても仕方がない。

 正直に答えた。


『くーくっくっくっ!』


 ローズが念話で腹を抱えて笑うイメージを送ってきた。

 ハリーを見ると視線をそらされるし。

 俺の返事を聞いた婆孫コンビが絶句状態だ。


「そんなに酷いのか?」


 自覚のない人間がいくら考えても分かるはずがない。

 故に聞いてみたのだが。


「先程のパーティの戦闘に介入したじゃないですか」


「したけど、それがどうお人好しにつながるんだ?」


 俺がそう答えるとベルは苦笑した。

 ナタリーは信じられないものを見たような視線を送ってくる。


「相手は手助けが必要ないと言ってましたよね」


「ああ、そうだな」


「なのにピンチになったら助けたじゃないですか。

 それもバレないように配慮して魔法を使いましたよね?」


「それは見解の相違だな」


 意味があるからしたことであって決して助けたつもりはないのだ。


「助けたのではなく、結果として助かっただけだ。

 アイツらうるさそうだったからな。

 1人欠けただけで俺たちが助けなかったことにケチをつけたと思うぞ。

 そのくせ助けに入ったら邪魔だとか余計なことをするなとか文句を言うんだよ」


「分からないように魔法で介入したのは、それを回避するためだと?」


「当然だろう」


「じゃあ解毒までする必要はありましたか?」


「アイツらまともに動けない状態だったぞ。

 それに最後まで解毒した訳じゃないしな」


 俺としては厄介払いしただけである。

 必要以上に反発する連中が、後でどうなろうと知ったことではない。


「では、それは良しとしましょう」


「ウソだろぉ……

 まだ何かあるのか?」


「もちろんですよ」


 ベルは本当に楽しそうだ。

 喉を鳴らして笑ってくる。


「ギルドで合流する直前まで話し込んでいたじゃないですか」


 よりによって風と踊るのメンバーとの会話を聞かれていたらしい。

 まあ、話を聞くまでもなく全員に頭を下げられたしな。


 お陰で目立ちまくっていた。

 それ以前にビルとの再会で俺の顔が売れている状態だったのが大きい。

 賢者の名は知られていても顔は知らない者もそれなりにいたはずだからな。


 で、俺が珍しい女子だけのパーティと話し込んでいたと。

 注目を集めないはずがない。

 その上、全員に頭を下げられたし。


 何事かと話題になっていたのも気付いていたさ。


『こんなことなら認識阻害の結界を張っておくんだった』


 今更である。

 後は変な噂が流れないことを願うばかりだ。


「再会に次ぐ再会とは運命的です」


 言い終わった後にフフフと笑うベル。

 どうやらベルのツボはそこらしい。


 確かにビルとも再会したさ。

 というか、そっちの方が順番としては先だった。


「スカウトされるのですか?」


 真顔でそんなことを聞いてきたのはナタリーだ。


「どうしてそう思うんだ?」


「女性たちとは待ち合わせをしていたじゃないですか。

 他にスカウトする方がいらっしゃるというのに」


「なるほど」


 シャーリーを後回しにしたのが気になったようだ。


「風と踊るの面々は相談に乗るだけだぞ。

 深刻そうな悩みを抱えていそうだったんでな」


 どんな悩みかは不明だけれど話を聞くくらいはできる。

 それだけでも心理的負担は減るはずだ。


「袖すり合うも多生の縁という諺がある。

 何より、せっかく救出した相手だからな。

 悩みのせいでダンジョンの中でミスって死なれちゃ後味が悪い」


「私にはハルト様の判断基準が分かりかねます」


「そうか?」


「どう見ても親身になっているようにしか見えません。

 先程の助けたパーティに対する態度とは明確に違うじゃないですか」


「そりゃそうだ。

 アイツらムカついたからな。

 移動の妨げにならないなら無視してたぞ。

 なにより俺の基本方針は女の子には優しく、だからな」


「じゃあ、ビルという人に武器を与えたのはどういうことですか?」


 なおも食い下がるナタリー。


「奴には世話になったし気に入ってる。

 見所のある人間は嫌いじゃないさ」


「やっぱりお人好しじゃないですか」


「ええっ!?」


 ナタリーの言葉に愕然とする。


「あの女子パーティには報酬なんて貰ってないですよね。

 なのにわざわざ時間を作って会おうとしています。

 ビルという冒険者も物々交換してますけど、等価交換でないのは明らかですし」


 そう言われてしまうと反論の余地がなかった。


「お分かりいただけましたか?」


 ベルが追撃してきたが反撃できない。


「あー、もう、お人好しでいいよ」


 俺の完全敗北である。


読んでくれてありがとう。

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